艦娘がHLに遊びに来ましたっ!   作:林屋まつり

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七話

 

 声のでかい男性が作ったとは思えない、美味しい料理を食べて一息。

 割り当てられた部屋、……まあ、他人の私邸ですが自室でいいでしょう。自室に戻って、

「さて、どこに遊びに行きましょうか」

 

「と、いうわけで、遊びに来ました」

「あ、うん。どうぞー」

 ウィルの部屋に突撃です。途中でちらりとレオの部屋も覗いてみましたが、レーベとマックスに楽しそうにレオの事を話すミシェーラと、顔を赤くしたり青くしたりするレオが見えたので、後で根掘り葉掘り聞きましょう。

 室内にはウィルと、

「プリンツ、ビスマルクもここでしたか。それと、」

「やっ」

 スティーブンが気楽に手を上げていました。

「スティーブンも、遊びに?」

「まあね。こんなに楽しそうなお客さんなんだ。遊んでおかないと損をする。

 そうだろ? ウィル」

「あはは、ま、そうだね」

「それに、ミシェーラたちがいるところだと、話しにくい事もあるからね」

 ああ、まあ、それもそうですね。

「それにしても、レオからの報告書を聞いた時は度肝を抜かれたよ。

 軍船の魂とかね」

「後者はそもそも、日本、の…………なんなんでしょうね?」

 技術、ではないらしいのです。日本の出向いた時に会った時雨、という駆逐艦の少女は信仰、と言っていましたが。

「生物ではない、物にも魂が宿るっていう事よ。

 面白いわね」

「異界の技術、というわけではないんだね?」

「だと、思う」

 どうなのでしょうね? 本当に、

 何せ、日本。独自の神々を信仰し続けた不思議の国ですから。もしかしたら古来から異界との接触や技術の伝達があったのかもしれません。

 もちろん、ウィルのような術師もいたのでしょうし、そうした者たちを中心に人界として技術を発展させた末、なのかもしれませんが。

 ウィルは困ったように両手を上げて、

「僕たちLHOSでも日本は手を出しかねているだ。

 ほとんど情報もなくてね」

「LHOSでもか」

「ええと、日本の、艦娘。って、数も揃ってて、それに、すっごく強い娘もいました。

 残念ですけど、ドイツはずっと後進です」

 プリンツがしゅんとしました。確かに、その通りです。

「なるほど、確かに俺達ライブラも無視はできないかもしれないな。

 ウィル、LHOSの方で動きは?」

「今のところ、その予定はないよ」

「そうか、……まあ、明確な脅威にもなってないし、しばらくは情報収集かな」

「そうなるわね」

 スティーブンの結論にビスマルクは苦笑で応じました。といっても、喧嘩吹っ掛けて勝てるわけもありませんから。

 私は肩をすくめて、

「非公式ですけど、とりあえずは私たちで、出来るだけ友好に付き合って、脅威の程度を計ります。

 ライブラに協力を依頼するのはその状況次第ですね」

「お手柔らかに頼むよ」

「もし、脅威になるのなら、」

 不意に、ウィルは小さく呟きました。そして、真っ直ぐ私たちを見て、

「僕も、手伝わせてほしい」

「少年、LHOSの都合はいいのかい?」

 試すような、スティーブンの言葉。対してウィルは首を横に振って、

「そんなこと関係ないよ。……いろいろ、理由はあるけど、手伝いたいんだ」

「ウィル、戦場になるっていう意味、解っている?」

 強い視線を向けるビスマルク。ウィルは困ったように微笑んで、

「わかってる。つもり、……それに、ビスマルクたちも、嫌がるかもしれない。

 けど、大切な人が危ない事になってるのに、傍観するなんて、したくない」

 真剣な表情で、真っ直ぐにビスマルクを見るウィル。…………溜息。

「類は友を呼ぶというか。……共闘はいいけど、無理しないでくれよ」

「あはは、善処します」

 困ったように応じるウィル。…………は、いいのですが。

「ビスマルクは、……だめですね」

 顔を真っ赤にしてふらふらしているビスマルク。まあ、理由は解りますよ。

 普段は穏やかで優しいウィルの、珍しい、きりっ、とした表情に見つめられて、……いろいろあったのでしょう。

「姉さま、姉さまー」

 プリンツが揺さぶっても反応しません。スティーブンとウィルはそんな彼女を見て、

「ええと、どうしたの? ビスマルク」

「きっと少年が原因だ。

 何とかしてやってくれよ?」

「え? 僕?」

 意地悪く笑うスティーブンと、不思議そうに首を傾げるウィル。……まったく、

「本当に、いろいろな意味で、貴方には困ったものです」

「困った、って言われてもね?」

 理解できなさそうに首を傾げられました。だから困るのですよ。

 

「それにしても、本来ならゲストである君たちがなんで準備までやるの?」

 スティーブンの苦笑が聞こえました。

「まあいいではありませんか。

 HLはいろいろと見て回りたいのです」

「そうだな、遠慮をすることはない。

 いろいろ楽しみだ。……そうだ。スティーブン、レオの家は知っているか? ついでに案内して欲しいのだが」

 と、いうわけで私とグラーフも同行しました。ちなみにクラウスの私邸ではクラウスの指揮の下、ユーたちがいろいろやっているのでしょう。

「いやあ、さすがに少年のプライベートだからね。勝手に教えるわけにはいかないよ」

「むぅ」

 面白くなさそうにグラーフ。「そんなに興味あるかい?」

「気になる異性の部屋は一度覗いてみたくなるものだろう?

