エヴァンジェリンに憑依した人の日記   作:作者さん

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・日本での日記

『17◆☆年 季節は夏。あっついもん

 

 久々に来た日本は鎖国してたがなんか質問ある? これでスレ立てられる。どういうことなの……。憑依したての私なら当然だと思ってはいただろうが、このころの日本は鎖国中だった。とはいえ国内ではそこそこゆとりが在ったりしたようだ。しばらく不作も無く、それなりに日常が続いている。

 魔女狩りだったり吸血鬼ハンターズから逃れてしばらくのんびりできそうだ。魔法の研究はしばらく進まないが、休暇だと思ってのんびりしよう。バカンスというやつだ。久々の、たぶん150年ぶりぐらいの休暇だお^^

 そうと決まれば日の国を堪能しよう。しかし金髪の少女というスタイルはまずい。女一人での旅でさえ変に見えるであろうことは想像できる。それが外国人、金髪色白の少女なんて言ったらもう人買いに襲って下しあと言っているようなものだ。じっさい襲ってきた人たちからちょっといろいろ貰っちゃったおwww。貧困のあまり襲ったって感じじゃないから松の木の下に裸で置いておいたおww。狐に化かされたとでも言うだろうから何の問題もないおwww

 そう思っていた数分後の私→アイエエエ!?ナンデ!?ニンジャナンデ!?』

 

『17●▼年 季節とか思い出したくもない。

 

 日本にも退魔士はいるのだな。完璧に油断していた。まあ日の国以外の術師なんて警戒するに決まってる。いつから日の国に気とか魔法的な意味の裏稼業が無いと錯覚していた……?

なんだあの変態どもは! 残像だ……それは私のおいなりさんだ……サスケェ……その他もろもろ。バカンス? 馬鹿め! 奴は死んだわ!

 暗部の扱いはどこも悪いと思っていた私が悪かったのだろうか。なんとか逃げることができたのは奇跡に近いだろう。忍者……いや、NINJAにとって分身することは息を吐くことと同じぐらいに簡単なことだ。私は戦闘職じゃないんだ。 長瀬!そっちに行ったぞ! はもうトラウマだ。目が線目の人は最強の法則。研究がメインとはいえ、戦闘もかなりこなしている私が殺さずに勝てるヴィジョンが見えなかった……

 水上も木の上も気も魔力もなしに走れるような変態どもなんて相手にしていられるか! 私は魔法球の中に戻るぞ!』

 

『17SS年 季節は……いや、やめておこう。私の勝手な思い込みで惑わせたくない

 

 なんやかんやで魔法世界で完成させた水晶球の中で絶賛着物を作成中。思い出すのは過去に日本に居たころの記憶。何年もたって劣化しているが、強烈な物は覚えている。JAPAN文化……そうだ巫女だ! 私の思考は完全にサブカルチャーに移行していた。

 どうせ着るのならば可愛らしいものがいい。布は幸い魔法世界で良いものを仕入れてきているのだから。軽い認識阻害の魔法つきというのが実にグッド。人形についての知識や魔法は積極的に、早い時期に得ていたので裁縫も楽勝だ。というわけで……フリルがいい感じだ。赤い大きなリボンをあしらったりして、しかし和風を残し、脇なんかは露出させるように、しかしいやらしさはNG。おお良い感じ! 確かこれを着てたのはレームだったかな?私が一番印象に残っているキャラクターなのだから、きっと大丈夫だろう。

 デデーン、エヴァンジェリン、アウトー、とはならなかった。踊り子をやったら意外にウケた。なんやかんやで路銀を稼ぎながら旅をできたりしている。どうしてそうなれた』

 

『17ИШ年 季節は冬だ、寒いし

 

 アイエエエ!?ナンデ!?ニンジャナンデ!?(二回目)

 なんか忍者の中忍が接触してきた。恐怖はない。魔力を体中に巡らせ戦闘形態をとっていても、軽くあしらう事は難しいだろう。真祖の吸血鬼である私がだ。あまり私を怒らせない方がいい、怪我をするぞ。そんな雰囲気だったが、相手の中忍は案外穏やかな性格だった。この時代なのにありえん。

