それでは夕食です。立食会、というのでしょうか。
いくつかの円卓にのせられた料理やら、飲み物やら。……お酒もありますね。
「では、ユー君。アルコールの飲み物は目印をつけておいた。飲むときは気を付けたまえ。
ほかの皆も、飲酒は節度を守るように、過度のアルコール摂取は体に良くない。ミシェーラ君も慣れてないようだし、注意したまえ」
「……クラウス、食事に事前注意なんて初めて聞いたよ」
グラスをもって訥々と注意事項を語るクラウスにスティーブンは苦笑。けど、クラウスは納得がいかなさそうな表情。
「ユー君や、幼い娘たちもいる」
「ま、大丈夫だって、俺達は気楽にやろうぜ」ぽん、とスティーブンは笑って彼の肩を叩いて「その辺は少年たちに任せよう。なっ」
「「はい」」
レオとウィルは頷きました。というわけで、大丈夫でしょう。
「クラウス、俺達はメインじゃない、客だぜ? そんなに気張らないで楽しもうっ」
少し強めに背中を叩きました。なるほど、そういう認識ですか。
二人からも、いろいろ聞きたい事があるのですが。
「そうか、……確かにそうだな。
すまない、出過ぎたことをしたようだ」
「真面目、ですね」
丁寧に頭を下げるクラウス。びっくりです。
「と、いうわけで少年たち、精々楽しませてくれよ」
「え? 僕たちそういう役割?」
スティーブンに軽く小突かれて目を白黒させるウィル。
「そうだな、期待しているぞ。ウィル」
「ええっ?」
さらに逆方向からグラーフに小突かれて変な声を上げて、
「頑張れっ! ブラックっ!」
「君もだよっ!」
無責任に親指を上げたレオに怒鳴りました。
「どっちも頑張りなさい。せっかく遊びに来たのだから」
軽くレオの頭を叩いてビスマルク。彼女はクラウスとスティーブンに視線を向けて、
「さて、……まずは、いろいろと便宜を図ってくれたことに、代表として感謝するわ」
ビスマルクの丁寧な一礼。もちろん、私たちも続きます。感謝、していますから。
クラウスは、優しく目を細めて、
「いや、こちらこそ、君たちに出会えたことは嬉しい。
いろいろ、大変だっただろう。それでも会いに来てくれたこと、私たちも感謝をしたい」
クラウスの言葉に、ビスマルクは楽しそうに笑みを向けました。
「それに、サプライズな出会いもあったしね。
ふふ、いきなりで驚いたけど、会えてよかったわ。ミシェーラ、トビー」
「はいっ」
元気に頷くミシェーラの傍ら、トビーは苦笑。
「最初聞いた時は驚いたよ。
お兄ちゃんたちをびっくりさせよう、なんて言って飛び出したんだからね」
「ちょ、と、トビーっ」
慌てて彼の手を引くミシェーラ。けど、トビーは柔らかく彼女を見て、
「けど、おかげで出会いを得られた。
もともと、義兄さんとは話をしたかったのだしね。だから、ミシェーラには感謝をしよう。来て、よかった」
「……そ、そう思っているなら先にそう言ってよ。
なんか、私に振り回されてるみたいじゃない」
つん、とそっぽを向くミシェーラ。トビーは困ったような表情。
けど、ミシェーラも悪く思っているような感じはないですね。なんとなくにやけてますよ?
「ってか、お前な。だからって宿も決めずに突撃するなよ。
ええと、すんません。トビーさん、妹、割と突発的で」
「お兄ちゃんもっ! 変なフォローとかいらないからっ!」
ぶんぶんと手を振るミシェーラ。……で、
「だって、お兄ちゃんなら泊めてくれるって、思ってたもん」
「それについては僕も同感だ。信じてたよ。義兄さん」
「こっちの都合を考えろーっ」
怒鳴るレオに、くつくつと笑う声。
「ブラック?」
「あ、…………あはは、ううん、ごめん。
なんていうか、……懐かしいなあ、って」
「懐かしい? ウィル君も妹、いるの?」
おっとりと首を傾げるミシェーラ。けど、
いる、……のではなくて、
「あ、……ううん。ちょっといろいろあってね。
正確には、いた、になるのかな」
「あ」
その意味を察し、ミシェーラは困ったような声。けど、ウィルは微笑。
「前にレオナルドと話してたよ。
気の強いところはそっくりだって、僕も同感だ。だから、なんか懐かしい感じがしてね。……きっと、妹がいたら仲良くなってたんだろうなあ、って」
「かもな」
「そっか、」
ミシェーラは、少し困ったように微笑。
「女の子の友達か、いいなあ」
「それなら大丈夫ですよ。ミシェーラ。
ウィルは、きっと女装も似合います」
「…………あ、うん、……女友達?」
「なんでっ? なにそれっ? 僕は女装なんてしないよっ!」
「しなかったんだ」
「しないってっ!」
「うう、……兄さま、してくれなかったです。
可愛い服、選んだのに」
がくり、崩れ落ちるプリンツ。そして、その時の事を知る私たちとしては、生暖かい笑みを浮かべるほかありません。
「さ、させようとしたんだ」
「…………なあ、君にわかるか?
