艦娘がHLに遊びに来ましたっ!   作:林屋まつり

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五話

 

 クラウスの私邸に到着、ウィルとプリンツに、私が使う予定の部屋へ案内してもらっています。

 それにしても、……外から見ても思いましたが。

「それにしても広い家ですね。

 きっと、名士なのでしょうね。彼は」

「そうみたいだね。……まあ、レオナルドもよくは知らなさそうだけど」

 おや? 確か、

「そうなのですか? クラウスはレオの上司、だったはずですが」

「いろいろ秘密が多いんだよ。たぶん。……僕もよくわからないけどね」

「そういえば、レオ君はLHOSの人じゃないんですよね?」

 HLから来た、とは聞いていますが。

 問いに、ウィルは微笑。

「それなら楽しいだろうけどね。ただ、違うよ。

 詳しい事はレオナルドか、クラウスさんに聞いてみてよ」

「そうですね」

「詮索無用っていう事ですか?

 ううん、……そういうの難しいです」

 むー、とうなるプリンツ。ただ、そうですね。

 組織間の機微、というのはまだ難しいです。そのあたり、もっと学ばなければなりません。

 私たちも、ドイツの軍人なのですから。

「それにしても、広い家です。

 いいなあ、こういうの、憧れちゃうなあ」

「綺麗にされていますしね」

 広い、だけではありません。手入れも行き届いています。

 ともかく、私の部屋に到着。…………広いです。

 部屋の中央にソファと机やら。そして、ふかふかしていそうなベッド。……ただ、クラウスの持ち家らしく、あまり家具の類はありませんけどね。

「いいなあ、私もこういう広い部屋、欲しいです」

「そういえば、プリンツたちはどういうところで暮らしているの?」

 うっとりと室内を見回すプリンツ。彼女を見て、少し眉根を寄せてウィル。

「大丈夫ですよ。そんなに不便な生活はしていません。

 外出制限はありますけど、それは覚悟していましたから」

 ただ、……苦笑。

「確かに国軍ですけど、さすがに私室にこれだけの部屋を期待するのも、ねえ?」

「あー、確かに」

 ほんと、広いんですよ。この部屋。

「ふふ、私たちの生活に興味がありますか?」

「…………ま、あ、気にはなってたよ」

「女の子の私生活に興味があるんですねっ!」

「そっちっ? いや、違うよっ!」

 まあ、そうでしょうね。

「う、……に、兄さまなら、ちょっとくらい恥ずかしい事聞かれても、答えますっ!」

「いや、いいよっ」

「むー」

 プリンツがむくれました。

「そういえば、シャルン。

 ビスマルクは? 一緒に出迎えに行ってたと思うけど」

「ユーをミシェーラに取られたとか、めそめそしてましたね。姉さま」

「ま、……まあ、ビスマルクは面倒見もいいし」

「否定はしませんが、それだけではないでしょうね。

 ビスマルク、あれで子供っぽいところがありますから」

 私の言葉にウィルとプリンツは顔を見合わせて笑いました。否定はありませんね。

 ともかく、荷物をしまって一息。

「それで、しばらくは自由行動ですか?」

 私邸という事を考えれば不躾かもしれませんが、生活の場なら家の中を見て回りたいです。

 私の問いにウィルは時計を見て「そうだねえ。昼食は十二時だから、それまでは特に決めてないよ」

「では、案内をお願いします。

 プリンツも、一緒にどうですか?」

「もちろん行きますっ!」

 …………いえ、肯定はいいのですが、なぜ私は睨まれたのでしょうか?

 

 質素で上品。この私邸を表現するならこの二つが何よりも適切です。

 装飾よりも座りやすさを優先した長椅子も、綺麗な木目の浮かぶ机も、過度な装飾を好まない落ち着いた雰囲気です。

 それでも殺風景に見えないのは、ところどころに飾ってある鉢植えのおかげでしょうか。

「わあっ、これ綺麗っ」

 机に飾られた一輪の花。それを見たプリンツは嬉しそうに声。と。

「気に入ってくれたかい?」

「あ、」

「クラウスさん」

「やあ、ウィリアム君、プリンツ君、シャルン君。

 散策かね?」

「はい、私邸の中をうろうろするのも不躾で、申し訳ないのですが。

 しばらくお世話になる場所なので、一通り見ておこうと、二人に頼みました」

 軽く一礼。クラウスは「いいよ」と微笑み。

「好きなだけ見て回りたまえ。

 大して面白くないところだが」

「そんな事ないですっ!

 すっごく品がよくて、居心地いいですっ! 鉢植えとかも綺麗で、ずっとここで暮らしたいくらいですっ」

 きらきらとプリンツ。クラウスは嬉しそうに微笑。

「そうか、それはよかった。……その鉢植えは私が育てていてね。

 そう言ってもらえれば嬉しい」

「え? これクラウスさんが育ててたんですか?」

「え、……意外です」

「そうかね? 園芸は私の趣味なのだが」

 …………ええ?

