艦娘がHLに遊びに来ましたっ!   作:林屋まつり

18 / 18
 なお、日本の艦娘状況については、ずいぶん前に書いた《深海の都の話》をご参照ください。
 すでに完結していますが、話数は多めなので読みごたえはある、と思います。《いざなぎ流》とか、あまり艦隊これくしょんの二次創作らしくないものも出てきますが。


最終話

「やあ、おはよう。レオナルド君、ミシェーラ君。

 HLに来ていると聞いてね。会いに来たよ」

 最終日、朝食を終えて会談中に、驚くべき存在が訪ねてきました。

 つまり、

「喋る本、……ですか」

「本ではない」

 

「どうぞ」

 かちゃ、とカップが鳴る音。喋る本と助手らしい女性を連れてきたギルベルトが、ハーブティーを淹れてくれました。

 一口。

「あ、……美味しい」

「ありがとうございます。ミシェーラさん」

「珈琲じゃないんですね」

 少し意外そうなレオ。対して、ギルベルトは少し困ったように微笑んで「鎮静作用のあるハーブティーです。お口に合いませんか?」

「あ、いえ、すっごく美味しいです」

「見事なものだな。フィリップといい、……執事は皆こういうのが得意なのか?」

「主人の補佐が執事の成すべき事ですから、当然、主人にとって好適な環境を作るのも執事の仕事です」

「ほう、……主人のための修練か」

 感心の声を上げるグラーフ。同感です。

「それで、どういった要件ですか? 院長。

 レオナルド君に用事があるようですが」

 紅茶を飲んで一息ついていたクラウス。本、……いえ、院長は彼を一瞥して、一息。

「まず、レオナルド君、ミシェーラ君。

 《神々の義眼》に関する事だが、いいかね?」

 問われて、二人は顔を見合わせました。そして、

「はい」「お願いします」

 《神々の義眼》に関する事、ですか?