 スティーブンは、そんな事はないか?」

「…………いや、俺には経験ないな。

 けど、そうか。……少年にも春が来たか。というか、ずいぶんと好かれているみたいだね」

「そうですね。彼の人柄によるものでしょう。

 私は、例の仕事で途中から加わりましたが、ウィルとレオの人柄には好感を持っています」

 グラーフも頷き、「だから、なんだろうな。あの少年が、ライブラに所属しているのは」

「《神々の義眼》が理由、ではないのですか?」

 それ以外、レオは普通の少年です。こういっては難ですが、伝え聞くライブラの一員としてはふさわしくないでしょう。

 故の問いに、スティーブンは微笑。

「それだけだったら所属はさせないさ。もちろん、協力はしてほしいけどね。

 といっても、明確な理由もないし、…………結局、人柄、なんだろうなあ。言葉にすればいろいろとあるんだろうけど」

「正直、今まで女性関係がほとんどなかったのが意外です。……まあ、」

 窓から外を見ました。苦笑。

「普通の少年が、この都市で色恋沙汰というのも、難しいかもしれませんが」

「同感だ。良くも悪くも超常の都市だからね。……それと、やっぱり妹さんの存在もあるかな」

「ミシェーラか? ……まさか、独占欲のためにレオをほかの女性から遠ざけていた、か?」

「…………いや、それはさすがにないと思う」

「どこぞのドラマですか? その泥沼展開」

 じと、とした目を向けられて両手を上げるグラーフ。

「冗談だ。ミシェーラもいい人に見える」

「それなんだよなあ。あれだけ素敵なお嬢さんで、足が悪い妹。

 少年が気にかけないわけもないだろうし、結構付き切りとかだったんじゃないの? ほかの女性と付き合う暇もないほどさ」

「「ありえる」」

 思わず、グラーフと言葉がかぶってしまいました。

「むう、……とするとレオを振り向かせるためには、あのミシェーラよりも関心を向けられる事か。……難しいな」

「…………えーと、グラーフ?

 実は狙ってますか?」

 問い、スティーブンもバックミラー越しにグラーフに視線を向けています。

 彼女は頷いて、

「ああ、……といっても、ウィルとどちらを本命にするか決めかねているがな。

 どちらも好きだ。選ぶのは、……難しいな」

「レーベとマックス、それと、プリンツとビスマルク、だったか。……なかなか、多難な恋路だねえ」

「ですねえ」

 スティーブンと私から向けられる視線。グラーフはそれに、ふっ、と格好いい笑みを返して、

「故に、燃えるのだっ!」

 スティーブンは口笛。私は、……とりあえず拍手をしました。

 

「あ、おかえりなさいませ。旦那様」

「やあ、ただいま、ヴェデット」

 異界の、女性でしょうか? 人とは異なる体色、体格、大きな耳と、腕、というよりは三つ連なった触手を持つ女性。

 異形の存在。……けど、

「お客様ですか?」

「ん、……ああ、友達の家でやるパーティーの主賓だよ。

 なぜか準備まで手伝うって言いだしてね」

 困ったものだ、と苦笑するスティーブンと「そうですか」と頷くヴェデット。

 そう、異形の存在ですが、温厚な応対と温和な瞳に、害意は感じません。

「旦那様、おかえりなさーい」

 そして、ヴェデットより一回り小さい、おそらくは同種の、服装からして女の子。

「やあ、エミリーダ。遊びに来てたのかい?」

「母ちゃんのお手伝いだよお」

「はは、ちょっと無理言っちゃったかな?」

 エミリーダ、と呼ばれた子供を微笑して撫でるスティーブン。

 それと、

「グラーフ、シャルン。

 今回のお客様だ。二人とも、彼女はうちの家政婦のヴェデット、その娘のエミリーダだ」

「初めまして、お客様」

「初めましてえ」

 おっとりと頭を下げるヴェデットと、少し遅れて、彼女に続くように頭を下げるエミリーダ。

「はじめまして、グラーフだ」「シャルンです」

「さて、ヴェデット。

 料理は?」

「ローストビーフは人数分、用意してありますわ。

 ただ、付け合わせのお野菜、今準備しています」

「そうか、すまないね。いきなりのパーティーで」

「いえいえ、私もやりがいがありますわ。

 旦那様は、どうされますか?」

「邪魔じゃなければくつろがせてもらおうかな。

 掃除は済んでいるんだろ?」

「がんばったあ」

 むん、と触手を折り曲げる。……たぶん、握りこぶしを作るエミリーダ。スティーブンは眼を細めて「ありがとう」

 撫でました。エミリーダは笑顔。

「それでは、私たちもお邪魔していいですね?」

「もちろんだよ。歓迎しよう。…………まあ、」

 スティーブンは、少し、意地の悪い微笑。

「思い人の家じゃなくて残念だろうけどね?」

「まったくだな」

 グラーフは楽しそうに笑って応じました。

 

