エヴァンジェリンに憑依した人の日記   作:作者さん

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改定しました


1章
・日本に行くまでの日記


『15××年ぐらい 暖かくなってきたから今日は春にしておこう。

 

 なんとか私自身に余裕が出てきたから、日記に示そうと思う。初めに書くから、なんとなく緊張気味だ。

 問題は無い。私を追いかけまわしに来た阿呆どもを片づけるのに忙しいが、魔法も完璧に習得した今では、酒場の中で話を聞くぐらいは余裕だろう。

 しかし生娘の血が美味いと言うのは間違いじゃない。春を売る必要のない女はそれなりに豊かな生活ができているのだから、血もうまくなるに決まっている。脂ぎった男は生理的に無理だ。

 ほんの数十年前ぐらいに、なんかどっかの作品のヒロイン的なキャラに憑依してた。エヴァンジェリンだってwww 止めろよバリバリの元日本人に横文字の名前使わせるとかww親とか名前考えろよwww まあ、西洋だから関係ないのだが。日本とか今存在しない。

 なんやかんやでこの名前は気に入っている。私には名前が無かったために、この世界に存在している、という事を示す名前は、生きる理由の一つになる。

 そもそもなんたってこんな世界に来てしまったんだ、でも魔法とか素晴らしいですサーセンwww』

 

『15◆☆年ぐらい たぶん冬だろう、乞食が何人も死んでいるからな

 

 脂ぎった神父がなんか美少女を誘拐してったから、ぼこぼこにしちゃったおwww。おめーのちんこ二度と立たねぇから!wwwww。殺すのがかわいそうだから背骨折るだけで勘弁してあげたおwwww

 いやぁ仕方ない。見た目がブッサイクではぁはぁ言いながら女に迫る豚とか精神ブラクラも良い所だから。未来の日本乙。いやもうよく覚えていないがそんなんだったような気がする。

 そんでもって残された美少女ちゃんだが……血をちょっとだけもらっていた。いや、傷跡を残すとかそんな最低な真似はしないがな!!

 そんでもってどうしたかって? 商人のボンボンに売っちゃったおwww いやぁ良い銭になりますね。(笑)。そのボンボンは美少年だったからちょっと血をもらっちゃったおww 傷跡とか残さないから大丈夫ww 良いもの食ってる人間の血は美味いwww 

 そもそも神の信徒ならそれ相応の行動をしろと言いたい。私吸血鬼だが、神への祈りもしている。なんか十字架に耐性が付いてきたような気がする。神父? あれ異教徒じゃないですかやだー。

 暴力を振るっていいのは化け物へだけってじっちゃんが言ってた。

 化け物と私を恐れる声が聞こえた。欲望のまま贅の限りを尽くし、人を喰らう人間と私、どちらが化け物だ』

 

『159H年ぐらいじゃん 季節とか知らんし

 

 そういえば日記に書き忘れてたことが多数。

実は私、憑依オリ主なんだおwww。もう百近く前になるけど、転生トラックにガシ!ポカ! スイーツ(笑)で死んでしまった年齢性別不詳の私は、なんか神様によってこの世界に来てしまいましたwww。

 原作知識? もうほとんど忘れっちったお。立ち読み程度で済ませた私が覚えているわけがない。闇の魔法がどうとかそんな感じの事を言っていた気がする。アバダケダブラだっけ? どうでもいい。

 まったく、どうせ転生するならチートの一つや二つぐらいは強請っとくべきだった。いま日記を書ける程度になるまで、どれだけ苦労したかも覚えていない。不老不死ぼでぃを貰っちゃうなんてなんて特典。

 ですがそこは600年あとまで生きることが確定している、強制力によって難あり乗り越えることができた! これからも大丈夫だろうたぶん。

 流石は不老不死の肉体! 真祖の吸血鬼! URYYYY! そこらに居る退魔のための組織の連中を耳をほじりながら片づけられるスペックには、大分お世話になりました。聖書もって十字架もって魔法唱える彼らには、正直何をそこまで君たちを動かすのか理解できなかった。

 神様神様と叫ぶ連中に聞くが、お前たちは本物の神様に会ったことがあるのだろうか?私はある。この世界に来る前に会った者、形こそ違えども、上位の存在というのは世界に居るのだ。だから神に祈るのだろう。そうすればほんの少しでも救われるのかもしれないのだから。

 化け物と呼ばれるのはもう慣れた。だからこそ私は……』

 

