「おはようございます。皆さま」
みんなで決めた起床時間。集まってみたら声の大きい執事。もといフィリップがいました。
「がるるー」
で、ビスマルクの影に隠れて警戒音を発するユー。フィリップはちょっと寂しそうです。……まあ、いいのです。
「…………クラウス様から、キッチンの場所を案内するように指示をたまわっております。
こちらです」
「声はちゃんと抑えられるのだな」
感心したように頷くグラーフ。「一応、時間はわきまえます」
「ほら、ユー。
あんまり警戒しちゃだめだよ」
「き。気を付けます」
フィリップの言葉にユーは頷き、警戒音が止まりました。
ほどなく、キッチンに到着。……さすが、広いですね。
その広いキッチンの中央にあるテーブルには、
「依頼されたものはすべてそろえました。
私は隣室に待機していますので、何かあったら遠慮なく声をかけてください」
「そう? 悪いわね」
マックスの問いにフィリップは首を横に振り、
「私は、ラインヘルツ家に仕える執事です。
皆さまはクラウス様のお客様なら、その助けをするのは当然の職務です」
「「おおー」」
思わず、拍手をするレーベとマックス。「さすがは、執事」と、慄くグラーフ。
「そうですね。声が大きいだけの事はあります」
「それは、……関係ないような」
困ったように呟くプリンツには「まあいいではありませんか」と適当に返事。
まずは一通り見て回っていたビスマルクは、一つ頷きました。そう、あとは旗艦の言葉を待つばかり。
注目を受け、我らが旗艦は重々しく頷いて、
「さて、これから朝食を作るわっ!
レオやウィルもいるのだし、気合入れてる作るわよっ!」
「「「「「「おーっ!」」」」」」
拳を振り上げる旗艦。なんとなく同じことをやってみました。……なんなんでしょうね、このテンション。
「…………ところで、麦酒は?」
「朝っぱらから何飲もうとしているのよ。貴女は?」
手を上げてみたらビスマルクに冷たい目で見られました。休みの日はたまにやるんですけどね。朝食に麦酒。
パンにハム、ソーセージ、サラダにゆで卵、ジャム、バター、チーズ、メープルシロップを添えたパンケーキとフレンチトースト、オムレツ。飲み物はコーヒーとミルク。
ちょっと多い気もしますけど。人も多いですしね。問題ないでしょう。
「ううん、……朝食だとあんまりお料理って感じしないよね」
ずらり、並んだ料理を見てレーベが苦笑。マックスは頷いて「調理しないから、あんまり」
「そうなのよね。……けど、まあ、仕方ないわ」
ビスマルクも苦笑。仕方ないのです。そういうところですから。
「では、配膳しましょう。カートとかは、……フィリップに聞けばいいですね」
「そうだな。では、取って来よう」
グラーフも頷き、二人で隣室へ。戸を叩くと「はい」とフィリップ。
「調理終了したので配膳します。
カートはどこにありますか?」
「それなら私がやります。
皆さまはご休憩ください」
その言葉に、……ふと、閃く事。時計を見る。まだ、早い時間ですね。
「いや、その「わかりました。お願いします」むぐっ?」
グラーフの頭を押さえるように下げさせ、私は告げてキッチンへ。
「フィリップ?」
カートではなく執事を伴ってきた私たちにレーベは首を傾げました。まあ、そうですよね。
「配膳は彼がしてくれるそうです」
「いいの?」
プリンツが首を傾げました。フィリップは「お任せください」と拳を握っています。
「なにか、他にやる事があるのか? シャルン」
不審の視線を向けるグラーフ。私は頷いて親指を立てました。そう、朝にやるべき事といえば、ただ一つ。
「寝顔拝見」
「ふぁー」「わー」
…………よだれ、ちょっと出てますよ?
ウィルの寝顔を見て動かなくなるビスマルクとプリンツ、ほう、と感嘆の吐息をつくグラーフ。……まあ、そっちはいいのです。で、
「ふーん、レオってこんな顔で寝てるんだ」
「えへへ、ちょっとかわいい、かも」
こちらも眠るレオの周囲に集まる女の子。マックスが手をうずうずさせています。
「マックス、どうしたのですか?」
「…………頬っぺた、つついてみたい」
「あ、僕も、……さ、触ったら怒られる、かな」
「どうでしょうね。……寝ているところを起こされたら、不機嫌になるかもしれません」
「あう、……そ、そうだよね」
「気を付けるから、し、慎重にやれば、起こさない。かも」
で、もそもそと、
「ん、ぬくぬく、です」
情け容赦なくレオのベッドに潜り込んだユー。その思い切りの良さに慄くマックスとレーベ。
「ゆ、ユーっ、だ、だめっ!
