艦娘がHLに遊びに来ましたっ!   作:林屋まつり

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十五話

 

「今夜は、レオは家族サービスでしたね?」

 確かそんな事を聞いています。レオは頷いて、

「うん、……ええと、ごめんね」

 視線の先にはレーベとマックス。マックスは「いいわよ」と、軽く応じて、

「大切な家族でしょ? それに、ミシェーラやトビーなら、その気持ちもわかるわ」

「けど、明日はちゃんと構ってね? じゃなと、僕も不貞腐れちゃうよ」

 軽くそっぽを向いてレーベ。レオは「了解」と頷いて、

「そうだよ。お兄ちゃん。

 ちゃんと女の子に構ってあげないと、男の子として失格よ。ね、トビー」

「もちろんだ。……まあ、義兄さんが二人の思いを蔑ろにするとは思えないけどね」

「あはは、善処します」

 応じるレオナルド、と、レーベとマックスは、

「大丈夫よ。レオっちっ!

 二人と、ユーちゃんは私のところで夕食とってもらうから」

「あ、そうなんですか?」

「うんっ、HL流の家庭料理だってっ!

 KKにいろいろ教えてもらうのっ」

「ん、……目指せ、家庭的な女性」

 ぐっ、と拳を握るレーベとマックス。で、

「ふ、……ふふ、いいわあ。可愛いわあ。

 男の子もいいけど、娘、っていうのもいいわよねえ。…………ふ、ふふ、可愛い娘と一緒にお料理、……ふふふふふ」

「おーい、KKさんやーい」

 ひらひらと手を振るレオ。ユーは、ちょん、とそんなレオの袖をつまんで、

「ゆーも、家事、お勉強、します」

 むんっ、と小さく拳を握るユー。で、

「はぁぁあっ! もうっ! ほんとぷりちぃーわーっ!

 なんで、なんでぇぇえっ? レオっちがー」

「な、なんっすかっ? 僕が何をやったんですかっ!」

 奇声を上げながらユーを抱きしめ、恋敵を睨むような視線をレオに向けるKK。

 …………ふと。

「と、なると、クラウスの私邸に残るのはビスマルクとプリンツとウィル、だけですか?」

「え?」

 不思議そうなウィル。グラーフは重々しく頷いて、

「ああ、私とシャルンはチェインと酒を飲みに行く」

「ま、まだ飲むんだ」

「ウィルはどう? いいバー知ってるよ?

 私の行き付け」

「いえ、チェイン」

 気楽に告げるチェイン。けど、その選択は間違えています。

 グラーフに目配せ、彼女は頷きました。

「チェイン。それは間違えている。

 ビスマルクとプリンツとウィル。この私邸は三人だけにするべきだ。……………………ここは、気を利かせるべきだろう」

「……ああ、そういう、……………うん、それもそうね。

 悪かったわねウィル」

 チェインも納得してくれましたか。彼女は頷いて、

「羽目を外しても、大丈夫だと思うわ」

「い、いや、……まあ、節度をもって」

 部屋の片隅で「「攻めてぇ~、攻めてぇ~」」と、謎の呪文を唱えながら拳を振り上げる二人を横目にウィル。

 チェインはサムズアップ。

「へたったら、負けよ」

「安心しろ、ウィル。

 日本に行ったとき、聖地秋葉原をうろうろしてその手の情報は十分に仕入れた」

「ぜんっ、ぜん安心できないよ」

「意外でも何でもないが、ビスマルクの耐性のなさは呆れるを通り超えて微笑ましいレベルに達していたな」

「私は一人前の暁よとか言っていました」

「なに? 暁って?」

 ウィルの問いに、私は頷きました。

「愛飲は抹茶と和菓子、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花を地で行く、日本でも屈指の淑女です。

 日本にいる多くの、女性が夢見る姿。一個人を通り越して、すでに優雅な淑女の代名詞ともいえる女性のようです」

「そ、そんなすごい女性がいるんだ。……けど、一人前の暁って、どっちにせよよくわからないんだけど」

「ビスマルク自身もわかってないのでしょう。錯乱していましたから」

「…………変な事、教えてないよね?」

「とりあえず素っ裸でエプロンを着るとえろい事になるらしい」

「下着が見えるくらいスカート丈の短いメイドさんの格好をするとえろい事になるそうです」

「…………日本は、大丈夫じゃないよね」

 ウィルはしんみりとしました。

「まあ、そういうわけで準備は万全です。二人とも、」相変わらず、謎の呪文とともに拳を振り上げる二人を見て「気合は、十分でしょう」

「いやいやいやっ! そんなことやらないよっ!」

「そうか、…………頑張れ、負けるな。力の限り男を見せろ。

 それで、チェイン。夜の予定だが」

「あ、あの、……グラーフ?」

 投げっぱなしのグラーフに恐る恐る手を差し伸べるウィル。私は頷いて、

「男を見せろ、ですよ。ウィル」

「どういう意味だよっ!」

 

