全てを再確認する話   作:ベルトのつち

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今回は前回前々回よりはだいぶアレです。

よろしくお願いします。


第14話 「イラプセル ②」

 

 

立木 浩太は走っていた。かの暴虐の王というか女王さんから逃げるため。夜の帳が降りた街を駆け抜ける。徐々に包囲網が狭まっていることをサイドエフェクトにより察知する。

 

「こりゃ、逃げきれねえな。」

 

自嘲気味に呟くが、その言葉は風に流されていった。路地を右に曲がり、屋根の上へ飛び上がる。

浩太が持っているトンファーだが、長い方を後ろに持つときスラスターのような推進機能を使えるようだ。あとトリオンの玉を出せる。多分飛ばせるのであろう。それからシールドが標準搭載。

ボーダーのトリガーのようにシールドを使っている間、他のことができないということはない。さすが黒トリガーではある。

 

「仕方ない。少しずつ狩っていこう。」

 

そう呟くと屋根から飛び降り、音もなくベランダに着地。身をひそめる。数秒後に飛び降る影が見えたので、浩太はそれに続いた。トリオンボールを5つ程生成しながら襲いかかる。

 

「せっ!!」

 

空手で学んだ正拳突きが久しぶりに役に立つ。殴った相手の胸には、向こうが見えそうなくらいの風穴ができあがる。

換装が解かれた相手を、喋らせる間も開けずに気絶させる。暗殺者さながらだった。

もう1人、獲物が浩太の網にかかった。アサシンはそれへ向け、空へ飛び出す。

 

 

アリスはレーダーにより、近衛兵が少しずつ減っているのを、走りながら確認していた。そしてヴァルクールに連絡をとる。

 

「ヴァル!コータを止めてくれ!」

『御意に。』

 

そう言うと近界の孫悟空は、アサシン狩りを始める。アリスも少し大きめの盾を携え、浩太のいる方向へ向かう。

 

 

暗闇を浩太は駆け抜ける。都市の外に出ればいくらでも迎え撃つことができる。しかし、今自分を追いかけているのはきっとヴァルクールだろう。浩太はT字路へ降り立った。

 

「地形戦はまずいんだけどな…」

「見つけましたぞ。」

 

右手側から声が聞こえた。ヴァルクールである。

 

「なんで何も知らない女王を俺と合わせたんだ?」

「若い女性か、年上の女性か、どちらを好むかという話です。」

「なるほど、ねっ!!」

 

会話もそこそこに、浩太は路地のあちこちに蒔いておいたトリオンボールをヴァルクールに向けて撃つ。ヴァルクールもガイボルガから錐を生成。トリオンボールと錐が激突し、両方音もなく消え去った。

その煙幕を抜け、浩太はヴァルクールに刺突を繰り出す。それをかわしながらヴァルクールも反撃を繰り出す。そのとき生成された錐が浩太の死角から襲いかかった。体をひねりながら飛び上がり、難なくかわす。

そうしている間にもトリオンボールは生成され、錐へあたり爆発している。

 

「強ええな、黒トリガー。」

 

そう自嘲気味に呟いた。そして地面に浩太の足がついたところで、ドッという音が響いた。この戦闘で初めて聞こえた音である。

浩太は地面を窪ませながら、ヴァルクールに向かって飛び出した。

トンファーはリーチがあまり長いとは言えない。そのため、攻撃するには近づく必要があった。一度近づいてしまえば浩太のものである。正拳突きでヴァルクールを狭い通路に押し込んだ。

 

「狭いところなら有利に戦えるとお思いですかな?」

 

ヴァルクールがガイボルガを真ん中で分離させながら言う。それを見ても浩太はニヤッとするばかりである。

 

「せっ…!!」

 

浩太が足払いを繰り出し、それをかわすためヴァルクールが飛び上がる。

その瞬間まわりに仕掛けられていたトリオンボールが、飛び出した。二本のガイボルガでそれを弾くが、本命は錐をくぐり抜けた浩太の鉤突き。後ろに飛び退くヴァルクールにトリオンボールが当たって弾ける。