 数か月監視はしていたが、特に目立った行動も無かったので放置していたらしい。よかった、魔力とか偽装しておいて。良かった、監視していた忍者をつかまえたりしないで。

 なんでも、目立った行動が無ければ呪術協会、あぁ、これ日の国の魔法使いの集まりみたいなものだ、は静観するらしい。好きなように過ごしていいとはなんともはや。まるで遊園地のフリーパスを得たような気分だ。案外日の国気の抜けた場所だwwww』

 ここから文字が追加されている―――――――

『どうやらこの時点で呪術協会は私の事を高位の魔であると見ぬいていたらしい。あのジジイの系譜であるのなら、それぐらいは容易かったという事か』

 

『177◆年 季節、冬ってなんぞや

 

 京都はヤバイ。あそこは街並みにも意味を持たせて強力な結界を張っている。呪術協会のパスが無かったら、入ることも難しかっただろう。だが入れた私に観光しない理由は無かった。金閣寺とかすげぇ、清水寺とかすげぇ、団子うめぇ、思いっきり観光してきた。ついでに舞って路銀もとってきた。舞台で舞う? そんな空気読まないことしない。私は自重を知る良い女なのだから。ただ飛び降りはした。長瀬……私を監視している忍者な、が受け止めた。

 二年という観光旅行の締めのついでに一緒に観光してきた。甘いものを食べた。案外気の良い人物で良かった。そろそろ帰るつもりだと言ったら、長いところ監視する任務に就かなくてせいせいする、と苦笑しながら言ってきた。よし、また来よう。』

 

―――――

 

 現在その国の裏では、重大な問題が発生していた。東の都で妖刀が暴走し、全土の神鳴流の剣士がその鎮圧のために向かっていた。力を求めたとある剣士が、黒い刀身の刀を握り、その力に飲み込まれたのだ。

 その事件とエヴァンジェリンが日本に訪れたのは全くの偶然であったが、その時期ほど彼女にとって都合の良い時期は無かっただろう。なぜならその事件で、京を、この国の裏を陰陽師たちと共に護っている神鳴流の剣士が全滅する寸前まで追い込まれたのだから。

 強大な魔であるはずのエヴァンジェリンであったが、それを討伐する者が居ないのだ。陰陽師にも戦えるほどの人物も居るが、京の封印や結界を保たせるためにも、全力を出して排除にかかるわけにはいかない。そこで、監視として付けたのは忍びだった。

 

「(うーむ、拙者たちにまで依頼が来るとは思わなかったでござるよ……)」

 

「うむ、……ただの団子と見くびっていたが、なかなかいけるな! 清水まで飛び降りた甲斐があった!」

 

「……いやいや、飛び降りなくても団子は食えるでござる。心の臓に悪いことはやめてほしいでござるよ」

 

 着物の長身の町娘と金髪の少女という、その時代には聊か奇妙な組み合わせの二人はそこに居た。長瀬、と呼ばれた忍者である女性は、童のように笑顔で団子を頬張る少女の言葉に、思わず苦笑しつつも湯呑を口へと傾けた。

 少し前まで追いかけて逃げる関係である二人であったが、なんとも暢気な空間が生まれている。エヴァンジェリンに監視はついているが、現在は長瀬が殆どその役目を受けている。しかしその気配を何回か察知して挨拶することも珍しくは無かったため、顔見知りという程度にはなっていたが……。

 

「まさか共に団子を喰うとは考えていなかったでござる」

 

「おーいオヤジー、団子の追加だ」

 

 ごますりをする店主へと呼びかけながら、エヴァンジェリンは団子の串を置いた。見かけはどう見ても子供なのだが、強大な魔であるという事が長瀬には信じられなかった。しかし、京の有力な術者である近衛はこの少女を危険視している。油断は禁物、と考え直すも、普段の行動を監視している長瀬には、どこか気の抜けるものを感じていた。

 普通に旅をしているだけである。認識阻害の術を使っているということは分かっても、それ以外が無い。高位の鬼などが封印されている場所には目もくれず、死霊の集う場所に言ったかと思えばそれらを払い、まるで意図がつかめない。監視されていたことがバレバレだったので本人からは、観光だと言われているが、初めのころはそれを鵜呑みにするわけにもいかなかった。

