艦娘がHLに遊びに来ましたっ!   作:林屋まつり

4 / 18
幕間、語り部不在のお話しです。
三人称視点でのお話となりますので、視点変更による面倒はあるかもしれませんが、よろしくお願いします。


四話(幕間)

 

「ここが、クラウスさんの家か」

「凄いなあ」

「義兄さん、クラウスさんは、どこかの名士なのかい?」

 レオナルド、ウィリアム、トビーはきょとん、と見上げる。

 文字通り、見上げる。広大な建物。クラウスの私邸らしい。

 やっぱりすごい人なんだなあ、と。レオナルドは感心。ともかく、

「それじゃあ、行こうか」

 

「お久しぶりですっ! レオナルドさんっ!」

「え?」

「ひぅ!」「ひゃあっ?」

 なんとなく聞き覚えのある大声。首を傾げるレオナルドの隣から悲鳴が聞こえた。けど、声の主はずずい、と近寄ってくる。

「また会えて嬉しいですっ! ギルベルトさんから聞きましたっ! あの時っ! 私の居場所を突き止めてくれたのは君だってっ!

 どうしてもっと早く言ってくれなかったのですかっ!」

 彼の姿を視界に収めて、思い出す。ラインヘルツ家から派遣されたコンバットバトラー。

「ああ、いや、……フィリップさん、落ち着いて、落ち着いてっ」

 どうどう、とレオナルドは制する。制しながら視線を横へ。

「み、ミシェーラっ、大丈夫かいっ?」

「ユー、落ち着くんだ。大丈夫だ」

 くわんくわんと、揺れているミシェーラと彼女の肩に手を置くトビー。そして、いきなりの大声で半泣きのユーはグラーフに抱き付いていた。

「フィリップさんっ、声大きいんですから」

「あ、……ええと、申し訳ない」

 気まずそうに頬を掻く執事、フィリップ。彼は勢いのある一礼。

「本日より皆様のお世話兼ガードをすることになりましたっ! フィリップ・レノールですっ!

 どうぞよろしくお願いしますっ!」

「あ、…………はい」

 抑えきれなかったのか、これでも抑えたつもりなのか、……ともかく、変わらず大きな声に目を白黒させるウィリアム。

「こ、声が大きい、のね」

「ミシェーラ、大丈夫?」

 心配そうにレーベ、「私は大丈夫」と、ミシェーラは応じて、

「けど、ユーちゃんは大丈夫? 大人しそうな娘だったし」

「ああ、大絶賛半泣きだ」

「あらら」

 困ったような表情のミシェーラ。彼女は軽く手を広げて、

「ユーちゃん、おいでー」

「うん」

 グラーフに泣きついていたユーは、ところことミシェーラのところへ。そのまま抱き上げられて膝の上に座る。

「落ち着くまでこうしていようね」

 ミシェーラは丁寧にユーに触れて、撫でてもらうと心地よい場所を探していく。

 ユーはくすぐったそうに目を細め、嬉しそうに身を委ねて、

「いい子いい子、大丈夫だからね」

「…………うん、……えへへ、ミシェーラ、お姉ちゃんみたい、です」

「あ、それはいいわね。

 私、妹とかいなかったし、ちょっと憧れてたかも」

「ん、……お姉ちゃん」

 嬉しそうなミシェーラの声を肯定と受け取り、ユーは心地よさそうに呟く、で。

「お、お姉さまっ! だ、大丈夫っ!

 プリンツがいますっ! お姉さまの妹にはプリンツがいますっ!」

 当然、ミシェーラはビスマルクが青ざめたことなど気付かない。必死にフォローするプリンツを横目に、ミシェーラは丁寧にユーを撫でていた。

 

「やっぱ、広いな。……さすがクラウスさん」

 ユーの警戒音を聞いて灰になりかけたフィリップを何とか起こし、案内してもらった一室。レオナルドは辺りを見渡して呟く。

 ライブラのリーダー、クラウス・V・ラインヘルツ。

 それなりに長い付き合いだが、家系や素性としての部分に触れるのは初めてかもしれない。

 しばし、感心して室内を見ていると、戸を叩く音。

「あ、はーい」

「レオ君、いい?」

「レーベ?」

「私もいるわ」

 声二つ、レーベとマックス。「いいよー」と応じると、二人が入ってきた。

 

 …………ふと、思い出したこと。

 