「私たちは、聞かない方がいいかしら?」

 提督の言葉。……確かに、事が事ですから。

 彼女の問いの先にはクラウスとレオ。クラウスは「レオナルド君に任せるよ」と応じ、

「えーと、……あの、院長?」

「君たちの背景を一切考慮せず言うのなら、聞いてもらった方がいい。

 なんにせよ、情報源は多い方がいいからね。……情報提供という形でも、協力してくれるのなら、それに越したことはない」

 本、……もとい、院長の言葉に、私たちは顔を見合わせ、提督は頷きました。

「私たちはレオナルド君に多大な助力を受けましたわ。

 その借りを返すのなら、喜んで尽力しますわ」

 もちろんです。

「ふむ、では、話をしようか。……いや、最初から話をするべきだね。

 私たちは、レオナルド君より、妹の失明を治したい、と、依頼を受けている」

「そうだろうな」

 グラーフは頷きました。もちろん、そうでしょう。

 身内の障害、それを治したいというのは当然の事でしょう。

「たが、ミシェーラ君。君の失明は医学的なものではない。

 神性存在との契約の代償だ。心当たりは、あるね?」

「神性存在、…………はい。

 あの、あれが、そういう者かはわかりません、けど」

 かすかに震える手を、瞼に触れさせるミシェーラ。トビーは彼女の肩に手を置き、

「異界の存在に、《神々の義眼》を押し付けられた、と聞いている」

「そう、異界の存在だ。その中でも上位に位置する存在、神性存在だよ。有名所では、タコ足はだね」

 頷きます。関門以外の場所から来たものをすべて叩き落とす。HLでも代表的な存在ですからね。

 その映像も見ています。

「レオナルド君、ミシェーラ君。君たちにそれを与えた理由については解らない。

 だが、ミシェーラ君の失明を治す、という事は代償の反故にあたる。医学的な問題ではないのだよ」

 その言葉に、さっ、とミシェーラが青ざめました。

 トビーも目を見開いて院長の言葉を聞き、彼女の肩にのせた手に、微かな力が籠っています。

「ミシェーラ」

 心配そうに彼女の手を握るマックス。

「みしぇーらの目、治らない、の?」

 同様にミシェーラの手を握り、心配そうに問うユー。そんな、不安そうな彼女たちを見て院長は、困ったように一息。

「残念ながら、現段階では、異界の技術を使っても治す方法は、不明だ。我々も、都合がつけば調査は続けている。

 だが、《神々の義眼》自体が文献に記されている程度のものでね。摘出事例はおろか、その構造や、失明した者との、具体的な因果関係なども、一切不明なのだよ」

「それに、我々も、多くの患者を抱えていてね。こんなことを言っては申し訳ないのだが、命の危険が確認されない以上、どうしても優先順位を付けざるを得ないんだ」

 頭を下げる女医さん。ミシェーラは、まだかすかに青ざめた表情で、けど、ふるふると首を横に振って、

「大丈夫、です。……私には、トビーも、支えてくれる人も、いますから」

「そういってくれると助かるよ」

 女医さんは一息ついて、院長は頷き。

「我々は引き続き医学的な見地から《神々の義眼》についての調査を続けよう。

 と、同時にどのような神性存在が関わってきているのか、伝手を通じて調査をしてみよう。君たちも、助力してくれるのならばそちらの情報提供をお願いしたい。

 異界と現世の接触は、各地にある神話や伝説という形で残っている。なにか、手掛かりがあるかもしれない」

「ええ、わかったわ」

 ビスマルクも頷きました。

「その、神性存在との接触が巧く行けば、ミシェーラの目は治るのか?」

 グラーフの問いに、院長は「わからない」と、応じ、

「確認されている神性存在は、タコ足だけなんだ。……その、伝承として伝わる、というのを別にしてね。

 やっぱり、雲を掴むような話になると思う。けど、」

 ウィルは、そこまで告げて、一息。

「やらないよりは、ずっとましだよ。

 僕の職場には、伝承とか、伝説に関する文献がたくさんあるから、いろいろ調べる事が出来る。……微力かもしれないけど、協力するよ」

「う、……うん、ありがとう。ウィル君」

 けど、と、ミシェーラは不思議そうに、

「どうして?」

「他人事とは思えなくてね。…………まあ、なんていうか、」

 ウィルは、少し、申し訳なさそうな微笑。

「僕は、妹を救えなかった。

 だから、その分も、……できる事は、したいんだ」

 言い難そうに言葉に詰まるウィルに、ミシェーラは微笑。

「うん、よろしくね。ウィル君」

「うんっ、任せてっ」

「わ、私たちも協力するわよっ!」

 笑顔を交わす二人に割り込むビスマルク。二人は苦笑して、離れて、……不意に、声。

 

「なんだ、それ、捨てちゃうのか? 少年」

 ――――寒気を感じるような、声。

 

「堕落王っ!」

 いつの間にか、そこに存在した男。

 クラウスは反射的にミシェーラとトビーの前に、割り込むように飛び出しました。

 反射的に、その意味、解ります。

 見た目だけなら痩躯の青年。……けど、相対するだけで、寒気を感じる、異様な存在感。

「おいおいヒーロー。

 別に遊びに来たんじゃないんだから、そんなに身構えるなよ」

「そうかね? では、何の用かね?」

「君たちに用はないよ。ぼかぁそこの少年と話をしに来たんだ」

「…………なんの、用ですか?」

 堕落王、と呼ばれた彼に問うレオ。……今のところ、害意はない、ですね。

「久しぶりだね少年。

 君に目を付けたのはこれで四回目か」

「四回目?」

「ああ、」堕落王は指折り数えて「あの、音速猿の時、第二次大崩落で転がされてた時、あと、モルツォグァッツァ、それと、今回。……で、四回目だ」

「あの時のは、堕落王だったのか」

「会っていたのかね?」

 クラウスの問いに、レオナルドは頷きました。

「地下墓地で転がされていたとき、少し話をしました。

 けど、…………誰かは、見えませんでした」

 その言葉、……《神々の義眼》を持つレオが言うと、重みが違いますね。

「《神々の義眼》、でも?」

 信じられない、と。問うビスマルクにレオは頷き、

「まあ、そんなこたあどーでもいいじゃないか。

 で、話を戻そうか、少年」

 くるっ、と。彼はステッキをレオに突きつけて、

「たかが妹の失明を治す、だけの事でその《神々の義眼》を捨てちゃうのか?

