「秀次、ランク戦やろうぜ。」
「今は気分じゃない。」
「いいからいくぞ。」
秀次は無理やり連れられ、ブースに入る。合図とともに転送され、戦闘が始まった。20メートルほど先の浩太が秀次に話しかける。
「秀次、今日の悪かった点はどこだ。」
浩太がスコーピオンを薄く伸ばして攻撃してくる。それを孤月で裁きながら返事をして返す。
「孤月の扱いだ。」
「どう悪かった?」
「孤月の性能を活かしきれなかった。」
「いいか、秀次。」
もぐら爪が秀次を挟むように地面から飛び出す。秀次は思わずシールドを展開し、受け流した。そこに鉛弾が叩き込まれる。ガキンという音とともに秀次の胴体に重石が生成された。
「今の、シールド出す必要あったか?」
浩太のもぐら爪を流すためシールドを展開している。ただもぐら爪の正体は伸ばしに伸ばされたスコーピオンである。孤月を本気でぶつければ簡単に崩れ去るだろう。
動けない秀次は浩太のハウンドで緊急脱出した。
2本目。
秀次が撃った鉛弾をかわしながら、スコーピオンで牽制する。秀次が右に動こうとしたとき、足元にシールドを展開。バランスを崩した秀次に浩太は拳銃を向ける。秀次はあわててシールドを張るが、その弾はシールドを突き抜けた。
「なに…!?」
秀次の右腕と胴体に重石が生成される。彼は浩太がマガジンを入れ替えるところを見ていない。
「見させるわけねえだろ。今日言いたいのはこれだよ、秀次。全部避けろ。」
3本目
浩太は秀次へハウンドを打ち出す。シールドは出さず、避けるため前に出た。浩太が拳銃を構える。
ここだッ!
「シールド!!」
「はずれだ。惜しいな。」
トリガーが引かれ、出てきた弾は鉛弾だった。そのあとハウンドで滅多刺しにされ、緊急脱出。
そんなこんなでざっと100戦。
85-15で秀次の負け。10本に換算すると8.5-1.5である。ただ学ぶことも多かった。
とりあえずこれからは孤月の特訓をしなければ。秀次は当面の目標を決め、励む。それを浩太は見守りながら、帰路に着いた。
〇━〇━〇━〇
「ただいま〜。」
自分の家でもあり、職場でもある玉狛支部へ帰ってくる。
「ねえ、浩太。」
「桐絵?まだいたのか。」
「今日は泊まるから、ってそうじゃなくて!」
一人であたふたする桐絵を放置して部屋へ戻ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「なんだよ…」
「あんた、高校行くの?」
どこで聞いたんだよそれ。否が応でもあの光景がフラッシュバックする。浩太は顔が赤くなるのも感じた。
「え、ちょっと!顔赤いわよ!?」
「い、いいや大丈夫。」
「え、でも真っ赤よ?」
ここで熱があるなんて小南に思い込まれてしまうと後々まずくなる。前は小南は部屋に濡れタオルを持ってくるし、レイジはお粥を作って持ってきた。熱なんてないのに。
「全然大丈夫だ。もともとこんな顔だろ。」
「そういう言われればそういう気もするわね。」
チョロい。小南 桐絵はチョロいのである。
「じゃあ部屋戻るから。」
「ちがーう!!ちょっと待って!」
くそ、今日はやけに記憶力がいい小南。どうしたのだろう。すたすたと歩み寄ってきた。
「で、高校どうするの?遥に誘われたんでしょ?」
「桐絵は今日も可愛いな。」
「えっ!そ、そんなこと…違う!!騙されないわよ!?」
なかなか勘のいい小南。だがボーダー最初の銃手にはかなわない。
「いや、本当だよ。」
「えっ…、本当に浩太はごにょごにょ…」
赤い顔でぶつぶつ呟く小南を放置し、今度こそ部屋へ向かう。
高校どうしよう。今は9月の終わり。正直間に合う気がしないのだ。でも綾辻からのお誘いである。諦めずに頑張ってみるべきか。
一方リビングで放置された小南。レイジが防衛任務終わりに帰ってきた後でもあたふたしていた。どうせ浩太に何か言われたのだろう、特に小南を気にするでもなくレイジはキッチンに立つ。
小南の心中は穏やかではなかった。穏やかであるはずがなかった。
そんな、今まで浩太は本心であたしのこと可愛いって!?そんな…ならあんなに無下にしてしまったら…。えっ、でも浩太って遥が好きなんじゃないのー!?
