艦娘がHLに遊びに来ましたっ!   作:林屋まつり

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十二話(幕間)

「それじゃあ、行こうか」

 ウィリアムはクラウスの私邸を出る。同行するのはビスマルク、プリンツ。

「二人は、行きたい場所とかある?」

 問いに、プリンツとビスマルクは顔を見合わせる。

 行きたい場所。……一つ、決めていたことがある。

「ねえ、ウィル。

 その、あればいいんだけど、いいかしら?」

「ん、いいよ?」

 気楽に問うウィリアムに、ビスマルクは一息。

「ウィルの、妹の、……その、思い出の場所とか、ある?」

 問いに、ウィリアムは動きを止める。…………けど、

 二人がそこに行きたいという意味。誤解かもしれない。それでも、自分の思いを信じてみよう、そう思い口を開く。

「セントアラニアド中央病院内廃墓地」

 困ったように微笑む。二人が頷いたのを見て、思い浮かべるのはHLの地図。

 昼食をアーティのレストランとすると。

「行こうか。……けど、うーん。ちょっと遠いかな」

 移動だけで終わるのも忍びないし、……途中、彼女たちが喜びそうな場所。 

「途中で服とか見に行こうか。プリンツ、興味あるよね?」

「もちろんですっ! やったあっ」

 嬉しそうに拳を振り上げるプリンツ。彼女の頭に乗るソニックも真似して拳を振り上げる。

 もともと、ファッションには興味があった。何より、

「兄さまに似合う服、あるかなー?」

「僕っ?」

「あの、ウィル」

 つん、とビスマルクはウィリアムをつつく。

「ん?」

「あの、……わ、私に似合いそうな服、見てもらっていい、かしら?」

「…………ええと、僕、そういうの苦手なんだけど」

 もちろん、それはビスマルクも知っている。けど、…………ウィリアムは微笑。

「ま、期待しないでね。……かんっ、ぜんに僕の好みで選ぶから。

 ビスマルク、がっかりするかもしれないけどね」

 意地悪く言うウィリアムにビスマルクは胸を張る。

「何を言っているのかしら?

 ウィルが選んでくれた服なら、どんなものであっても着こなして見せるわっ」

「あ、あれ?」

 予想していなかった反応に首を傾げるウィリアム。プリンツは親指を立てて、

「ちょっとえっちなのも問題なし、ですよねっ! 姉さまっ?」

「…………う、ウィルが、喜んでくれるならっ! どんと来なさいっ!」

「い、いいよっ! そんなの選ばないよっ!」

 顔を赤くしながら胸を張るビスマルクにウィリアムは大慌てで首を横に振る。と、声。

「あっれ~? あの悪魔の入れ物じゃん~

 っていうか~、なんであんたまだそんなところにいるの~?」 

 間延びした声。入れ物? と、首を傾げるビスマルクとプリンツの、視線の先。

 顔の上半分を覆う仮面をつけた少女。

「偏執王っ?」

「ん~?」

 13王の一角、偏執王、アリギュラ。第二次大崩落を引き起こした絶望王や、HLでも稀代の怪人とうたわれる堕落王と肩を並べる超常の存在。

 なんでそんな物騒な存在がこんなところにいるのか。……ただの散策中だったのかもしれない。

 彼女はウィリアムに視線を向けて、ビスマルクとプリンツを見て、

「あっれ~?

