艦娘がHLに遊びに来ましたっ!   作:林屋まつり

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十三話(幕間)

「まあ、HLなんていってもどこもかしこもやばい場所じゃないよ。

 路地裏一本入ったら危険なところってのはごろごろしてるけどね。けど、そういうところはいかなくていいよね?」

「うん、あんまり危ないところには近寄りたくないなあ」

 レーベたちは戦闘に来たのではない。

 軍人としての能力は少しずつ周りにも認められてはいるが、それでも、基地などの軍事施設しか知らない彼女たちには見聞を広めて経験を積むことが必要、と。

 そのためにここに来た。……もっとも、いくつかの御節介なども見え隠れするが。

 それに、

「うん、……せっかく、レオ君と、デ、デート、なのに、厄介事はない方がいいよね」

「……え、そういう認識だったの?」

 観光と思っていた矢先の言葉にきょとんとするレオナルド。マックスは重々しく頷く。

「私、頑張る」

「何を?」

 むんっ、と拳を握るマックスに問いかける。問われて、マックスはするり、と。

「こういう事」

「うぇっ?」

「す、すきんしっぷ、がんばる」

「そっち方向のスキンシップは、あんまり頑張らなくていいようなあ」

 押し付けられるマックスの体にレオナルドは顔を赤くする。で、

「ぼ、僕もっ」

「いやいや、歩けないって」

 もう片側から抱き着こうとするレーベを制し、マックスも放す。むくれる二人。

「うー、……じゃ、じゃあ、せめて、手をつないでよ」

「私も、そのくらいは甘えさせて」

「…………はい」

 二人の気持ちは聞いている。まだ、どう応えていいかわからないけど。

 だから、せめて出来る事は聞いてあげたい。頷くレオナルドにマックスとレーベは彼の手を握り、指を絡ませる。

「えへへ、……レオ君の手、暖かいね」

「そ、そうかな」

 無邪気に笑うレーベにレオナルドは応じる。それよりは、

「小さいんだね」

「え?」「ん?」

「あ、……いや、ごめん。

 二人の手、思ってた以上に小さくて、ちょっと驚いた」

「私も、レーベもまだ、……その、若いから」

 軍人として、その評価はあまりうれしくない。けど、客観的に見れば自分たちは子供といえる年齢。

 軍属である以上、訓練ではそれが理由で手を抜かれる事はないが、それ以外の場ではたまに子供扱いされる。

 それは、……あまり嬉しい事ではないけど。

「それでも、軍属として戦うんだね」

 少し困ったような問い。レーベとマックスは頷く。

「もちろんだよ。

 だって、レオ君たちがいる世界を、僕だって護りたいよ。喪いたく、ない」

「そのために進み続ける事。

 私たちは大好きな騎士様に学んだ事よ。ね? トータスナイト」

「…………騎士様ってのはやめて欲しいな」

 トータスナイトには慣れた。というか諦めた。けど、騎士様は別の意味でこそばゆい。

 視線を背けて小さな声で告げるレオナルドに、二人は微笑。

「で、二人はどこか行きたい場所はある?」

「レオの私室」

「却下」

「むぅ」

 マックスの提案は即座に却下。膨れるマックス。

「どこかに行きたいというか、僕、こうやってレオ君とマックスと、HLを歩いていたいな。

 あ、公園とかあればそこでのんびりするのもいいけど」

「そう? ……じゃあ、そうしようか」

 確かに、それだけでも目新しいものはいくらでもある。

 霧の向こうから現れた、荷台を引く四足歩行の巨大な異界の住人に目を見開くレーベとマックスを見て、それもいいかな、とレオナルドは頷く。

 目的地をアーティのレストランにしてその経路を思い浮かべる。真っ直ぐ向かっては到着には早すぎる。けど、

 ちょっと道を逸れればレーベの希望通り、公園はある。近くにはダイアンズダイナーもある。

「そうだね。ちょっと遠回りになるけど、僕がよくいってた喫茶店があるんだ。

 そこでお菓子とか珈琲買って、近くの公園で食べる?」

「うんっ」「賛成」