「そう、いわばこれは夜戦だ。

 作戦は綿密に練らなければならない」

 チェインの用意した地図にいくつか付箋を貼りメモを書き込むグラーフ。

「ええと、KK。グラーフたちは、相談?」

「そうみたいだけど、ユーちゃんにはまだ早いわよ。ねっ。ユーちゃんはこっちでお勉強しましょうねー」

 興味津々なユーを引き離すKK。グラーフは頷いて、

「そうだ。ユー。

 これは大人な話だ。子供には、早い」

「ま、飲み屋の襲撃計画だしね」

「襲撃?」

 それでいいのでしょうか? けど、チェインは拳を握って「やっぱ、蹂躙ね」

「ああ、酒をですね。

 大丈夫、アルコールは燃料です」

 ぱんっ、とチェインと掌を打ち合せました。で、

「む、ゆー、子供じゃない、です。

 ゆーも大人のお話し、しますっ」

 むんっ、と気合を入れるユー。KKは全力で首を横に振りました。

「だめっ、だめよユーちゃんっ! あれは大人でもだめ大人よっ! ユーちゃんはこっちで真人間への道を歩んでっ!」

「だめ大人とか言われてますよ?」

 こそこそとチェインに言ってみたらチェインは頷いて、

「真昼間のレストランで酒かっ食らってたらそんなものでしょ」

「そーですね」

 自覚あったんですね。まあ、同感ですが。

「それより、…………少年。

 ユーちゃんが大人のお話ししたいって、確か、旦那様でしょ? 付き合ってあげなよ」

「は? え? いや、大人の話って?」

 おそらく、今夜の予定をミシェーラとトビーと話していたレオは素っ頓狂な声。

「大人の、話だ。ユーにはまだ早いかもしれないが」

 ふっ、とちょっと格好良く笑うグラーフ。対して、

「早くない、ですっ!

 ユーは、もう、大人ですっ」

 むんっ、と拳を握るユー。その後ろでKKが全力で首を横に振っています。

「れお、あの、……ゆーに、大人のお話し、してほしい、です」

「え? いや、なにそれ? どんな話?」

「あ、私も興味あるなー

 お兄ちゃんの、大人の話」

 にこー、と笑ってミシェーラ。そして、

「義兄さん。…………僕は、義兄さんを信じてる」

「トビーさん。目がすっごく剣呑です」

「あっ、僕も聞きたいっ」

「私も」

「ええっ? ちょ、な、なにっ? 何話せってっ? 大人の話って何っ?」

 さらに現れるレーベとマックス。KKがおろおろしています。そして、

「凄い、…………レオとウィルって、いじるとこんなに面白いんだ。

 またやろ」

「ああ、本当に素晴らしい、まさしく逸材だ」

「「どういう意味っ?」」

「え? それ、言う必要があるのですか? 見たままでしょう。

 まあ、そういうわけでウィルは大人の階段を上る準備を、レオは女の子たちに大人の話をしていてください」

「お、大人の階段っ? それで大人っ!

 ゆーもっ、れお、ゆーも上り、ますっ」

「僕もっ!」「私も、教えて欲しいわ」

「だ、そうですよ。レオ、」私は、レオの肩を叩いて「わかりますね?」

「わかるかっ!」

 怒鳴るレオ。グラーフとチェインは笑顔でサムズアップ。

「「グッドラック」」

「では、私たちは酒盛りの作戦会議をはじめましょう」

「見つけたところを片っ端から襲撃でいい?」

「何一つ問題はない」

 会議は終了しました。

 

「ええと、……こういうの、なんていうんだっけ?

 抜錨?」

「それでいい」

 グラーフは頷き、HL夕暮れの出撃となりました。背中のリュックが邪魔ですが、仕方ありません。

「あ、一応言っておくけど、それなりに物騒になるから私からはぐれないようにね」

「解っています。大丈夫、酔っぱらったら抱き着きます」

「それは、歩きにくそうね」

 ともかく夕暮れ。日中とはまた違った趣があります。何より、異形感がものすごいですね。何が出るかわかりません。

「あ、からまれたら自衛できる?