 なになに? 君、大人しそうな顔してさ~、女の子二人一緒に手ぇ出したの~? なかなかやるじゃな~い」

 にやにやと笑いながらウィリアムを肘でつつく。

 アリギュラは神の御業とさえ称される技術を持つが、その中身は徹頭徹尾、子供。彼女の意外な言動に、ウィリアムは恐る恐る口を開く。

「い、いや、手を出したって事はない、けど」

「ああっ? 何言ってんのよ~

 女の子二人はべらせてぇ~」

 侍らせて、と、その言葉に顔を赤くして「そういうんじゃないよ」と小さな声。……どこぞで見た事のある反応に、アリギュラは口をへの字に曲げる。

「なに~、あんたもさ~、あの、義眼のガキみたいにコイバナできないって口~?」

「え、ええと、……に、苦手だけど」

「ふんっ」「あだっ?」

 べしっ、と。打撃。

「あんたも、つっまんない男ねぇ~」ぐりん、とアリギュラは固まるビスマルクとプリンツに視線を向け「で~、そっちはあ~? こいつの恋人なわけ~」

「はいっ、その通りですっ!」

 びしっ、とプリンツはサムズアップ。とりあえずソニックも続く。そして、

「おお~いいねえ~、いいねぇ~

 こういう朴念仁にはぁ~」

 ぶんっ、とアリギュラはストレート。

「攻めてぇ~」

 ぶんっ、とアリギュラはハイキック。

「攻めてぇ~」

 そして、

「攻めまくらなくちゃだめなのよねぇ~」

 ぶんぶんと駄々っ子パンチを繰り出すアリギュラ。

 ウィリアムはリアクションが解らず硬直。けど、

「そうですよねっ!」

 プリンツはアリギュラの手を取る。その瞳はきらきらしている。

「兄さまっ、素敵ですけどちょっと、……ええと、草食系? なんですっ!

 だから、こっちから攻めないとだめですよねっ!」

「そういう事よ~

 解ってくれて、嬉しいわあ~」

 手を取り合うプリンツとアリギュラ。……とりあえず、超危険人物の登場も問題なさそうなので放置。

「それで、先生、……いえ、師匠っ!

 ぐ、具体的にはどうやって攻めたらいいですかっ?」

「師匠っ?」

 偏執王相手にそれはまずい。じとり、と嫌な汗をかくウィリアム。けど、よくぞ聞いてくれた、とアリギュラは重々しく頷く。

「まずはぁ~、何はともあれ~、一緒に寝なさいよぉ~」

「ほひっ? え? えええっ? い、一緒にって、に、兄さまとっ?」

 一転、顔を真っ赤にするプリンツ。けど、

「ふ、ふふ、ふふふふ」

 不敵な笑い声。

「私は、もうウィルと、寝たわっ!」

「へあっ?」

 プリンツの声が跳ねた。恐る恐る視線を向ければ、そこには胸を張るビスマルク。

「ふふん、悪いけど、プリンツっ!

 たとえあなたが相手でも、負けないわよっ!」

「ビスマルク姉さまっ?」

 敬愛する姉からの宣戦布告にプリンツは愕然とした表情。アリギュラは満足そうに頷く。

「そうよ~、妥協なんてしちゃだめ~」

「うぬぬ、……恋は、戦争ですねっ!」

「妥協をした瞬間、負けよ~」

 アリギュラは頷く。そして三人並んで「「「攻めてぇ~、攻めてぇ~」」」と、合唱。拳を振り上げる。

「…………親友、僕は、どうすればいいんだろう?」

 仲良く三人並んだ後姿を見て、ぽつり、ウィリアムは呟く。プリンツの頭の上で振り返ったソニックが首を横に振った。

 

 どうも、どこぞに用事があって向かう途中だったらしい。

「それじゃあ~、私はぼちぼち行くわ~」

「はいっ、ご指導ご鞭撻、ありがとうございましたっ!」

「ええ、いろいろ参考になったわ。

 貴女の教え、無駄にしないわっ!」

 手を握るアリギュラとプリンツ、ビスマルク。…………その光景を見てウィリアムは軽く頭を抱えた。

 偏執王と仲良く、……は、いい。

 問題は、その教えとやらがやたらと攻撃的だったこと。

 入浴中に突撃されたらどうしようか、真剣に悩むウィリアム。で、小さくなるアリギュラの背中に惜しみなく手を振るビスマルクとプリンツ。

「さてっ、それじゃあ早速行きましょうっ、ウィルっ」

「次はどこに行くんですかっ? 兄さまっ」

「って、いきなり腕を組むのっ?」

「も、もう、…………その、す、好きな人とは、こうしていたいのよっ!」

「兄さま、いや、ですか?」

「…………い、嫌じゃないけど」

 嫌ではないけど、気になる。腕に押し当てられる、女性らしい体は。

 けど、

「さすがに、歩けないよ」

 現実的に無理だった。むぅ、と頬を膨らませるプリンツとビスマルク。

 不満そうに離れる。確かに歩けない。けど、触れ合っていたいのだから。

 そんなむくれる彼女たち、ウィリアムは困ったような表情で撫でてみる。

「あ」「ふぁあ」

 猫のように目を細め、心地よさそうに身を委ねるプリンツと、

「あ、ごめん」

 顔を真っ赤にして小さくなるビスマルク。プリンツはいいとして、ビスマルクはさすがに子供扱いしすぎたかな、とウィリアムは手を放そうとして「だ、だめっ」

 放そうとした手を掴まれた。

「なんで止めちゃうのよ?