 頷くレーベとマックス。けど、……レオナルドは悪戯っぽく笑って、

「けど、お昼は美味しいところで奢りだから、食べ過ぎちゃだめだぜ?」

 にや、笑うレオナルドにマックスは小さく笑って頷く。けど、

「うー」

「どうしたの? レーベ」

「やっぱり、レオ君楽しそう」

「仕方ないわよ。レーベ。

 男には男同士の友情? とか、なんかそんなのもあるわ。ほら、グラーフが持ってたジャパニメーション、とか」

「そんなんじゃねぇーっ!」

 極彩色のきらきらした表紙を思い出して叫ぶレオナルド。絶対にお断りだ。

「れ、レオ君っ、そういうのはだめだよっ!

 レオ君は男の子なんだから、ちゃ、ちゃんと、女の子と、……あの、その、」

「そう、だから相手は私。レーベも男の子だし」

「僕は女の子っ!」

 胸を張るマックスに怒鳴るレーベ。彼女は、きっ、とレオナルドを見据えて、

「僕は女の子だからねっ!

 レオ君は見てくれたからわかるよねっ!」

「うぇっ?」

 顔を赤くして見据えるレーベ。……そして、思い出す。

 あの夜、寝間着を脱いで、肌を「…………あ、あのー、マックス?」

 じと、とした眼で睨むマックス。

「それ、どういう意味?

 私と一緒にお風呂に入っただけじゃ、足りないの?」

「……そっちこそ、どういう意味?」

 レーベからも胡散臭そうな視線を向けられ、レオナルドはおろおろする。マックスは重々しく口を開く。

「レオのえっち」

「濡れ衣だっ!」

 あんまりな言葉に叫ぶレオナルド。けど、じと、とした視線を二人から向けられたへこんだ。

「なんか、……すんません」

 ぷっ、と音。

「く、ふふ、……ううん、ごめんね。レオ君。

 けど、なんかそういうところ、可愛いかも」

「男に言う言葉じゃないよなそれ」

「う、……ううん。

 けど、…………うん、僕、レオ君のそういうところも好きだな」

「え?」

 楽しそうに笑いながら告げられた言葉。思わず問い返したレオナルドに、レーベは悪戯っぽく微笑む。

「突っ込みは禁止。

 レオ君、ちょっと鈍感だよ」

「あ、ごめんなさい」

 平謝りするレオナルドに、レーベはもう一度小さく笑いかけた。

 

「ここ、僕がよく通ってた喫茶店」

 ダイアンズダイナーの扉をくぐる。からん、と音。

 喫茶店。ただ、流石HL。席に着く者たちには人と異なる者。異界の存在も多い。

 けど、

「こうしてみると、やっぱり不思議」

「ん? ああ、そうかもね」

 その、異形の存在と、人が同じ卓に座る。隣り合う椅子に肩を並べて座り、食事をとり珈琲を飲み言葉を交わす。

 HLでは当たり前の光景かもしれない。けど、ここに来たばかりの二人にとって、この光景はとても不思議で、

「いい事、と思うわ」

「まあ、そうだね。」不意に、レオナルドはカウンターに視線を向け「あ、ビビアンさん」

 声をかけた先、固まる女性店員。

「…………え? レオ?」

「な、なんで疑問形なんっすかっ? なじみのお客さんでしょっ?」

「ま、……マジか。

 そんな、いつも一人寂しく珈琲すすってたレオが、こんな可愛らしい娘さん連れてくるなんて? ……え? ほんと? まさか、幻覚?

 なんだ、ついにあたしまで異界の霧にやられちまったか?」

「なんか、すげー失礼な事言ってません?」

 わなわなと頬に手を当てて青い顔で震えるビビアンに、レオナルドは胡散臭そうに呟く。

「そっか、……ここだったんだ。レオ君が珈琲だけでお腹膨らませてたところ」

 しみじみと呟くレーベ。「もうそれ止めてくれ」と、レオナルド。

「マジかよ。あの哀愁漂ってた子供が、女の子を連れてくるなんて」

「しかも二人、……すげぇな」

「時代は変わるものだなあ」

「あんな小さな女の子に手を出すとは、やるな若造」

 こそこそと声が聞こえてきた。レオナルドは振り返る。そこにいた客は淡々とサムズアップ。

「とりあえず、胴上げをしよう」

 マスターのダイアンが重々しく言う。客がのろのろと立ち上がった。

「へ? え? ちょっと、なんですかそれ?