 ぼかあ、それはもったいないと思うよ? ……なあ、少年」

 くつくつ、と彼は嗤う。

「それがあれば、人類の進化を百年は早める事が出来るんだよ?

 なあ、その意味、解ってるのか? 少年」

「……そう、らしいね。…………それでも、僕は妹の視力を取り戻したいんだ」

「家族愛? っかー?」

 にぃ、と。堕落王は笑って、

「そんな、へーぼんな事のために、人類の進化を遅くするのかい? ばっかだねー」

 けらけら笑って、……一転。

「君がその平凡で下らないもののために、……まあ、凡俗な君ならそれでいいだろうよ。

 けど、それを誰が許す? 誰が認める? なあ、少年。」

 彼は、杖をレオに突き付けて、笑いました。問いました。

「君は、世界を敵に回す覚悟が、あるのかなあ?」

 世界を敵に回す。おそらく、世界中にいるであろう、《神々の義眼》を欲する者たちを敵に回す。

 あるいは、《神々の義眼》の研究により恩恵を受ける、あらゆる人たちを敵に回す。

 《神々の義眼》を捨てるというのなら、その覚悟があるのか? その問い。答えは、…………興味が、あります。

 彼らに協力することは、いいのです。……けど、

 我が侭、と自覚しています。けど、どうせ協力するのなら、貫き通す覚悟を持っていてほしいです。

 だから、彼の答え。それを聞くため、耳を澄まして、

「そうだね」

 レオは、頷きました。

「その時は、僕は世界を敵に回すよ」

 きっぱりと、言い切りました。

「奇妙な子供だね。

 最初は、あの音速猿の命を守るために、大崩落の時は友を救うために、モルツォグァッツァではそこにいる人を守るために、そして、今回は妹の失明を治すためにっ! ……ああっ、つまらないっ! あまりにも、平凡で凡俗だっ!

 当たり前の、教科書通りの道徳だっ! そんなもののために、なぜ君は、命を懸ける? なぜ、守ってきた世界を敵に回す? まったく、理解できんなっ!」

「かも、知れない。……まあ、僕は普通の人だから、……けど。

 こんな僕でも誇りと言ってくれた人がいる。気にかけてくれた家族がいる。大切に思ってくれた友達がいる。……好きだって言ってくれた、娘もいる。だから、」

 レオは優しく、いつも通りに微笑んで、

 

「世界を敵に回しても、つまらない、平凡な僕のまま、僕がやろうと決めたことをやっていくよ」

 

「…………そうかい、……君は面白いねえ。

 平凡で凡俗な、つまらない、ありきたりの事を「そこまでにしておけよ。堕落王」」

 突きつけていた杖が、青の炎に包まれて、破砕。

「そいつはオレが目をつけてたんだ。

 オレの敵、横から掻っ攫うんじゃねぇぞ。堕落王」

「ああ、君かい。絶望王。性懲りもなく出てくるとは、君も諦めが悪いねえ」

「まぁな」絶望王、深紅の瞳を輝かせるウィルは、彼とは思えない、兇悪な笑みを浮かべて「楽しい楽しい、オレの敵を見つけたんだ。なあ? 生きるには、娯楽が必要なんだろ? なあ、堕落王」

「なんだい。君も娯楽の何たるかが解ったのかい?」

「そういうこった」

 絶望王は、レオの前、堕落王と向かい合い立ちました。

「だから、余計なことするんじゃねぇぞ堕落王」

 嗤う絶望王に、堕落王は少し考え込み、「…………日本」

「え?」

「日本、知ってるかい? 極東の小国」

「あ、……うん、知ってる」

「君たちが探し求めてる神性存在かどーかは知らないけどね。

 まあ、行ってみたまえ。そこには、その国で、神、と呼ばれる者がいる。調査とやらのとっかかりには悪くないだろ?」

「本当、ですか?」

 レオの問いに、堕落王は、つい、と。私たちを示しました。

「艦娘。だったっけか?

