全てを再確認する話   作:ベルトのつち

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今回は三輪と浩太を真ん中に据えています。
いつも自分が書いてる量より多めです。
それではどうぞ。


第5話 「三輪 秀次 ②」

 

夢を見ていた。

6歳ごろの僕が大好きな姉さんと公園で遊んでいる夢。

そんな僕も成長して、姉さんと遊ぶことはあまりなくなった。

それでも俺は姉さんのことが大好きだった。

 

夢を見ていた。

そんな姉さんと公園で話す夢。

遊ばなくなったかわりに、よく喋るようになった。姉さんは俺の全てだった。

 

夢を見ていた。

そんな姉さんがいなくなってしまう夢。

急に別れを告げて何処かへ行ってしまう。

姉さんは歩いて行ってしまった。

走っても、走っても歩いている姉さんに追いつけない。

 

三輪 秀次は夢を見ていた。

もう一度姉さんに会える夢。

 

ではなく、何度も大好きな姉さんが殺される夢。何度も、何度もトリオン兵に殺される夢。何度も、何度も、何度も迅や浩太に殺される、ただの夢。

 

 

〇━〇━〇━〇

 

 

目覚ましの音に秀次は飛び起きる。もそもそとベッドから這い出ると、朝食を作るため台所に向かう。毎朝、早起きして弁当と朝ごはんを作ってくれていた姉はいない。

 

そりゃそうだ。死人は蘇らない。

 

毎朝、姉がいないことを感じながら秀次は登校する。つまらない授業をこなし、ボーダー本部へ向かう。いつも夢の中で姉を殺す立木 浩太と。

 

迅と浩太は、第一次近界民侵攻で秀次の姉を見捨てた張本人だった。秀次は二人を憎んでいた。憎んでいたが、浩太は自分に償いのためか尽くしてくれていた。迅は違った。一応謝られたが、ただのヘラヘラしたやつだった。浩太への憎しみが薄くなる代わりに、迅への憎しみが増してゆく。

 

目を溶かされ盲目だった秀次は気づけない。浩太が誰よりも無気力で、諦めているやつだということに。迅こそが誰よりも真っ直ぐで、サイドエフェクトに苦しめられながらももがきながら進もうとしていたことに。誰よりも未来を見ていたということに。誰よりも前を見ていたことに。

秀次は一生気付けないだろう。

 

 

ボーダー本部。訓練室。

 

「いいか秀次。まずは動いていない的に弾丸を当てる練習だ。当たらなければ牽制でも何でもないからな。」

 

浩太は秀次に教えながら思う。自分も丸くなったものだ。中学校ではいじめられることはほとんどなかった。玉狛から通うため、学校を転校したためである。彼はもうただの、勘のいい人ならすこし遠く感じる、普通の人になっていた。

 

「腕がすこし落ちてるぞ。あと目は閉じずにやってみろ。」

 

浩太が秀次を弟子にとったのは、少しでも償いをするためである。弟子入りを頼んだとはいえ、まだ恨みと怒りは浩太に向けられていた。当然のことだろう。見殺しにしたも同然のなのだから。

 

訓練を始めて数日後、

 

「よし、大体当たるようになってきたな。次は立ち回りを少しだけ教える。」

 

なら秀次をどこかの隊へ入れるまでは面倒を見ようと浩太は決心する。せめてもの償いだった。

 

「これが練習メニューだ。俺が直接教えられない時はこれをやっておけ。」

 

秀次を隊に入れるとしたら、誰に頼もうか。

射撃練習をしている秀次を見ながら考える。あと、秀次に聞きたいことがあったことを思いだす。

 

「なあ、秀次。」

「なんだ?」

 

あまり明るくない声で秀次は応答する。

 

「お前、俺のこと嫌いだろ?なぜ弟子にしてくれって頼んだ?」

「あんたが俺を一番強くしてくれると思ったからだ。」

「そうか。」

 

浩太が思っていた通りの返事だった。やっぱりそうだろう。浩太は秀次と師匠と弟子以上の関係を望むことを諦める。秀次も望んでいないし、なにより弟子を不幸にするのは嫌だった。

こうして浩太も諦めながら変わってゆく。

全てを諦めた先に待っているものは?人生の放棄である。死は人生の終着点である。諦めた彼に、死などない。

 

「なあ。前の俺とのランク戦の時、重くなる弾を撃ってただろ?あれは…」

「あれを教えるのは最後。今は実戦で使えるようになるのが先だ。」

 

今の秀次に鉛弾(レッドバレット)は早すぎる。こんなに早くから使うとあれに頼りきりになってしまう。そう感じた故の決断である。

 

 

「よし、いい時間だし俺はもう行くけどお前も適当にあがれよ。」

「わかった。」

 