お、男の子と一緒に寝ちゃだめだよっ!」
小声で怒鳴るという不思議なことをするレーベ。で、
「私も」
「マックスっ!」
もぞもぞとベッドに潜り込むマックス。
「…………うー、……ぼ、僕もっ!」
「入れるんですか?」
もぞもぞとベッドに潜り込むレーベ。
「狭い、レーベ、出てって」
「うーっ、ゆー、落ちそう、です」
「ユー、ちょ、ちょっともうちょっとレオ君から離れて、僕もぎゅってしたいっ」
「やーっ!」
ベッドの中でごそごそしているレーベとマックスとユー、……で、そっちを見て愕然とした表情のグラーフ、なぜか地団駄を踏むビスマルクとプリンツ。
で、
「ちょっとお兄ちゃんっ! いつまで寝てるのっ! さっさと起きてよっ!」
「……義兄、……さ…………ん?」
「あ、み?」
なんとなく楽しそうに突撃するミシェーラと、苦笑して入ってきてそのまま固まるトビー、目を開けるレオ。で、
「って、な、なんでいるんだぁぁぁっ!」
「へえっ? な、なに、なにっ? お兄ちゃんっ? どうしたのっ?」
跳ね上がる絶叫。まあ、仕方ありませんね。
「おはようございます。レオ」
「あ、はい。おはようございます」
「それで、寝心地はいかがですか?」
「い、……いかが、って?」
「女の子と同じベッドでの寝心地は、と聞いているのですよ?」
頬に手を当てて、楚々と、おっとりと聞いてみました。客観的に現状を告げられ、顔を真っ赤にするレオ。で、
「お、に、い、ちゃ、ん?」
ひゅんひゅん、と引っ叩くための素振りを始めるミシェーラ。
「トビー」「御意」
「御意じゃねぇえっ! トビーさんっ! 僕そんな事してないっすよっ!
一緒に遊んでたからわかるでしょっ!」
「なにして遊んでいたのだ?」
にゅっ、とグラーフが顔を出しました。レオは頷いて、
「ターンごとに酒飲みながらウノ」
「何やってるんですか貴方たちは?」
「ああ、最終的にルール無視してテンションだけでカード叩きつけてたよ。義兄さん。
まあ、それはそれで面白いからそのまま流してたけど」
「ええっ? 僕、ちゃんとやってたつもりだったのに」
うなだれるレオ。そして、
「レオ、……おまえは、なんで、そんな事をしていたんだ?」
重い声。グラーフはレオをベッドから引きずり出して、
「レオ、他に、やる事があるだろう」
「え?」
解ってなさそうな男の子ですね。まったく、
「そうですよね。せっかく女の子が待ち望んだ再会です。
男同士で意味不明な遊びに興じるよりも、他にやる事があるでしょう」
重々しく頷くと、レオは溜息。
「そう、だったよね」
「ああ、そうだ。せっかく頑張って選んだ下着を履いてたのに、なんで夜這いに来なかったっ!」
「やるかあぁぁあっ!」
「くっ、……恥ずかしいのを、我慢して買ったのに」
素振りからシャドーボクシングに変わるミシェーラ。
「まあ、というわけだ。義兄さん」
羽交い絞めにして婚約者に義兄を引き渡すトビー。
「ちょ、トビーさんっ?」
「ミシェーラも、本気じゃないよ」
「うそだろっ! 狙ってるしっ! 絶対みぞおちストレート狙ってるしっ!」
「……………………」
「なんかいえよっ!」
淡々とレオをミシェーラの射程距離に引き渡すトビー。けど、
「ま、待ってみしぇーら」
ぎゅっと、ユーがそんなミシェーラを押しとどめました。
「ユーちゃん」
「あ、あの、れおがお休みしているところに入ったの、ゆーたち、です。
れお、暖かそうで、みしぇーらに、ぎゅってしてもらった時みたいに、ぬくぬくしてそうで、だから、……あ、あの、」
急いで言葉を紡ぐユー。レオは無罪が証明されて感涙です。ミシェーラも困ったような表情で拳を引っ込めました。安心です。
ユーは、顔を真っ赤にして、もじもじと口を開きました。
「それに、れおと寝たの、二度目、だから、大丈夫、です」
「ふんっ」「ごぶはっ?」
「…………ん、ん、」
あ、ウィルが目を覚ましたようです。
「あっ、おはよっ、兄さまっ」「おはよう。ウィル」
「ん、……」ウィルは、少し寝ぼけた様な表情、けど、にっこりと笑顔で「おはよう、プリンツ、ビスマルク」
「……はぅ、に、兄さま、可愛すぎますー」
「ウィルーっ」
「わっ!」
堪え切れない、といった感じでウィルに抱き着くプリンツとビスマルク。
「おはようございます。ウィル」
「あ、うん、おはよ。シャルン」
「ずいぶんと可愛らしい寝起きでしたね」
「え? そうかな?」
まあ、わかるわけもありませんね。
「二人とも、」ウィルに仲良くしがみつくビスマルクとプリンツを示して「それが理由でしょう」
「そう、……そんなものなんだ」