 その誕生には、あの国で、神と呼ばれる存在が関わっている」

「そうなの?」

 ビスマルクは胸に手を当てて問い、堕落王は首を傾げて「なんだい、自分の事もろくに知らなかったのかい?」

「う、うるさいわねっ」

「ま、信じる信じないは任せるよ。

 なに、ぼかあ、君の行き道に興味を持っただけさ。精々、」

 堕落王は軽く手を振って、にぃ、と寒気がするような、笑み。

「その意思を曲げない事だ少年。

 でなければ、……凡俗で平凡な下らない人よ。期待を裏切った事、死んで償えよ」

 堕落王は、嗤ってそういい、消えました。

 

「な、……なんだったの? 今の?」

 思わず、座り込んだレーベ。ユーは顔を真っ青にしてグラーフの手を握っています。

「兄、さま?」

「…………ん、ごめん」

 ふるふると首を振るウィル。その瞳は、……深紅、ではありませんね。

「ええと? 今の、ウィル君?」

「あ、……うん、…………ええと、二重人格、みたいなものなんだ」

「そ、そう、なんだ」

 そうですね。ミシェーラにとって堕落王の言った事は解らないことだらけでしょうね。

 ともかく、ウィルの言葉に半ば無理矢理頷くミシェーラ。……確かに、それが一番適当、なのでしょう。

「ええと、ミシェーラ。その、」

 なんといったものか、と声をかけるビスマルク。けど、ミシェーラはゆるゆると首を横に振って、

「お兄ちゃん。……随分、無茶苦茶なこと言ってたよね?」

「……ええと、ごめん」

 咎めるような強い口調のミシェーラに、即、平謝りのレオ。

 それを聞いて、ミシェーラは肩を落としました。

「無茶するな、って言っても聞かないよね」

「うん、こればかりはね」

 止めるつもりはない。と、きっぱりと言ってのけるレオ。けど、「提督」

 彼の言葉、レオの友人としてだけではなく、ドイツの軍人としても、問題があります。

「……なんというか、困った縁、ですわね。クラウス君」

「え?」

「まあ、安心しなさいな、レオナルド君。

 世界中を敵に回す必要はありませんわよ? 少なくとも、」

 提督は、微笑みスマートフォンを向けました。

「彼は、味方になってくれますわ」

『もちろんだ』

「って、……ヴィルヘルム、さん」

 海軍の大提督、ですね。画面越しにこちらを見て、

『ミシェーラ、トビー。

 初めまして、私は、ドイツの海軍、大提督、……海軍の長、ヴィルヘルムだ』

「ちょ、大提督っ?」

 一国の海軍の長。民間人に対しそう名乗った彼にビスマルクは慌てて声を上げ、

『構わない』

「……そうですか」

「海軍の、長? え、あ、……どうして、そんな人、が?」

『君の兄、レオナルド君には以前、ドイツで発生した問題で助けてもらった。

 我々はその件で大きな恩を受けている。ミシェーラ君、君の目について、助力を約束しよう。それが、彼への恩返しになるのならば望むところだ』

「は、はいっ」

 緊張か、少し上ずった声で応じるミシェーラ。……は、いいのですが。

「あの、大提督。横で変な音が聞こえるのですが」

 鼻をかむ音とか。

『ああ、隣で首相が感涙しているだけだ』

「へ?」

 素っ頓狂な声を上げるレオ。……というか、いたのですか。

 スマートフォンの映像がずれて、そこには鼻をかみハンカチを目元にあてる首相。

『か、……感動しました。

 そう、その通りですレオナルド君。確かに、確かに人々の進化は大切です。進歩は尊いものでしょう。……ぐすっ、……けど、それは、それは決して、誰かを犠牲にしていいものではありません。

