「いい雰囲気のお店ですね」
お昼、アーティさんのお店とやらに到着しました。
穏かな音楽と香り、落ち着いた内装とさりげなく飾られた草花。店主のセンスを感じる店です。
「うん、…………いい感じ」
「おっ、わかっか?」
軽く笑って問いかけるザップに、ミシェーラは頷いて「私、結構いろいろ感覚が鋭いって言われるんです。目、はそれ以前ですけど」
「あ、……ああ、まあ、そうだな」
困ったように頷くザップ。
「お、ザップ君、随分お客さん連れてきてくれたじゃないか」
「ちっす、アーティさん。
すいません、いきなり大人数の予約入れちゃって」
「いやあ、いいよ。
さ、どうぞこちらへ」
促されて歩き出す。ツェッドが先陣、その後ろをトビーとミシェーラが続いて、
「にしても、ザップ君。
ずいぶんな美人なお嬢さん連れて来てくれたね」
こそこそと、小さな声でアーティ。ザップは溜息。
「前みたいな騒ぎ、やめてくださいよ?
せっかくの料理が血濡れになるなんて、マジ笑えねぇんすから」
「心配はいらない。店にいるうちはお客様として対応するよ。
ただ、「連絡先とか教えねぇっすから」…………なん、だと?」
「わりぃけどそういうのまずい客なんっすよ」
「…………そうか」
なんで残念そうなんですか?
と、からん、と音。
「お、いらっしゃい」
アーティが振り返り、メンバーが到着。ザップがぎょっとしました。
というのも、
「こういうところで食事はなかなか、久しぶりですね」
「ギルベルトさんは自分で作るからね。
ま、せっかくの奢りなんだ。遠慮せず食べていこうよ」
「そうですね」
クラウスと、ギルベルト、そして、クラウス。
「ちょ、ちょ、ちょーっと待てっ! なんで番頭たちまでいるんだっ?」
「ザップっ」
クラウスはザップの手を取りました。彼は目元に手を当てて、
「いつも感謝をしているのは私の方だ。
ありがとう。私は、いい部下を持てて本当に幸福だ」
「あ、……えーと?」
感涙しているクラウスに手を握られてきょときょとしているザップ。で、
「ザップさんが日頃の感謝の思いを込めて奢ってくれると伺いました。
その思いを蔑ろにしないためにも、遠慮は無用、とも」
「なん、……だと?」
愕然とするザップ。そして、
並んでサムズアップするチェインとグラーフ。そして、KK。
「こらっ! 雌犬っ! てめぇえっ!」
怒鳴るザップ。……けど、つい、と手を引かれました。
そちらに視線を向ける。
「あ、あの、……お、女の人に、そんなこと言ったら、めっ、です」
「…………………………すんません」
右手に感涙するクラウス。左手にお叱りをするユー。……退路は、断たれました。
腹を抱えて爆笑するKKと、グラーフと手を打ち合せるチェイン。
「はっはっはっ、いや、ありがとうっ、ザップっ!
お前の感謝の思いを十分に発揮でいるように、ちゃんと給料三か月分持ってきたぞ」
「そうだね。ザップ。
君の思いを無下にしないためにも、今日は遠慮をしないようにしよう」
「このような食事は久しぶりです。がらにもなく楽しみになってきました」
「えぇぇええええっ!」
さて、レオが合掌して頭を下げたので、食事に移りましょう。奢り、楽しみです。
注文する声が重なり、品数が増えるたびにアーティが引き攣った笑みを浮かべ、ザップの顔が青くなります。
「……で、お嬢さんは?」
「あ、はい。店内の高いものを上から三品。
それと、デザートは、…………高いものを上から三品」
「私も、同じものを。
それと、酒を、……一番高いものを」
「酒、値段が高いのを上から十。つまみ、高いのを上から五」
「選択基準おかしいだろっ!」
「それでは、偉大なるザップ先輩の感謝の思いを受け止めて、乾杯っ!」
「「「「「乾杯っ!」」」」」
「てめぇら、よお。…………あとで、フゥードパニッシュメン、でも受けやがれ。ちくしょう。食神に罰されろ。ちくしょう」
なんですかそれ?