 とんとんとんとん、と軽快に包丁を使い野菜を切るヴェデット。……触手なのですけど、器用ですね。

 で、

「シャルンは、旦那様の会社の人なのお?」

 おっとりと首を傾げるエミリーダ。

「いえ、別の会社の人です。スティーブンの上司のホームパーティーに招待されました」

「そうなんだあ。パーティー、楽しそう」

「エミリーダ」

 厨房から、少し困ったようなヴェデットの声。

「はは、ごめんな。

 今回は招待するわけにはいかなくてね。……また、内々で騒ごうか。その時は友達もつれておいで」

「やったー」「すいません、旦那様」

 両手、……まあ、両手でいいでしょう、両手を上げるエミリーダと、ぺこり、頭を下げるヴェデット。

「なに、俺も友好関係は大切にしたいからね。

 特にヴェデットみたいな仕事抜きで付き合える友人は、貴重なんだよ」

 ライブラですからねえ。

「ありがとうございます」

 エミリーダも嬉しいのか、両手を上げてぱたぱたとそこら辺を歩き回っています。それと、

「それは異界の料理なのか? ……ふむ」

「そうですねえ。……といっても、旦那様が人界の人なので、食材は人界の物、作り方もそれに合わせてアレンジしています」

「やはり違うか?」

「食材が喋りませんね」

「……そうか、異界の食材は喋るのか」

 ヴェデットの調理風景を興味津々とみているグラーフ。……さて、

「それでは、スティーブン、出来ている分から運びましょうか」

 見ると、ヴェデットの調理も大体終わって盛り付けといったところ、後ろを歩いても邪魔にはならないでしょう。

「そうだね」

「私も手伝うー」

 歩き出した私たちの後ろを、エミリーダがぱたぱたとついてきました。……なんとなく可愛らしかったので撫でてみました。

「子供は、いいものですねえ」

「ユーも人気者だったしね」

 しんみり呟く私の傍ら、スティーブンが苦笑。そうですね。

「何せ、少し離れただけでミシェーラとビスマルクはへこんでいましたからね」

「…………確かに、この上ない人気の証明だ」

「む、では私も手伝うか」

 不意に、声。けど私は首を横に振りました。

「いえいえ、グラーフはそこでヴェデットから調理のいろいろを学んでいてください。

 それで美味しいものを食べさせてください」

「シャルンに食べさせてもな」

 心外です。ともかく冷蔵庫を空けました。

「おお、素晴らしいっ! ヴェデット、今日のローストビーフは気合が入ってるね」

 冷蔵庫に丁寧に並べられて鎮座するローストビーフ。……なるほど、確かにおいしそうです。

「旦那様が楽しそうにしていましたので」

「ありがとう、大切なお客様を迎えるにふさわしい」

 冷蔵庫からローストビーフを取り出すスティーブン。「嬉しそうですね」

「俺の好物なんだよ。

 パーティーの時は必ず頼んでる。気に入ってくれると思うよ」

「それは楽しみです」

「母ちゃんの料理は美味しいよお」

 むん、と胸を張るエミリーダ。「確かに、見事な手際だ」と、感心するグラーフ。

「…………そこまで言われると、照れますねえ」

 ヴェデットはおっとりと微笑みました。

 ともかく、料理についてヴェデットからいろいろと聞いているグラーフを横目に、私たちはパーティーの準備。

「シャルンは、料理はいいのかい?」

「食べさせたいと思う相手はいませんからね。グラーフとは違って。

 当番なら作るのはやぶさかではありませんが、食べてもらうより食べる方が好きです」

「そんなものかい」

「私も、ご飯食べるのは好きい」

「そうですね。お母さんの料理は美味しいでしょう?」

「うん、母ちゃん料理上手。

 ねえ、旦那様あ」

「そうだね。期待していいよ。シャルン」

 ふと、声。

「そうか、……マンドラゴラを調理するときは耳栓が必要か」

「市場に出回っているのは声帯を潰してありますけど。杜撰なところは潰し切れていないで、困りますねえ」

「そうだな」

 覗き込めば真面目な表情でメモを取るグラーフ。……とりあえず、近所の市場で声帯を潰したマンドラゴラは見たことありません。

「…………グラーフ、異界から持ち込んだ食材で調理を始めなければいいのですけどね」

「下手やったら死ぬねそれ」

 あっけらかんと応じるスティーブン。やめてください笑えません。

 

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