 なんで友達となじみの店に来たら胴上げされるんですか?」

「お前はまだ、HLに慣れてないな」

「初めて聞いたよそんな奇習っ!」

 淡々と応じるダイアンに怒鳴るレオナルド。ともかく、誰も口を開かない、沈黙の胴上げ。

 淡々と胴上げをこなし、客は席に戻る。レオナルドはぽつりとつぶやいた。

「…………僕、どう反応すればいいんだ?」

 もちろん、レーベとマックスに答えることは出来なかった。

 

「ま、あれだ。

 なんにせよ、友達は多いに越したことはないしな」

 正気を取り戻したビビアンはけらけら笑って珈琲を用意。「ありがとうございます」とレーベ。

「にしてもほんと驚いたよ。 

 いやー、よかったじゃないか、レオ」

 ばしばしと肩を叩くビビアン。「いてぇえっす」と、レオナルド。

「二人もさ、友達か恋人か知らないけど、ちゃんと見てやりなよー

 こいつ、お代わり自由の珈琲ばっかり飲んで腹膨らませようとしてたバカなんだから」

「それ、客にいう事じゃないですよね?」

 バカ呼ばわりされて不服そうなレオナルドは唇を尖らせる。けど、「当たり前。レオはもっと自分の事をちゃんとしないとだめ」

 けらけら笑うビビアンにマックスは頷く。

「はい、気を付けます」

 じと、と見据えられてレオナルドは小さくなった。

「やっぱ嫁さんとかいるとしっかりするものね。

 この甲斐性なし頼んだよ」

「ん、任せて」

「うんっ、僕、レオ君が変な事しないようにちゃんと見てるねっ」

 力強く頷く二人を見て、ビビアンは少し、引きつった笑み。

「……けど、いきなり二股かあ。

 思ったよりやるじゃないか、レオ~?」

「…………い、いや、そういうわけじゃあ」

 半眼を向けられてそっぽを向くレオナルド。で、

「いやあ、若いうちは遊んだほうがええ、いろいろやった方がええ」

「大丈夫、刺されても大丈夫。ここの医療機関は優秀じゃ」

「ここはHL、お嫁さんが二人でもいいんじゃねぇのか」

「うるさいぞそこっ!」

 四人掛けの卓でこそこそ語り合う異界の住人と現世の住人に指さし怒鳴る。

 そんな光景にマックスは楽しそうに笑って、

「けど、残念。

 私たち、明日までの一時的な滞在なの。ずっとレオの傍にいれればよかったのだけど」

「ありゃ、そうなのかい?

 そりゃあ残念だ」

「愛しい彼にここまで会いに来たとはあ、やるじゃねぇか若いのっ!」

 マックスの言葉に苦笑するビビアンと、囃す声。マックスはそちらに視線を向けて、拳を握る。

「だから、私は頑張る」

「頑張れーっ!」「負けるなーっ!」「遠距離恋愛も結構いけるわよーっ!」

 なぜか鳴り響く歓声にマックスは頷く。そして、

「まずは、恋敵に勝つっ!」

「僕だって負けないよっ!」

 びしっ、と指を突きつけられて、レーベは怒鳴り返す。と、

「レオく~ん」

「あ、ネジっ」

 ぽてぽてとハンバーガーが三つ乗ったトレイをもって駆け寄って来るネジ。彼はレオナルドの手を握って、

「おめでとう~」

「ああ、……ありがと」

 いろいろ言いたい事はあるが、とりあえず好意と受け取り応じる。

「レオ君の友達?」

「うん~、キノコ状で小太りしもの。アマグラナフ・ルォーゾンタム・ウーヴ・リ・ネジだよ~」

 ぺこり、と頭を下げるネジにレーベが動きを止める。硬直。その理由が人界としては特異な彼の名前か、それともその先に名乗った二つ名のようなものなのか、レオナルドには判別がつかない。