「ええと、……なんていうか、ごめん。

 あんまり話とかできなくて」

 二人が、自分に好意を向けてくれていることは知っている。けど、

「まあ、残念だけど、仕方ないよ。

 妹さん、いきなり来たんだよね?」

「あれは本当にびっくりしたよ」

 苦笑するレオナルド。そのまま二人と部屋にあるソファに腰を下ろす。

「けど、いい妹さんよね。

 うん、私も好きになれそう」

「そっか、よかった」

 微笑。自慢の妹だ。彼女たちとも仲良くしてくれると嬉しい。

「目が見えなくて、それに、足も不自由で、それなのにあんなふうに笑えるんだね。凄いなあ。

 僕、想像できないよ、そんな生活」

 無理をしているようには見えない。気遣いも感じない。

 思わず笑い返したくなるような、明るい笑顔。ユーが懐くのもよくわかる。だから、そこにどれだけの苦労や苦悩を乗り越えたのか、想像もできない。

 同時に思う。レオナルドの妹、と。

 深海凄艦の侵攻で、身を守る力なんて何もないのに、それでも自分たちを守ってくれたとても強いトータスナイト。ミシェーラも、彼と同じように強い女の子。

 そう、感じた。

「あいつには支えてくれる人がいるからね。

 ほんと、トビーさんには頭上がらないよ」

「義弟さん?」

「…………そう、なんだよなあ」

 確かに、妹の夫なら義弟だ。トビーはそう思っているだろう。けど、

「義弟かあ」

 弟、という感じが全然しない。彼の方が年上だし。あの落ち着いた物腰は見習いたい。

「トビーさんも、レオ君の事ヒーローって言ってたけど、何かあったの?」

「…………まあ、いろいろね」

 興味津々と問いかけるレーベにレオナルドは苦笑。彼の事を語るのなら、彼もいた方がいいだろうから。

 レオナルドもトビーの人格には好感を抱いている。義兄はともかく、身内になる事は嬉しい。彼を婚約者として選んだ妹の見る目はいいと思っている。

 けど、そういう問題じゃない。彼の事を勝手に語りたくはない。

 だから、

「そうだね。夕食のときか、そのあとか。またみんなでいろいろお話しようか。

 シャルンもそんなこと言ってたし」

 一緒にたくさん話をしよう、と。別れ際、シャルンはそういってた。そして、また、会えた今も。

 だから、

「うんっ、僕っ、楽しみにしてるねっ」

「私も楽しみ、ミシェーラとか、トビーともお話ししたい。

 クラウスにも、いろいろ聞いてみたい事もあるわ」

「クラウスさんに、どんな事?」

「もちろん、レオの事」

「…………い、いやあ、僕の事聞いても、面白くないと思うよ」

 クラウスなら変なことは言わないだろうが。それでも、レオナルドは両手を上げる。けど、

 ずい、とマックスは一歩前へ。

「好きな人の事は何でも知っておきたい。

 不思議な事じゃないわ」

「え、……え、ええ、と」

 目と鼻の先に迫るマックスの整った顔立ち、そして、彼女の言葉。

 好きな人、と。そういわれてレオナルドは動きを止めて、

「だ、だめーっ!」

 レーベは二人を引きはがす。そのまま妹から守るようにレオナルドを抱きしめて、

「マックスっ! そんなにくっついたらだめっ!」

 威嚇する猫のように妹を睨むレーベ。そして、マックスも膨れる。

「レオの事抱きしめてるレーベにそんなこと言われたくない。

 っていうか、離れて」

「ふぇ?」

 不機嫌そうなマックスの言葉に、レーベは、ふと、視線を向ける。

「あ、……え、えーと」

 気まずそうな表情のレオナルドが腕の中にいた。

「あ、…………う」

 顔がじわじわと赤くなる。けど、

「れ、レオ君。

 あ、……あの、あの時、お願いしたご褒美、いい、よね?」

「ええと、…………こ、これでよければ」

「う、うん」

 顔を真っ赤にしながら、嬉しそうにレオナルドを抱きしめるレーベ。当然、さらに膨れるマックス。

「いつまでくっついてるの、レーベ。終わり、どいて。

 次、私」

「次っ?」

 無理矢理レーベを引きはがすマックス。レーベは唇を尖らせるけど、無視。

「…………レーベはよくて、私はだめなの?」

「い、いや、だめって事はない、けど、」

「じゃあキス」

「うぇぇえっ?」

「どっちか」

 つい、とそっぽを向いてマックス。もちろん、恥ずかしい。顔が紅潮しているのはわかる。

 けど、ここに来るまで頑張った。いつか会えるその日を夢見て、頑張ってきた。

 そして、念願叶った今日。妥協なんて、したくない。

「…………ええと、……はい」

 レオナルドは困ったような微笑。困らせたこと少し申し訳なく思うけど。

「こ、これでいいよね?」

 ぎこちなく抱き寄せる彼の腕の中。マックスは心地よさそうに目を細めた。

 