隅っこでぶつぶつ謎の言葉を吐き出すザップ。
「まあいいじゃない、どーせギャンブルでどっかいっちゃうお金なんだから。
仲間たちの胃袋に収まるんだから有用な使い方よ」
同席するチェインがひらひらと軽く笑って、
「まあまあ、そう嘆かず行こうよ。
大丈夫、お金なんてなくても何とかなるよ」
隅っこで座るザップの肩に乗って慰めるリール。
「うう、……もう、この場の良心はお前だけだよ。
なあ、リールよお。そこの、人の金で飲み食いしまくる連中に何とか言ってやってくれよお」
「というか、普段の生活は女性の家をはしごしているのでしょう。
それなら活動資金も不要じゃないんですか?」
「うるせぇよえら呼吸っ! 魚類っ! てめえこそくそ高い生活費掛けてるくせにっ!」
「…………む」
少し気まずそうに視線を逸らすツェッド。けど、スティーブンはひらひらと手を振って、
「ま、少しずつその分のお金も稼いでいることだし。
ツェッドの能力からみれば安い出費だ」
「稼いでいる? ツェッドさん、副業とかしてるんですか?」
「はい。……ええと、大道芸なので、ミシェーラさんにはあまり面白いものではないと思いますが」
「あ。……あの、お気遣い、すいません」
「けど、興味ありますわ。
見せていただけないかしら?」
提督の問いに、ツェッドは頷いて紙ナプキンを数枚、手に取りました。
で、
「斗流血法シナトベ、風編み」
風が躍り、数枚の紙が舞い上がりました。そして、
「空斬糸」
紙が、中空で細かく裁断されて、ひらひらと、まるで蝶のように紙が舞いました。
風は躍り、まるで、蝶が旋回しながら舞っているようで、面白いものです。
「おお」
「わ、わっ、凄いですっ」
「見事だな。……風か」
「はい、っと」
料理に落ちそうな紙は、再度吹き始めた風に集められてツェッドのところへ。
面白かったので拍手。みんなで一斉に拍手。
「大道芸か、確かに見事だな。
とりあえず、小銭を投げるか」
「あ、やっぱりそういうものですよね」
財布を取り出して「あ、いえ、今はそういうのいいですよ」
「そうですか」
「いつもは色紙を使うので、もう少し彩も鮮やかですが」
拍手を受けて照れくさそうに頭を掻くツェッド。
「いや、見事だ。
風を操る能力か。こういう使い方も、出来るのだな」
少し、羨ましそうに語るグラーフ。私は肩をすくめて「まあ、仕方ないですよ。そういうものなのですから」
いずれ、平和利用とか考えられればいいですね。軍船の能力も。
まあ、その方法は後々考えていきましょう。日本と友好的な付き合いが出来れば、何か参考になる意見も聞けるかもしれませんし。
「けっ、なんだよー、んだよー
そんな事して金もらえんなら、俺だってやってやるよー」
チンピラみたいに立ち上がるザップ。KKはけらけら笑って「じゃあ、次はザップっちっ、面白いの頼むよっ」
「つまらなかったら、あんた後輩以下ね」
「言ってろい、……チェイン。
あ、アーティさん、暗くしてくれる?」
「はいよー」
「すまねっす」
で、ブラインドが下りて暗くなり、ザップはライターを取り出して、握りました。
「これが、大道芸だあぁぁあっ!」
「なんの気合っ?」
慄くレオ。で、点火。
「うわ、綺麗」
「これは、どうやったのかしら?」
ビスマルクとプリンツが首を傾げました。けど、その気持ちもわかります。
中空を、縦横無尽に走る火。最後には網目状に広がり、上を覆いつくして、瞬き消えました。刹那に広がる炎の輝き、とても、綺麗です。
拍手拍手。
「ま、ざっとこんなもんよ」
ふっ、と格好良く決めるザップに拍手拍手。さて、
「それじゃ、食事に戻りましょう」
「おぉいぃいいっ、金はっ? こういうの最後に金投げてくれるんじゃないのっ?」
「意地汚いですよ。
こういうのは善意です」
「やり損じゃねぇかっ?」
「この拍手だけで満足してください。
それが、大道芸人の心意気です」
「お前、何者だよ?」
少し格好良く告げるツェッドに、げんなりと応じるザップ。