左腕が二の腕からはじけ飛び、背中も少しえぐれたようだ。

浩太は追撃の手を緩めない。裏打ち、かわされる、その勢いのまま左足で蹴りを入れる。浩太が体勢を直す間にもトリオンボールと錐は激突し、はじけていく。相手の突き、左手のトンファーでいなす。その間に右手のトンファーを持ち替え、ゼロ距離でトリオンボールを打ち込む。

ヴァルクールが左肩で狙いをずらし、そのまま体を回転させガイボルガをふるって浩太を殴り飛ばした。

 

「この攻撃もガードするのですか、素晴らしい反応速度ですな。」

 

起き上がる浩太の左肩にはシールドが出ていた。それから10分ほど攻撃を続けたが、浩太は攻めあぐねていた。10メートルほどの距離で睨み合う。

 

「年季が違いすぎるな…」

 

そう呟く浩太の右肩には錐が4本ほど刺さっている。しかしヴァルクールには先ほどの不意打ち以降、決定的な攻撃は入れられていない。そのとき浩太とヴァルクールの間に降り立つ影が3つ。

 

「じ、女王様!」

 

ヴァルクールが叫んだその瞬間、浩太は再び逃走を開始する。

 

「待て!コータ!!」

 

アリスの制止に耳もくれず、スラスターで加速し飛び去る。

 

 

置いて行かれたアリスにヴァルクールが声をかける。

 

「少々間が悪うございますよ、女王様。」

「いや、問題ないぞ。もう詰めに入っている。」

「女王様、それは多分まずいかと。」

「何がまずいのだ?いくらコータといえども1人で近衛兵を捌ききれるはずがない。」

 

1人で近衛兵を捌ききれるはずがない、とこの女王は言った。しかしヴァルクールは認識を改める必要があると感じていた。近衛兵が何人いようが関係はないのだ。本当に浩太を捕らえたいのならば、ヴァルクール並の猛者があと3人ほど欲しいところである。

 

「立木殿はサイレントキリングにも通じているようだ。一筋縄では行きませんぞ。」

 

ヴァルクールがそういうと同時に、レーダー上の点がまた一つ消え去る。アリスは歯嚙みしながら後ろに控えている近衛兵に言った。

 

「ラルドとブラックハウンドを呼べ。」

 

 

ヴァルクールとアリスから逃走した浩太はまた徐々に近衛兵の数を減らしている。減らしているのだが逃げきれそうにない。欠けた穴を補いつつ包囲を狭めてくる。浩太が動けば包囲網も動き、止まれば止まる。

戦闘力こそ黒トリガーを持つ浩太には及ばないものの、とても統率のとれた動きをしている。その指示を出しているのは、先ほどレーダーを展開していたアリスだろう。なんというか惜しい人材である。

またそれと同時にこうも感じる。

 

兵隊の運用の仕方間違ってんぞ…

 

と。また一人、トリオンボールによる不意打ちで落とす。

 

浩太は一つ見落としていた。イラプセルのトリガーには緊急脱出機能が付いていないということを。

近界で遠征をするときに使うのは、基本トリオン兵である。ボーダーのトリガーには緊急脱出機能が付いているからあれだけ大々的に運用できるのである。

 

「…?」

 

浩太を包囲していた近衛兵が包囲範囲を広げだした。目の前に立っていたのはラルドである。

 

「立木殿。」

「どうも。」

 

浩太は即座にトリオンボールを生成し出す。そのときラルドの拡張斬撃から身を守るため準備状態にしていたシールドが発動した。攻撃したのはラルドではなく、ブラックハウンドの一人だった。両手にはアーミーナイフのようなものが握られている。真っ黒な装束を身にまとっていた。狼の群れがそれを合図に一斉に動き出す。

 

「厄介そうな奴がいっぱいいるな。」

「行きますよ!」

 

そう言うとラルドは腰の太刀に手をかける。そして太刀を振り抜いた。斬撃が飛ぶ。

それをシールドで後ろに流しながら、浩太は地面を蹴り接近する。

 

「拡張斬撃は使えねえだろ。民家切っちまうもんな。」

 

