艦娘がHLに遊びに来ましたっ!   作:林屋まつり

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八話

 

 それでは夕食です。立食会、というのでしょうか。

 いくつかの円卓にのせられた料理やら、飲み物やら。……お酒もありますね。

「では、ユー君。アルコールの飲み物は目印をつけておいた。飲むときは気を付けたまえ。

 ほかの皆も、飲酒は節度を守るように、過度のアルコール摂取は体に良くない。ミシェーラ君も慣れてないようだし、注意したまえ」

「……クラウス、食事に事前注意なんて初めて聞いたよ」

 グラスをもって訥々と注意事項を語るクラウスにスティーブンは苦笑。けど、クラウスは納得がいかなさそうな表情。

「ユー君や、幼い娘たちもいる」

「ま、大丈夫だって、俺達は気楽にやろうぜ」ぽん、とスティーブンは笑って彼の肩を叩いて「その辺は少年たちに任せよう。なっ」

「「はい」」

 レオとウィルは頷きました。というわけで、大丈夫でしょう。

「クラウス、俺達はメインじゃない、客だぜ? そんなに気張らないで楽しもうっ」

 少し強めに背中を叩きました。なるほど、そういう認識ですか。

 二人からも、いろいろ聞きたい事があるのですが。

「そうか、……確かにそうだな。

 すまない、出過ぎたことをしたようだ」

「真面目、ですね」

 丁寧に頭を下げるクラウス。びっくりです。

「と、いうわけで少年たち、精々楽しませてくれよ」

「え? 僕たちそういう役割?」

 スティーブンに軽く小突かれて目を白黒させるウィル。

「そうだな、期待しているぞ。ウィル」

「ええっ?」

 さらに逆方向からグラーフに小突かれて変な声を上げて、

「頑張れっ! ブラックっ!」

「君もだよっ!」

 無責任に親指を上げたレオに怒鳴りました。

「どっちも頑張りなさい。せっかく遊びに来たのだから」

 軽くレオの頭を叩いてビスマルク。彼女はクラウスとスティーブンに視線を向けて、

「さて、……まずは、いろいろと便宜を図ってくれたことに、代表として感謝するわ」

 ビスマルクの丁寧な一礼。もちろん、私たちも続きます。感謝、していますから。

 クラウスは、優しく目を細めて、

「いや、こちらこそ、君たちに出会えたことは嬉しい。

 いろいろ、大変だっただろう。それでも会いに来てくれたこと、私たちも感謝をしたい」

 クラウスの言葉に、ビスマルクは楽しそうに笑みを向けました。

「それに、サプライズな出会いもあったしね。

 ふふ、いきなりで驚いたけど、会えてよかったわ。ミシェーラ、トビー」

「はいっ」

 元気に頷くミシェーラの傍ら、トビーは苦笑。

「最初聞いた時は驚いたよ。

 お兄ちゃんたちをびっくりさせよう、なんて言って飛び出したんだからね」

「ちょ、と、トビーっ」

 慌てて彼の手を引くミシェーラ。けど、トビーは柔らかく彼女を見て、

「けど、おかげで出会いを得られた。

 もともと、義兄さんとは話をしたかったのだしね。だから、ミシェーラには感謝をしよう。来て、よかった」

「……そ、そう思っているなら先にそう言ってよ。

 なんか、私に振り回されてるみたいじゃない」

 つん、とそっぽを向くミシェーラ。トビーは困ったような表情。

 けど、ミシェーラも悪く思っているような感じはないですね。なんとなくにやけてますよ?

