麻帆良に現れた聖杯の少女の物語   作:蒼猫 ささら

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後書きを忘れたので追記しました。


第25話―――封じられた記憶。現在の彼女(前編)

 ネギと小太郎だけでなく、明日菜と木乃香といった女性陣もまた夜遅くまで話し込んでいたのか。眠そうな顔をし、欠伸を噛み殺しながら一同は、一度寮へと帰宅してから学校へと登校した。

 

 で―――

 

 その日、3-Aの一限目の授業はネギが受け持っていた事もあり、その時間を使って昨日決められなかった麻帆良祭の出し物を決めようと、云わば臨時の学級会となった訳なのだが……。

 

「ひぃ…駄目です! そんなお化け屋敷なんてっ!!」

 

 文化祭でも定番なアイディアが出された途端、さよが悲鳴を上げて叫んだ。

 

「そう、お化けなんて…幽霊なんて居ないんです! いたとしても、見掛けたとしても、そんなのは気の所為です! 幽霊の正体見たり枯れ尾花です! そうなんです! きっとそうなんです!!」

 

 叫び、全身をガクガクと震わせながらさよは必死な様子で言う。

 そんな突然且つ余りにも酷い怯えっぷりにクラスの皆は戸惑い唖然とする。

 

「え、えっと……さ、さよさん」

「―――いないんです…いないんです……幽霊なんて…ゾンビなんて…怖いストーカーさんなんて……だからだから、やめて下さい、止めて―――」

 

 ネギが声を掛けるもさよは聞こえていないようで、俯いてブツブツと呟きながら見えない何かを振り払うように、しきりに首を振って嗚咽を零し、

 

「―――ごめんなさいごめんなさい、反省してますから、ほんとに反省してますから、許して下さい、許してお願い……ここから、ココから…カラ 出して…出して下さい……出してぇ、ダシテヨォ…う、うう、ダシテください。もう…ユルして……ぐす」

 

 とうとう涙を零して泣き出してしまう。

 さよの尋常じゃない姿に、周囲の唖然とした雰囲気がドヨドヨとしたざわめきに変わる。そんな生徒達の中で一人―――

 

「あー…」

 

 気まずげな声を零してイリヤが額を抑えていた。

 

「……イリヤ、お前…」

 

 席が隣のエヴァはそのイリヤの仕草と表情を見て、何となく事の次第を察する。

 

「うん…ゴメン。これ多分、私の所為……ちょっとこの前のお仕置きが過ぎたみたい」

 

 イリヤは周囲に聞こえないように小さく呟く。

 さよクライシス事件のお仕置き―――尋問・拷問用に試作した幻想空間こと“ごちゃ混ぜホラーゲーム世界体験の旅”によって、どうもトラウマを植え付けてしまったらしい、とイリヤは反省する。

 

「一応、本番であるHARD以上は避けてNORMALモードにしたんだけど……EASYにするべきだったかしら?」

「いや、そういう問題じゃないと思うぞ……多分」

 

 イリヤのピントのズレた反省の言葉に、エヴァは溜息を吐きながら突っ込みを入れた。

 ただその呆れの一方で、今聞いた件の幻想空間に興味が湧き、

 

(イリヤに頼んで今度私もプレイさせて貰お。…それとも自分で作ってみようかな?)

 

 と、ゲーム好きな所為か。エヴァもそんなズレた事を少女的な内面で思っていた―――後にそれが悲劇ないし喜劇の発端となる事など露知らずに。

 

 

 

 数分掛けてさよは落ち着きを見せ。

 

「と、取り敢えず、お化け屋敷は駄目…と」

 

 額に汗を浮かべてネギは、黒板に“お化け屋敷”と書かれた白いチョークの文字を消す。

 

「…にしてもさよちゃん。幽霊とかそういうの苦手だったんだ」

「そ、そうみたいだね」

 

 未だ顔の青いさよの姿を見ながら言う美砂の言葉に本人ではなく、その隣の席に座る和美が何とも言い難い表情で答える。和美としてはさよがそんな幽霊そのモノである事を知っている為、なんとも形容し難い思いがあるのだ。

 見ると同様にネギや明日菜、木乃香といった事情を知る面々も似たような表情を浮かべていた。

 

「ま、幽霊やオバケが怖いって気持ちは判るけどね。ほんと…」

 

 イリヤの前の席に座る裕奈が妙に感慨深げに言った。

 それにイリヤは「ん?」と首を傾げた。何となく気に掛かる物を覚えたのだ。それを確かめる為に裕奈へ話しかける。

 

「もしかしてユウナはそういうのを信じる方なの。少し意外なんだけど」

 

 突然話し掛けた事に裕奈は驚く事も無く、身体ごと振り返ってイリヤに答える。

 

「あー、うん……まぁね。ちょっと否定し切れないから…自分でも意外だとは思うけどさ」

 

 イリヤの問い掛けに裕奈は曖昧に苦笑しながらそう答えた。その微妙な表情にイリヤは、へえ…と相槌を打ちながらも内心で彼女の父親と原作での事を思う。

 

(判っていたけど、やっぱり教授(ちちおや)の方針で“此方側”と関わってないのね。原作を思い返すと幼少の頃…多分、母親が亡くなる10年前までは、“こっち”に関わせる事を考えていたみたいだけど)

 

 恐らくその幼い頃の思い出がある為に、そういった不可思議(オカルト)な事に対して裕奈は否定的になれないのだろう。

 原作を思い返し、素質はあるのに何とも勿体無い事だ、とイリヤは思う。この子が順当に能力を高めていれば、さぞネギの力に成っただろうに…と、この資質を次代へ渡さないなんて…とも。

 ネギの友人として惜しむように、また魔術師的な観点から嘆くように…胸中でそう呟いた。

 

「だけど、そんなことを言うって事は、ひょっとしてイリヤちゃんも信じるタイプ? だとしたら意外……って訳でも無いか、イリヤちゃんなら」

「……少し引っ掛かる言いようだけど、まあ、そうよ。私はこれでも信心深い性質だから」

 

 ある意味だけど…と、口に出さずに内心で続ける。“神秘”を学び、“神が在った時代”を確かに識る魔術師として。

 しかしそんな内心での言葉など分からない為。

 

「やっぱ、外国の人ってそうなんだね」

 

 そう、裕奈は宗教的な解釈で勝手に納得していた。

 

 

 

 その後、さよの事も影響してか、結局出し物は決まらずネギの授業を潰した意味が無くなり。昼休みにイリヤとさよは彼に愚痴られる事になる。

 イリヤはそれに責任を感じて「悪かったわ」と謝り、さよも自分の所為でと恐縮して「すみません」と頭を下げるばかりだった。

 

 そして放課後、ネギ達はエヴァ邸での修行と成り。イリヤとさよは宝飾店“アトリエ・アインツベルン”の開店初日の業務をメイド達と共に励む事と成る。

 

 その翌日。

 再びネギが自分の授業を潰す事でようやく出し物が決まり―――3-A一同は、学祭までの短い猶予期間をさよを主役とした映画製作に追われる事と成る。

 なお、そうなった経緯については、2年以上も入院生活を強いられ、学生生活を有意義に過ごせなかったというカバーストーリーを信じたクラスの皆が…特に裕奈や美砂などがさよちゃんの為にと、張り切ってその案を押した事にある。

 その事に当人たるさよはでっち上げた話(ウソ)という事もあって申し訳なさそうにしていたが、60年もの間、孤独に過ごした事実を思えば、あながちそう的外れでは無いので、イリヤを始めとした事情を知る面々がそんなさよをフォローしたお蔭で彼女も納得したようだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「――――――」

 

 眠りから眼を覚まし、ボンヤリと寝ぼけた思考のまま明日菜は内心で呟く。

 

 また、この夢…と。

 

 それは奇妙な夢だった。ネギのお父さんと思わしき青年と、高畑先生と似た雰囲気の中年の男性と旅をしている夢。

 何時から見始めたのかは何故かはっきりとしない。つい最近からのような気がするし……本当はもっとずっと昔からだったような気もした。

 何故か判らないが奇妙にもそう思えるのだ。けれど……きっと、それも十分と経たない内におぼろげに成る。見た内容と共にそんな夢を見たんだという感覚以外忘れる。

 忘れた事だけど、決して忘れてはいけない事なのだと葛藤するように迷うかのように……変に半端に―――

 

「―――っ!…いけないバイトバイト!」

 

 寝ぼけた意識が覚醒すると明日菜は慌ててベッドから起き上がり、着替えて部屋から飛び出していった。

 

 

 

 学祭の出し物が決まってから既に一週間が経過していた。

 明日菜はバイト終えると直ぐに学校へと向かう。すっかり日課と成った朝の鍛錬は此処の所ずっと休みだ。

 

 というのも―――

 

「ゴメン遅れた!」

 

 教室に駆け込むなり明日菜は、自分よりも早く教室へと集まっていたクラスメイト達に挨拶よりも先に謝罪を口にした。

 今朝は特に夢の事が頭から離れず、ボンヤリし過ぎてうっかり配達コースを外れてしまい、何時もより時間が掛かったのだ。

 

「遅いですわよ、明日菜さん! 今朝はどうしても貴女の場面(シーン)を取らなくてはいけないというのに…! これでは時間が……貴女がアルバイトで忙しいのは判っていますが、今日ぐらいはやはりお休みにしてもら―――」