 

『16Д▼年ぐらい 魔法世界は春がきてます。

 

 指名手配されちったww。常にフードをかぶって姿も変えて認識阻害までして行動しているから顔まで見られてない。ただ、真祖の吸血鬼とやらは人にとってかなりの脅威になるらしい。

 しらんがな(´・ω・`)。何もしていないと言うのに何とも喧嘩っ早い奴らだ。因縁つけることだけは一人前だったので、少しだけいらっとしてぼこぼこにしてしまった。殺していないだけましだと思えばいいんじゃないかな。

感知とかその辺りに優れた魔法使いに見つかることが多々。……ケリィの起源弾欲しい。襲ってくる奴等の魔術回路的な何かをボロボロにしてやりたい。しかし下手に恨みを買う趣味も無し。賞金稼ぎどもの欲望に付き合うなんて時間の無駄だ。記憶とかをパーンして逃げよう。

 という訳で、できたぞ。テレテテッテテー(ドラえもん風)ぎあすろ~る~(`・ω・´)。魔法抵抗のある奴らのためのアイテム。あいつら記憶パーンだけだとなんか治して追ってくる。だがギアスは相手も承諾するので、案外深いところまで漬け込める。

マジックアイテム作りも楽ではないが、この効果はなかなか。

 私の情報を他者に知らせることができない。せいぜいその程度だ。だが情報が拡散するのを防ぐことはできた。

 どうせ何らかの穴を通って追ってくるだろう。さっさと逃げようか。失敗しても生存できると人気になってしまう』

 

 

『16Ⅶ◎年 魔法世界は広い。

 

 真祖の吸血鬼が居たとかいう情報もすたれてきた。酒場の指名手配所の人相書きも、フードの中を黒で塗りつぶしただけの似顔絵しかないのだから、そんなん実はいなかったんじゃないかと言われるほどだ。

 そんな噂の私はアリアドネーの図書館で勉強中。学ぶ意欲さえあれば犯罪者さえも受け入れるその精神は素晴らしい。なんか検問で学ぶ意志があるかどうかを調べる魔法をかけられたが、まずい方向に使わないのなら変な反応は出ないらしい。私は自衛とかそのへんの目的しかないしwww

 ダイオラマ魔法球とか作成中。倉庫にも使える修行にも使える、そんな場所を私は作りたい。中にでっかいお城を入れてしまうとかな! なんだかわくわくしてきた。チートも真っ青なKAIHATUによって私は最強のニートになろう! 型月なみの魔術師のように引き籠るんだ! 人を襲う? そんなことしたら指名手配書が飛ぶように売れちゃうでしょ馬鹿チンが!

 第一それは効率が良いが、次点に良いアリアドネ―で知識を得るのは安全でいい。しかし魔法の開発が進まない。時の制御なんて前代未聞なことを誰がやれるっていうのだろうか。大量の書物に囲まれ読み物をする私は、某ノーレッジさんのような気分になる。同じような格好をしてみたらいろんな人に抱きしめられた。解せぬ。むきゅー。』

『追記 なんでそんなことしてしまったんだ……過去の私』

 

『1■■■年 季節は覚えてない。

 

 そろそろ日本へと向かう。魔法世界で私の名前が風化してきた頃だ。

 理由? ……昔住んでいた地へと向かうことがおかしいのだろうか?

 よーし、私綺麗な桜みてきちゃうぞーww』

 

 

――――――

 

 

 死んだら自分という存在はどこに行くのだろうか。現世で死んだ『私』という存在が抱いていた解は目の前に現れた。

 それは少女に見えた、長い金の髪と白い肌が少女であることを印象付けるはずだが、そこに外見年齢相応の雰囲気は存在せず、どこか遠い存在であると感じていた。

 『私』の姿は分からない。白い靄が体を包み、真っ暗な世界の中に目の前の存在と魂だけが浮いている。

 

「あなたは今死んだ。どこにでもあるような事故、あの世界で貴方という存在は消えた。此処に居るあなたという魂ももうすぐ消えるだろう」

 

 なんでもないように、その子供は言う。そしてそこに表情は無い。それが当たり前であると言うようにその魂へと告げた。

 対してその魂はただ黙った。『私』が死んだ? 事故にあった? もうじき消える? なんだそれは。

 無いはずの魂の身体が震えた。不安で揺れた心が、目の前の子どもになにか聞くことさえも躊躇させる。

それは恐れるものだ。目の前の、神の様に見える子供という存在が。

それは怖れるものだ。自分という自我が、今まさに消えようとしているという事実に。

 

