一通りのあいさつを交わして、バスに乗りました。
バス、といっても中央に通路があり、両側、向かい合うように長い椅子が並んでいるタイプですが。ともかく、
「けど、驚いた。
お兄ちゃん、ドイツまで行ったんだ。クラウスさんたちって、世界中飛びまわったりもしているんですか?」
「もしそうなら、うちの近くに来たときは是非寄ってください。歓迎します。
義兄さんも、たまには顔を出してほしい」
「あ、……いや、すまないが、その件は非常に珍しいケースでね。基本的に私たちはHLから出る事はないのだよ」
「では、レオがこちらに来たのも、結構な冒険だったのですか?」
彼は、とても優秀な人ですから。私の問いにクラウスは苦笑。
「そうだね。今だから言ってしまうが、レオナルド君が抜けた穴は思っていた以上に大きかったようだ。
問題が起きないようにするのに、想像以上の労力が必要だった」
「へー、お兄ちゃん、優秀なんだね」
「は? あ、いや、僕は優秀な事なんてないけど」
マックスと何か話していたレオは反射的に声を上げて、ミシェーラは楽しそうに「お兄ちゃんだもんねっ」
「…………いや、なんかそういわれると腹立つなあ」
「義兄さん。過ぎた謙遜は嫌味だと思うよ?」
「謙遜っていうか、ほんと、僕、事務仕事とかほとんどできませんよ?」
「そうだよなあ。ドイツで一緒に働いてた時、レオナルド全然手伝ってくれなかったよね?」
「うぐ、……い、いや、…………ごめんなさい」
意地悪いウィルの言葉にうなだれるレオ。
「いや、ウィル。問題はそこではない。
レオが仕事を手伝わないせいで、ウィルの仕事が増えてビスマルクやプリンツに構う時間が減った。真に憂慮すべきはこの事だ」
「レオは敵ねっ! 私は負けないわっ!」
「敵っ? いや、負けないって、僕、絶対に勝てませんけどっ?」
「お兄ちゃん、かっこ悪い」
「………………ごめんな、ミシェーラ。だめな兄ちゃんで」
ちなみに、フォローできないのが困ったものです。いえ、レオはだめな兄ちゃんとは思いませんけど。私たちの事も言えませんから。
ミシェーラにしてみれば、女性に即白旗のお兄さんですね。
「いや、それは違うよ。ミシェーラ」
トビーは真面目に首を横に振りました。
「義兄さんは、女性に手を上げるくらいなら潔く負けを認める。
僕はとても紳士的な行為だと思う」
「…………そ、そうなの、かなあ?」
どーなんでしょうね?
「れお、紳士? 騎士様?」
「ど、どっちも違うんじゃないかなあ?」
「僕にとって、レオナルドはヒーローだよ」「僕にとって、義兄さんはヒーローだよ」
「意気投合してんじゃねぇよ」
がしっ、と手を握るトビーとウィルに胡散臭そうな視線を向けるレオ。
「え? え? あ、あの、ゆーも、れおのこと、ヒーロー、だと思ってます。
だ、だめですか?」
「だ、だめっていう事はないん、だけど。……ええと、さすがに、照れるっていうか。
…………って、義兄さん?」
なんでレオは不思議そうなのでしょうか? そして、問われた先にいるトビーも不思議そうに「変かな?」
「お兄ちゃん、トビーは私の婚約者よ?」
「…………あ、いや、まあそうだけど。
前に来たときは名前で呼ばれてたから」
「ああ、その事か。……そうだね。クラウスさんや、義兄さんの先輩から話を聞いているうちに、義兄さんと家族になれて嬉しいと思うようになったんだ。
強くて優しい、トータスナイトとね。だから、義兄さんと呼びたいんだ。不愉快じゃなければ、だけど」
「あ、いや、不愉快なんてことはない、けど、………………ってか、トビーさんまでそれいうか」
「いいのではないかね? 私は、レオナルド君の事をよく表していると思う」
「クラウスさんまで、……いや、ほんとナイトとか勘弁してほしいし、っていうか、なんだよ、亀って?」
「格好いいじゃないかトータスナイトっ」
「絶対楽しんでるだろっ?」
最後、肩を叩いて笑うウィルにじっとりとした視線を向けるレオ。……そして、笑う声。
「あ、……ご、ごめん。
なんていうか、やっぱりレオ君だなあ、って思って」
楽しそうに笑うレーベ、同感です。