 ええ、ええ、レオナルド君、ミシェーラさん、もし、貴方たちの思いを否定する人がいたら、ぜひ、ドイツにいらっしゃいな』

『首相。個人の過保護は一国の代表として問題がある。

 だが、』

 大提督は一息。おそらく、そして、

『クラウス君。我々の話は、聞いているはずだ。

 どうだ?』

 大提督の問いに、クラウス、ライブラの長は一息。

「我々は、世界の均衡を維持するために活動している。

 その最重要地点がここ、HLだからここを活動拠点としているが、もし、他にも世界の均衡を脅かす存在があるのならば、対処しよう」

『そうか。流石、ラインヘルツ家の者だ』

「…………そうかね」

 クラウスはため息一つ。

「クラウスさん?」

「レオナルド君にはまだ言ってなかったがね。

 日本、という国は、…………「艦娘、ですわ。レオ君」」

「え?」

「艦娘?」

 そういえば、まだ彼らには言っていませんでしたね。

「ミシェーラさん。個人、……ええ、ミシェーラさんよりも小柄な女の子の姿で、一つの軍船に匹敵する戦力を持つ存在がいるのですわ。

 それが、日本に、概算、約、千。ええ、ある意味、かの国は世界最強の軍事力を保持している、と言えますわ。米国も、第二艦隊を失い、弱体化していますものね」

「そ、……そうなん、ですか。

 ちょっと、…………信じられない、かも」

「その意味で、日本は世界でも、ええ、あるいは、ここHLよりも警戒されるべき国なのですわ。

 具体的な脅威が一切不明なので、表立って語られることはありませんけどね。

 それで、レオナルド君?」

「その、日本に、神性存在の手掛かりがある。か」

「ええ、そういう事ですわ。……そして、我々ドイツには、それを手助けする準備がありますのよ。ね? クラウス君?」

 提督の問いに、クラウスは苦虫をまとめて何匹もかみつぶしたような、ものすごく渋い表情。

「………………わかった。だが、明確な脅威となるまでは情報共有のみとしよう」

『それでいい』『ええ、それでいいですよ』

「首相にまで話が飛んでいたのか」

 ……そう、日本の動向は、軍部だけの話では収まらないのです。

 肩を落とすクラウス。彼を見て、提督は満足そうに笑いました。

「交渉、成立ですわ。

 以後よろしくお願いしますわね。クラウス君」

 

「ええと、……なんか、いろいろすんません」

 満足そうに笑って部屋を出る提督。見送ってレオは溜息。

 女医さんは頷いて「ずいぶん大事だったのだな」と。

「だが、我々のやるべき事は変わらない。

 いや、国家レベルでの情報提供が得られるのなら、心強い。……ならば、我々はその分析に尽力すべきだろう」

「そうですね。以前の検査結果、見直してみましょう」

「前にレオナルドがLHOSで受けた検査の結果も持っていこうか。

 それと、神性存在だね。なにか、あったと思うけど」

 ウィルの言葉に「助かる」と、院長。

「あ、……ええと、」

 重なる、助力を告げる言葉。言葉に詰まるレオ。

「…………まあ、これならスティーブンも、…………いや、いいか」

 ため息。そして、クラウスは、ぽん、とレオの頭を軽く叩いて、

「レオナルド君、受け取った情報は随時渡していこう。

 それと、ドイツ、彼女たちとの交渉は君が主導して行いたまえ、我々は全力でサポートはするが、君のやり方を尊重しよう」

「ええ、それがいいわね。

 私たちも、レオなら安心して相対出来るわ」

「…………いや、ビスマルクさん、なんっすか、その、交戦的な笑顔」

「ふ、……ふふ、ええ、いいわね。いつか、レオとは決着をつけようと思っていたのよ」

「なんか、話し違ってないっ?」

 