 レーベとマックスといくつかの話、軍での生活とか、そこでできた思い出を話して、レオナルドは二人と部屋を出る。

 部屋を出れば円卓といくつかのソファがある広間。そこにはユーを膝にのせて撫でるミシェーラと、グラーフと何かを話し合っているトビーがいる。

 トビー、…………ふと、レオナルドは一息。

 そう、あの時、初めて会った時は話す時間はなかった。だから、

「あ、義兄さん」

「レーベ、マックスも、話は終わったみたいだな」

 すべて心得ている、と。にや、と笑うグラーフにレーベとマックスはそっぽを向く。

「ええと、トビーさん」

「ん?」

「話ておきたい事があるんだけど、後でいい?」

 グラーフと話をしていたのだ。それが終わってからでいい。

 そう告げるレオナルドにグラーフは意地悪く笑う。

「いや、いい。大した話はしていなかった。

 私はレーベとマックスに戦果報告を聞こう」

「話すことなんて、別にないわ」「い、いいよそんな事っ!」

 なにを思い出したのか顔を赤くする二人。グラーフはとても、とても楽しそうに笑う。

 そして、

「どうしたんだい? 義兄さん」

「あ、……うん、ちょっと、」

 穏かに問いかけるトビーに、レオナルドは軽く手招き。借りる部屋へ。

「義兄さんとは話したい事がたくさんあるけど、どんな事かな?」

「ああ、…………ええと、僕たちの眼の事、なんだ」

「…………そうだね。

 それは、義兄さんから直接聞いておきたいと思っていたんだ」

「ああ、僕も、トビーさんには直接話をしないといけないって、思ってた」

 それは、トビーの大切な人から、人並みの幸せを奪い取った者としての、義務だから。

 一息。

「ミシェーラの、……貴方の大切な人の光を奪ったのは、僕だ」

 告げた言葉。…………ではなく、真っ直ぐに自分を見て告げる彼に、トビーは内心で感心する。

 その自責も、後悔も、聞いている。……あるいは、罪にさえ感じているかもしれない。いや、感じているだろう。

 強くて優しいトータスナイトなら。

 それでも視線は逸らさない。その現実に嬉しくなる。

「ミシェーラから、そのことは聞いているよ」

 その時の事はミシェーラから聞いている。その時はまだ、彼女の目も見えていた。当然、それが異界の存在によるものだと知っている。

 ただの青年でしかないレオナルドに抗うことは出来ないだろう。けど、仕方なかった、とは言わない。

 レオナルドとミシェーラを知らなければ、仕方なかった。と、言えたかもしれない。けど、二人と出会った。ミシェーラを愛し、レオナルドに敬意を持った。だから、仕方ない、なんて、そんな言葉は絶対に口にできない。

 だから、

「そうだね。それを聞いた時、僕はミシェーラを勇気ある人と思ったよ。もちろん、今でもそう思っているけどね。

 兄のために、自分の視力を差し出した勇敢な女性、とね」

「そうだよな。…………ほんと、僕にはもったいない、妹だ」

 自嘲。……「不思議だね。そんな表情まで兄妹そっくりだ」

「え?」

「兄の視力を奪った。弱い自分がその自責に耐えられるとは思えなかった。

 ミシェーラは、今の君と同じような表情で、そういったよ」

「なん、だよ。……それ」

 ぽつり、呟くレオナルド。

「もし、あの時動かなければ、兄の視力を奪ってしまう。

 それが怖くて、不安で、嫌で、……だから、視力を差し出した、って言ってたよ。もちろん、ミシェーラはそれで義兄さんが得る自責も、後悔もわかってた。

 けど、」

 

 卑怯だよね。

 

「そんな思いをしたくない、……って、ミシェーラは言ってたよ。

 さっきの、義兄さんが浮かべてた、そのままの表情でね」

 さっきの表情。その時感じていたのは、……自責。

「……あいつ、そんなものまで、背負ってたのかよ」

 呟くレオナルドから感じたのは憤り。トビーはそれを察して微笑む。

「優しい娘だからね」

 だから、

「義兄さん。ミシェーラの婚約者としてお願いする。どうか彼女を責めないでほしい。

 そして、義兄さんも、……いや、僕の婚約者のためにも、後悔を引きずらないでほしい。それは、彼女も辛いだろうからね」

「…………トビーさんは、僕の事、怒ってないの?」

「その、異界の存在に目をつけられた理不尽には憤りを感じる。

 けど、僕はミシェーラの決断を尊く思う。それに、渡航警告都市に居を移してまで、ミシェーラの視力を取り戻そうとする義兄さんの行動も、尊敬している。

 だから、怒る事なんて何もない」

 疑問を一切抱かせない、力強い言葉。それを聞いて、レオナルドは一息。そして、

「トビーさん。

 ミシェーラの、妹の婚約者になってくれて、ありがとうございます。いろいろ不便をかけると思うけど、……けど、妹をよろしくお願いします」

 深く、頭を下げる。トビーは、……不意に、涙が滲みそうになり、軽く目に触れる。振り払う。

「その言葉だけでここに来た甲斐があったよ。

 たとえ足が悪くても、目が見えなくても、僕はミシェーラを愛してる。不便なんて思っていない。義兄さん。ミシェーラの事は、任せて欲しい」

 言葉を交わし、そして、固く、強く、握手を交わした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。