「…………そんなに意外かね?」

 ごめんなさい、一対一の殴り合いでステゴロ最強、とか言っているイメージでした。

 少し困った表情のクラウスは、やがて苦笑。

「中庭にも、私が育てた草木がある。

 よければ案内をしよう」

「はーいっ」

 笑顔で手を上げるプリンツ。もちろん、

「楽しみですね」

「そうだね。…………HLの植物かあ」

 困ったような表情のウィル。クラウスは苦笑して「危ないものは植えていないよ」

「…………あるんですね、危ないものも」

「気を付けたまえ、ここは超常の街。HLだ。

 食人性の植物は発見され次第焼却処分されているが」

「そうだねえ。睡眠ガスが噴き出すくらいの植物なら普通に生えてるから、下手に触ったら危ないのはあるね」

「……雑草にさえ油断が出来ないんですね。HL」

 笑いどころを逃がしたような微妙な表情のプリンツ。けど、同感です。

 

「あ、くらうすだ」

「クラウスさん?」

「ああ、ミシェーラ君。ユー君」

 ユーを膝にのせてのんびりしているミシェーラです。……なんていうか、ユー、猫みたいです。

「今は、二人?」

「あ、……ええと、ウィル君?」

「うん、僕とプリンツとシャルンもいるよ」

「プリンツさん、シャルン、さん」

 自分に刻むように名前を呟くミシェーラ。……眼が、見えないんですね。

 だから、私は膝をついて、彼女の手を取って、改めて、

「シャルンです。よろしくお願いしますね」

「プリンツ・オイゲンっ!

 プリンツでお願いねっ、ミシェーラちゃんっ」

 私が触れる手にプリンツも触れ、ユーも、仲間外れはいやだったのか、手を伸ばして、

「……うんっ、よろしくっ、シャルンっ、プリンツちゃんっ」

 嬉しそうな笑顔。…………ほんと、華やかというか、可憐というか。

「そうだ。ミシェーラ君、ユー君。

 これから、中庭に、私が育てた草花を見に行こうかと話をしていたのだが、一緒にどうかね? …………トビー君やレオナルド君は、いないようだが」

 そういえば、トビーがいませんね。

「お花? ゆー、みたいですっ!

 あ、あの、みしぇーらも、一緒、がいいです」

「うん、一緒に行こうね。ユーちゃん」

「トビーさんとレオナルドは?」

 首を傾げるウィルに、ミシェーラは少し頬を膨らませて、

「グラーフさんとお話してます」

「そうかね? では、「あ、車椅子は私が押しますよ」」

 視線を向けてクラウスを牽制。ミシェーラは苦笑。「お願いね、シャルン」

「お任せください」

「じゃ、行こうか」

「ああ、こっちだ」

 先頭に立って歩き出すクラウスと、彼と言葉を交わすウィル。

「植物、お花、楽しみです。

 綺麗なの、ある、かな?」

「うん、きっとあると思うよ。……あ、私も匂いくらいはわかるわっ! 花は見れないけどっ」

「………………いや、ミシェーラ君。すまない。

 その、香りだけでも楽しんでほしいと思ったのだが」

「い、いえいえっ! 楽しみですっ!」

 俯くクラウスに大慌てで手を振るミシェーラ。苦笑。

「……ほんと、反応に困ること言うんだね」

「え? ウィル君。ほんと、って?」

「ああ、前にレオナルドが言ってたんだ。

 なんとも反応がしにくい冗談を言うとか」

 確かに、困りますよね。あれ。

「もうっ、お兄ちゃん、どうしてそんな変なこと言うのっ」

「変も何も、大まかに事実だと思います」

 プリンツの言葉にクラウスも苦笑で頷き、ぷぅ、と膨れるミシェーラ。

「うう、プリンツちゃん、ひどい」

 ふと、膨れるミシェーラの顔を見て思い出した言葉。

「そういえば、トータスナイト、と名付けたのも貴女なんですよね?」

「レオ君が騎士様ねっ」

 プリンツの言葉にミシェーラは嬉しそうに頷いて、

「ええ、私の、自慢の騎士様よ」

「トータスナイトだね。

 ミシェーラ君、私も素晴らしい名前だと思う。どうかね? ウィリアム君」

「僕も同感。戦うことは出来ないのに何があっても退かない辺り、……亀だなあ」

「ずいぶんと危なっかしい亀ですね」

 呟いてみると、ミシェーラとウィルは同時にため息。

「あいつ、自分を大切にするとか、考えないのかな?」

「……お兄ちゃん、喜んで無茶しそう」

「…………まあ、レオナルド君も、………………」

「クラウス?」

 言葉に詰まった彼。気になって聞いてみればクラウスは深刻な表情。

「何か、考えがあるのだろうか?」

「知りませんよそんな事」

 

 ともかく、中庭に到着。

「ふぁぁあああっ! す、すごいですっ!