「なんか、……不思議な感じ」

 帰りの準備のため、一時解散、という形になり、ぽつり、ミシェーラが呟きました。

 不思議な感じ、……そうですね。

「兄の意外な一面、ですか?」

「ん、……うん。…………お兄ちゃん、なんか、」

 そっと、ミシェーラは困ったように手を重ねて、

「ちょっと、……ほんのちょっとだけ、遠く、感じちゃった、な」

「たくさんの友がいて、たくさんの助力を得られて、ですね?」

「うん」

「それが、彼がここにきて得てきたものなのでしょうね」

 それは、私たちも、同様でしょう。

「そうだね。……最初、ミシェーラから話を聞いて、初めて会って、そして、再会した。

 そのたびに、義兄さんは僕が思っているより素晴らしい人だと、そう感じてしまうよ」

 うん、とトビーも頷きました。……そう、なのでしょうね。

 少し、困ったような沈黙。……けど、

「まっ、私が見込んだ騎士様なら、そのくらいのことはしてもらわなくちゃ、ねっ」

 少し無理矢理に、明るく笑ってミシェーラ。……少し、安心しました。

 正直、ああいう空気は、……難しいです。

 トビーも、少しほっとした表情。さて、と、ミシェーラは一つ伸び。

「それじゃあ、最後にお兄ちゃんの顔を見に行こうかな。ねっ、行こう。トビー」

「ああ、そうだね」

 トビーは微笑。

「義兄さんに気後れしても仕方がない。…………いや、」

「トビー?」

 ミシェーラの肩にのせているトビーの手に、微かな力。

「義兄さんに頼ってばかりではだめだ。

 ミシェーラ、僕たちも、いろいろ調べてみよう。……これは、僕たちの事でもある。僕たちにも、出来る事はやっていこう」

「う、……ん。うんっ、そうよねっ、トビー」

 ぱっ、と笑顔で、

「お兄ちゃんに、負けてられないわねっ!

 私の目の事だし、自分で何とかしなくちゃっ」

「そうだね」

 拳を握るミシェーラと、満足そうに微笑むトビー。

「……なるほど、確かに二人は、レオナルド君の家族だね」

 不意に聞こえてきた声。

「あ、クラウスさん」

 ひょい、と顔を出したのはクラウスです。彼は一枚のメモ用紙を差し出しました。

「これは?」

「私の電話番号だ。何かあれば、情報交換に使おう。……その、故郷に戻ったら、連絡が欲しい。

 その時は、改めて私たちのことを話そう」

「お兄ちゃんの、職場」

「ああ、秘密にしていたのですね」

 まあ、ライブラでは仕方ありません。故郷に戻ったら、と念を押したのも、HLでは何があるかわからないからでしょう。

「そうだ。……ただ、事が少し進みすぎてね。

 これ以上、ミシェーラ君たちに秘密を抱えたままというのも難しくなった。ただ、」

 クラウスは、困ったような視線を二人に向けて、

「我々は、……非常に機密性の高い仕事についている。

 関われば危険な目に遭うかもしれない、ほどね」

「私たち、ドイツ軍と関わっているのはそういう面です。

 彼らの存在は、一国としても、無視できません」

 一息。私はミシェーラに視線を向けて、

「極端な話、一般人が口を出すところはない。そういう場所です。

 知るには、覚悟が必要ですよ?」

 ちゃんと言っておきましょう。覚悟もなく首を突っ込まれると、それはそれで面倒ですから。

 …………まあ、必要ない、でしょうけどね。何せ、

「それでも、これは私の事、です。

 お兄ちゃんに全部お任せします。なんて、出来ません」

 彼女は、あのトータスナイトの、妹ですから。

 クラウスは眩しそうに目を細めて、微笑。

「そう、か。……では、君たちにも声を飛ばすようにしよう」

 もしかしたら、それは二人を危険に巻き込むかもしれません、が。

「はい、お願いしますっ」

「僕たちにできる事なら、尽力します」

 おそらくは、そのことを正しく理解して、二人は頷きました。

 