黙々と練習を続ける秀次を横目に、浩太はボーダー本部の一階へと向かう。

そこには新しく作られた狙撃手の訓練場があった。開発室の努力の賜物だ。

 

「東さん。遅れてすみません。」

「構わないよ。今も訓練してたところだしね。」

 

そう言ってレイジさんと訓練するのをやめて立ち上がる。

 

「で、今日はなんの用かな?」

「東さん。部隊(チーム)を組む気はありませんか?」

 

 

〇━〇━〇━〇

 

 

練習もそこそこにして、秀次は訓練室から出る。数日練習しただけで、動く的にも命中させられるようになってきた。射撃とは同じように構えて同じように当てる練習だ。それを体になじませるのが大変なのであって、慣れれば問題はない。止まっていようが動いていようが変わらない。

 

秀次が向かった先は個人ランク戦のブースだった。自分の伸び具合を確認するためである。

 

「あ、三輪じゃないか。今からランク戦どうだ?」

 

と秀次は太刀川に話しかけられた。そのためにブースに来たのだ。一も二もなく引き受ける。

 

 

『個人ランク戦、10本勝負。開始』

 

合成音声が鳴り響くとともに、秀次は動き出す。転送位置は遠くもなく近くもない、肉眼で確認できる位置。悪くない。

左手の拳銃からアステロイドを打ち出し、接近する。そのような弾だけで倒せる太刀川ではない。アステロイドを斬り落としながら太刀川がつぶやく。

 

「『旋空』孤月。」

 

孤月専用オプション『旋空』。トリオンを消費して瞬間的にブレードの間合い(リーチ)を拡張するものだ。だがまだ試作型であるため、秀次は自分のところまで届かないと予測していたが、それを上回った。

孤月で受け太刀をしようとするが、旋空にはもう一つ特性がある。振り回されるブレードは先端に行くほど、速度と威力が増すのだ。秀次の孤月は砕け散り、秀次自身の胴体も真っ二つにされた。

 

二本目のステージは河川敷A。橋の上で会敵した。すぐに秀次は接近しながら拳銃を構えアステロイド、ではなく鉛弾(レッドバレット)を打ち出す。それを斬り落とそうとした太刀川の顔が驚愕の色に染まる。

 

「重っっ!なんじゃこれ!」

 

秀次は動揺している太刀川のクビを飛ばし、緊急脱出させる。

 

 

三本目のステージは都会。ビル群の立ち並ぶ運のいいことに秀次は太刀川の位置を確認できるビルの上に転送された。太刀川が秀次に気づいている様子はない。バッグワームを起動しながら考える

これならビルの上から飛び降りて不意打ちするというのが定石だろう。太刀川が自分の真下に来た瞬間飛び出す。とその時太刀川が叫び上を見上げる。

 

「そこか!!」

「…ッ!?」

 

太刀川は秀次の方を見ていないのになぜ気づかれたのか。疑問が解けぬまま太刀川の旋空孤月が飛んでくる。

孤月で受けつつ、拳銃を構え鉛弾を撃ちこむ。

 

「そいつはあまり弾速が出ないようだな。」

 

太刀川は鉛弾をいとも簡単に避けきり、再び旋空孤月を放つ。たまらず秀次は両防御で受け切ろうとするが、もろとも真っ二つにされ緊急脱出した。

 

浩太が言っていたまだ早いとはこのことだったのだ。不幸中の幸いと言うべきか、鉛弾を使った初めての相手が太刀川だった。秀次は拳銃を使いこなせるようになるまでやめておこうと決意する。もし初めての使ったのが太刀川ではなく秀次が勝てる相手だったら?浩太はそれを危惧していたのだった。

 

結果は7-3で秀次の負け。だがまずまずの結果である。

 

『おい、三輪。延長するか?』

「いえ、今日はもう時間もあれなので。」

『わかった。お疲れ。』

 

通信を切ると秀次はブースからでる。太刀川はランク戦を続けるようだ。

着々と力が身についていることを感じながら、秀次は毎日を過ごしていく。

 

 

〇━〇━〇━〇

 

 

第一次近界民侵攻から約1年後。

秀次は浩太に連れられ、東隊の作戦室へ来ている。

 

「どうも東さん。ニノさんと加古さんは?」

「二宮はもうすぐ来ると思うが、加古は師匠のお前が連れてくるものだと思ってたぞ。」

「いや何も聞いてませんし、俺は加古さんにはそんな大層なこと教えてませんよ。」

 

とニコニコしながら浩太は答える。秀次は浩太が自分以外に弟子を持っていたことを聞き、少し驚く。

そんな秀次を一瞥して東さんが口を開く。

 

「で、そこの君が立木の弟子の三輪くんだろ?」

「三輪 秀次です。浩太、なぜ俺をここに?」

「お前には東さんとこの部隊に入ってもらう。それが俺からの最後の命令だよ。たくさん学ぶといい。」

 