よくわからなさそうにウィル。まあ、いいでしょう。
「ともかくおきましょう。もう朝食は出来ていますよ。
はい、眼鏡」
「あ、ありがと。シャルン」
ウィルは眼鏡を装備して、ふと、首を傾げました。
「ところで、何やってるの? レオナルド」
「き、聞かないでください」
心身ともにぐったりしているレオナルドは、床に突っ伏したまま呟きました。
「あら、おはようみんな。
ずいぶんと仲良くなれたみたいですわね。何よりですわ」
嬉しそうに微笑む提督。もっとも、……彼女は苦笑。
「弱冠一名、何やら疲れているようですけど、大丈夫ですの? まだ、朝ですわよ?」
「だ、大丈夫っす」
あれから、一度目もユーが潜り込んでいて、特に何もなかったことを話して何とか誤解が解けました。レオも安心です。
もっとも、誤解が解けるまでの間、レーベとマックスとミシェーラから物理込みの追求と、グラーフから「なんで私のところに来なかったんだ」と、何か危なさそうな追及を受けて心身ともに疲弊しましたが。
ともかく、これでみんな揃いましたね。では、
みんなが席に座る。ややぐったりしたレオナルドはレーベとマックスに支えられて、ミシェラーの隣にはトビー。私は提督の隣に腰を下ろして、……では、
「いただきます」
そんな声が重なった。
「今日は、みんなでHLを見て回るのだね?」
朝食をとりながら、クラウスの言葉に私たちは頷きました。楽しみです。
「ええ、その予定よ」
パンを食べながらビスマルク。クラウスは「そうか」と頷いて、
「不本意かもしれないが、あまりみんなで一緒に行動をしない方がいい。
悪目立ちしてしまうからね」
「そうですね。…………それで、酒飲みながらウノしてたお二人。
何か妙案は?」
「まあ、とりあえずそれぞれで見て回ろうか。
ええと、ビスマルクさんたちも、ミシェーラたちもHLに慣れてないだろうし、慣れている人と一緒に、ってなるけど」
「……それだけど、俺とクラウスはギルベルトさんと話があるんだ。残念だけど、同道出来ない」
「そうですか?」
「代わりに、KK達を呼んだから、そっちに任せるよ」
「すまない」
丁寧に頭を下げるクラウス。ビスマルクは少し驚いた表情。
「いいのよ。どっちかといえば驚いたわ。
そこまで気を使ってくれなくてもいいのに」
「なに、少年の友達だしね。俺たちにとっても身内みたいなものだよ。
もちろん、ミシェーラたちもね」
にっ、と笑ってスティーブン。もちろん、他意のある言葉なのは解っていますが、そういってもらえるのは嬉しいですね。
「そうそう、私も同道出来ませんわ。
その話に私も参加したい、ので」
おや?
「では、私も一緒にいた方がいいですか?」
一応、秘書艦ですからね。HLを見て回れないのは残念ですが、職務をないがしろにはできません。
問いに、提督は首を横に振りました。
「貴女たちはHLを見て回りなさいな。
それが後に必要なことですのよ?」
「了解しました」
では、
「問題は、誰が誰と行くかですね?
ビスマルク、私と二人きりでデートしますか?」
「冗談じゃないわ」
そうでしょうね。期待していませんよ。
「案内には何人派遣してくださいますの?」
「ザップとツェッド、KKとチェインには声をかけたよ。
みんな、ミシェーラとも顔見知りだから都合いいしね」
ライブラのメンバー、ですか。……ただ、驚きではありますね。
ヒマ、とは思えないのですが。まあ、必要なのでしょう。
「あっ、また皆さんと会えるんですねっ」
「ああ、特にKKなんかは楽しみにしてたよ」
「はい、スティーブンさん」
不意に手を上げるレオ。彼は真面目に頭を下げて、
「ザップさんはせめて、せめてツェッドさんと一緒にしてください」
「解ってるよ少年。……まあ、ええと、ミシェーラ。
悪いけど、トビーと、あと、ザップとツェッドと見て回ってくれないか?」
「はい、わかりました」「わかったよ」
「いいのかね? レオナルド君と、ではなくて」
素直に頷いたことが意外なのか、クラウスが困ったように問いかけ、ミシェーラは微笑。
「今夜、お話しするみたいだから。
それに、……せっかくなら、好きな人と、ね?」
「……う」「み、ミシェーラ」
顔を赤くするレーベとマックス。で、したり顔のミシェーラ。
「はいっ、じゃあ、プリンツは兄さまと一緒ですっ!」
「私も当然、ウィルと一緒よっ! 絶対に譲れないわっ!」
「朝食の席でいきなり立ちあがらないでください」
ばばっ! と、そんな感じの二人にジト目。二人は座り直しました。
さて、どうなる事やら。……まあ、誰と行くにせよ。楽しそうなのは変わりませんけどね。