 い、いやだった?」

「そういうわけじゃないよ。けど、ビスマルクは嫌じゃないの? こういうの」

「い、いやなわけじゃないじゃないっ!

 ウィルがよければ、も、もっとなでなでしてもいいのよっ!」

「プリンツもお願いしますっ!

 兄さまになでなでしてもらうの、すっごく心地いいです」

「……そ、そうなんだ」

 よくわからないなあ、とは思うけど。

 まあいいか、と、心地よさそうなプリンツと、顔を赤くして小さくなるビスマルクをしばらく撫でてみた。

 

「ウィルはよく来るの?」

 服飾専門の、それなりに大きな店。入店するウィリアムにビスマルクは問いかける。対してウィリアムは苦笑。

「あんまり、僕、そんなにこだわらなかったからなあ」

「もうっ、もったいないですっ!

 兄さま、すっごく格好いいのにっ!」

「あはは、ありがと」

 格好いい、と言われて困ったように微笑むウィリアム。

「それじゃあ、まずはウィルに似合いそうな服を選びましょうっ!」

「はいっ」

 きらきらと宣言する二人。ウィリアムは、まあいいか、と彼女たちと歩き出す。

 選ぶより、選ばれた方が楽だし、と思ったところで、

「なんで女性服の方に行くのっ!」

 迷い一つなく女性服売り場に突貫したビスマルクとプリンツ、ウィリアムは引きずられながら精一杯の抵抗。それなりに必死な彼にビスマルクは振り返って、

「だ、だってっ、ウィルの寝顔、すっごく可愛かったのよっ!

 これはもう、女の子でもいいじゃないっ!」

「よくないよっ?」

「…………そういえば兄さま」

「ん?」

「眼鏡、外しても大丈夫ですか?」

「ん、……ああ、大丈夫だよ。

 ちょっとぼやけるけどね」

 もともと、視力矯正のための眼鏡。不便はあっても支障が出るほどではない。

 故に頷き、眼鏡をはずしてみる。

「んー、……兄さま、眼鏡外した方が子供っぽく見えますね」

「え? そうかな?」

「私はこっちの方がいいと思うわ。可愛いもの」

「えー?」

 可愛い、と言われて難しい表情。けど、プリンツは首を傾げて、

「眼鏡があった方が、知的で素敵だと思います」

「…………知的?」

 眼鏡ってそういうイメージでもあるのかな、とウィリアム。

 けど、

「ない方がいいわっ」「ある方が素敵ですっ」

「えーと、ビスマルク? プリンツ?」

 ウィリアムのよくわからない次元で睨みあう二人。……………………それで、

 

「きゃーっ! 兄さま素敵ですーっ!」

「くっ、……か、格好いいわ」

 両手を挙げるプリンツと、慄くビスマルク。

「……あはは、ありがと」

 というわけで、メガネをかけたウィリアムはプリンツの言う、知的な、服を着てみたり、

「……き、期待以上よ。……ちょ、ちょっとそのまま、記念撮影をっ!」

「か、……可愛いっ! 兄さまっ! 私、新しい境地が開けそうですっ!」

「えーと?」

 気が付いたらプリンツとビスマルクが持ってきた服を着て回るウィリアム。なんか変だな、と思った時にはすでに遅い。

「兄さまっ! 次はこれをお願いしますっ!」「ウィルっ! これなんて絶対に似合うわよっ!」

「メイド服とか着ないよっ! ゴスロリもだめだってっ!」

 そして、女性服を持ってきた二人には、断固として否を唱えた。

「では、執事服をっ!」

「っていうか、なんでそんなコスプレ衣装がそろってるのこの店っ?」

 普通の服屋に入った。なのにどうしてこうなった? 頭を抱えるウィリアムに、ビスマルクはサムズアップ。

「ここは、超常の都市、HL。

 どう見ても普通の服屋に、コスプレが売っていることもあるわ」

「それでなんでもありにしないでよっ?