 だから、

「なあ、ネジ。

 その、キノコ状で小太りしもの、……って、なに?」

「あ、そういえばレオくんには話してなかったね~

 バーガーの精が名付けてくれたんだよ~」

「え? HLってそんな限定的な精霊っぽいものまでいるの?」

「妖精?」

 マックスたち艦娘も妖精は身近な存在。それに類するものか、そう予想してマックスは問い、ネジは重々しく頷く。

「そう、あれは、……レオくんに酷い仕打ちをされて、泣いていた時だったんだ」

「「酷い仕打ち?」」

 レーベとマックスから視線が集中。レオナルドは首を傾げて「え? 僕、何かやったっけ?」

「とぼけてもダメだよ。

 僕に一日バーガー抜きなんて、ひどいことしたじゃないか~、あの時、僕は悲しくて泣いちゃったんだよ~」

「一日バーガー抜きで泣くなよ。っていうか、それのどこがひどい仕打ちだっ」

「え~?」

「それで、バーガーの精が降臨したの?」

 マックスの問いに、ネジは重々しく頷く。

「そうなんだよ~

 なんか、忘却がどうのこうの言われて、これもらったの~」

「ああ。そのメモ帳。バーガーの精からもらったのか」

 ネジが誇らしげに取り出すのはよく彼が持っているメモ帳。まさか、

「あの、どこにでも売ってそうなメモ帳に、そんな深いいきさつがあったなんて」

「HL、恐るべし、だね」

 慄くレオナルドにレーベも続く。マックスも頷いて、

「きっと、ネジのバーガーに対する深い信仰心がもたらした奇蹟、よ」

「これが、これが食神の加護っ!

 ネジのバーガーに対する信仰心が食神に届いて、バーガーの精を遣わしたんだっ!」

「信仰の力が、神さえ動かした、という事ね」

「壮大だね。…………僕、その食神ってなんだかわからないんだけど」

 盛り上がるレオナルドと、真面目に頷くマックス。レーベは笑い半分、呆れ半分な相槌。

「じゃあ、これから僕はこれにお祈りをするよ~」

 ネジはテーブルにメモ帳を置いて「べんどら~、べんどら~」と祈りをささげるネジ。そして、

「うるさいっ! 外でやれっ!」

 ビビアンに蹴りだされた。

 

「よかったのかなあ、……こんなに」

「好意なんだし、いいんじゃないの?」

 あれから、土産だ、と。ダイアンズダイナーのマスターから渡されたお菓子と珈琲。

 それを抱えて三人は近くの公園へ。

 芝生に腰を下ろして、一息。

「異界の住人、っていっても、あんまり変わらないんだね」

 ぽつり、レーベは呟く。

 ここに来る前、いろいろと話は聞いた。その中には異界の住人に対する警告も多かった。

 けど、ダイアンズダイナーでは肩を並べて珈琲を楽しみ、公園では思い思いの時間をのんびりと過ごしている。そこに大きな差があるようには見えない。

「まあね。…………どこだって一緒だよ。

 本気でやばい人間もいるし、異界の住人にも気のいいやつもいるって事」

 結局はそういう事。だから、

「あんまり気負わずやる事だよ」

「それがHLで生活するコツ?」

 危険な存在には近寄らない。警戒は忘れず、……けど、異界の住人だから、という理由で忌避することは、しない。

 レーベの問いにレオナルドは頷く。

「はー、…………けど、こういうところでのんびりってのもいいよなあ」

 声を漏らし伸びをするレオナルド。で、

「レオ君」

 こてん、と、隣に座るレーベが身を寄せる。頭を肩に預ける。

「レーベ?」

「えへへー、……こういうの、ちょっと憧れてたんだ。

 レオ君の隣で、のんびりとするの」

「あー、…………まあ、いいよ」

 鼻先をくすぐるレーベの繊細な髪を気にしながら応じるレオナルド。自分の思いが許されて、レーベは嬉しそうに目を細める。で、

「じゃあ、私はこっち」

 すとん、と、太ももに頭をのせて寝転がるのはマックス。膝枕。

「男の膝枕っていいものなの?」

 母親が子供にするイメージはあるけど、男がするイメージはあまりなくて、レオナルドは問いかける。

「ん、……さあ?

