全てを再確認する話   作:ベルトのつち

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第20話 「綾辻 遥 ②」

 

 

浩太が去った後、敵の攻撃はますますヒートアップした。無限かと思えるほどに沸き続けるトリオン兵。

そしてトリガー使いも混じり、戦場は混沌と化していた。その混沌が濁流となって防壁へ押しかけてくる。破られるのも時間の問題だろう。

 

「…もう終わりということだな。ヴァル!」

「はっ。」

「これを持っておいてくれ。」

「これは…?」

「手紙だよ。あとは任せた。10分だけもたせてくれ。」

 

そう呟くとアリスは物見櫓から降りて、ヴァルクールに後を託す。

ゆっくりと、それでも胸を張って、アリスは母トリガーの元へ向かう。

 

「まあ悪くない人生だった。」

 

地下への扉を開け、階段を下りていく。

アリスが母トリガーを目にするのはこれが二度目だった。それはそこにずっしりと構えていた。雄大に光り続けながら。

 

そしてアリスはトリガーに触れながら、その言葉を口にする。

 

「トリガー起動。」

 

その部屋が一瞬光に包まれた。そこにアリスの姿は、もうない。

 

 

アリスの言いつけ通り、きっかり10分でイラプセルは、アフトクラトルに降った。

 

 

イラプセル防衛戦、終結。

 

 

 

以下はアフトクラトルに対し、提出された調文である。

 

アフトクラトル・イラプセル国家間戦争。

 

イラプセルの降伏により終結。

 

二国間会議の後、イラプセルは降伏宣言に調印した。

 

内容は以下の通り。なおここでのアフトクラトルとはアフトクラトル四大家、当主ハイレイン支配下政府を指す。

 

一、イラプセルはイラプセル・アフトクラトル国家間戦争の敗北を認 めること

 

一、イラプセルはアフトクラトルの従属国となること

 

一、イラプセル、アフトクラトル国家間貿易を開始すること

 

一、国王の側近にアフトクラトルの使者を置くこと

 

一、会議等イラプセルが所有している全ての資料を、アフトクラトルに提出すること

 

一、イラプセルの保有する黒トリガーを全てアフトクラトルに提出すること。

 

一、イラプセルは戦闘員の再編成を行った後、それをイラプセル、アフトクラトルの指揮下に置くこと

 

一、アフトクラトル・イラプセル間不可侵条約を締結すること

 

一、両国が他国からの侵略を受けたとき、両国は両国の援助に努めること

 

一、両国は相互扶助を行うこと

 

 

以上。

 

総被害報告。

 

参加戦闘員474名のうち、89名が死亡。60名が行方不明。

非戦闘員1万5621名のうち3408名が死亡。3745名が行方不明。

 

 

国王代理 ヴァルクール・スルハル

 

 

〇━〇━〇━〇

 

 

再び落ちていく。

 

浩太は一人、一面真っ白な空間に立っていた。

 

否。

 

もう一人。

浩太が殺した女が立っていた。それを見て浩太は問いかける。

 

「名前は?」

「エリン家のカット。」

「何でここにいる?」

「あなたが作り出したんでしょう。」

 

カットは微笑みながら答える。

 

「質問していいか?」

 

「ええ、どうぞ。」

 

「あの言葉の意味は何だったんだ?」

 

「何って、そのままですよ。あなたたちに勝って無事帰還しても私は殺されたでしょうから。」

 

「どういうことだ?」

 

「口減らし、とだけ言っておきましょう。あなたには関係のないことですよ。」

 

「なぜ俺に殺された?」

 

「あら、あなたは悪くないみたいな言い草ですね。あなたが殺してきたのに。あなたこそなぜ私を?」

 

「そうするしかなかった。」

 

「ダウト。どうして?他にも選択肢はあったのに、どうしてその未来を?」

 

「…わからない。」

 

「なら興味本位でしょうか?」

 

「ッ…。それもわからない。」

 

「あの状況下で、どうして私を殺したの?」

 

「…戦争だったから。」

 

「で?」

 

「俺が、そうするべきだと思った。直感的に、どこかで、そう思ってしまった。」

 

「後悔してないですか?」

 

「してるよ。だからあんたの分も、精一杯生きたい。」

 

「そう。頑張って下さい。」

 

カットはそう言うと、浩太の左胸を貫いた。

 

 

 

 

〇━〇━〇━〇

 

 

立木 浩太は病院にいた。

日付は3月21日。午後11時。

 

「卒業式か…」

 

浩太が目覚めていることに気づいた看護士がこちらにやってくる。

 

数分の事務的なやりとりの後、無理やり明日退院することにしてもらった。

遠征艇にのってから、トリガーを起動させていたおかげだろうか、そこまで筋肉は落ちていない。痩せたが。一応立ち上げたものの換装は強制的に解除させられるかと思っていた。しかし、ずっとスリープモードだったらしい。

なら黒トリガーのときはなぜスリープモードにならなかったのだろう。

 

そう考える浩太をよそに医師が診断結果を述べていく。過労に加え、心と脳に負担がかかったことによる昏睡らしい。

2日ほど食事を取っておらず、こちらに帰ってきたからもずっと点滴だったため、かなりお腹が空いている。トリガーを起動してからご飯をいただいた。

 