 私、あんまりそういうの得意じゃないのよ」

「ああ、安心してください。こういう事もあろうかと、ちゃんと艤装を持ってきました。

 いざという時のためにすぐに取り出せます。ある程度なら対応できるでしょう」

「探照灯もある。目くらましには使えるはずだ」

 うむ、とグラーフも頷きました。そう、HLの観光。装備に気は抜けません。もちろん、電探も積んでいます。

「そ、なら何とかなりそうね」

 チェインも納得してくれました。そして、軽くあたりを見渡して「それじゃあ、早速そこに行こうか」

 

「頼もうっ!」

 扉を豪快に開けました。ぎょっとするバーテンダーと、

「おおう、よそ者か?」

 ずい、と異界の住人らしい誰か、けど、「残念、私の友達よ」

「って、チェインのっ? なんだあ? 新しい飲み友達か?」

「ま、そんなところ、いきなり騒がしたけど、HLをよく知らないらしくてね」

「そうだな。……すまない。無知な友人が失礼した。

 HLならば、やはり扉を蹴り砕かなければならないか。ちょっとやり直させてほしい」

「すいません。失敗してしまいました」

 謝るとチェインの友人らしい異界の人は「いいって事よ」と頷き、

「頼もうっ!」

 グラーフは豪快に扉を蹴り開け、扉が吹き飛びました。酒瓶がある棚に直撃しそうなので足を跳ね上げて蹴り割りました。

「よし」

「…………面白いもん見せてくれたからいいけど、いくらHLだからって、よくねえからな」

 ともかくカウンターに並んで座ります。その途中で思ったのですが、

「チェインは、人気者ですね?」

 ここにつくまで、いくつか飲んでる人に声をかけられてました。

「ん、ああ、よく飲み歩いてるからね。酒場だとそれなりに有名だと思うわ」

 そして、チェインは格好良く笑いました。

「酒場はね。飲める者こそ正義なのよ」

「いや、見た目の問題だろう」

 チェイン、おっぱいをおいても、かなり美女ですからね。

「そ?」

 ともかく、カウンターに並んで座ってお酒を注文。程なく届いて、

 では、

「「「乾杯」」」

 ちん、とグラスが三つ重なりました。

 

「異界の音楽、というのも趣があるものですね」

 グラスを傾けながら、不意に耳に入る音楽。それを聞いて、ぽつり、と。

「そうだな。……いや、こうして聞くといいものだ。

 選んだ人のセンスを感じるな」

 ふむ、と呟くグラーフに口笛を吹く音。

「だってよマスター。よかったな、美女に褒められて」

「……スタンドナンバーだ。第一ここは酒場。俺の趣味だけで選ばねえよ。

 ま、褒め言葉は受け取る」

 こん、とグラーフに席に置かれるグラス。「すまないな」

「褒めると酒奢ってくれるの?」

 グラスをもってにやにやと笑うチェイン。「常連にはなしだ」と苦笑気味のマスター。

「それは残念」

「では、私も「二度ネタもなしだな」……そうですか」

 奢り、嬉しいのですが。……ともかく、勝ち誇った表情のグラーフを軽く小突いて「では、つまみを」

「食べ過ぎないでよ? ここで終わりじゃないんだから」

 グラスをもって胡散臭そうに呟くチェイン。

「なんだよ、はしごか?」

「当たり前、せっかくHLまで観光に来てくれたのに、ここだけとかもったいないでしょ」

「違いないっ! 精々飲まれるなよ」

 囃す声に「解ってますよ」とひらひらと手を振って応じ、

「チェインも飲みすぎないことだ。悪酔いする性質なんだから」

「あれ? 何で知ってるの?」

「酔っぱらって延々と愚痴を聞かされれば誰だって覚える」

 そのころの事を思い出したのか、疲れたように肩を落とすマスター。

「大丈夫ですか?」

「へーきへーき。

 たぶんその時は潰すために飲んだんだし、」笑ってグラスを掲げて「楽しむために飲むのに、つぶれるような無作法はしないよ」

「酒の飲み方をわきまえているな」

 にや、と笑うグラーフ。チェンは軽くグラスを振って、

「当然」

 格好良く笑って頷きました。

「異界の夜はこれから。存分に、酒に浸りましょう。

 道案内は頼みますよ。人狼さん」

 ちんっ、とチェインとグラスを重ねて酒を干し、その味を楽しんで、…………そう、夜はこれからです。

 

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