そう言いながらどんどん距離を狭める。ラルドが太刀を返しながら振るが、体を横向に回転させながらその上を飛び越える。

そのときすぐ近くの民家の上から矢が飛来する。浩太の動きに完全に釣られた。浩太のシールドが発動し、突き刺さる。

 

「黒いのは隠密部隊がなんかなんだろうが、気配出しすぎだぜ。」

 

スラスターをフルに使って、屋根へ向けて鉄砲玉のように飛び出した。ブラックハウンドの弓兵が慌てて矢をつがえ、撃つが当たるはずもない。浩太の拳により顔面がはぜ飛び、換装が解けた。

その浩太の前と後ろに白兵が二人。弓兵を囮に使ったのだ。

 

「っ……!」

 

前の白兵を打撃で吹き飛ばす。

ガードされたが構うことなく、トンファーを持ち替えながら後ろに振り向く。裏打ち。浩太の攻撃をナイフで受け止めた衝撃で空中へ飛び出した。

それを仕留めるため浩太も飛び出す。白兵は少しおかしな体勢をしていた。まるで視線を上に集めるような。

 

「視線誘導…!!」

 

そうだと気づいた瞬間全方位、自分を包み込むようにシールドを貼る。

 

「破ッ!!」

 

ラルドの掛け声。バキンッという鋭い音。ラルドの拡張斬撃により、シールドが一部崩れ左足が飛ばされる。

シールドに二人の白兵のナイフが当たる。しかし遅れて飛んできたトリオンボールに当たり吹き飛んだ。ラルドにもトリオンボールは飛ばしていたが、全て斬られる。

その隙に急いで浩太がさっきいた側と反対側の屋根の上に着地。店の看板の裏に滑り込むと、左から弾丸が突き抜けていった。多分狙撃兵だろう。

 

「うめえ…」

 

休むことなくそこから城壁へ向けて動き出す。そこにヴァルクールの錐が突き刺さった。

トリオンボールを下で走っているラルドに向けて飛ばしながら、走る。そして民家と民家の間を飛び越えるときに、真下に向けてトリオンボールを撃ちこんだ。驚いた様子の白兵が目に映る。少し遅れて爆砕音。

後ろから迫り来る錐にトリオンボールをぶつけながら少し跳ねる。その下を弾が光の線を引きながら抜けていく。

そして顔を上にあげたとき、

 

「ああああッ!!」

 

雄叫びをあげながら近衛兵が剣を真下に振り下ろした。右に飛んでかわし、自分の後ろに出していたトリオンボールを当てる。そのとき錐が二本左の太ももに突き刺さった。

 

「クッソ…まずいな。」

 

浩太の目線の先には太刀を構えるラルド。その後方400メートルに狙撃兵が三人。自分は民家と民家の間の上。後ろからは白兵が二人。左からはヴァルクールの錐。トリオンボールは錐を迎え撃つための21個と、ラルドの近くに3個。今から操作しても間に合わない。傍目からは完全に詰んでいるように見えた。

 

「終わりです。立木殿。」

 

ラルドの呟きが届いた瞬間、ラルドの左胸に風穴が空いていた。浩太の左拳が刺さっている。

 

「なん…で…!?」

「この黒トリガーに自分の位置とトリオンボールの位置を入れ替える機能が付いていた。それだけだ。」

 

ラルドのトリオン体が爆散する。

 

今まで入れ替えをしてこなかったのはこの一撃のため、ではなく単純に使えこなせなかったからである。つまりぶっつけ本番だったということだ。手堅く攻めていくのが得意な浩太を賭けに挑ませるまで追い詰める連携。

浩太は倒れこむラルドに言う。

 

「いい連携だな。」

 

ラルドが脱落したのは多分相手にとって痛手ではあるが、まだまだピンチではある。

通りをまっすぐ家に沿いながら走る。目指すのは城壁の外。

先ほどと同じようにヴァルクールの錐を落としながら、ブラックハウンドの兵を次々と落としていく。そして城門の前に立っていたのはイラプセルの王、アリスだった。

 

 

迅の到着まで残り45時間。

 

 

 




ガン=カタを使って物語を書きたい。
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