「―――はいはい、いいんちょ。叱るのは後にして、ほんと時間が押してるんだから……あと、明日菜おはよ」

「うん、おはよ円。遅れてごめんね」

「いいよ。事情は分かってるから。それよりも早く着替えて来て」

「ん、了解」

 

 突っ掛かって来るあやかを抑えて言う円に促され、明日菜は急いで用意された衣装へと着替えに掛かる。

 

 ―――と、これらのやり取りから分かる通り学祭の準備の為だった。

 厳しいスケジュールの中での映画の製作…撮影の慣行。一分たりとも無駄に出来ないのだ。

 

 

 

 午前の最後の授業終了と共に昼休みを告げるチャイムが鳴る。

 

「昼休み返上で学祭の準備なんて私達も殊勝だねぇ~~」

「そーせんと、間に合わんだけやん」

 

 作り掛けの衣装を手に言う裕奈に亜子がやんわりとどうしようもない現実を言う。その突っ込みを入れた彼女も手に裁縫道具を持っている。

 これといった配役が無い…もしくは撮影の時間から外れたクラスメイト達は、このように空いた時間を衣装や小道具作りに当てていた。

 

「ねーねー、これ見た!? コレ! 今朝の麻帆良スポーツ」

 

 そんな忙しくしている面々に、比較的手が空いていたまき絵が唐突に裕奈達に話し掛ける。

 その声に裕奈は一時手を止めて、裁縫道具の代わりにまき絵が手にしているそれを受け取る。

 

「あ、これか」

 

 学園内他、麻帆良市で発行されている新聞の一面記事を見て裕奈が短く呟く。

 

「うん、ほら世界樹伝説ホントに効果アリだって。いまあちこちで話題だよ!」

「うーん…ホントかなぁ? まほスポってウソ記事多いし…」

 

 まき絵の若干高揚した言葉に反して、裕奈は疑わしげに落ち着いた口調で言う。幾らオカルト話に否定的で無いといっても、嘘か真か判らない事を節操なく書き綴るゴシップ誌や三流新聞の記事は流石に受け入れ難いらしい。ただその隣では亜子が興味深げに記事を読んで「世界樹伝説かぁ」と、ほう…と熱く息を吐くように呟いていた。そこに、

 

「あ…でもね。麻帆高に行った2つ年上の先輩の話なんだけど―――」

 

 三人の会話を聞いていた美空が口を出し、それを機に口火を切ったかのようにクラスメイト全体が噂話に持ちきりになる。

 先輩から始まり教育実習生やらアイドルやらに告白が成功しただの。世界樹の魔力があらゆる障害や困難を突破するなどと。カップルの成立率が高くその後の安定度も高いと。思春期の少女達らしく話題に欠く事無く話しは広がり、尽きる様子は無かった。

 

 無論、時間の厳しさを理解している事もあり、作業の手が止まる様子も無かったが。当然として明日菜と木乃香、刹那といった役者でありながら今撮影が入っていない面々にもその話題が広がった。

 

「せっちゃん、今好きな人いーひんの?」

 

 最初にそれを口にしたのは木乃香だった。

 尋ねられた刹那はこういった話題に初心なのか? 頬を赤くして焦った様子で答える。

 

「えっ…私は特にそうゆう男性は……し、強いて言えばネギ先生ですね、今は」

「ネギ君かー、ネギ君はえーよなー、ただ歳がなぁー」

 

 刹那の答えに同意するように頷く木乃香であるが、彼女達にして見れば身近にいる男性が彼というだけなのだろう。まだ幼くも器量良しの彼女達の美貌を思うと、何というか実に勿体無い青春である……まあ、まだ15と若く、そういった時間を得るには十分余裕はあるのだが。

 

「あ、明日菜さんはどうなんですか? ほら高畑先生とか」

「え―――?」

 

 刹那の話題の振りに明日菜は虚を突かれたように惚ける。

 

「明日菜は駄目なんよー、去年も一昨年も学祭で告白しようとしたけど、緊張して声すらかけられず仕舞いで……ん?」

「―――……」

「明日菜…?」

 

 茶化すように言う木乃香であったが、明日菜の何時になくボンヤリとした様子に気付き、僅かに不審そうにする―――が、

 

「何かクラスの皆して騒がしいわね…って、何時もの事か」

「あ、イリヤちゃん。撮影終わったん? さよちゃんも」

「ええ」

「はい、何とか……上手くやれているかは、判りませんけど」

 

 教室に戻ってきたイリヤとさよの登場に木乃香は明日菜から彼女達へ視線を移した。そこにさらに二人の人物が加わる。

 

「やれやれ、毎年の事ながら良く飽きないものだ」

「あらゆる障害を突破……」

「ん? 何か言ったか茶々丸」

「いえ、何でもありません」

 

 エヴァと茶々丸だ。どうやらクラスメイト達が何の話をしているか察したらしく、毎年の恒例ともいえる光景にエヴァは溜息を。茶々丸は気掛かりな言葉があるようで意味深に呟いていた。

 

「エヴァンジェリンさんと茶々丸さんも御苦労様です」

「私は別にこれといって何もしてないがな。配役も無いし…衣装の方にも問題は無かったからな」

「はい。撮影は順調でした」

 

 刹那の労いの言葉に答える二人。エヴァは衣装監督であり、衣装制作の指揮のみならず撮影時の役者の着こなし具合のチェックも担っており。茶々丸は撮影機材の扱いを―――つまりカメラ担当だった。

 人形作りから始まり様々な裁縫技術を身に付けているエヴァと、その存在故に機械に強い茶々丸を上手く活かした見事な采配だった。尤もそれを推薦したのは役者及び総監督たるあやかでは無くイリヤなのだが。

 そのイリヤは、噂話に持ちきりのクラスメイト達の様子を見回していた。

 

「ふーん、世界樹伝説…ね」

 

 クラスメイトの話を聞き、原作の事もあってか顎に手を当てて考え込む。

 原作通りこの布石を打ってくるか。こっちの対応策も耳に入っているでしょうに…と、超 鈴音の方を彼女に悟られないように一瞥しながら。

 そう、原作を見れば分かる通り、世界樹の噂…22年に一度の発光現象の事も含め、不自然なまでに噂が拡大しているのは天才少女たる彼女の仕業なのだ。魔法協会の人員を告白妨害へと割かせて自分達が動き易い状況を作る為の。

 その為、イリヤは先日、近右衛門から世界樹の件について相談を受けて、これ幸いと早速対処に動いていた。

 その準備や手間を考えると、原作のように学祭が差し迫った頃に話を持ちかけられていたら、間に合わなかったかも知れない…と密かに安堵して。

 

(…といっても相談されなかったら、こっちから早めにそれとなく話を持ちかける積りだったんだけど……けど、その場合、変に勘ぐられそうだし、ほんと良いタイミングだったわ)

 

 その時覚えた安堵感を振り返りつつ、近右衛門の判断の良さ―――己等と魔法で如何にも出来ないならば…と考えて、早々余所者である“魔術師(じぶん)”に目の付けた思い切りの良さを称賛する。流石は協会のトップね、と。まあ、そうは言ってもエヴァの呪いを解いた事を含めて今日までの実績を思えば、当然の判断なのだが……。

 

(……でも、チャオ・リンシェンの布石に対してはそれで良いとして。まさかあんな厄介事が来るとは……私の介入もそうだけど、麻帆良祭では原作とかなり異なる事態が起きそう…いえ、既に起きているわね。だからこそあのお爺さんは私に早々相談する事にしたんだろうけど)

 

 相談時に聞かされた世界樹とは別の案件に関してイリヤは眉を顰める。

 厄介事としか言いようが無い“ソレ”。原作にも無い事であり、予想外な事態でもある為、正直イリヤは良い対処案が浮かばず。事を企む超もまたソレについてどう考え、動く積もりなのかも気に掛かった。策謀を巡らせる彼女もその件を耳にしているであろうと思い。

 

(まったく、これ以上原作を当てにするのはホント危険ね。この前の襲撃事件やヘルマンの事からもよくよく考えてみれば十分あり得る事なんだし、“先入観”が無ければ予想も出来たと思うし……いえ、何れは来るかもと予想はしていたけど…まさかこうも早く動き、学園で騒動を控えたこのタイミングに重なるとは―――やっぱりいっその事、“こと”が起こる前にチャオを……)

 

 そのように難しげに眉を寄せて考え込むイリヤがどう見えたのか、世界樹伝説と呟いた事もあってか木乃香は暢気そうに尋ねる。

 

「もしかしてイリヤちゃんも好きな人おんの?」

 

 そう、刹那にも言ったように。

 

「へ?」

「あ、それは私も気に成ります」

 

 唐突な言葉に考え込んでいたイリヤは不意を突かれ、一瞬思考が付いて行かずポカンとし。そこに意外にも刹那も食い付いた。剣一筋な生き方をしているとはいえ、やはり彼女も女の子という事なのだろう。

 

「…………」

 

 イリヤは先程までの考えを一時忘れる事にし、どう答えるべきかと僅かに沈黙するが、

 

「まあ、別に隠すような事じゃないか。……うん、いるわよ」

 

 言葉通り隠す必要は無いと考えて、正直に答えた。

 

「え、ほんと! イリヤちゃんに好きな人いるの!?」

 

 余程予想外の返答だったのか、先程様子がおかしかった明日菜が如何にもビックリしたという顔で身を乗り出してイリヤに聞き返す。

 木乃香も刹那、さよも同様に非常に驚いた表情を見せている。茶々丸も無表情ながら何処か唖然とした様子だ。

 