で、そんな余興の合間に食事がいろいろと出てきました。
「まあ、余興も終わったので食事に移ろう。
美味しそうだ」
うむ、と頷くグラーフ。確かに美味しそうです。
「は、……ははは、やった。私は、やった」
なぜか燃え尽きる寸前のアーティはいいとして、
「へえ、これは本当に美味しそうだね」
ひょい、とテーブルにあがるリール。
「食べられるのか?」
「さすがにねえ。あんまり食べられないよ。
この体格だし」
「ずいぶんと小さいのだな」グラーフは不思議そうにリールをつついて「こういう、種なのか?」
「そうなの? なんか、一時は山みたいになってたらしいけど」
「「山?」」
「あ、……あはは、まあ、…………若気の至り、みたいなものだよ」
「若気の至りで山になるのですか? ……え、それ怖い」
「あ、あはははは」
なにがあったのでしょうか? そっぽを向いて笑うリール。
「まあ、いろいろとあって小さくなっただけ、その前はレオ君と同じくらいの身長だよ」
と、鳴き声。
ぺしっ、とリールはソニックに軽く突撃されました。ぽてん、と倒れるリール。
「ソニック? ……ああ、おすそわけですか」
チョコレートのようなもの、トリュフ、でしょうか? お菓子を両手に持ち得意げなソニック。リールは「ありがと」と応じて、…………「大きくない?」
小さなリールにしてみれば文字通り、抱え込む大きさですね。
ソニックは首を傾げました。
「切ったげるよ」
チェインは紙ナプキンを敷いてチョコレートを置いて、ナイフで「あ?」
「砕きましたね」
ナイフを当てて、力を加えたら割れるチョコレート。
「ありゃ」
で、呆然とそれを見るチェイン。
「いや、ごめんね」
「いいよ、この方が食べやすいし」リールはかけらを一つとって「はい、ソニック」
ソニックも食べ始めました。…………なんでしょうね。
「動物と小人が食事」
「なんか、和む、か?」
和むのでしょうか? まあ、リールとソニックが仲よさそうなのでいいのですが。
「ああ、……やっぱり、酒はいいわねえ。
昼間っから飲む酒っていいわねえ」
で、そんな一人と一匹をけらけら笑いながらチェイン。同様に真昼間からアルコールの摂取をしているグラーフは頷いて、
「奢りだしな」
「奢り、……素敵な響きね」
びしっ、とサムズアップするチェインとグラーフ。私は頷いて「これ、食べますか?」
デザート一つを提供。
「優しいところがあるのだな。シャルン」
意外そうなグラーフの言葉に私は頷きました。
「なにせ、お・ご・り、ですから。
あ、アーティ、デザートの追加注文をお願いします。それと、私も酒、麦酒」
「は、…………はい、ただいま」
なぜか青い顔をしたアーティはふらふらと奥に引っ込みました。
「酒、……ふふ、飲みだめして酒代節約してやるわ」
「チェイン、それはどうかと思う。
まあ、奢りだしいいか」
チェインの言葉に苦笑するグラーフ。けど、彼女はグラーフの手を握って、
「人狼の酒代は安くない、安くないのよっ」
「あ、そうなのか」
人狼、という言葉は気になりましたが、割と迫真なので大変なのでしょう。
「はい、麦酒をお持ちしました」
「ありがとうございます。あ、チョコレートケーキを」
「ケーキをつまみに麦酒を飲むな。
私にもチョコレート、あとワイン」
「はひっ!」
ちなみに、
「ユーちゃん、あっちのだめな大人みたいに、お昼からお酒を飲むような大人になってはだめよ」
「っていうか、なんで真昼間のレストランであんな飲み屋みたいな状況になってるの? あそこ」
「僕、お酒って夜のイメージあったんだけど」
遠くの席で慄く声が聞こえてきました。仕方ありません。
私は立ち上がりました。
「奢り、無料、……ならば、飲むっ!
私たちは、間違えていませんっ! 他人の金で飲む酒は、美味いのですっ!」
チェインとグラーフは厳かに立ち上がり、拳を打ち合わせました。
気圧されたように響く拍手の中。声。
「…………マジ、すんません。ザップさん」
レオが手を合わせる先、灰となったザップがそのまま崩れ落ちました。