「ってか、お前な。だからって宿も決めずに突撃するなよ。

 ええと、すんません。トビーさん、妹、割と突発的で」

「お兄ちゃんもっ! 変なフォローとかいらないからっ!」

 ぶんぶんと手を振るミシェーラ。……で、

「だって、お兄ちゃんなら泊めてくれるって、思ってたもん」

「それについては僕も同感だ。信じてたよ。義兄さん」

「こっちの都合を考えろーっ」

 怒鳴るレオに、くつくつと笑う声。

「ブラック?」

「あ、…………あはは、ううん、ごめん。

 なんていうか、……懐かしいなあ、って」

「懐かしい? ウィル君も妹、いるの?」

 おっとりと首を傾げるミシェーラ。けど、

 いる、……のではなくて、

「あ、……ううん。ちょっといろいろあってね。

 正確には、いた、になるのかな」

「あ」

 その意味を察し、ミシェーラは困ったような声。けど、ウィルは微笑。

「前にレオナルドと話してたよ。

 気の強いところはそっくりだって、僕も同感だ。だから、なんか懐かしい感じがしてね。……きっと、妹がいたら仲良くなってたんだろうなあ、って」

「かもな」

「そっか、」

 ミシェーラは、少し困ったように微笑。

「女の子の友達か、いいなあ」

「それなら大丈夫ですよ。ミシェーラ。

 ウィルは、きっと女装も似合います」

「…………あ、うん、……女友達?」

「なんでっ? なにそれっ? 僕は女装なんてしないよっ!」

「しなかったんだ」

「しないってっ!」

「うう、……兄さま、してくれなかったです。

 可愛い服、選んだのに」

 がくり、崩れ落ちるプリンツ。そして、その時の事を知る私たちとしては、生暖かい笑みを浮かべるほかありません。

「さ、させようとしたんだ」

「…………なあ、君にわかるか?

 スカートとか、女物の服と、写真をもって女の子から迫られる気分が」

「わかりたくもねえ」

 どんよりとした表情で迫るウィルにげんなりと応じるレオ。

「うん、けど、私も似合うと思うわ」

「冗談はよしてくれ」

「けど、レオは似合わないわよね。女装」

 うん、と頷くマックス。同感です。

「レオ君が、……女装、…………かあ」

「しないからな」

「お兄ちゃんが、女装。……ぷっ、……ふ、ふふっ」

「み、ミシェーラ、だ、だめだよ。笑っては」

 お腹を抱えるミシェーラと、必死に彼女を抑えようとするトビー。そして、ぽん、と。

「れ、レオナルド君。……き、君にどのような趣味嗜好があろうと、君は、我々の、仲間、……だ」

「クラウスさん、脂汗がすげぇっす」

「ぷ、あ、あははっははははぁっ、た、確かに、似合わないなっ! あはははっ!」

 そして、情け容赦なく爆笑するスティーブン。ばしばしとレオの肩を叩いています。

「似合いたくもねえっす」

「じょ、女装はともかくだけどっ! レオ君はもうちょっと着るものにこだわった方がいいと思うよ。

 その、……僕も、見てみたい、し」

「パーティーの時、れお、格好良かった、です。ゆーも、れおの格好いいところ、みたい、です」

「お兄ちゃん、その辺全然大雑把だったしね」

 じりじりと包囲されるレオ。

「い、いや、僕、お金「ないならこちらで都合をつけよう」…………無駄なものに使う金は、ないっ!」

「おしゃれを無駄って言わないでくださいっ!」

「…………すんません」

 怒鳴るプリンツに深く頭を下げるレオ。

「そう、……じゃあ、明日、HLの洋服屋もまわる?

 いいの見繕ってあげるわ」

「うぇ?」

「マックスちゃん」

 ミシェーラは声のした方に手を伸ばしました。マックスは察して彼女の手を握りました。

 ミシェーラは、ぎゅっと手を握って、

「お兄ちゃんを、……兄を、頼みます」

「任せて、ミシェーラ、……ううん、義妹の信頼には、応えるわ」

「マックス、……その、いもうと、って、どういう意味?」

「見事に他意しか感じられませんね」

「他意はないわ。好意よ」

「…………へー」

 軽く視線を背けて呟くマックス。

「それよりそろそろ食事にしないか?」

 ぺし、と。レオの頭を軽く叩いてグラーフ。私は溜息。

「どうして、こんなに会話がとっ散らかるのでしょうね。

 誰ですか原因は?」

 トビーはしたり顔で頷きました。

「ふむ、……義兄さんと、ウィル君だと思う」

「「僕っ?」」

 