 けど、レオの膝枕は心地いいわ。……うん、これは結構好きになれそう」

「そっか」

 そんなものかな、と思いながらとりあえずマックスを撫でてみる。「ん」とくすぐったそうな声。けど、嬉しそうな表情を見て丁寧に撫でる。

「レオ君、僕の事も撫でてよね?

 マックスだけズルいよ」

「解ったよ」

 耳元から聞こえる声にレオナルドは微笑。そういうのが好きなんだ、と手を動かして、

「ひひひひっ、ガキが随分と色気づいたなあ。

 こりゃあ、何かお祝いの品でもくれてやらねぇとか?」

 にゅっ、と。延びてきたのは血。「デルドロさんっ? って事は」

「やっほー

 青春してるねレオ君」

「…………え? なにやってんすか? ハマーさん」

 第三者の登場に顔を真っ赤にして離れるマックスとレーベ。で、

 監視官らしい人を横に、足を鎖で繋がれたハマーが絵筆を持つのとは反対の手でのんびりと手を振っていた。

「ああ、こいつが描いた絵が地味に高値で売れてよ。

 それで売れた金を全額寄付って事で外出て、絵描いてんだよ」

 デルドロが揺れながら応じる。彼は「で」と、

 ぐりん、と硬直するレーベに視線を向けて、

「おいガキ。ずいぶん上玉な女引き連れてんじゃねぇか?」

「…………手、出さないでくださいよ?」

 今はハマーの血液だが、デルドロは凶悪犯罪者。二人を庇うレオナルドの言葉にデルドロはゆらゆらと揺れて「そんなガキに興味あるかよ」

「偏執王の元恋人が言っても説得力ねえっす」

 偏執王、という言葉に首を傾げるマックスとレーベ。そして、

「いやあ、……それまではイイオンナなら年下でもいいって思ってたんだけどなあ。

 とんでもねぇえジョーカーひいちまった。年下怖えよな。マジで」

「いや、あの偏執王が突き抜けすぎですよ。

 けど、…………トラウマかあ」

 叩いて潰されて液状にされて他人の体に流し込まれた。…………トラウマにならない方がおかしいか、と納得するレオナルド。

 もっとも、そんな事をする年下の少女がそうそういるとは思えないが。

「君は、ライブラのメンバー、か?」

 ハマーの監視をしていた男が小さく問いかける。レオナルドは微かに頷く。

 ここは公共の場。ライブラの名前を出すことは可能な限り避けたい。彼の小声もそれが理由だろう。

 彼は時計に視線を落とす。

「ハマー、十分間の休憩を許可する」

「え? いいの?」

 監視官の言葉にハマーは意外そうな声。監視官は頷き、足の鎖を解いた。

「ぃよっし、おいハマー、ちぃと薬屋にしけこむか?」

 そして早速うねうねするデルドロ。ハマーは苦笑「だめだよデルドロ、十分がゼロになるよ」

 彼の言葉通り、鎖を構え直す監視官。

「へいへい、わかったよ」

「あ、素直っすね」

「ったりめーだろ。

 久しぶりに上玉な女見れたんだ。ったく、監獄は辛気臭くていけねぇな」

 大丈夫か、とレオナルドは思うけど。とりあえず大人しくしてそうなので大丈夫と判断。

「けど、意外だなー

 レオ君。……友達いたんだ」

「ひどっ! ハマーさん、それはひどいっしょ?」

「あははっ、ごめんごめん。

 冗談だよ」

 けらけら笑って、ハマーは硬直するレーベとマックスに軽く手を上げる。

「やっほー

 僕はハマー、レオ君の先輩だよ。で、囚人」

「正確にはオレが囚人だけどなあ。こいつは巻き込まれただけ。ざまぁみやがれ」

 ゆらゆらと揺れながら笑うデルドロ。ハマーはけらけら笑って「困るよねー、これ、冤罪っていうんじゃないの? 僕は悪くありません、僕の血液が悪いんです。っていうの」

「……なんていうんでしょうね? 血液だけが犯罪者って」

 前例はない、と思う。