スカートとか、女物の服と、写真をもって女の子から迫られる気分が」
「わかりたくもねえ」
どんよりとした表情で迫るウィルにげんなりと応じるレオ。
「うん、けど、私も似合うと思うわ」
「冗談はよしてくれ」
「けど、レオは似合わないわよね。女装」
うん、と頷くマックス。同感です。
「レオ君が、……女装、…………かあ」
「しないからな」
「お兄ちゃんが、女装。……ぷっ、……ふ、ふふっ」
「み、ミシェーラ、だ、だめだよ。笑っては」
お腹を抱えるミシェーラと、必死に彼女を抑えようとするトビー。そして、ぽん、と。
「れ、レオナルド君。……き、君にどのような趣味嗜好があろうと、君は、我々の、仲間、……だ」
「クラウスさん、脂汗がすげぇっす」
「ぷ、あ、あははっははははぁっ、た、確かに、似合わないなっ! あはははっ!」
そして、情け容赦なく爆笑するスティーブン。ばしばしとレオの肩を叩いています。
「似合いたくもねえっす」
「じょ、女装はともかくだけどっ! レオ君はもうちょっと着るものにこだわった方がいいと思うよ。
その、……僕も、見てみたい、し」
「パーティーの時、れお、格好良かった、です。ゆーも、れおの格好いいところ、みたい、です」
「お兄ちゃん、その辺全然大雑把だったしね」
じりじりと包囲されるレオ。
「い、いや、僕、お金「ないならこちらで都合をつけよう」…………無駄なものに使う金は、ないっ!」
「おしゃれを無駄って言わないでくださいっ!」
「…………すんません」
怒鳴るプリンツに深く頭を下げるレオ。
「そう、……じゃあ、明日、HLの洋服屋もまわる?
いいの見繕ってあげるわ」
「うぇ?」
「マックスちゃん」
ミシェーラは声のした方に手を伸ばしました。マックスは察して彼女の手を握りました。
ミシェーラは、ぎゅっと手を握って、
「お兄ちゃんを、……兄を、頼みます」
「任せて、ミシェーラ、……ううん、義妹の信頼には、応えるわ」
「マックス、……その、いもうと、って、どういう意味?」
「見事に他意しか感じられませんね」
「他意はないわ。好意よ」
「…………へー」
軽く視線を背けて呟くマックス。
「それよりそろそろ食事にしないか?」
ぺし、と。レオの頭を軽く叩いてグラーフ。私は溜息。
「どうして、こんなに会話がとっ散らかるのでしょうね。
誰ですか原因は?」
トビーはしたり顔で頷きました。
「ふむ、……義兄さんと、ウィル君だと思う」
「「僕っ?」」
「ふぁあ、……凄い、このローストビーフ、美味しい」
眼を見開くプリンツ。クラウスも一口食べて「見事だな」と呟きました。
「気に入ってくれたかい?」
「はいっ」
ヴェデットのローストビーフは好評でした。同感です。とても美味しいです。
「美味しいっすね。……なんていうか、家庭料理、みたいな」
「そうだよ。作ってくれたのは僕が雇ってる家政婦なんだ。
プロの料理人、ってわけじゃないけど、僕のお気に入りだよ」
「わかるなー」
「ウィルはこういう料理好きなの?」
ビスマルクの問いにウィルは頷いて、
「そうだなあ。……HLに来てからはずっと一人暮らしだったし、家庭料理って憧れるなあ」
「じゃ、……じゃあ、ええと、あ、明日は私が作ってあげてもいいわよ。………………も、もちろん、毎日、でも、」
後半は小さな声でぽそぽそと、そんな女の子の部分はウィルに届きませんでした。
「そうだね。前にビスマルクたちが作ってくれた料理も美味しかったし、また食べたいな」
「ええ、私に任せなさいっ」
むんっ、と胸を張るビスマルク。レーベは微笑。
「またみんなで料理か、楽しみだね。
えと、クラウスさん、大丈夫?」
「もちろん構わないよ。キッチンは好きに使っていい。
ただ、……そうだね。では、明日の夜にでも、どうかね? 昼はみんなで街を見て回るのだろう?」
「せっかくだし、HLの料理ってのを楽しんできなよ」
スティーブンの言葉に、みんなで頷き、
「あー、……ええと、すいません」
ふいに、レオが挙手しました。
「どうしたの? レオ君」
「えーと、明日の夜は、……その、ミシェーラと、トビーさんと話したい事があって、……ごめん」
「お兄ちゃん?」
不思議そうにミシェーラ。ビスマルクは苦笑。
「ま、せっかくの再会だし、家族水入らずがいいってのもわかるわ。
そうね。……じゃあ、明日の朝はみんなで作りましょうか。クラウス、いいわね?」
「もちろんだ、伝えておこう。必要なものがあれば言いたまえ、出来る限りはそろえよう」
「それは助かるわ。ありがとう。
ふふ、腕が鳴るわねっ! ウィル、楽しみにしていなさいっ」
「うん、ありがと、ビスマルク」
胸を張るビスマルクは、にっこりと笑顔のウィルに小さくなりました。
「プリンツもっ、もちろんプリンツも頑張って作りますっ!」
で、そんなビスマルクに負けじと手を上げるプリンツ。「青春だねえ」と、楽しそうなスティーブン。
…………ふと、うむむ、とうなるマックス。
「と、すると明日は早起き?