「む…本当よ。何かすんごく心外なんだけど……貴女達のその反応は、一体どういう意味なのかしら?」

 

 明日菜達の反応にイリヤは憮然とし、僅かに鋭く眼を細めて彼女達を見据える。

 

「いや、だって…」

「イリヤちゃんやし」

「はい。正直意外としか言えません」

「うん、うん」

「同感です」

「……あ、貴女達ねぇ」

 

 友人と思う彼女達の一様の返答にイリヤは顳顬を引き攣らせた。

 失礼にも程がある。これでもれっきとした年頃の乙女なのだ。だというのにこの子達は……。

 

「私の事をどう見ているのよ。そもそも聞いたのはコノカ、貴女からなのに…」

「う、そうやけど…やっぱイリヤちゃんやし、ホンマ意外やとしか―――」

「―――だからどういう意味なのよ、それは…!」

 

 狼狽える木乃香に対し、イリヤは声に若干怒気を込める。

 

「ま、まあ、落ち着いて下さい。確かに失礼だとは思いますが、決して悪意が在っての事ではありませんから、どうか気をお静め下さい」

「プッ…くく」

「…………分かったわ。刹那に免じて勘弁して上げる」

「あ、ありがとうございます」

「う、うん、ゴメンなイリヤちゃん」

 

 大切なお嬢様がこのままでは危ないと思ったのか、刹那は必死な様子でイリヤを宥め。イリヤはムッとしたものの、エヴァが可笑しげに笑う姿を見て、何処か悔しそうにしながらも仕方なさげにそれを受け入れ。刹那は深く感謝して木乃香も頭を下げた。残った面々も何処となく申し訳なさそうだ。ただ―――

 

(―――でも仕方ないじゃない。こういっちゃなんだけど、イリヤちゃんは可愛くて綺麗なんだけど近寄り難いっていうか、迂闊に触れたら切れそうな…本当に怪我しそうな雰囲気があるんだもの。それに…今のようにスゴク怖い時があるし、とてもじゃないけど誰か男の人を好きになるってイメージが湧かないよ)

 

 などと明日菜は、当人に決して悟られないように胸中の奥深く…そうとても深い所で思っていた。恐らく彼女の友人達も似たような思いを持っているだろう。

 ともあれ、そんなイリヤが知りようにない彼女達の内心はともかく。

 

「それでイリヤさんの好きな方とは、どなたなのですか?」

 

 つい今程まで怒りを見せていたイリヤへの恐れなど知らない、とでも言うように茶々丸は平然とそれを口にし、明日菜は一瞬ギョッとしてイリヤの怒りに再度触れないか心配するも、当人はこれといって表情は変えていないので安堵する。そして明日菜もまた茶々丸に続いて口を開いた。

 

「ネギ―――……な訳無いか」

 

 脳裏に魔法使いの相棒(パートナー)兼担任教師兼居候の弟分の顔を思い浮かべて―――明日菜は即座に却下した。

 ネギの方はどうか判らないが、イリヤはそんな感情をネギに対して見せていない。恋愛に関して聡い方では無いがこれぐらいは察する事は出来る……というか、感覚的にイリヤのネギへの態度は自分のものに近しい感じなのが判るからだ。つまり姉弟(きょうだい)といった所なのだ。それ以上でも無ければそれ以下でも無いだろう。

 その感想は木乃香も同様なのか、明日菜の言葉に深く首肯している。

 

「せやね。それじゃあコタ君も違うやろうから―――」

 

 木乃香は若干考えるように首を傾げ―――

 

「―――……あ、そや! エヴァちゃん!」

「「ブッ―――!?」」

 

 思わぬ名前の登場にイリヤと出された当人が同時に噴き出す。

 

「ちょっ!? な、なんでさ!?」「い、いったいどういう思考の末にその結論に至った!?」

 

 同時に叫び、驚きの余りにイリヤは(シロウ)の口癖が零れ、エヴァは木乃香の脳構造を疑わんばかりに眼を見開いて朗らかな笑みを浮かべる彼女を見据えた。

 すると木乃香は朗らかな表情を一転させて驚き。

 

「え…ちゃうん?」

 

 心底、意外な様子でそう言った。

 そんなキョトンとした表情を見せる木乃香にイリヤは噛みつかんばかりの勢いで言う。

 

「違うわよ。私にそっちの趣味は――――」

 

 いや、まあ…“以前”は在ったような、無かったような気がするけど……少なくとも今は―――

 

「――――全然無いわよ! 同性愛なんて不毛だし、本気で在り得ないわ!」

 

 そう、内心での言葉を隠してイリヤは全力で否定する。

 

「……いや、イリヤ。そこまで断言するのもどうかと思うが―――」

 

 そっか、お姉ちゃん(イリヤ)にはそっちの趣味は無いんだ。そこまで否定するなんて―――

 

「―――まあ、私もノーマルだ」

 

 エヴァはイリヤの勢いに若干引きつつもそれに続いた―――イリヤ同様、内心の言葉を隠して。

 イリヤは、“以前の自分”に若干その気があったように思えて身震いし。

 エヴァは、同性愛を明確に否定する“姉と思える人”の言葉に何となく消沈するものを覚え。

 この両者の心情は…デレ期にあるエヴァはともかく、イリヤはやはり入り込んだ“誰か”の精神(きろく)の影響である。無論、本人もその自覚はあるのだが……。

 

(……心底、嫌なのに同性(おとこ)にモテて、セクハラやら痴漢やらを多々経験し。一度、綺麗な異性(じょせい)に好かれたかと思ったら……ガチの同性愛者(レズ)同性(おんな)だと思われていて、異性(おとこ)だと知られた途端、手痛いしっぺ返しを受け…―――っていうかあんなことする普通…? 悪意を持って騙した訳でもないのに……その事件の所為でカウンセラーに通う羽目になってるし。オマケに最後は最後で男性にストーカーされた挙句、そのストーカーのとち狂った凶行から親友を庇って刺殺……なんて終わりを迎えているんだもの。……これじゃあ死ぬほど否定したくなるわよ! “わたし”でも…!)

 

 余りにも印象的で強くトラウマに刻まれた“精神(きろく)”の思い出にイリヤは、身震いしながら“変わってしまった己”を弁護する。

 “誰か”の大学時代に在った辛い恋愛体験とそれから繋がった最悪最低の事件と。同性への劣情という如何しようもない思い余った感情を持て余した犯人を、ついお人好し的にその犯人を傷付けまいと思い庇って拗れて起きた死因(けっか)を理解する故に。

 

 ―――あんな事は、もう本当に勘弁して欲しい。

 

 だから否定する。同性愛なんて不毛で実りの無い行為なのだと。恋をするなら、もし出来るのであれば、今度こそは真っ当な恋愛をしたいのだと訴える“内面(だれか)”の想いから。

 

 そんなイリヤの断言と怖気の籠った表情に、うわ…本当に嫌なんだ、と明日菜達は内心で呟く。

 ただ気持ちは判らなくも無いと思っている者達と、そこまで嫌がるモノかと考えている者達とに別れていた……誰が誰かとは敢えて明かさないが。

 

「んー、それでは誰なのでしょうか?」

「異性…男の人って事は、私達の知らない人なのかな?」

「あ、夕映ちゃん、本屋ちゃん」

 

 背後から声が掛かり、振り向いた明日菜は図書館組の二人の姿に気付く。

 

「何時の間に…っていうか、何処から聞いていたの?」

「えっと…木乃香がイリヤさんに好きな人がいる?…って訊いた時かな?」

「ですね。にしてもイリヤさんがあんなに感情をむき出しにしたのは、正直ビックリです」

 

 明日菜の問い掛けにのどかが答え。それに続いて夕映が先程のイリヤの様相に僅かに驚きを滲ませた。

 

「私にも色々あるわよ、ユエ―――まあ、それは兎も角として…」

 

 夕映の驚きにイリヤは何処か他人事のように溜息を吐くと、気を取り直すように話す。

 

「私の好きな人に関してはノドカの言う通りね。だから気にはなるだろうけど、その人については言っても仕方が無いわ。それに――――…………もう会えないしね」

「あ…」

 

 イリヤは寂しげに言うと、“本当の事情”を知る木乃香と刹那、さよは勿論。故郷を魔法の実験で失った“表向きの事情(カバーストーリー)”を聞いている他の面々もバツが悪そうな顔をする。

 

「せやった。…ゴメン、イリヤちゃん」

「すみません。失念していました」

 

 木乃香と刹那が頭を下げる。異世界…並行世界の住人であった事を忘れ、迂闊な事を訪ねてイリヤを傷付けたと思い。

 だが、イリヤは無言でかぶりを横に振った。気にしないで良いとでも言うように。

 木乃香達はそれに更に申し訳なさそうにするが……何も言わなかった。頭を下げて謝る以上の事は出来ず、イリヤが許すというのだからそれ以上の言葉は藪蛇だ。

 

 しかし一方で、彼女達の中に芽生える思いがあった。

 この敬意と尊敬に値する少女が好意を寄せるほどの男性とは如何なる人物なのかと。きっと彼女に相応しい大人で素晴らしい男性なのだろうと。

 そんな興味と好奇心が、勘違いとしか言いようがない想像と共に明日菜達の胸中に廻った。

 

 

 

 目の前の友人達が自分の想い人へ如何なる想像を巡らませているか気付かず、イリヤはその想い人こと士郎の事を想い……その尊さは兎も角、“正義の味方”なんて碌でも無い夢を忘れて恋人(さくら)と幸せに、そして無事平穏に過ごせているだろうかと考え―――視界の端に引っ掛かる金髪を見て…ふと脳裏に過ぎるものを感じ、その金髪の持ち主であるエヴァの方を見た。

 

 エヴァはその過去にて士郎……シロウと共に在った。その為、原作と異なり内面に10歳の当時の彼女……純真な少女としての“在り方”を残す事と成った訳だが、それを思うとシロウと別れてナギ・スプリングフィールドと出会うまで―――いや、馬鹿げたことを考えているとは思う。…けれど、しかし、原作では色々と“豊富”そうだったが、この少女は…………?