「ふぁあ、……凄い、このローストビーフ、美味しい」

 眼を見開くプリンツ。クラウスも一口食べて「見事だな」と呟きました。

「気に入ってくれたかい?」

「はいっ」

 ヴェデットのローストビーフは好評でした。同感です。とても美味しいです。

「美味しいっすね。……なんていうか、家庭料理、みたいな」

「そうだよ。作ってくれたのは僕が雇ってる家政婦なんだ。

 プロの料理人、ってわけじゃないけど、僕のお気に入りだよ」

「わかるなー」

「ウィルはこういう料理好きなの?」

 ビスマルクの問いにウィルは頷いて、

「そうだなあ。……HLに来てからはずっと一人暮らしだったし、家庭料理って憧れるなあ」

「じゃ、……じゃあ、ええと、あ、明日は私が作ってあげてもいいわよ。………………も、もちろん、毎日、でも、」

 後半は小さな声でぽそぽそと、そんな女の子の部分はウィルに届きませんでした。

「そうだね。前にビスマルクたちが作ってくれた料理も美味しかったし、また食べたいな」

「ええ、私に任せなさいっ」

 むんっ、と胸を張るビスマルク。レーベは微笑。

「またみんなで料理か、楽しみだね。

 えと、クラウスさん、大丈夫?」

「もちろん構わないよ。キッチンは好きに使っていい。

 ただ、……そうだね。では、明日の夜にでも、どうかね? 昼はみんなで街を見て回るのだろう?」

「せっかくだし、HLの料理ってのを楽しんできなよ」

 スティーブンの言葉に、みんなで頷き、

「あー、……ええと、すいません」

 ふいに、レオが挙手しました。

「どうしたの? レオ君」

「えーと、明日の夜は、……その、ミシェーラと、トビーさんと話したい事があって、……ごめん」

「お兄ちゃん?」

 不思議そうにミシェーラ。ビスマルクは苦笑。

「ま、せっかくの再会だし、家族水入らずがいいってのもわかるわ。

 そうね。……じゃあ、明日の朝はみんなで作りましょうか。クラウス、いいわね?」

「もちろんだ、伝えておこう。必要なものがあれば言いたまえ、出来る限りはそろえよう」

「それは助かるわ。ありがとう。

 ふふ、腕が鳴るわねっ! ウィル、楽しみにしていなさいっ」

「うん、ありがと、ビスマルク」

 胸を張るビスマルクは、にっこりと笑顔のウィルに小さくなりました。

「プリンツもっ、もちろんプリンツも頑張って作りますっ!」

 で、そんなビスマルクに負けじと手を上げるプリンツ。「青春だねえ」と、楽しそうなスティーブン。

 …………ふと、うむむ、とうなるマックス。

「と、すると明日は早起き?

 朝食だと、作る時間もあるし」

「それもそうですね。そうなると、少し困りますね。

 いろいろとお話ししたかったのですが、…………主に、レオとウィルの私生活について」

「そこかよっ?」「それなのっ?」

「私も興味あるな。お兄ちゃんがどういう生活しているのか。

 お兄ちゃん、自分の事になると結構大雑把だし」

「前に、珈琲でお腹を満たしてる、とか言ってた」

 苦笑していたミシェーラは、マックスの言葉に固まりました。

 というか、レオ、さすがにそれはどうかと思いますよ?