まったくもって穏やかではない。小南 桐絵は今、ネタばらしをしてくれる人を求めていた。
〇━〇━〇━〇
ボーダーの古株でも学校に行かなければならない。浩太は勉強は苦手ではないが、受験勉強を今から始めるのである。間に合うのかとても微妙なところだ。ぽつぽつ学校を目指して歩く浩太に話しかける人が一人。
「おはよ、浩太くん。」
ひまわりのような笑顔で綾辻が話しかけてくる。先日作戦室ですこし話したあとからこうやってたまに喋ったり、帰ったりしている。
「遥、今日は早いのな。」
「うん、ちょっとね。」
そうやって他愛のない話をしながら、中学校へ向かう。真剣に勉強してるかとか、最近流行りのドラマがとか。それでも何かぎこちないのである。そのうち謝らねば、そう浩太は思いながら綾辻と別れ、自分の教室へ向かう。そのうちっていつだろうか。
そうして防衛任務や、勉強や、ランク戦をしている間に時は過ぎてゆく。もうすぐ正念場の冬休みだ。
冬休みに入ってすぐ、綾辻からLINEがきた。内容は私の家で一緒に勉強をしよ〜〜というものだ。特に断る理由もないため、すぐに玉狛を出た。
綾辻の家の前で、すこし深呼吸をする。四年前までは毎日通った家。綾辻の親と出会うのがだいぶ気まずいのだが、腹をくくりインターホンを鳴らした。
ピンポーン
「はーい!」
「浩太ですー。」
「あ、入って入って!」
綾辻ママではなく綾辻本人の声だった。
「お邪魔します。」
「どうぞどうぞ。うちに来るのも久しぶりだね。」
「そうだな。これ、大福持ってきた。」
「あっ!ありがとー!」
浩太から大福を受けとると、なかなかに上機嫌で綾辻は会談を上がっていく。浩太もそれについて行った。
「なんか、女の子っぽい部屋になったな。」
「そ、そうかな…」
なんで照れてんだよ。心の中で綺麗にツッコミを入れる。そうは思いつつも部屋がとても清楚な感じになっているのは事実である。
「よし、勉強するか。」
「そうだね。」
「遥、ご両親は?」
「今日はちょっと出てるの。」
「そっかそっか…」
すこしの会話のあと、綾辻はノートと問題集を広げ始める。浩太もそれに習って、印刷してきた過去問のプリントを取り出した。
綾辻ママも、パパも外出してるのか……
綾辻は2時間ほどぶっ続けで勉強した。カリカリとシャーペンで解答を書く音が鳴り響く。すこし集中力が切れだしたのを感じたため、手を休める。目の前の浩太は一心不乱に問題を解いていた。
そしてまた2時間ほど経過する。浩太はまだもんだいを解くのをやめようとしない。
「こ、浩太くん。もうすぐお昼なんだけど…」
返事がない。
「浩太くん?」
「どした?」
「いや、もうすぐお昼になりそうなんだけどどうする?」
「あー、どうしよっか。」
「んー、そうだ!私何かちゃちゃっと作ってくるね。」
綾辻が浩太に、手料理を、振る舞うという。手料理を。綾辻はこれまた上機嫌に下の階のキッチンへ向かった。浩太も数学を解ききり、キッチンへ向かう。
「サンドイッチ?」
「うん、そうだよ。」
「ゆで卵の皮むくよ。」
「お願い。」
そういうと浩太も綾辻の隣に立って、手伝い始めた。
「なんか、照れるね。一緒に作業してると。」
「そ、そうか…?」
「うん。そうだよ。」
そう綾辻は微笑みながら、ツナとレタスとを盛り付けていく。こっちが照れるわ。綾辻はとても手際がよかった。とても料理がうまくなっている。惚れ惚れする。
「いただきます。」
「いただきます。」
出来上がったサンドイッチを二人で食べる。ささやかではあったけれど、至福の時間だった。あーだこーだと、とりとめのない話をしながらご飯を食べるのは、楽しいのだ。
30分後ぐらいからまた勉強を始める。
「浩太くんってさ、どうやって勉強してるの?」
「過去問解いてわからなかったところを復習するっていうのを多分、2ヶ月は繰り返したよ。」
「えっ、じゃあもう…」
「うん、もう少しで満点も目指せるようになるかな。」
綾辻は浩太の真剣さに驚く。いつもあまり真面目にやらない浩太が、自分と一緒の学校に入るため頑張って勉強してるんだ。そう思うと、恥ずかしくもあるし嬉しくもある。
また2時間ほど勉強してから、浩太が口を開く。
「なあ、遥。」
「どうしたの?」
「前は、その、ごめんな。」
前のこと。あんな別れ方をしたことだろう。もう綾辻にとやかく言うつもりはないが、自分を気遣って言ったということに気づいている。
ならもう、いいだろう。
「前…。あ、うん。別に気にしてないよ。」
「そうか、ならまあ…」
「でも悩んでたのなら、相談して欲しかったかも。」
「うっ…。善処しますぅ…」
「あと私もね、あのときは気づいてあげられなかった。ごめんね。」
「遥が謝ることはないよ。悪いのは俺だから。」
4年間のわだかまりは、意外とすんなり解消された。そして二人はまた勉強に没頭する。
〇━〇━〇━〇
またまた月日は流れ入試当日。とくに問題なく試験は進んでいった。あとは合格発表をまつのみである。