「なんだよそれ?」
「ちょっと安心した。っていう事」
言葉通り、安心した表情を見せるレーベにレオは首を傾げました。
「そうだ。レオ、約束通り私たちはHLに来る事が出来た」
「あ、そうだね」
「れお、ゆー、頑張りました。
だ、だから、……ご褒美、欲しい、です」
とことことレオのところに来てユー。レオは「そうだったね」と、微笑んで、
「頑張ってくれたんだね。ありがと、ユー」
微笑んで丁寧に頭を撫でるレオ。ユーは頬を紅潮させながら嬉しそうに微笑みました。
「えへへ、嬉しい、です」
「では、私もご褒美をもらおう。
では、レオ、私を、抱いてくれる、か?」
「はいいぃいっ?」
「…………お兄ちゃん?」
微かに頬を紅潮させ、問うグラーフと、じとー、と。レオを見るミシェーラ。
「……ええと、レオナルド君。
そういう事は、場所と時間をわきまえてやってもらえないだろうか?」
「真面目っ? いや、やりませんよっ?」
「むぅ」
そして、面白くなさそうなグラーフ。何か期待していたのでしょうか? ……っと、そうそう、そうでした。私は荷物を手に取って、
「それでは、レオ。今夜は付き合えますか? お酒もありますし、HLの事、改めて聞きたいです」
「あ、私もいい? 前来たときは結構ドタバタしてたし、お兄ちゃんがどんな生活しているか聞きたい」
「というか、クラウス君。
皆で泊まる場所はありますの? 事前に連絡したときは宿はあるというお話でしたけど? それと、」提督はミシェーラとトビーに視線を向け「予想外のお客様も来たようですわね?」
「そういえば、ミシェーラたちはどこに泊まる予定だったんだ?」
「え? お兄ちゃんのところだけど?」
「義兄さんなら泊めてくれるって信じてるよ」
「いきなりそんなことあてにするなよっ!」
「ああ、それなら問題ない。
ミシェーラ君、トビー君も、彼女たちは私の家に泊まってもらう事になっているのだが、二人もどうかね? もちろん、レオナルド君、ウィリアム君も」
「え? いいんですか?」
レオは意外そうに応じました。…………ただ、少し残念です。
視線を向けるとレーベとマックス、グラーフも少し残念そうですね。
「そうか、……それは、まあ、ありがたい、か」
「泊まりたい場所があるのかね? ならば無理は言わないが」
ぽつりと零れたグラーフの言葉にクラウスは首を傾げて、
「いや、レオの私室を「是非お願いしますっ! クラウスさんっ!」」
「あ、私もお兄ちゃんの私室を「みんなで一緒に泊めてもらえるなんて、嬉しいっすっ!」」
「…………ま、まあ、それならそれでいいのだが」
意外な剣幕に少し引くクラウス。
「……レオの部屋、見てみたい」
「私っ! 兄さまの暮らしている部屋見てみたいですっ!」
「わ、私は、ウィルの部屋で一緒に寝てもいいのよっ?」
「クラウスさんっ! ありがとうございますっ!」
深く頭を下げるウィルにクラウスは苦笑。
「せっかくHLに来たのだ。
レオナルド君、スマホは持っていてほしいが、彼女たちの滞在中は執務室に来なくてもいい。彼女たちに付き合いたまえ。
どちらにせよ、HLの案内も必要であろうからね」
「あ、ありがとうございます」
「HLの観光案内か。どんなところ見て回ろうかな」
「兄さまの部屋」「ウィルの部屋」
「よし親友、今夜、……は、だめか。
明日、朝にでも作戦会議しようねっ!」
「そうだなっ! みんながびっくりするような場所を探しておかないとっ」
「クラウスさん。お兄ちゃんってどこに暮らしているか知っていますか?」
「クラウスさん。僕たちは義兄さんの家族として、どんな生活を送っているのか知っておくべきだと思います」
「なるほど、そうだね。では、「ちょ、ちょーっと待ってくださいっ!」」
スマホを取り出そうとしたクラウスをレオは大慌てで止めました。ふむ。
「なるほど、レオ。
つまり、貴女の部屋には妹に見せたくないものがある、というわけですか?」
「えろい本か」
「ちょっと待てっ!」
グラーフと一緒に親指を立てました。びしっ! と、
「れ、レオ君、やっぱりそういうの、す、好きなの?