 

 ――――うん、非常に気に掛かる。

 

 脳裏に過ぎった疑問を振り払えず、イリヤはジッとエヴァを見詰める。

 

「な、何だ…? イリヤ、どうした…? 私に何か用があるのか…?」

 

 何故か自分の方を凝視するイリヤに、エヴァは不穏なものを覚えたのか僅かに狼狽える。

 それにイリヤは「うん」と重大な決断を下すように一つ頷くと。

 

「ねえ、エヴァさん。貴女って――――」

 

 そう、一度声に出して、

 

『―――ひょっとして……処女?』

 

 などと、念話で尋ねた。

 

「――――――――――――」

 

 数瞬の沈黙、

 

「な、な、なっ…―――!?」

 

 イリヤの言った言葉の意味が直ぐに理解できなかったのだろう。沈黙後、エヴァは青い瞳を大きく見開いて言葉にならない声を上げ――――

 

『―――な、何を!? 突然何を言ってるのよッ!!? イリヤ!!』

 

 一瞬で顔を茹蛸のようにして念話で大きく抗議の声を上げた。

 動揺しながらも念話であった為に念話で返したのか? 返せたのか? イリヤにしてみれば明日菜達…初心な未成年者達(じょしちゅうがくせい)の耳に入れさせない意味と、それ以上にエヴァの不意を突いて本音を引き出す思惑もあって念話に切り替えたのだが、この反応を見るに見事功を奏したようだ―――なおこの時、エヴァの対面やら尊厳やらは一切考えていなかったりする。

 もし天才脳科学者の某クリスティーナのようにテンパって「処女(バージン)で悪いか!」などと口に出していたら、明日菜達のエヴァに対するイメージは盛大に暴落していただろう。

 

「やっぱり。もしかしてとは思ったけど、そうなんだ」

 

 エヴァの反応にイリヤは納得気に、そして満足げに何度もうんうんと頷く。

 

「~~~~~~~~!!!」

 

 エヴァは羞恥と侮辱に顔を真っ赤にしたまま、声なき声を上げてイリヤを睨む。何処か半泣きだ。そしてついに、

 

『くぅ~~何、処女で悪い!? それでイリヤに何か迷惑かけた! 仕方ないじゃない! こんな成長しない身体で10歳の誕生日で成長が止まって―――』

 

 念話の中とはいえ、件の某天才少女のような事を言い。さらに爆弾発言をしてしまう。

 

『―――“初潮(あの日)”すら、ずっと来ないんだものッ!!……―――あ、』

 

 エヴァは慌てて口元を抑える。いや、口には出していないのだが、ついそんな仕草をしてしまったのだ。

 イリヤはそれを聞いて何とも言えない微妙な表情をする。ナニカ生々しく感じたのもあるが、女として色んな意味でホントにもう先が無いんだ、という哀れみや同情もあった。勿論、そこまで聞く気は無かったというのもある。

 

 ………処女かどうかなんぞ聞いておいてなんだが。

 

「……その、うん……ゴメン。悪かったわ」

「ぅ…」

 

 イリヤはエヴァから気まずそうに視線を逸らして謝罪を口にする。エヴァは本当にもう泣きそうだ。無論、明日菜達に気付かれないように表情を取り繕ってはいるが、イリヤには取り繕った表情の下に涙目な彼女の顔が透けて見えた。

 もしこれでエヴァの胸に在るペンダントこと、シロウが“起きて”いたらどうなっていた事か? 取り繕う事も出来ずに本当に泣き出していたも知れない。

 学校生活を見られる事を―――居眠りとサボリばかりの不良生徒で成績が落ちていた為―――エヴァが恥ずかしがり、校舎内では彼に眠って貰っていたのだが、それが幸いした。

 だが、このままだと直ぐにボロが出そうだと感じ、イリヤは必死に表情を取り繕う泣きそうなエヴァの手を取る。

 

「ちょっと場所を変えましょう」

 

 そう言い、明日菜達にも「エヴァさんと大事な話があるから、少し出て来るわね」と告げて、掴んだ手を半ば引っ張るようして教室を後にした。

 

 そして人気のない屋上の片隅へ移動するなり、エヴァが口を開いた。

 

「―――そう言うイリヤこそどうなのよ…! 貴女だって似たようなものでしょ? そんな見た目で18歳だって言うし…!」

 

 周囲に人の気配が全く無い所為か、エヴァは内面に在る少女の―――素の様相を顕にしてイリヤと相対した。その表情はイリヤが先程透けて見た涙ぐんだものだ。

 

「…確かに成長は止まっているようなものだけど、月ものはあるわ。処女には違いないけど。でもエヴァ、貴女が600年間も経験が無いのは流石に…いえ、その理由(わけ)は判らなくも無いし、貞淑なのも悪い事では無いと思うけれど」

「…………仕方ないじゃない」

「だからゴメンって、判ってるからそう拗ねないで。むしろ私は安心した部分もあるんだから」

 

 涙目で拗ねるエヴァにイリヤは優しく宥める。

 

「こういった言い方はなんだけど、闇の福音とか呼ばれて魔王扱いされるほど色々と自棄に奔ったのに、そういった所だけでもエヴァはきちんと自分を大事にしたんだって、ね」

 

 と、イリヤはそれらしく言うも。実の所、エヴァのような少女然とした…どう見ても10歳程度の女の子が原作のように経験豊富そうであったり、非処女だったりなんかしたら……こう何と言うか、動揺すると言うか、ザワザワと落ち着かない気分があるのだ。倫理的な感覚から。

 紙の上に描かれた二次元(まんが)(せかい)では無く、現実の世界で直に実感を持って接しているから尚更に。

 

(いや…本当、現実(リアル)で見ると、小学の高学年にも差し掛かっていない容姿と体格なんだもの。そんな可憐で無垢そうな幼い金髪の少女が……“経験済み”且つ“豊富”…だったらなんて、ねぇ)

 

 眼の前にあるエヴァの幼い身体を改めてマジマジと見詰めながら内心で呟く。もしそうであったらホント複雑だと言わんばかりに。だからそうでなくて心底安堵した、とでも言うように。

 そんなエヴァにとっては失礼とも言える内心の考えを一切おくびに出さず、イリヤは話しを続ける。

 

「あと、それにシロウとの事もあるし」

「…? どうしてそこにシロウの名前が出て来るの?」

 

 シロウの名が出てエヴァは小首を傾げてキョトンとする。

 

「どうして…って、それは勿論、大事な弟の事を任せる以上、その女性(ヒト)にはシロウに一途で貞淑であって欲しいじゃない、姉としては。だからこその妹分でもあるんだし」

 

 さも当然のようにイリヤは言う。先程のものは隠したがこれもまた同様に…いや、それ以上に大事な本心だ。大切なシロウの事を任せる以上は彼を一番に想って欲しい―――が、それを言った直後、

 

「え――――?」

 

 エヴァは意味が分からないといった風に声を零し――――瞬間、再び顔を真っ赤に染めた。

 

「なっ!?…ち、違っ……シ、シロウと、私は、そ…そんな、関係じゃッ…!?」

 

 余程動揺したのか、殆ど言葉にならない口調で必死に否定する。

 

「シ、シロウは、あ、あくまでも兄のようなもので……! そ、そんな対象じゃないからッ!」

 

 そんな必死の否定に今度はイリヤが不思議そうにキョトンとする。しかし直後、ふーん、と意味深に頷くとニンマリとした笑みを浮かべた。

 

 

 

「……兄のようなもの、ねぇ。…本当にそうなのかしら?」

「…!」

 

 イリヤの浮かべる笑みにエヴァは警戒を覚える。目の前の白い少女が碌でも無い事を考えているのでは? と予感したのだ。

 

「へ、変な勘繰りは止めてよ! シロウとはホントにそうじゃないから…!」

「そう? それじゃあ―――……私が代わりに貰ちゃおうかな?」

 

 顔を赤くして否定するエヴァに、イリヤはどこか妖艶さを感じさせる声色で囁くようにして言う。その笑みも色香を帯びた艶を感じさせるものに変わった。

 

「―――!!」

 

 イリヤの言葉の意味を理解し、エヴァは先程覚えた警戒を忘れて眼を大きく見開いた。

 

「うん、そうね。身体を現界させた際、お礼に恋人として付き合って貰うのは悪くないわね。あのシロウも大切な“お兄ちゃん(シロウ)”には代わりないんだし、“初めて”を捧げるのも……それに―――」

「―――ダメッ!! そんなの絶対駄目ッ…!!」

 

 イリヤの思わぬ言葉にエヴァは彼女のその言葉を遮って叫び、イリヤを強く睨んだ。

 ただこの時、エヴァは胸に湧いた感情が如何なるものか明確に理解してはいなかった。唯一判るのは“代わり”だと言い、妥協したようにシロウと付き合うと言った事に対する怒りだけだ。

 