「嬉しそうですね。ミシェーラ」

 からからと、車椅子を押すトビーについて歩きながら、呟いてみました。

「そう、……かも。

 うん、…………やっぱり、遠慮されてた。って思ってたから」

「義兄さんたちに悪意がないのは解っていたし、仕方ないのかもしれないけどね。

 けど、これは僕たちの問題でもある。見ているだけというのも歯がゆくてね」

「それもそうですよね」

 彼も、家族なのですから。

 ともかく、ミシェーラは上機嫌に「頑張るぞー」と、手を伸ばしてトビーは微笑。

「そうだね。義兄さんに負けないくらい頑張っていこう」

 ともかく、騒がしい部屋へ。

 

「と、言うわけでお兄ちゃん。

 私とトビーも、いろいろ調べたりしてみるから、情報提供お願いねっ」

「ほえ?」

 ミシェーラの宣言に、レーベとマックスと話をしていたレオは素っ頓狂な声。

「ほえ、じゃないわよ。

 私たちの目の事について、私とトビーも調べたりしてみるから、何かあったら教えてね?

 あ、私からも連絡するから、その時はちゃんと出てよね」

「ちょ、ちょっと待て待ってっ!」

「まーちーまーせーんっ!」

 つん、とそっぽを向くミシェーラ。レオは、……まあ、彼なりに怖い表情で詰め寄って、

「それが、どれだけ危ない事か、解ってるのかっ?」

「だったらお兄ちゃんも手を引いてよっ!」

「これ以上お前を巻き込めないよっ!」

「巻き込めないって何よっ! 私の事じゃないっ! 除け者にしないでよっ!」

「あれは、僕が悪かったんだっ! 僕が責任取らなくちゃいけない事だっ!」

「なんでお兄ちゃんが勝手に責任感じてるのよっ!

 私が勝手に視力を差し出しただけじゃないっ!」

「あ、あう、み、みしぇーら、れおも、け、喧嘩、だめです」

 睨みあう。……まあ、ミシェーラは失明していますが、ともかく睨みあう二人の間で、おろおろするユー。

 ともかく、ぽん、とミシェーラの肩と、レオの頭を軽く叩くトビー。

「義兄さんも、ミシェーラも落ち着いて、ほら、ユーが泣きそうだよ」

「あ、ごめん」「ごめんね、ユーちゃん」

「はうう」

 ともかく、おろおろしているユーを持ち上げて、ミシェーラの膝の上に載せました。これでよし。

「……ええと?」

「ミシェーラ、レオも落ち着け。

 だが、ミシェーラ。レオのいう事も一理ある。トビーもだ、場合によっては、危険な事になる。それは解っているな?」

「それは、グラーフさんも、……そして、義兄さんもでしょう?

 僕たちも、部外者じゃない。当事者だ。……せめて、除け者にしないでほしい」

「……トビーさん」

 穏かな様子のない、きっぱりとした口調のトビー。レオは困ったような表情。

「それに、クラウスさんとも連絡先を交換しました」

「んなっ?」

 ぎょっとするレオ。ぬっとあらわれるクラウス。

「クラウスさんっ?」

「事を進めるのなら、ミシェーラ君とも連携を取った方がいい。

 保護も、含めてね。それに、彼女に何かあれば、緊急に連絡を取り合う必要がある。違うかね?」

「そう、……だけど、」

 言葉に詰まるレオ。対してミシェーラの隣にレーベとマックス。二人はレオに向き直りました。

「レオ君、もうちょっと女の子の気持ち、考えてあげなよ」

「ん、レーベに同意」

「へ?」

「レオ、妹の事を大切にする気持ちはわかる。

 けど、それはミシェーラも同じ。家族に危険な事をしてほしくないし、もしするなら、自分も傍にいたい。何も知らないところで、何もできないまま、レオに危険な目に遭ってほしくない。……よね?」