あ、……あの、ぼ、僕、………………僕、あ、あの、その、」
なにを想像したのか顔が真っ赤になるレーベ。トビーは物珍しそうにそんな彼女を見て、
「いい、お兄ちゃんっ!」
「あ、はい」
「えっちなのはだめだよっ!」
「するかーっ!」
「…………あ、HLに入りましたわ」
不意に提督が呟きました。では、
「どれ、どんなところなのでしょうね。HLは」
ユーも椅子に膝をついて窓に張り付きました。そして、私も振り返ります。窓の向こうに視線を向けました。……もちろん、事前に映像は見ました。ドイツもHLに入っていろいろと情報収集はしていますから。
だから、その映像は見たことがあります。けど、
「実際に見てみると、ずいぶんと違いますね」
「ほわー、……す、すごいです」
異形と狂騒の都市、HL。まさにその言葉通りの場所。
「実際見てみると凄いですね。……これは、今から楽しみです」
と、
「楽しみなのはいいが、みんなで一緒に見て回るのは避けたまえ。
さすがに、その人数では目立つからね」
「あ、そうですね」
「レオナルド君、出かけるときは教えてくれたまえ。
手の空いている者を回そう」
「いえ、そこまで「車椅子のミシェーラ君を連れて、迅速に逃げる事が可能かね?」あ」
それもそうですね。少し、困ったような表情のミシェーラ、クラウスは困ったように「すまない」といって、けど。
「ここは危険な都市でもある。
ミシェーラ君、兄に会いに来た君の思いは尊重したいが、だからと言って危険な目に遭わせるつもりはない。どうか、わかってくれたまえ」
「はい、……お心遣い、ありがとうございます」
丁寧に頭を下げるミシェーラ。クラウスは微笑。
「KKはもっとミシェーラ君と話をしたかったと悔やんでいたよ。
もし、ミシェーラ君が良ければ彼女を呼ぼう」
「はいっ、お願いしますっ」
「うん、確かにみんなで見て回ると目立つし、私たち不慣れだから、そういうのは避けたい。
…………そう、観光には綿密な作戦会議が必要ね」
うん、と頷くマックス。ビスマルクはしんみりと、
「観光にも作戦会議が必要、……さすが、HLねえ」
「頑張って楽しみますっ!」
プリンツが拳を握りました。
「あ、……あの、ゆー、れおと、うぃるにまた、会えて嬉しい、です。
それに、みしぇーらたちとも会えて、嬉しい、から、……あんまり、観光、出来なくても、大丈夫、です」
おずおずと手を上げるユー、クラウスは微笑。
「そこまで口煩く言うつもりはないが、まあ、我々が危険と判断した場所には近づかない、程度の制限は掛けさせてもらおう。
代わりに、滞在中は何でも言ってくれたまえ、出来る限りの事はしよう」
そして、クラウスは一息。
「そうだね。では、滞在場所も決まったことだし、皆はこのまま私邸に案内しよう。中に担当の者がいるから、彼から話を聞いて使う部屋などを決めて欲しい。
それと、」
「ええ、私と、」提督は私の肩を軽く叩いて「シャルンで、軽くお話合い、ですわね?」
頷きました。ビスマルクは艦娘たちの取りまとめをしてもらいたいので、提督の秘書は私になっています。
「わかった。では、それで仕事の話をしよう」
クラウスは頷きました。