「幾らシロウだからって、このシロウはイリヤの知っているヒトじゃない! そんなの許されない!」

「そんなこと無いわ。シロウはシロウよ。例え世界が違っていても……私の大切な人よ。きっとシロウの方も私をそう思ってくれているわ」

「ッ―――……それは…! そうだけど…」

 

 イリヤの返しにエヴァは僅かに怯みんで声を沈ませる。何故ならイリヤの言葉は事実だからだ。

 “自分のシロウ”はイリヤを大切に想っている。姉として妹として家族として、イリヤの言う通り例え世界が違おうとも……確かに“愛して”いるのだ。

 その事は彼の口ぶりからも明らかだし、間違いない。

 

「なら良いじゃない。私が好きになっても、好きであっても、そして付き合っても。シロウも多分拒まないわ。まあ、ただ付け込むようなカタチになるだろうから、少し悪いとは思うけど―――……けど、これぐらいのサービスはせめて欲しいわ」

「…………」

 

 反論の言葉が思い浮かばずエヴァは唇を固く結んで俯く。

 もしイリヤの言う通りシロウが拒まず、二人が付き合う事になったら……それはきっと祝福すべき事だ。恩人であり大切な家族とも言うべき人達がどのようなカタチであれ、想いを通わせるのだ。

 

 ―――でも、

 

 想像する。

 シロウとイリヤが二人っきりとなり、誰も居ない場所で肩を寄せ合い、恋人のように語らい、抱き合い、唇を寄せ合い、そして更には―――

 

「…!」

 

 そんなのは嫌だった! シロウが! 自分を想い守ってくれたシロウが! 自分以外の他の女性と―――……例えそれが姉だと思える大切な人であっても、そんなのは認められない。

 

「く……!」

 

 考えるだけで眼元が熱くなって涙が零れそうになり、胸が苦しくなって心臓に嫌な動悸が奔り、どうしようもない焦燥感が全身を覆って心が潰れそうになる。それが独占欲からなるモノだというのは判る。

 

 ―――けれど、

 

 それが父や兄に対する親愛によるものか、それとも異性への情愛によって齎されるものなのかはエヴァには判らない。

 ただ、どうしても嫌だとしか、認められない、受け入れられないとしか、そんな強く嫌な感情(おもい)が在る事しか判らなかった。

 ナギにアリカという女性がいた事を知った時は、こんな…ここまで強く、酷く、苦しくは無かったというのに。

 

 

 

「……ふむ」

 

 俯き顔を苦しそうに歪めるエヴァのそんな様子を見て、イリヤは少し考える。

 その様子を見る限り、エヴァの中にシロウに対する独占欲があるのはよく判った。尤もそれ自体は彼女の過去を思えば容易く想像出来るものだ。だからこそイリヤは、エヴァにシロウに対して異性に抱くあらゆる感情があるのだと見ていた。

 そう、厳しく見守ってくれる父であり、優しく助けてくれる兄であり、想い寄せる恋人であり、そして…生涯に亘って共に歩んでくれる夫たる男性なのだと。

 

 しかし、

 

 10歳の幼い少女……いや、エヴァンジェリンという純真な少女は思いの外、自分の感情に鈍いらしい、とイリヤはそう思った。正確に言えばそう思えたと言うべきだろうか。あくまでもイリヤの感想なのだから。

 つまりイリヤが感じたのは、エヴァはどうやら自分に指摘されるまでシロウの事を父や兄以上の存在だと、恋愛対象だという自覚が無かったのだ。

 その存在が余りにも近しかったが故に。例えるなら恋愛小説やギャルゲーにでもよくある“幼馴染”という奴だろう。

 だから、現在エヴァがイリヤの言葉に惑わされ、葛藤しているのは、それを自覚した…させられた混乱と戸惑いによるものだ。

 

 と、言ってもこれはやはりイリヤ個人の感想のようなものだから、何とも確実な事は言えないのだが……イリヤにしても、(なか)に入り込んだ“誰か”にしても、語れる程の恋愛経験は無いのだ。

 だからという訳ではないが、イリヤは少し切り口を変えて更に揺さぶりを掛けて見る事にする。

 

「なるほど。エヴァは私がシロウと付き合うのは嫌みたいね」

 

 ちょっと意地悪な小悪魔的な口調で話す。

 

「なら……そうね。じゃあシロウの方から貴女に迫って来たらどうする?」

「え…?」

 

 唐突な切り出し…いや、話題内容の切り替えにエヴァは戸惑う。先程までイリヤが付き合うみたいな事を言っていたのだから当然だ。

 

「もしシロウにエヴァが好きだ、付き合いたい、恋人になって欲しい…って言われたらどうする?」

 

 惚けたような表情のエヴァにイリヤは繰り返すように言った。

 

「!―――なっ…そ、そんな事……」

 

 三度(みたび)、顔を真っ赤にしてエヴァは在り得ないと言うように首を振る。

 

「…ありえないっていうの? そうかしら? だってシロウって結構、私やエヴァのような小さい子も好みみたいよ」

 

 本人が聞いたら凄まじく抗議を上げそうな事を言う。その為か、顔は赤いままだがエヴァは何処か醒めたような引き攣った表情を見せる。

 

「……それはそれで、物凄く嫌なんだけど」

 

 どう聞いても変態(ロリコン)です。本当に有り難う御座ました、とでも言いたげだ。もしくはシロウはそんな変態という名の紳士じゃないと言った所だろう。

 イリヤも言ってからそれに気付いたのか、額に薄っすらと汗を浮かべて「そ、それもそうね」と曖昧な笑みで言う。

 凄烈な出会いと印象があったとはいえ、小柄なセイバーに見惚れた事実と。あの“四日間”で“中身(なか)”が違うとはいえ、基本的に“本人”であるシロウが自分の水着姿が一番などと褒めた為につい口にしたのだが……確かに今考えると前者はともかく、後者は非常に危険な言いようだ。

 下手すれば「お巡りさん、この人です!」といった事案が発生しかねない……というか、セイバーやリン、サクラに聞かれたら本気で血の雨が降りかねない。

 が、イリヤは顳顬から垂れる汗を拭いながらも気を取り直して話を続ける。

 

「ま、まあ、けど…それでも、もしシロウが“君が欲しい”って言って迫って来たら―――」

 

 一拍間を置き、冗談めかした口調と表情から一転して真面目なものに変えてイリヤは告げる。

 

「―――エヴァはそれを拒める?」

「!―――――――――」

 

 真面目に且つ真剣な様子で言われ、エヴァは直ぐに応えられなかった。しかし……内心ではほぼ即答していた。

 想像する。

 イリヤが今言ったように“欲しい”等とシロウから言われたらきっと拒めない。いや、仮に自分と付き合う事になり、恋人関係になったとしてもそんな節操の無い事など言わないと信じているが―――もし、もしも本当に言われ、強引にでも“求められたら”。

 

「…………拒絶、なんて……出来ないよ」

 

 本人の意図しない所で無意識にポツリとそう口から零れた。今まで以上に顔を真っ赤に染めて。

 

 

 

「ふむ…」

 

 小さく零れたその声を耳にしてイリヤはまたも唸って満足げに頷いた。これでエヴァのシロウへの想いに確信が持てた事もあるが、本当にシロウを、そしてエヴァをお互いに任せられると思ったが故だった。

 尤も端から心配して気に掛けるような事でも無かったのだろうが……―――それでも将来の事を考えると、こうして逸早く自覚して貰えた事にホッと安堵せざるを得ない。

 

 ―――アスナ達に大事な話しなんて嘯いて、ほんとにそうなるとはね…。

 

 そんな事を胸中で思って。

 

 そのあと、イリヤは冗談だと「シロウと付き合うなんて嘘よ」なんて言ってシロウとの事を撤回し、エヴァが再度イリヤを涙目で睨むなどといった事になるも。

 

「―――私が、“貴女の大好きな”シロウを取る訳無いじゃない」

 

 なんて言葉を、イリヤが一部分を強調して言った為にエヴァは思考が停止したように硬直し、その不意を突かれて白い少女に手を掴まれて此処に来た時と同様、反論も抗議も許されず教室へと引っ張られていった。

 

 傍から見るとまるで、本当に仲の良い姉妹に見えるような恰好で―――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 教室を後にしたイリヤとエヴァの背中を見送り、大事な話とは一体何なのだろうと思いつつ、再びクラスメイト達の噂話を耳にして、明日菜達も色恋に話題を咲かせる。

 

「…それにしても、イリヤちゃんの好きな人かぁ」

「聞き辛い事ですけど、何時かは聞かせて貰いたいものです」

「せやねー、事情は判るけど、やっぱ知りたいわぁ」

「はい。イリヤさんが想いを寄せるほどの御仁…さぞかし素晴らしい男性なのでしょうね。とても気に成ります」

「ええ…」

 

 のどか、夕映、木乃香、刹那といった順に口を開き、茶々丸が同意して頷く。

 そして茶々丸が頷く様子に目が行った為か、木乃香がふと思い出したように、

 

「そういや、茶々丸さんにも好きな人がおったんやよね」

 

 つい数日前、麻帆良工科大で発覚した事実を口にして「え?」「そうなのですか!?」と、のどかと夕映の図書館組コンビが食い付き。茶々丸をオロオロさせる事と成り、さらに撮影を終えた古 菲と和美が加わってネギパーティーの面々は騒がしくなる。

 無論、明日菜も皆の輪に加わって、色恋沙汰に話しを咲かせたり、暴走しそうになる友人達を刹那と共に諌めたりもしたが―――

 