秀次はなおさら驚いた。もう師弟関係をやめるというのだ。

 

「俺はまだあんたから学ぶことが…」

「いや、もう教えられることは何もないぜ。あとは実戦経験を積めばいい。そんな辛そうな顔するなよ。別に一生の別れってわけじゃないんだ。聞きたいことがあればいつでも来たらいい。」

 

その時扉が開いた。

 

「あら、師匠じゃないの。」

「師匠って呼ぶのやめてください、加古さん。今じゃあなたの方が強いでしょ。」

 

苦笑しながら浩太は答える。加古 望はシューターでハウンド使いだ。

 

「それはハウンドだけの話よ!10本勝負じゃ私はまだ4本も引けないわ。」

「おい立木、俺ともまたランク戦しろ。」

「ニノさん、あんたからはマジで蜂の巣にされるから嫌だ。」

 

二宮 匡貴も加古と同じシューター。トリオンが多く、六分割アステロイドはシールドこどぶち抜けるほど威力が高い。

 

「はいはい、その辺にして自己紹介をしよう。前にも言ったと思うけど、そこの彼がこれからうちの部隊に入る三輪 秀次くんだ。ポジションは?」

「一応万能手です。よろしくお願いします。」

「私が加古 望。シューターよ。」

「二宮 匡貴。同じくシューターだ。」

 

秀次はこの中では最年少だが、うまくやっていくだろう。

秀次の目から復讐の炎が消えたとはまだ言えないが、それでも大分ましになったほうだろう。

 

「まだまだ強くなれる。」

 

浩太はそう呟くと微笑ましい光景を横目に、作戦室を後にする。上層部の会議に呼ばれているのだ。

 

 

ボーダー本部。会議室。

 

「失礼します。」

「あとは迅だけか。」

 

と城戸司令は呟く。

会議に出席しているのはボーダー創設メンバーの城戸司令、忍田本部長、林藤支部長に加え、鬼怒田 元吉開発室長。そして浩太、迅、風間、冬島の計8人である。

 

「失礼しまーす。遅くなりましたー。」

「遅いぞ!ただでさえ時間が惜しいのだ!!」

「まあまあ、そんなに声を荒げないでよ。」

「よし、それでは会議を始めよう。」

 

今回の議題は近く起こると予測されている近界民の侵攻の話である。

鬼怒田開発室長が開発したゲート誘導システムを軸に作戦を練るのだという。

大まかな作戦は本部の周りに発生させた門を本部側と警戒区域、放棄区域付近からはさみ打ちにするものだ。

 

ただ、ボーダーの総戦力はまだ50人強である。また大半は学生であるために常時まちかまえるのは難しい。後手に回るしかないだろう。また戦力の拡散もあまりよろしくない。

 

そのための鬼怒田開発室長とエンジニアの冬島だ。二人にはトラップを開発してもらい、正隊員の到着まで時間を稼いでもらう。

 

あとするべきことは正隊員のシフト調整、部隊長会議である。

また迅のサイドエフェクトで市街地の住民を見て回り、どこからどう攻めていくのか予想を立てるという。浩太がうとうとし出した頃忍田本部長が会議を締めくくった。

 

「これで今日の会議は終わりだ。各所担当任務をしっかりこなしてくれ。」

 

時刻は夜10時過ぎ。迅と一緒に玉狛へ帰ることにする。

 

 

〇━〇━〇━〇

 

 

上層部会議から約一週間後、それは訪れる。東隊は防衛任務の真っ最中だった。空が陰りだし、ボーダー本部の周りに門が大量に発生する。

 

『門発生、門発生。座標誘導誤差6.93。近隣の皆様はご注意ください。』

 

その頃司令室の忍田本部長も檄を飛ばしていた。

 

「防衛任務中の5部隊はオペレーターの指示に従いながら、トリオン兵の市街地流入を防げ!」

「トリオン兵は本部基地からみて西、南西方向に固まっている模様!」

「西と南西に戦力を集中させる!トリオン兵を市街へ行かせるな。なんとしてでも防げ!」

 

 

基地西部。

 

「東隊、現着した。攻撃を開始する。」

 

秀次は冷静だった。近界民はすべて殺す。そのために自分がいる。東から指示が出る。

 

「トリオン兵の数が多い。連携重視で動け。」

「「「了解」」」

 

東を残して陣取っていたアパートの上から、秀次と加古、二宮が飛び降りる。

 

戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
東さんから命令される二宮。
ここの下にネタバレがありますので、単行本派でネタバレ?ふざけてんのかって人は別ぺージへお飛びください。

















三輪が旧東隊と仲良くしてて嬉しい。
しかも柿崎が元嵐山駅隊でびっくりしてます。
次週も楽しみや。
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