 が、正直なところ長瀬としては早いころからそう判断してほしいと考えており、現にその判断は下っている。強力な力を持つ西洋の術師、さらに高位の鬼、そんなものが京の外で暴れたりすれば、高位の陰陽師たちも動かなければならなくなる。そしてその陰陽師たちに何かあれば、災厄を封じ込めた結界などが崩壊し、災いが溢れ出すという事もあり得た。そこにさらにエヴァンジェリンの、京を観光したい宣言だ。これには呪術協会も頭を抱えていた。

 

『京の外からでも十分にまずいのなら、入れてしまえばいいのではないか。』

 

 一人の術師が冗談交じりに言った言葉が、まさか採用されるとは思わなかっただろう。京の街並みはそれ自体が結界を生み出し、さらに魔に対する備えもある。外で戦うよりも、そこで戦う方が、被害の大きさは逆に少なくなると考えられていた。

 というよりも、エヴァンジェリンの性格次第でこの国の裏は大きな決断をしなければならなかったのだ。

 と、そんな背景があるにもかかわらず、どうして自分はその張本人と団子を喰っているのだろう。長瀬としては疑問であり、楽な任務だと最近は気が付き始めていた。何しろ本人が観光以外をするつもりが無いのだ。様子を専門の者に見せて何か術を仕掛けていないか調査しても、それは寝床作りだったりするなど、空回りの連続である。

 そんな起こるかもどうかも分からない、どちらかというと爆発しない爆弾に、今の呪術協会が相手している暇がない。何度も言うが、神鳴流の剣士は全滅寸前であり、育成や防衛の事などやることはいくらでもあるのだから。

 

「どうしたんだ長瀬、手が止まっているようだが?」

 

「ん~、少しエヴァ殿の事について考え中だったでござるよ。いろいろ上司も悩みどころが増えてしまって……。うちの上司を泣かせるのも、ほどほどにしてくださらんか?」

 

「ほーう、いやまったく人気者というのは辛いな! まあ心配するなと伝えておけ。そろそろ私もこの島国から去るつもりだ」

 

 その言葉に普段糸目であった長瀬は、驚いて目を見開いていた。ずっとこの国へと居るつもりではないことは知っていたが、いざ離れることを聞くと感慨深いものを感じる。……追いかけていた者としては、ライバルが居なくなるようなさみしさを感じていた。

 

「元々観光のために来ていたのだからな。最後にのんびり酒でも飲みたいのだが……良い場所は無いか?」

 

「ふむ、それなら……」

 

 長瀬はとある場所を指定する。その後、簡単な契約などの術を行うと、苦笑交じりの会話をして二人は分かれた。

 

 

―――――――

 

 そこはとある鬼達の集落だった。春という季節の訪れに、どこか祭り前夜のように騒がしい空気が流れている。村一番の美人の娘が来る。それをどう扱うのか、は語る必要もないが、鬼達にとってこの時期は祭りと言えるだろう。

 どこもかしこも酒を片手に騒ぎ、些細なことで大声を出して笑いあう。浮かれた空気は気分を高揚させ、今から村の美人を迎えに行くか! と冗談交じりな言葉が飛び交った。

 

 そんな場所に一人、人が訪れた。逞しい肉体に黒い着物を纏い、赤く塗られた籠手と臑当が夜の中で鈍く光った。手には大太刀、そんな姿で集落の入口へと尋ねてきた男に、鬼達は迫るように囲った。たった一人、そして殺気立った姿で訪れたことを、舐められている、と思ったのだろう。

 一人の鬼が何しに来たと男に尋ねる。逆に男は首を傾げて尋ねる。テメェ等は魔か、と。

 それを聞いて周りの鬼たちは馬鹿にするように笑った。この鬼の集落に来ておいて何を訪ねているのか、と。一発小突いてやろうと、ある鬼が一人近づく。

 

その鬼の首が飛んだ。

 

 にやり、と男は笑う。まるでその結果が嬉しくて嬉しくてたまらない、悦びをこらえきれない子供のように笑っていた。

 


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