(―――ホント、どうしたら良いんだろう。でも、何時までもこのままっていう訳にも行かないし……)

 

 などと。目の前の色恋沙汰の所為で想い人こと高畑先生の姿が脳裏に浮かび、恐らく自分の稀有な“特異能力”の事も知っているのだろうと連想し……密かに懊悩していた。

 

 何時もより強く残る今朝見た夢の内容と共に、頭痛を覚えながら。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 放課後―――明日菜は美術部に顔を出していた。

 バイトなどの事情からサボリがちな自分がここ連日顔を出している為、部員達から―――苦学生である事を理解しているので陰湿さは無く、冗談めかした程度に―――からかわれたりしたものの、真面目に筆を取って画板に向かい合っていた。

 

 いや、真面目に向かってはいたが集中さは欠いており、気が漫ろになっているというのが正しいか。

 

「…………ふう」

 

 漫ろに成りながらも画板に向かい合い一時半間ほど………筆を止めて溜息を吐く。

 画板に描かれているのは、一人の人物……そう、彼女の想い人であり、育ての親とも言えるタカミチだ。

 だからこそ、筆を振るう手は今一つ進まず、止まりがちに成り、真剣に向かい合おうとしても…………どうしても駄目だった。

 止む無く明日菜は筆を放し、画板からも視線を逸らしてその場から立ち上がった。このままじゃ行けない。学祭にも間に合わないと理解しながらも。

 

「情けないなぁ」

 

 何と無く窓際へと足を運び、夕陽に染まった空を見上げて思わず愚痴るように呟く。

 既に他の部員の姿は無く、宙にそのまま消える筈の、自分以外の誰の耳に入る事も無い独り言……その筈だったが、

 

「―――何がだい?」

「!?」

 

 背後から突然に掛けられた声に明日菜はビクッと身体を大きく震わせた。誰も居ないと思い込んでいた事もあるが、それ以上にその声には覚えがあり過ぎたからだ。

 

「た、高畑先生…」

「やあ、明日菜君」

 

 驚き、振り返るとそこにはやはり顔見知りの彼の姿があった。

 

「え、あ…っと、ど、どうして此処に…?」

「はは…まあ、仕方ないか。顧問だと言っても余り顔を出していないからね」

「あ、」

 

 尋ねた明日菜はタカミチの言葉を聞いてその疑問に思い当たる。彼は自分の所属する美術部の顧問なのだ。色々と忙しくしている事もあって、言う通りめったに顔を見せず、活動や運営を先輩方に殆ど任せっぱなしにしてるが、それでも明日菜は入部から暫くはタカミチ手ずから絵の教えを受けていた。

 

「す、すみません。つい…」

「いや、いいよ。こればっかりは自業自得だしね」

 

 思い至り、失礼な態度だったと頭を下げる明日菜にタカミチは返って申し訳なさそうにする。彼にしても理由は在れど、不良教師という自覚は無くも無いのだ。

 

「いえ、そ、そんな…こと…!」

 

 明日菜は首を振ってそんなことは無いと、高畑先生は立派な教師だと言おうとするが中々言葉にならない。しかしタカミチは察したようで苦笑を浮かべる。

 

「ありがとう、まあ…でも、それよりも―――」

 

 そう、明日菜の気遣いに礼を言って、今度は彼の方から気遣いの言葉が出される。

 

「落ち込んでいるように見えたけど、どうかしたのかな?」

「あ…それ、は……」

 

 今までと変わらない、自分の知る好きな…大好きな優しげな瞳で見詰められ、明日菜は言葉が詰まった。

 緊張が全身を包み込み、ドキドキと心臓が鼓動を打つ音が聞こえる……だが、それは何時ものモノとは違う。恋する感情から湧き出る、苦しくも何処か心地良さのあるモノとは異なる強張った物だった。

 数秒程見詰め合い、タカミチはそれに気付いていないのか、ふいに視線を逸らして、おや…?と呟き。

 

「へえ、これは僕かい。僕なんて描いても面白くないだろ」

 

 明日菜の描いていた未だ完成の見えない絵を見つけて、感心するように言う。

 

「でも、ありがとう嬉しいよ。明日菜君、絵が上手くなったねー…」

 

 自分の画板に向かい背中を見せるタカミチに明日菜は……何度も口を開いては閉じ、開いては閉じてを繰り返し、

 

「……ッッッ!! すみません! 今日はこれで失礼します…!」

「え? あ―――」

 

 叫ぶかのような声にタカミチの驚きの表情を見せるも、明日菜は構わず急ぎ部屋の隅に在る自分の荷物を取ると、画材を片付ける事も無く外へと足早に駆け出していた。

 

 

 

「ハァ、ハァ……ホント、私って情けないなぁ」

 

 走って校門を出て暫く、明日菜は歩道の脇にある街灯に背を預け、空に向かってまたそう呟いた。

 陽の傾きは先程のよりも強まり、東の空は大分暗く、黄昏時の印象もより深めている。

 何となく、それが落ち込んだ自分の心情を表しているように明日菜は思え―――あ、と気付く。

 

「しまった。後片付け…」

 

 今更ながらに美術室に画材道具一式を放りっぱなしな事に気付いた。これでは明日一の授業で美術室を使うクラスや生徒に迷惑を掛けてしまう。

 とはいえ、まだタカミチがいるかも知れないあの場所に戻る勇気は無かった。

 

「―――ハァァ…」

 

 情けなさと黄昏た心情が大きくなり、盛大に溜息を吐く。

 

 

 

 そうしてさらに暫く、

 落ち込んで俯き、地面に視線を落としていると小走りに誰かが……いや、誰か達が自分の方へ近づいて来る足音が聞こえた。

 

「ああん、明日菜。せっかくのチャンスやったのに……」

「あんなに勇敢な明日菜さんが…」

 

 自分の直ぐ傍で足音が止まり、顔を上げるなり近付いてきた二人―――木乃香と刹那が言った。

 木乃香は勿体無い、と。刹那は意外です、と。言葉尻に付け加える。

 

「あ…見てたんだ……」

 

 明日菜は二人の登場に少し驚きながらもこの友人達が懐く勘違いに気付く。どうやら自分がついに告白か、学祭にタカミチを誘おうとしていたのだと思ったらしい、と。

 

「…………」

「ん? どうしたん、明日菜」

「ううん、何でも無い」

 

 木乃香達の勘違いにどう言ったものか少し悩んだ明日菜だったが、ただ首を振るだけに留めた。この親友達には自分の問題で余計な心配を駆けたくないと思ったのだ。

 そんな明日菜に木乃香と刹那はどう思ったのか、何時になく元気が無く憂鬱そうな明日菜の様子にやはりタカミチに告白や学祭デートに誘う勇気が持てなかった事が堪えていると……若干、付き合いの長い木乃香は違和感を覚えたが、取り敢えず思い当たるものがそれしか無く、そう考えて明日菜を慰める。

 

「でも、大丈夫やよ。まだチャンスはあると思うし、直で無くとも電話やメールって方法もあるえ。勇気を出して頑張や」

「……うん」

 

 親友の言葉に明日菜は、億劫な気持ちはあったものの少し元気を出して頷いた。

 

「そうです。明日菜さんならきっと大丈夫ですから。まあ、そういった踏ん切りが付かない気持ちは判らなくもありませんが……確かに考えてみると鬼や悪魔と立ち向かう勇気とは違いますね。そっちの方が私も楽な気もしますし…」

「……それもどうかと思うぜ、刹那姉さん」

 

 木乃香に続いて慰めの言葉を言う刹那であるが、その肩に掴まるカモがそのあんまりな言いように肩を竦めて突っ込みを入れる。

 そしてどう思ったのか、やれやれと彼はかぶりを振ると。

 

「しょーがねえな、此処は俺っちが姐さんの為に一肌脱ぐか」

「ん、カモ君。高畑せんせーを誘う、何か良いアイディアあるん?」

「ああ、修行さ」

「修行…?」

「おう。今、姐さん達がエヴァンジェリンの下で修行しているように恋愛でも修行するのさ。要は男を相手する経験を積もうって事だ。姐さん達はずっと女子校育ちのようだし、あんまり男子と接する機会は無かっただろうからな」

 

 尋ねる木乃香と怪訝そうな表情する刹那に、カモは得意げにそう言った。

 明日菜はそんなカモの様子に、昨今すっかり鳴りを潜めたが今までの所業もあって酷く不安を覚えたが……反対する意欲も無かった為、状況に任せるままに流される事にした。

 

 それに―――

 

(―――それに今日は、“別荘”にイリヤちゃんが来るっていうし)

 

 頼れる白い少女の姿が脳裏に過り、胸の淵に澱むこの鬱屈した感情を晴らす機会が在るかも知れないと、そう思えた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 場所は別荘へと移り。

 

「赤いあめ玉、青いあめ玉、年齢詐称薬~~♪」

 

 どこかの青だぬ……もとい未来から来た耳の無い青猫がポケットから道具を取り出すような口調で、カモはその短い手で赤い玉と青い玉の入った瓶を高らかに掲げた。

 

「ほう、これまた懐かしい物が出て来たな」

「へぇ、これが……実物は初めて見るわね。薬品レピシや術式なんかは見た事が在るけど…」

 

 それを見て真っ先にそう口を開いたのはエヴァとイリヤだ。

 

「なんかイキナリ犯罪っぽい名前のアイテムが出たわね。詐称って…」

 