「…………クラウス、少年の活動資金を上げよう。

 さすがに、それは悲惨だ」

「う、うむ」

 どん引きする二人。そして、クラウスは、固まるレオに真っ直ぐに視線を向け。

「まともな食事をとりなさい。これは厳命だ」

「いやいやいやっ、前ですっ! 今の職場に就く前の話ですっ!」

「お兄ちゃん?」

「だーかーらっ! 前の話だって言ってるだろっ!

 今は普通だよっ! 普通に食事取ってるよっ! よくザップさんたちと食べに行ってるよっ!」

「自炊すれば」

「ぐあ」

 熱弁していたレオは、ウィルの言葉に轟沈。

「まあ、朝食ですけど、クラウスたちがよければ、多少遅くてもかまわないでしょう。

 確かにHLの観光はしたいです。けど、それ以上にレオたちの話を聞きたい。私はそちらを優先すべきだと思います」

「さんせーっ! 私、兄さまとたくさんお話ししたいですっ!」

 ばばっ、と手を上げるプリンツ。

「はは、まあ、楽しんでくれればいいよ。

 さて、じゃあ、……そうだな。まずは少年の活躍なんてどうだい?」

 ぐるっ、と視線を向けるレーベとマックス。

「なんでいきなり僕メインっ? HLの話しましょうよっ!」

 レオは怒鳴りました。私も興味あったのですけどね。

「じゃ、じゃあ、HLに来る前のお兄ちゃんっ!

 まだ、私の眼も見えていたころだから、……まあ、そのころから足は動かなかったんだけどねっ」

「ほう、まだ幼かったころのレオか。……それは胸が熱いな」

「ええっ?」

「おっ、それは楽しみだ」

「スティーブンさんっ? いやいや、ほんとやめてくださいよっ?」

「そうだよなあ、子供の頃の事を蒸し返されるのは、辛いよなあ」

 ウィル、何かあったのでしょうか? ものすごくしんみりしているのですが。

「ウィルの昔の話も聞きたいわっ」

「はいっ、プリンツも聞きたいですっ!」

「…………いや、妹に面倒をかけてばっかりだったよ。

 僕、ちびだし、メガネだし、……喧嘩も、妹の方が強かったし」

「そうだよな。……過去を蒸し返されるのは、辛いよな。

 僕もさ、妹の方が出来よくて、肩身狭い思いしてたよ」

 隅っこに移動して肩を組む二人。

「おいおい少年たち、何隅っこで暗くなってるんだよ」

 そんな二人を後ろから抱え込むスティーブン。

「大丈夫っ、酒もあるっ! 辛い事があったら飲めばいい、違うかっ? 少年たちよっ!」

「スティーブンさん」「そ、そうですよねっ」

「よしっ、飲むぞっ!」

「「おーっ!」」

 そして三人は酒に走りました。

「残念。レオ君の子供のころの話、聞きたかったのに」

 肩をすくめるレーベ。

「そうですねえ。…………きっと、可愛い男の子だったのでしょうねえ」

「うー、見てみたいよお」

「レーベちゃん、興味ある?」

 からからと車椅子を転がしてミシェーラ。レーベは照れたように頬を掻いて、

「うん、…………その、僕、レオ君の事、……好き、だから。いろいろ彼の事、聞きたいの」

「おお、言いますねレーベ」

「あうぅう、僕だって恥ずかしいよお。

 ……けど、うそ、つきたくないし」

 小突いてみたら顔を真っ赤にした反応。可愛らしいものです。そして、

「よかった」

 ミシェーラは安堵の声。

「私、足がこんなんだったから、昔からお兄ちゃん、私の面倒を見てばっかりだったの。

 それで恋人とか作る時間、奪っちゃったのかな、って思っててね」

 困ったような声。そして、ミシェーラは見えないはずの眼でしっかりとレーベを見て、

「お兄ちゃんの事、大切に思ってくれてありがとう。

 これからも、お兄ちゃんをよろしくね」

「う、……うんっ」

 ミシェーラの言葉に、安堵と喜びの混じった声でレーベは応じました。

 

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