朝食だと、作る時間もあるし」
「それもそうですね。そうなると、少し困りますね。
いろいろとお話ししたかったのですが、…………主に、レオとウィルの私生活について」
「そこかよっ?」「それなのっ?」
「私も興味あるな。お兄ちゃんがどういう生活しているのか。
お兄ちゃん、自分の事になると結構大雑把だし」
「前に、珈琲でお腹を満たしてる、とか言ってた」
苦笑していたミシェーラは、マックスの言葉に固まりました。
というか、レオ、さすがにそれはどうかと思いますよ?
「…………クラウス、少年の活動資金を上げよう。
さすがに、それは悲惨だ」
「う、うむ」
どん引きする二人。そして、クラウスは、固まるレオに真っ直ぐに視線を向け。
「まともな食事をとりなさい。これは厳命だ」
「いやいやいやっ、前ですっ! 今の職場に就く前の話ですっ!」
「お兄ちゃん?」
「だーかーらっ! 前の話だって言ってるだろっ!
今は普通だよっ! 普通に食事取ってるよっ! よくザップさんたちと食べに行ってるよっ!」
「自炊すれば」
「ぐあ」
熱弁していたレオは、ウィルの言葉に轟沈。
「まあ、朝食ですけど、クラウスたちがよければ、多少遅くてもかまわないでしょう。
確かにHLの観光はしたいです。けど、それ以上にレオたちの話を聞きたい。私はそちらを優先すべきだと思います」
「さんせーっ! 私、兄さまとたくさんお話ししたいですっ!」
ばばっ、と手を上げるプリンツ。
「はは、まあ、楽しんでくれればいいよ。
さて、じゃあ、……そうだな。まずは少年の活躍なんてどうだい?」
ぐるっ、と視線を向けるレーベとマックス。
「なんでいきなり僕メインっ? HLの話しましょうよっ!」
レオは怒鳴りました。私も興味あったのですけどね。
「じゃ、じゃあ、HLに来る前のお兄ちゃんっ!
まだ、私の眼も見えていたころだから、……まあ、そのころから足は動かなかったんだけどねっ」
「ほう、まだ幼かったころのレオか。……それは胸が熱いな」
「ええっ?」
「おっ、それは楽しみだ」
「スティーブンさんっ? いやいや、ほんとやめてくださいよっ?」
「そうだよなあ、子供の頃の事を蒸し返されるのは、辛いよなあ」
ウィル、何かあったのでしょうか? ものすごくしんみりしているのですが。
「ウィルの昔の話も聞きたいわっ」
「はいっ、プリンツも聞きたいですっ!」
「…………いや、妹に面倒をかけてばっかりだったよ。
僕、ちびだし、メガネだし、……喧嘩も、妹の方が強かったし」
「そうだよな。……過去を蒸し返されるのは、辛いよな。
僕もさ、妹の方が出来よくて、肩身狭い思いしてたよ」
隅っこに移動して肩を組む二人。
「おいおい少年たち、何隅っこで暗くなってるんだよ」
そんな二人を後ろから抱え込むスティーブン。
「大丈夫っ、酒もあるっ! 辛い事があったら飲めばいい、違うかっ? 少年たちよっ!」
「スティーブンさん」「そ、そうですよねっ」
「よしっ、飲むぞっ!」
「「おーっ!」」
そして三人は酒に走りました。
「残念。レオ君の子供のころの話、聞きたかったのに」
肩をすくめるレーベ。
「そうですねえ。…………きっと、可愛い男の子だったのでしょうねえ」
「うー、見てみたいよお」
「レーベちゃん、興味ある?」
からからと車椅子を転がしてミシェーラ。レーベは照れたように頬を掻いて、
「うん、…………その、僕、レオ君の事、……好き、だから。いろいろ彼の事、聞きたいの」
「おお、言いますねレーベ」
「あうぅう、僕だって恥ずかしいよお。
……けど、うそ、つきたくないし」
小突いてみたら顔を真っ赤にした反応。可愛らしいものです。そして、
「よかった」
ミシェーラは安堵の声。
「私、足がこんなんだったから、昔からお兄ちゃん、私の面倒を見てばっかりだったの。
それで恋人とか作る時間、奪っちゃったのかな、って思っててね」
困ったような声。そして、ミシェーラは見えないはずの眼でしっかりとレーベを見て、
「お兄ちゃんの事、大切に思ってくれてありがとう。
これからも、お兄ちゃんをよろしくね」
「う、……うんっ」
ミシェーラの言葉に、安堵と喜びの混じった声でレーベは応じました。