 そう言うのは明日菜だ。その表情は早くも不安的中といった様相だ。そのいかがわしい名前に後ろ暗いものを感じたらしい。

 それを察したのかエヴァとイリヤは苦笑する。尤もイリヤは原作で見た台詞そのものである事も苦笑の理由だが。

 

「ま、確かに名称は如何にもという風に怪しいがな」

「そうね。でも市販されている物なら、注意すれば見習い未満の魔法学校の生徒でも見破れる程度の幻術だっていうし……一般人は兎も角、“こっち”じゃ犯罪に使えるものじゃないわ」

「……それはそれで、“あちら”では使い放題なナニカ抜け穴一杯な気がするアルが…?」

 

 エヴァに続いたイリヤの説明感漂う台詞に、古 菲がウムムと難しげな様子で疑問を口にする。

 

「そうなんだが、一応この手の魔法薬は管理が厳しくなっていてな。先ず未成年は購入不可能だし、買い手には身分証明書の提示が義務付けられている…まほネットでもな。だから購入者の記録はバッチリ各国協会や“本国”のデータバンクに残るんだ」

「なるほど、ですからこの詐称薬を使った犯罪が発生し、明らかに成ったら真っ先に購入者が容疑者候補に成る訳ですか」

「ああ、そうなると後は通常の警察捜査と変わらん。事件発生地域や近隣の購入者、別地域の購入者のアリバイや移動記録なんかを洗って被疑者を絞る訳だ。まあ、それでも穴はあるということ自体に変わりは無いんだが……それ以上取締りを厳しくするならこの薬その物を禁止指定するしかないな」

「けど、実際そうなる事は無いでしょうね。市販されている物を始め、余程高位の術者が作らない限り、幻術によって身体を覆う魔力と術式は結構簡単に感知できるし……だから魔法社会への実害は皆無な訳で―――」

「―――法規制も現行のままという訳ですか、となると表社会への被害も考えられる程多くないのですか?」

「ええ、外見年齢を変えられるとなると使い道は色々とありそうなものだけど、逆に言えば、それだけな訳だし。感知も容易だから各種インフラ設備に敷かれた対魔法犯罪用セキュリティにも簡単に引っ掛かるしね」

「フーム、なるほどネ」

 

 エヴァ、イリヤと真面目な夕映に加え、何時になく興味を示す古 菲が交じって講義めいた話に成る。

 それを見たカモは少し焦る。これじゃあ普段の座学と変わらない事になる。何時まで経ってもこっちの本題に入れないと、そう思ったのだろう。

 

「あー、すみませんが、そこまでにしてくれませんかね」

 

 カモは遠慮がちな口調ながらも、若干語気を強めて件の面々に声を掛ける。

 

「っと、そうだった。スマン」

「ゴメン、カモ」

 

 変に熱中した所為か、監督官である二人がバツを悪そうに頭を下げる。

 それにカモは、いえ…と答えつつもイリヤは兎も角、何か最近丸くなったように思えるエヴァに逆に不気味なものを感じてしまう。

 が、カモは深く考えると恐ろしい事になりそうだとも思い、それを振り払うように一度咳払いする。

 

「コホンッ…ともかく、コイツはお嬢様たちが言った通り外見年齢を調整できる薬だ。で、コイツを使って大人になった兄貴と姐さんはデートして、姐さんに男を相手にする経験を積んで貰おうって訳さ」

 

 明日菜に向かってカモは語る。

 

「さっきも言ったが、(いくさ)も色恋も“慣れ”だかんな。場数さえ踏めば何とかなるもんだ。」

「…まあ、言いたい事は判らなくも無いけど……」

 

 詐称薬を取り出す直前に言った言葉を繰り返すようにして、明日菜に言うカモにイリヤは少し首を傾げる。

 その背後で「ネギ先生とデート…」「…です」「……」と変にソワソワしている面々が三名ほどいるが、カモは怪訝そうにして畏怖し敬愛する白い少女に尋ねる。

 

「イリヤお嬢様、何か?」

「うん、男性と接する機会の無いアスナに経験を積ませるって意味では、カモの提案は悪くないと思うんだけど…」

「…やけど?」

 

 尋ねるカモに首を傾げたまま答えるイリヤに、それを真似るようするに木乃香が小首を傾げる。イリヤはそんな彼女に視線を移しながら続けて答える。

 

「ネギっていうのは無理が在るんじゃないかな…って、思って」

「え、どうして…?」

 

 イリヤの言いように、ネギは引っ掛かる物を覚えて疑問の声を上げた。

 

「ネギには悪いけど、やっぱり子供の貴方じゃあ無理が在るような気がするのよ。幾ら外見を大人にしても中身はどうしても追い付かないんだから」

「あ…」

 

 イリヤは原作抜きで思った事を口にしただけだった。それにネギが寂しそうな声を上げるがイリヤは気付かず、明日菜の方へ視線を向ける。

 

「それに根本の原因は別にあるんだろうし……―――そう、本命を…タカハタ先生を前にするのとはやっぱり違うでしょ?」

「―――…ぁ」

 

 向けられた白い少女の緋色の瞳に明日菜は身が竦むような思いを感じて小さく声を零し、イリヤに何かを言おうと口を開く―――が、自分のアイディアを試そうともせず、否定された事に反発を覚えたカモが先にイリヤに反論した。

 

「かも知れませんが、外見が変わるだけでも印象ってのは意外と変わるもんでしょう? 女が髪を切ったり、伸ばしたりするだけで男が目の色を変えたりするように。普段身なりを気にしないだらしない男がそれを整えるだけでガラリと雰囲気が変わって女が見方を変えたりするように」

「……うん、それは否定しないわ」

「だったら試す価値はありますよ。きっと男慣れしていない姐さんの役にも立ちますって―――ねえ、兄貴」

 

 イリヤの首肯する姿を見て、カモは気を良くしたようにネギに話しを振る。

 それにネギは一瞬戸惑い狼狽えるが、イリヤの向ける目線―――何気ない、これといった期待も込められていない瞳―――に気付き、力強く頷いた。

 

「―――うん…! 協力するよ。明日菜さんの為にも!」

「おう、その意気だぜ、兄貴…!」

 

 意気込むネギに、カモは更に気を良くして応援するように声を掛ける。

 ただ何故かネギの視線が協力すべき明日菜の方では無く、イリヤの方へ向いたままで、強く挑むようになっていたが……イリヤは訳が分からず再び首を傾げるだけだった。

 それを傍から見ていたエヴァは何故か溜息を吐き。夕映とのどか、茶々丸も何処か複雑そうにし。木乃香は何かピンと来たように眼を見開き、直後に納得した様子で頷いていた。

 刹那と古 菲は、ぼんやりと成り行きを見ていた明日菜に声を掛け、

 

「では、明日はカモさんの言うようにネギ先生とデート…という事になるのですか?」

「……デート、アルか。しかしやはりイリヤの言う通り、ネギ坊主が相手だとそんな気分になれるとは思えないネ」

「っていうか、そもそも私はデートするって受け入れた訳じゃないんだけど……アレ? そういえば明日の撮影スケジュールってどうなっていたっけ?」

 

 明日の事と聞き、明日菜はハッする。

 本来、明日は休日なのだが学祭までの日程が厳しい事もあって、休み返上で映画製作に取り掛からなくては行けないのだ。

 事実、放課後の時間帯である今も撮影は行われており、主役のさよの姿は此処に無い。本当なら今日はイリヤ同様、“別荘”を訪れる所なのだが。なお和美も同様で茶々丸と同じカメラ担当の一人として撮影に忙しくしていたりする。

 

「えっと…少し待って下さい。今確認しま―――」

「―――いえ、大丈夫です。明日は明日菜さんの撮影はありません。今此処にいる方々の殆どは手が空く予定です」

 

 明日菜の問い掛けに、刹那は学生手帳に掛かれたメモを見ようとポケットに手を伸ばすが、それよりも早く茶々丸が答えた。

 

「あ、助かります」

「あ、ありがとう、茶々丸さん」

 

 突然の横からの声に少し驚くも手間が省けて刹那は礼を言い、明日菜はすぐさま教えてくれた事に感謝する。それに茶々丸は短く「いえ…」と答えて、小さくかぶりを振った。

 

「なら、デートは問題無いという事アルか。何というか良いタイミングだったネ。良かったアルな明日菜」

「……いいなぁ」

「………まあ、今回は仕方ないですよのどか。明日菜さんの為なのですから」

 

 問題無さそうだという事を聞いて古 菲はあっけらかんと素直に喜び。のどかは羨ましげにして、夕映が慰めるようにその親友の肩を叩いた。

 そんな友人達の様子を見て、明日菜は微かに眉を寄せる。

 

「私、デートするなんて一言も言ってないのに…」

 

 そう呆れた様に小さく呟くも。

 

「明日菜さん、明日はしっかりと大人の男性としてリードできるように頑張りますから! 明日菜さんの恋を叶える為にも…!」

 

 と。

 妙に意気込みを見せるネギに断るのもなんだと感じ、気乗りしないものの受けるしかないかと諦める事にした。

 

 

 

「それで、実際この薬効果あるん?」

 

 ネギの意気込みを聞いてデートが決まったと見た木乃香が、いざ明日必要になると思われる瓶を見詰めて言う。

 カモはそれに頷く。

 

「確かにそうだな。大丈夫だと思うが、俺っちも使った所は直に見たことはねえし……それじゃあ少し試してみっか」

 