向こうとは比べものにならないくらいうまい。明日の朝はすぐにボーダーに出勤することになるだろう。

 

 

〈ボーダー本部 司令室〉

 

「どうも、城戸司令。」

「無事だったか。」

「知ってたでしょう?遠征艇をだしてくれてどうもありがとうございます。」

「いや、無事でなによりだ。後で報告書を提出してくれたまえ。」

 

それから城戸から、自分の扱いについていろいろ話を聞いた。

 

「了解です。それと城戸司令、少しお話が。」

「何だ。」

 

浩太が身につけていたカバンから取り出したのは、二本のトンファーだった。それを城戸の机の上に置く。

 

「黒トリガー…!?」

「あんたにあげるよ。」

「これは誰だ?」

「うちの親父らしい。」

「…向こうで何があった?」

 

城戸が訝しみながら問いかけるが、浩太は飄々と受け流す。

 

「報告書に全て書きますよ。玉狛に黒トリガーが2本あるのは、あなたに取っても不利でしょう?」

「お前は使えるのか?」

「もちろん。」

「なぜ渡した?」

「俺がこのトリガーを使いたくないから、です。適合者探しは頑張ってください。失礼しました。」

 

城戸司令の鋭い眼差しを横目に、浩太は部屋の外へ出る。

 

「さてと…」

 

城戸は自分が向こうにいたことを公表するつもりはないらしい。ならば適当に海外に行っていたとでもはぐらかすのが妥当だろう。

後で桐絵にだけ謝っておこう。

 

とりあえず浩太は最近お願いして作ってもらった、玉狛第一の作戦室へ向かう。A級の区画を通るがまだ朝早い。春休みとはいえそこまで人が多いわけじゃないだろう。

 

急ぎ足で作戦室へ向かう。作戦室の前の廊下を曲がろうとしたとき人にぶつかった。

 

「あ、」

 

ぶつかったのは綾辻 遥だった。

 

「ご、ごめんなさい!大丈夫で……?」

「あ、綾辻さん…。お久しぶりです…。うっす…」

「ひ、久しぶり…。じゃなくて、お話しよっか?」

 

綾辻が微笑み、手を掴む。まるで魔性の女だった。

こ、怖いェ…

やはり小南に口止めを頼むのは間違ってる。

 

 

そのまま手を引かれ嵐山隊の作戦室に入る。柿崎は綾辻がお怒りなのをみてそそくさと出て行った。ザキさぁん…

 

「座って。」

 

そう言われて浩太は椅子に腰掛ける。綾辻もその隣に座った。

 

「で、どこまで知ってる?」

「浩太くんが近界民に攫われたこと。」

「一応聞いておくけど、誰から聞いた?」

「桐絵ちゃんから。」

「そっか。ごめんな。」

「私が怒ってるのはそれじゃ…」

「俺が桐絵に口止めを頼んだから、だろ?それも含めての、ごめんだよ。」

 

綾辻が言うのを遮りながら、浩太は言う。

 

「うん…。でも浩太くんが生きててよかった。」

 

そう言って綾辻は前と後ろから挟み込むように、浩太の左胸を、心臓を触ってくる。不思議と落ち着いていた。

そのかわり左胸を貫いたあいつを思い出してしまう。

 

「…ああ、ありがとう。」

「何か悩んでるの?」

 

こういうときの綾辻は鋭かった。全てを知ってるような口調で、浩太の何もかもを包み込んでくる。

 

「いろいろ、あった。」

「そっか…」

 

それ以上追求はしてこなかった。綾辻 遥は強かった。浩太より、圧倒的に強かった。それ以降浩太は黙り込んでしまう。

 

「卒業証書、取りに行かないとね。」

「そうだな。」

「私も行っていい?」

 

ふと振り向いたとき、綾辻の顔が目に入る。

 

「あぁ、来て欲しい。」

 

綾辻はいたずらっぽい笑みを浮かべてこう言った。

 

「今日は、素直だね。」

「うるさい。」

 

 

〇━〇━〇━〇

 

 

遥と卒業証書を一緒に取りに行った。最近の中で、一番楽しいひと時だった。

それから一緒にボーダー本部へ行った。嵐山隊の作戦室の前で別れて、自分も玉狛第一の作戦室に入る。

迅に連絡してから、報告書の作成に入る。

最後、どうなったのだろうか。

 

集中力が切れだしたとき、迅が作戦室に入ってきた。

 

「どうしたんだ?急に呼び出して。」

 

「前聞いた答えは出たか?」

 

もちろん、そう答えて迅は一息吸い込む。少しの間の後、口を開いた。

 

「おれは、その未来を避けてみせる。必ず。そのための、サイドエフェクトだから。」

 

「お前ならそういうと思ってたよ、悠一。なんせ、俺のサイドエフェクトがそう言ってるんだからな。」

 

 

〇━〇━〇━〇

 

 

 

 

 

 

 

 





今作はこれで最終回です。
いろいろ迷走することもありましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
この続きなのですが、また新しく始めたいなと思っています。誠に勝手ながら、これで今作はこれで完結とさせていただきます。
ここまで読んでくださりありがとうございました。次回もよろしくお願いします。
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