 っていうか、ほら、僕は終わりっ! 二人のを選ぶ時間なくなっちゃうよっ」

 ぐいぐい押し込むウィリアム。ビスマルクとプリンツは顔を見合わせて、

「むう、それもそうね。…………次はチャイナ服と思ってたのに」

「うー、……けど、兄さまに服選んでほしいです。

 仕方ないです。着物はまたの機会にします」

「男に何を着せようとしたの?」

 どう考えても女性向けのコスプレをさせようとした二人に、ウィリアムは思わず頭を抱えた。

 ともかく、ここにいては危険だと二人の手を取って歩き出す。女性服の売り場を探しながら、

「ええと、……どうしようか? 一緒に見て回って、二人が気に入ったのを僕も一緒に見て、……でいい?

 さすがに僕も全部は見切れないし」

 どうせなら、二人も気に入った服を着て欲しい。

「そうね、それでいいわ」

「プリンツも賛成ですっ!

 やっぱり、兄さまとは長く一緒にいたいですっ」

 頷くビスマルクと抱き着くプリンツ。…………ふと、

「それじゃあ、早速さっき言ったの、着てみようか?」

 少し、意地悪く言ってみた。

 

 異界の住人。……といっても、その存在は決して理性のない、凶暴な化け物ばかりではない。

 人とは異なる感性を持つ者も多いが、極端に外れた者は少数。そして、異界の住人も人界に合わせた技術を学ぶものも多い。もちろん、逆もしかりだが。

 大崩落の被害については許容できないが、それでも、こうした平穏な交流、双方の進展は好ましい、とウィリアムは素直に思う。ソニックを頭の上にのせて、ウィリアムは漠然とそんな事を考える。現実逃避、ではない。

 で、

「ど、……どうですか、兄さま?」

 いくつかの腕に櫛やら、装飾品が入ったケース。化粧やらを持つ異界から来たらしい店員のスタイリングが終わり、プリンツは、少しの緊張と期待を込めて問いかける。

「……あ、う、…………うん、えと、」

 言葉に詰まる。店員はひょろひょろと腕を動かして、

「お客様は非常にスタイルがよろしくて、少し崩させていただきました。

 ですが、これはこれでお似合いだと思います」

 言葉通り。襟元は少し開き気味で、

「し、……下着を見せるのは、さすがにそれを、超えてると思う、よ?」

 開き気味の胸元には黒いレース。

「いえ、これは人界のファッションの一つ。

 見せるための、下着、です」

 ひょろひょろと腕を動かしながら胸を張る店員。ファッションに疎いウィリアムは驚愕の表情。

「まさか、……人界にそんなものがあっただなんて」

「私も、初めて見た時は驚きました」

 愕然としたウィリアムに、優しい微笑を浮かべる店員。で、

「えーと、兄さま。

 に、似合いますか?」

 プリンツは期待と不安の混じった表情。

 上目遣いの彼女に、ウィリアムは顔を赤くして、視線をそむける。

「う、……うん、可愛い、よ」

 照れたように紡がれた言葉。けど、それを聞ければ、

「えへへ、……兄さまにそう言ってもらえるの、嬉しい、です」

 プリンツは嬉しそうに微笑む。大好きな人に可愛いって言ってもらえたこと、とても、嬉しい。

 お互い、頬を染めて沈黙。…………そして、その沈黙を破る声。

「さあっ! お、終わったわよっ! ウィルっ!」

 しゃっ、と。カーテンが開く。大きく開いた胸元、腰にまで入ったスリット、つまり、

「って、何そのえろチャイナっ?」

「ビスマルク姉さまっ、それは、大胆すぎますっ!」

「わ、私だって恥ずかしいわよっ!」

 可愛いや綺麗という形容を突き抜けてどん引きするプリンツとウィリアムに、ビスマルクは顔を真っ赤にして怒鳴った。

 

 気に入った服を買えた。ウィリアムも綺麗だって言ってもらえた。

 けど、何より、……ビスマルクは傍らを歩くウィリアムと、彼を挟んで向こう側にいるプリンツに視線を向ける。

 この二人と一緒にいられたことが、とても、とても楽しかった。

「ん?」

 ウィリアムが視線を向ける。……そこで初めて、ビスマルクはウィリアムをじっと見ていたことを自覚する。

 どうしたの? と、首を傾げるウィリアムに、ビスマルクは微笑。

「楽しいわ。……って、そんな事を思ったのよ。

 ウィルと、プリンツと、……私の、大切で大好きな二人と、いる事が出来て、ね」

 柔らかい微笑と幸せそうな言葉。

 ウィリアムは、微笑み。

「そうだね。僕も、二人と一緒にいる事が出来て嬉しいよ」

 …………けど、もし、願っていいのなら。

 