 そう言うと、カモはネギの持つ瓶へと彼の身体を上って駆け寄り、両の手で器用に蓋を開けて中の丸薬を取り出す。

 

「ほら、この赤いので大人の姿になれるぜ」

「なら、ウチが試してみてええ?」

「ん? まあ…いいか。じゃあ木乃香姉さん」

 

 身を乗り出す木乃香にカモは一瞬ネギの方を見たが、乗り気の木乃香に断るのも悪いと思ったのか、彼女に薬を渡す。直後―――

 

「わっ!?」

 

 如何なる演出なのか、木乃香が薬を口入れた途端、煙が彼女の身体を包み込み、直ぐに晴れて……二十歳前後に見える日本的黒髪美女が姿を現した。

 

「うっ…制服がきつ、目線も高くなっとるけど……ウチどうなったん?」

 

 幻術であるのに…いや、だからこそ幻覚で感覚も体格に合わせてフィットさせているのか、サイズの合わなくなった制服に身体を締め付けられて木乃香が苦しげな表情をする。

 エヴァとイリヤを除いて一同は姿の変わった木乃香に唖然とし、冷静なエヴァがイリヤに催促されて『物体召致(アポーツ)』で鏡を―――大き目の姿見を呼び寄せる。

 

「わ…!? これがウチ…?」

 

 金細工の縁を持った見た目からして如何にも高価そうな2m大の長方形の鏡を前にし、木乃香が感嘆の声を上げた。

 背が高くなり、顔付きも大人っぽく見事に美少女から美人になっているが、何よりも目が行ったのは……身を締め付ける苦しさからベストは脱ぎ、タイを緩め、ブラウスのボタンも外した為に大きく強調される事と成った胸元だった。

 

「わっ! わっ! 見て見て! ウチ、ナイスバディや~!」

 

 ブラもブチっと外れた事も気にせず、木乃香が皆に見せ付けるように喜びを露わに言った。

 

「た、確かにこれは…」

「ハイ…スゴイです」

「お…お嬢様……」

 

 明日菜と夕映が驚き固まりながらも素直な感想を零し、刹那は何故か鼻を抑えている。

 イリヤはそんな刹那の反応にゲンナリするが敢えて何も言わなかった。自分の身に降りかからないなら問題視する気は無い……無論、それで良いのか? という思いは無くは無い。花の乙女たる彼女達の将来を思うと尚更に。

 

「ヨシ、次は私ネ…!」

「…あ、わ、私も…!」

 

 見て驚くだけでは我慢できなくなったのか、古 菲が未だネギの手に在る瓶に腕を伸ばし、のどかもそれに続く。カモはそれに「え、あ…ちょっ!?」と声を上げるが―――遅く。2つの煙がボンっと立つ。

 

「あー、高えクスリなのに……」

 

 カモはガックリと項垂れる。

 イリヤはその彼の姿に原作と違う物を覚える。漫画の方でも似たような台詞はあったが、こんな落ち込みようは見せなかったからだ。

 そしてその違和感は当たっていた。

 カモはイリヤへの発覚の恐れと、彼女のお蔭で芽生えた使い魔たる己が立場の自覚から、ネギの口座では無く自分の持つ口座で詐称薬を購入していたのである―――なのにこうも後先考えず高価な薬をポンポンと呑まれては……故郷への仕送りもある中で苦労して遣り繰りしている彼にして見れば、正にご愁傷様と言った所だ―――が、

 

「……カモ君。後で僕の方から購入分のお金を出すから…」

「あ、兄貴ィ…」

 

 カモの様子から察したのだろう、ネギが費用を出すといった事でカモは感激するように涙を流した。半ば興味本位で購入した物に主人が必要経費として落としてくれる気遣いに、流石は自分の見込んだお人だと言わんばかりに。

 しかし、これでネギは預金を大きく減らす事と成り、後に今度は彼が別の意味で涙を流す事と成る。

 

「お、おお…!」

「あ、ッ…く、苦し……!」

 

 木乃香の姿を見ながら後先考えずに薬を飲んだ為、古 菲とのどかは木乃香と同じ目に遭って締め付けられる身体に苦しそうにするが、直ぐに制服を緩め、

 

「これが大人になった私カ」

「…………」

 

 二人は鏡に映った自分の姿を観察する。

 古 菲は伸びた背と均整の良い体付きに満足げな笑みを浮かべてホウホウと何度も頷き。のどかは何処か落ち込んだ表情を見せていた。大人っぽく美人となった顔付きや伸びた背丈は兎も角……主に胸の方を見て。

 

「―――まあ、必ずそう育つって訳でもねえんだが」

 

 落ち込んだのどかの姿を見かねたのか、カモがフォローするように言う。エヴァもそれに頷く。

 

「ああ、あくまでも幻術だからな。今在る使用者の姿とイメージ…深層心理を汲み取って反映しているに過ぎない。……だから、何だ、そう気にするな。そうなったのは“大きくなった”自分の姿が思い浮かばなかっただけなんだから、な」

 

 エヴァは捕捉するように言うと、気にするなといった感じでのどかの肩を優しくポンッと叩く。しかし―――

 

「―――な、慰めになってないよー!」

 

 そ、それって自分の成長に自信を持っていないって現われなんじゃ!?と。将来への不安やら体型にコンプレックスを抱いているのだと指摘……いや、暴露されたようなものである為―――しかも好きな人(ネギ)の目の前で―――のどかは愕然として叫んだ。

 尤もそれを見て、中学生らしくない体格を持つ彼女の親友はホッと安堵の息を吐いていた……興味本位で手を出さなくて良かったです、と密かに呟いて。

 その親友を除き、のどかの愕然とした哀れな様子に他の面々は苦笑を浮かべていたが―――刹那が不意に言った。恐らくイリヤの秘密を知る故に気に掛かったのだろう。

 

「イリヤさんは試さないのですか?」

 

 と。

 本当は18歳だという彼女がネギと変わらない背格好である事に思う所が在るのでは? とでも尋ねるように―――それが失言だとも気付かず。

 直後、イリヤの身体がピクリと震え、ギギギッと音を立てるようにゆっくりと彼女の首が刹那の方へ向く。その表情は笑顔……そう、とても良い笑顔だったが、顳顬の辺りがピクピク…いや、ピキピキと引き攣って青筋が浮かんでいた。

 

「……それはどういう意味なのかしら? セツナ」

「ヒッ…!」

 

 その慈愛に満ちたようなイリヤの表情と声色で、刹那は己が失言を口にした事に気付いた。

 何しろ「もう大人なのにそんな子供みたいな姿で可哀想ですね」と迂遠に言っているようなものなのだ。それはこれでも色々と気にしているイリヤにして見れば、正に地雷である。

 刹那はそれを思いっきり踏ん付けたのだ。これがもし明日菜などの事情を知らない人間であれば問題は無かった。普通に「大人の姿になるのを楽しまないの?」といった程度に成るのだから。

 しかし、刹那は違う。事情をこれという程無く理解している。しかも何気なく口にしたという事は―――

 

「なるほど、セツナは私をそう思っていたんだ。大人なのに子供そのものだって―――それが私への本音なのね」

 

 ガシッと刹那の肩を掴んで力尽くで屈ませ、耳元で彼女にしか聞こえない小さな声でイリヤは囁いた。恐ろしいほどの優しげな口調で。

 それが刹那を心の底から震えさせた。まるで剣鬼たる“師範代(鶴子)”の科すお仕置きを前にしたように。血が凍ってしまったかのように全身が寒く、身体が震え始める。

 

「ふふ…今度の鍛錬が愉しみね。特別にたっぷり可愛がってあげる。だから貴女も楽しみにしていてね」

 

 クスクスと優しく嗤い、耳に入って来る囁き声を聞いて刹那はイリヤの手が離れた瞬間、腰が抜けたように尻もちを着いた。

 

 顔を青くし、身体を震わせて膝を着いてへたり込んだ刹那の姿に、そして何故か良い笑顔のイリヤに。一同は何が起きたか察しが付くようで、付かないような……考えたくないといった微妙な表情をする。

 ただし、エヴァと木乃香は刹那同様に事情を知る故に、直前の刹那の台詞もあって嫌でも察する事と成り、表情を引き攣らせていた。

 

(お姉ちゃん(イリヤ)…怒ると本当に怖いなぁ。私が“闇の福音”なら、お姉ちゃんは“白雪の恐姫(はくせつのきょうき)”って所なのかも…)

(せっちゃん……ゴメン、ホンマにゴメンな。幾らウチでも怒ったイリヤちゃんからは助けらへん。どうか無力なウチを許してや…)

 

 顔を引き攣らせた二人はそんな事を思っていた。

 

 




 さよが怯えた為に原作と変わって3-Aの出し物がお化け屋敷から映画製作になりました。
 これもある意味、彼女にとっては予想外なのですがイリヤの介入と言えるかも知れません。ただ自分としては狙いがあって変更しています。
 一応、あるサーヴァントの登場フラグにする予定です。

 イリヤの精神に混じった人物について少し触れていますが、本編に大きく関わる事は無いと思います。
 その彼女…もとい彼(?)については、興味を持たれる方は少ないと思いますが、活動報告の方か何かで設定をなりを何れ公開するかも知れません。

 エヴァの処女かどうかについては兎も角、向こうの連載中でも指摘されましたがイリヤに月ものがあるかどうかは、アニメ版UBWの見るに無さそうなので変更すべきか悩んだのですが…そのままにしました。
 ある可能性も並行世界的に在り得ると思いましたので。

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