「う、……うん」

 照れくさそうに頷くミシェーラ。

「鈍感なレオ君には解らないかもしれないけどね。

 女の子だって、待ってるだけは嫌なんだよ」

「ゆーも、みしぇーらの気持ち、わかり、ます。

 仲間外れは、いや、です」

 ぎゅっと、ミシェーラに抱き着くユー。そして、仲間を得てどや顔で胸を張るミシェーラ。

 ため息。

「……頑固な妹。…………まったく、誰に似たんだか」

 レオの言葉に、にっ、と笑って応じる二人。

「誰だろうね? 僕は体中切り刻まれても立ち続けた誰かだと思うけど?」

「誰だろうね? 僕は崩壊していくHLを走り回ってた誰かだと思うけど?」

「………………はい」

 ため息。ぽんっ、とレオは肩を叩かれて、

「ブラック?」

「ま、僕もレオナルドの気持ちはわかるよ。

 けど、」

 ウィルは、困ったような、……少し、寂しそうな微笑み。

「兄妹なんだろ? なら、離れてても、一緒にいてやれよ。一緒にいてやれるなら、さ」

「…………はあ」

 ため息。レオは両手を上げて、

「無茶するんじゃねぇぞ」

「ま、お兄ちゃんがしない程度には、ね」

「……義兄さん、ミシェーラ、それは危ないって、覚えておいた方がいいよ」

 釘をさすレオにミシェーラは勝ち誇った笑顔で言い返して、トビーは肩をすくめて応じ、……三人で、揃って難しい表情で顔を見合わせました。

「三人とも、だ。

 いいかね? 厳命する。決して無理をしてはならない。何かあったら、すぐに連絡をしたまえ」

「「「はい」」」

 クラウスに言われて、揃ってうなだれる三人。そんな様子を見て、クラウスは微笑。

「我々だけではない。助けてくれる人は他にもいる。

 だから、我々の事情を考慮する必要はない。君たちの友を、存分に頼りたまえ」

 そうですね。頷き、ビスマルクはミシェーラの手を取って、

「そうよ。私たちも手伝ってあげるし、護ってあげるわ。

 だから、……ミシェーラ」

 まあ、そうですよね。……ええ、悪いですけど。

 ミシェーラには兄離れをしてもらいましょうか。ミシェーラの手を取るビスマルク。私たちも手を重ねて、声。

 

「みんなで、一緒に進みましょう。

 大丈夫、貴女の目に光が映らなくても、貴女が光を望むのなら、そこに向かって進むのなら、貴女の友は、みんなで、手を繋いでいてあげるわ」

 

 そういう事。

「だから、レオナルド。

 いつまでも妹の保護者気取ってないで、少しは妹とその婚約者を信じてやれよ。僕たちもいるんだからさ」

「…………わかったよ」

 ウィルの言葉にレオナルドは溜息。仕方ないな、と。

 

「ミシェーラ。……みんなで手をつないで、光を、見つけに行こうか」

 

 彼女の騎士の言葉に、ミシェーラは花の咲くような笑顔で応じました。

「うんっ、……みんなで一緒に、ねっ」

 




 オリ主は初めて書きましたが、ほとんど活躍しませんでした。けど、それでいいのです。もともと、二次創作でのオリキャラは語り部か道化でよかったのです。
 そして、アニメ版ではほとんど登場無し、原作でも妖眼幻視行で登場しただけのミシェーラとトビー、巧く書けている事を祈ります。

 それでは、これにて『艦娘がHLに遊びに来ましたっ!』完結となりました。
 此処までお付き合いくださった読者の皆さま、ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。