 お花、綺麗ですっ!」

「うわー、すごい。

 これ、全部クラウスさんが?」

 こじんまりとした中庭、そこに丁寧に植えられた木々や花。

 ユーがきらきらしています。けど、気持ちもわかります。

「まあ、……使用人に頼ってしまうところもあるが」

「ライ、……いえ、クラウスも仕事は忙しいのでしょう。

 その合間を縫ってなら、凄いと思いますよ」

 任せきりというわけでもないでしょうから。私の言葉にクラウスは微笑。

「そういってもらえると嬉しいよ」

「…………って、兄さま、結構真剣?」

 矯めつ眇めつ、植えられている植物を見るウィル。

「薬草になりそうなのとか、あと、ハーブとか多いんですね」

「まあ、せっかくの趣味だからね」

「実益も兼ねているんですね。……凄いなあ」

「といっても、人類以外には効果がないものも多くてね。最近は園芸の先生にもアドバイスを受けているのだが、なかなか難しい。

 実益といっても、ハーブティー位だよ」

「あっ、クラウスさん。いただいてもよろしいですか?」

「もちろんだよ。

 ミシェーラ君、希望を言いたまえ、出来る限り用意しよう」

「お願いしますっ」

「あっ、これ可愛いっ! 兄さまっ! こっちこっちっ!」

「ん、…………へー」

 一輪の花を一緒に覗き込むプリンツとウィル。……非常に顔が近いので、程なくウィルの驚いた声が聞こえてくるでしょう。

 ビスマルクがこの場にいない事に感謝。

「それで、ミシェーラ。少し移動しますか?」

「はいっ、お願いしますっ」

 現時点ではいい雰囲気のプリンツとウィル。……若い人同士残してからからと車椅子を押しました。

「ふぁー」

 そして、きらきらしながらミシェーラの膝の上で変な声を上げるユー。

「こういうところはあまり来ないのかね?」

「そうですね。職場にいる事が多いですから」

「職場? ユーちゃんも働いてるの?」

 ミシェーラの問いに、ユーは相変わらず変な声を上げながら「あ、違い、ます。会社の中に、子供を預かる場所があって、私、そこに行っています」

「そうなんだ」

「あ、……あっ、綺麗な、お花」

 見上げました。……ああ、けど、高いですね。

「どれ? …………あれか、待ちなさい。取って来よう」

「あ、」

「ん?」

 少し、沈んだ声を上げるユー。クラウスは彼女に視線を向けて「どうしたのかね?」

「あ、…………あ、あの。

 綺麗なお花、みしぇーらに、プレゼント、したい、です」

「え? あ、ありがとうっ、ユーちゃんっ」

 嬉しそうにユーを撫でるミシェーラ。クラウスも微笑みその様子を見守り、ふと、

「そうだね。……では、自分でとるかい?」

「そうしたい、です。……けど、ゆー、届かないです」

 しゅんとするユー。

「肩車でもしてあげたらどうですか?

 クラウスなら問題ないでしょう」

 クラウスなら軽く手を伸ばせば届く位置ですし。

「い、いいです、か?」

「構わないよ」

 腰を落として背を向けるクラウス。ユーはミシェーラから降りて肩車。

 ちなみに、ユーが離れてミシェーラが少し残念そうな表情でした。……まあ、それはそれとして、

 ひょい、と肩車をしてクラウスは立ち上がる。……いえ、まあ、鍛えているのは解っていますよ。

 けど、少女とはいえ人一人肩にのせて普通に立ち上がるのと変わらないスムーズな挙動。驚きです。

「ふぁ、……た、高い、です」

「大丈夫かね?」

 大丈夫でしょう。すっごいきらきらしていますよ。ユー。

「び、ビスマルク姉さんより、高いです。シャルンも、下に、います」

「そうですね」

 なんとなく手を伸ばしました。ユーはなぜか嬉しそうに手を握り返しました。

「花は、とれるかね?」

「あ、大丈夫、です。……うん、…………しょ。

 取れ、ました」

「では、降りようか」

 す、と。膝を折るクラウス。そして、ユーはぱたぱたとミシェーラのところへ。

「あ、あの、みしぇーら、お花、です」

 そういって、ユーはミシェーラの手を取ってお花を載せました。

 ユーが手を離す。ミシェーラは花を顔に寄せて、

「うん、いい匂い。……ありがとう、ユーちゃん」

「えへへ、……あ、あの、お近づきの印、です」

 少し胸を張って、ユー。ミシェーラは嬉しそうにユーを撫でて、

「大切にするね。それじゃあ、ユーちゃん、またここに来る?」

 ぽん、と太ももを軽く叩くミシェーラ。けど、

「あ、…………あの、くらうす、肩車、いい、ですか?」

「ん、ああ、構わないよ。

 気に入ったのかね?」

「はい、……あの、すっごく高くて、びっくり、しました。

 見えるのが、違うって、面白い、です」

「ああ、そうかもしれないね。

 それに大したことではない、このくらいの事なら遠慮せず言いたまえ」

「はい、えへへ、ありがとう、ございます」

 肩車をして、のっそりと歩き出すクラウスと、はしゃいだ声を上げるユー。…………で、

「……なんていうか、まあ、気にしないでください」

 太ももに手をのせながらしょんぼりとしているミシェーラ。ビスマルクの気持ちを軽く噛みしめているのかもしれません。

 

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