「なん……で? なんで私が死なないといけない? 他にも死ぬべき人間はいくらでもいただろう! どうして私なんだ!?」

 

 一度言葉を口に出せば、溢れてくるのは不条理への怒りだ。目の前の存在が神と言うのなら、私の運命を決めたのもそいつだろう。そう考えた思いは勝手に溢れた。

 

「私は、死にたくない」

 

 まぎれもない本心だった。生きている者として何よりも欲するその言葉は、今此処に居る魂には無いものだ。

 神様の不注意か? 単なる事故か? どうして目の前に現れた? 『私』は誰だ?

 何でもいい。答えを知りたい。神なら立った1人生き返すことぐらいできるだろう。無意識な望みを、その言葉を聞けることを待った。

 その子供が口を開く。しかし、考えていた魂が求めた答えとは全く違うものだった。

 

「なぜ死にたくない?」

 

「……は?」

 

呆けた声が辺りに響く。

 子供は暗闇の中を歩くと一点で足を止め、手を翳した。するとその場所だけ鈍く光り、辺りの風景が映し出された。

 

「死は、解放だ。しがらみ、苦しみ、絶望、慟哭、ありとあらゆる苦難に生きている限り立ち向かわなければならない。本当に求めることは、死への納得だろう」

 

 照らした場所は自分の部屋だった。暖色の小物や敷物、机にパソコン。見覚えのあるそれらであったが、教科書に書かれた名前や、自分のパーソナリティを示すべきものは全てぼやけて見えない。

 机に目を向ける。其処に在ったのは、一枚の紙だった。それだけが別次元の存在であると、その魂は感じていた。

 

「ならば納得を与えるだろう。友へ、両親へ、その存在が示す限りの思いを残すといい。それとも欲すべきは娯楽か? ならば与えるだろう。書物、情報、性行為、遊具、楽しめばいい。あなたは世界に存在しない。だが世界はあなたに、それら実感として与えるだろう」

 

 なんだ、それは。

 魂がその言葉を咀嚼して理解する。霊となり、世界に残れという事か。誰かに乗り移り、娯楽を体感し、ただ存在し続けるだけ。満足すればこの魂は消えてなくなるだろう。そもそも初めから存在しないのだから。

 それは生きているということではない。ただ在るだけだ。それでも、満足を得ることはできるのだろう。あらゆる娯楽、それを自分は体感することができる。ただそれが、無意味なだけだ。

 

「世界はいつだってそんなもの。いくつかの偶然によって個など消えていく。魂というものが現れ此処にあることも、ただの偶然だ。故に選択肢もある。

 生に満足は無い。絶望と希望は等価値ではないのだから。生きるという事は負に対面し続けるという事に他ならない」

 

「……いや、だ」

 

 絞り出したような声が溢れた。

 もう自分が何者なのかもその魂にとっては分からない。日本で生きた自分はどうやって生きてきたのか、どんな名前だったのか、友人の顔も両親の顔も思い出せるのに、自分がどう生きたか思い出せない。

 それでも、生に執着する。自分は消えてしまうのだ。それは怖れだ。数千数万の娯楽に囲まれ満足したとしても、それ以上にその魂は消えゆくことを恐れた。

 

「死にたく、ない。消えたくない!」

 

 ぼう、と辺りに移っていたはずの風景が消える。そして現れたのは暗い闇の静粛だった。

 その子供は何も言わずにその場にあり続ける。数分、たったころだろう。子供は無表情のまま少しだけ暗くなった声で、呟く。

 

「生きるのは、つらいぞ」

 

「それでも、私は……生きたい」

 

 出した声は希望だった。生きたいと言う望みは子供にも届き、少しだけ顔を歪ませた。その理由をその魂が知ることはできない。一瞬何かに呼ばれたように振り向くと、そのまま小さく溜息をついた。

 

「……生を与えられるだろう。既に死した肉体が魂を求めている。其処に在るのは貴様にふさわしい、永遠の生。

 見ることになるだろう。希望以上の絶望を。楽しみ以上の悲しみを。

 生きるといい。止めはしない」

 

 

 世界が反転する。

 黒から白へ、その白のなかで魂は自分がその場から居なくなることが分かった。

 子供は背を向ける。表情は見えなかった。ただその足取りは…………

 

 そうして、『私』は世界へと現れた。

 


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