「え? ……え?」

 どういう事? と、首を傾げるレーベ。

「ハマーさん、デルドロさん。二人はHLの外から来たんだ。

 マックスとレーベ」

「は、はじめまして、レーベ、です」

「マックスよ」

 困惑を残しながら軽く頭を下げるレーベ。マックスは小さな会釈で応じる。

「へー、…………あ、そういえばレオ君。前にどっか行ってたんだっけ?

 クラウス兄ちゃんが青い顔してた」

「青い顔?」

 首を傾げるマックスにハマーは気楽に笑って「なんていうか、胃が弱いのかな?」

「ありゃあただの心配性か過保護だ。じゃなきゃあ超限定チキン野郎だな」

「あー、そうかも」

 チキン野郎、……凄まじい戦闘能力と強靭な意志を持つクラウスには似つかわしくない言葉。

 けど、ただ一つ。仲間に対してはそういわれても仕方ない面を持っている。

 だから、納得するレオナルドにレーベは首を傾げて、

「チキン、……ええと、臆病者。っていう事だよね?

 クラウスさん、そうは見えないんだけど」

「身内に関してはそうでもねーんだよ。あの坊ちゃん。

 あれ、マジでストレスで胃に穴が開くタイプだな。チキンチキン」

 ぐるぐる回って楽しそうに語るデルドロ。

「身内を大切にしているって事?」

「大切じゃなくて心配性ってんだ。

 チキンチキンチキン」

「デルドロ、それ気に入らないでよ?」

 ぐるぐる回りながらチキンと連呼する相棒にハマーは苦笑。デルドロは「けけけ」と笑って、

「あの坊ちゃん相手に絶対言い返されずからかえるんだぜ? やめられっかよ。

 おう、ガキも今度言ってみろよ」

「遠慮するっす」

「ええと、……二人は、異界の人?」

 楽しそうに言葉を交わすデルドロとハマーを見てマックスが首を傾げる。ハマーは笑って「違う違う」と否定。

「僕もデルドロも普通の人だよ。

 えーと、デルドロが叩いて潰されて液状にされて、僕が全身の血液を抜かれて、血の代わりにデルドロ流し込まれたんだ。

 だから彼は僕の血液ってわけ」

「おう」

 しゅたっ、と手の形に変化させた血を上げるデルドロ。気楽そうな二人だけど、

「え? な、なにそれ?」

 マックスは青ざめて呟く。

 気楽に言うが、二人とも殺された、に等しい。ハマーはともかく、デルドロは完全に人の形を失っている。

「お、おお? 同情か? 同情してくれんのか?

 よし、同情するならちょっと「こら、デルドロ」おお、おお?」

 楽しそうに言葉を紡ぐデルドロはずるずるとハマーの手首にある傷に引きずり込まれる。

「ごめんねー

 デルドロは元々犯罪者でさ。いろいろ悪いんだよ。いろいろ」

「お、……わ、わーった、わーったからっ」

 もぞもぞとデルドロが伸びてくる。

「ったく、久しぶりなんだからシャバの空気吸わせろってんだ」

「だったら大人しくしててよ。

 ま、こっちはこっちでのんびりやってるしね。気にしなくていいよー」

「……なんていうか、…………」

 マックスは口ごもる。彼の話を聞くと、とんでもない災難に遭っているとわかる。

 けど、楽しそうに言葉を交わす彼らは、現状を悲観しているようには見えない。つまり、

「前向きな、人ね。

 ちょっとそういうの羨ましい」

「そうだね。見習うといいよ」

「暗くなっても仕方ねぇしな」

 楽しそうに応じるデルドロとハマー。

「ふーん、そう、ね。うん、そうするわ。……うん、いろいろ気にしても仕方ないわね」

「ん?」

 マックスの言葉に首を傾げるハマー。「なんでもない」と、マックスは応じた。

 

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