 セントアラニアド中央病院内廃墓地。

 

 廃墓地。……すでに使われていない墓地。けど、一つだけ、真新しい十字架がある。

 彼女が好きだったこの場所に作られた、彼女がいた証。

「ホワイト」

 ウィリアムはそこに花を手向ける。彼女の、……自分の半身の名を呼ぶ。

 ここに来る事、希望したのはビスマルクとプリンツ。けど、

 メアリ・マクベス。

 二人と一緒に来た。だから、手向けの花を置いて、一息。

「君が守ってくれた世界で、……僕はまだ生きてるよ。この世界も、壊れてない。君が守ってくれた世界は、まだ、賑やかに続いてるよ。

 そして、」

 振り返る。微笑。

「僕には、大切な人が出来た。…………だから、ありがとう。メアリ」

 丁寧に言葉を紡ぐ。そして、彼の傍らにいるビスマルクとプリンツは、それぞれの思いを紡ぐ。

 会ったこともない。彼女。けど、この世界と大切な人を守ってくれた彼女に伝えたかった事。

「ええ、……貴女の兄は、ウィルは私たちがついているわ。

 だから、安心しなさい。そして、」

「絶対に、兄さまを絶望させたりなんてさせません。

 兄さまは、貴女が守ってくれたものは、ちゃんと守って見せます。だから、」

 

 大切な人を、この世界を守ってくれて、ありがとう。

 

「変なやつら」

 二人の言葉に、声。

 ビスマルクとプリンツは、反射的に視線を向ける。ビスマルクは身構え、プリンツは頭の上にいるソニックを抱きかかえる。

 そこにいるのはウィリアム。……けど、わかる。忘れるわけがない。その、異常な存在感。

「悪魔」

「墓場だ。静かにしろよ」

 静かな声。彼の、深紅の瞳は真っ直ぐにメアリの墓標に向けられている。

「なあ、小娘ども。

 お前らは本気で、この世界に守る価値がある、とでも思ってるのか?」

「貴方は、そんなこと思ってないのね?」

 問いに、彼は墓標を見つめたまま、笑みを浮かべる。

「オレの名前、知ってんだろ? なら、それが答えだ」

 絶望王。その名を持つ者が、世界に守る価値を見出しているとは思えない。

 壊そうとする、のだろう。

 だから、

「ええ、もちろんよ」

 ビスマルクは真っ直ぐに、絶望の名を持つ悪魔を見て応じる。

 この世界を守る価値。それは、

「大切な人がいるのよ。

 それだけで、守るには十分な価値ね」

 ビスマルクの言葉に、彼は、嗤った。

「そうだな。ああ、そうだ」

「え?」

 頷いた彼に、意外そうな声を上げるプリンツ。彼は胡散臭そうに深紅の瞳を向ける。

「なんだよ?」

「いや、……私も同じですけど、頷かれるとは思わなかったです」

「はっ、オレだって同感だよ。

 この世界にはオレの敵がいるんだ。……それだけで、ぶち壊すには十分だろ」

「敵?」

 悪魔、絶望王の敵。

「ああ、決まってんだろ。

 あのトータスナイトだよ」

「レオ、ね」

 彼の事、友人と思っている。だから、二人は警戒の表情。対して、彼は肩をすくめる。

「別に、いまどうこうするつもりはねぇよ。

 第一、言っただろ。ここは墓場だ。静かにしてろ。死者の平穏を妨げるものじゃねぇだろ」

 くつくつ、と彼は嗤う。

「あいつほどじゃねぇけどな。小娘どもも、オレの敵だ。

 相対するときは精々よろしくな」

「その時は来ないわ。

 絶望に飲まれるのは、あなた一人よ。誰も絶望させない、大切な人がいるこの世界は、壊させないわ」

 ビスマルクの言葉にプリンツは頷く。彼は眼を細めて、墓標に視線を向ける。

「お前らみたいなやつがいるから、世界は壊れないんだな。……そして、オレも消えることは、ない。

 ああ、……そうだな。…………それでこそだ。精々巧くやれよ。小娘。オレの敵にふさわしくなれるように、な」

 

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