空の女王、赤い魔女   作:猫魈

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レイジングウィッチーズ‐怒れる魔女達‐
月下の魔女達


 「女王が空を飛んでるんですよ? だったら何も問題は無いでしょう。世は全て事もなし、です」

 東部戦線の取材で遭遇した戦闘の最中、オラーシャの軍曹より――リベリオン・タイムズ紙

 

 

 

 

 

 雲上、満月の下で二人の少女が空を飛んでいる。

 一人は後ろ髪を緩くポニーテールに纏めた朝焼けのような金髪に、軍用ゴーグル越しにも目立つエメラルド溶かし込んだかのような碧眼。お伽話から出てきたような美しさを持ちながらも、口元に浮かべる攻撃的な笑みがそれらを台無しにしている。そんな印象の少女。

 もう一人は、金髪の少女の後ろに寄り添うように飛んでいる。ふわりとした長い銀髪と、海の様に蒼い瞳と柔らかく微笑む笑みが印象的な、誰もが振り返るような女性らしさを集めたような少女。

 対象的な二人だ。互いに同じカールスラントの軍服に身を包みながらも、その雰囲気は鏡合わせのようだ。

 方や前を開けた真紅の軍服と、その上から着込んだ純白のコート。左右を紐で結んだ黒ズボン。皇室武装親衛隊である事を示す黄金のラインが入った赤く塗りつぶしたbf109型ストライカーユニット。革ベルトに軍刀を吊るし、MG42を片手に、更に170cm程の身長よりも90cmも大きなMK101を担ぐ太陽の様な少女。

 方や軽く着崩した程度のお揃いの真紅の軍服と、これまた同じ白いコート。軍服に隠れた白いズボン。赤いラインの入った、Bf110型ストライカーユニット。革ベルトに軍刀を吊るし、身長の6割程の大きさのMG151を担ぎ、頭部にナイトウィッチに必須の広域探査魔法の魔導針を浮かべる月の様な少女。

 そんな二人がロッテを組み、夜間哨戒任務の途中。基本的に二人が共に夜の空を飛ぶということは滅多に無かった。金髪の少女は団長であり、銀髪の少女は副団長という地位にあるからだ。部隊のトップ二人が揃って哨戒に出るなど、ありえないと言っていい。

 

「ねぇ。マリィ」

「どうしたヴェラ?」

「どうして今日はマリィも付いて来るなんて言い出したのかしら?」

「さぁ? 強いて言うなら勘だな」

 

 問いかけるヴェラと呼ばれた銀髪の少女に、前を飛ぶマリィと呼ばれた金髪の少女は振り返りもせずにそう言った。ヴェラは首をかしげると、すぐに肩を竦めてマリィの横に並んだ。

 

「もう……わかりました。勘なのはもうしょうがないわ。貴女ってばそういう人だもの。けれど、本来飛行予定にない出撃は一体どうするのかしら? もしかしたら今頃基地はてんやわんやだったりして」

「そいつに関しては大丈夫だ。一切問題がない。」

「どうして?」

「何せあそこじゃオレが法だからな。オレが飛ぶことに何も問題はない。それに、なんならあそこにはエリーもエルナも、ヴァルブルガもいるからな」

 

 抜け抜けとそう言い放った目の前の金髪の少女に、ヴェラは頭を抱えた。昔からそうなのだ、この放蕩娘は、と。直感と、この行動力にいつも付き合わされてきたのだ。そしてきっと今頃基地では執事のような少尉が鉄面皮で変わらず、飄々とした大尉が笑い、いつも眠そうな中尉が過激なことを言っているだろう。そんな確信がヴェラにはあった。

 

「帰ってから知りませんからね」

 

 言いたいことは色々あったが、結局その一言だけ言った。呆れて物も言えないというのもあったが、今はこの珍しいシチュエーションを楽しむことにしたのだ。

 

 

I

 

 

 耳障りな音を魔導針が拾ったのは数分前。味方ではない、ならばこの空を飛ぶ者は敵しかいない。アイコンタクトをして、反応のあった場所へと二人が急行していた。

「こちらリヒトホーフェン少佐。時刻は0221基地より西に150km地点高度7000。ヴェラの広域感知網に敵性反応発見。近距離哨戒のつもりだったが運がいい。これより殲滅する」

 敵は生かして逃さないと、笑顔すら見せて雄弁にマリィは言った。

『こちらCP了解した。待機中のウィッチ隊の応援が到着するまでくれぐれも深追いすることのないように』

「了解しました。ですが、私達が獲物を頂きましょう」

 ヴェラがそういうや否や、彼女達は一糸乱れぬ編隊飛行で反応のあった場所へと突っ込んでいった。怒れる魔女たち。死にたがりの戦闘団と称される、通り名に恥じぬ果敢さを持って。

 

 

「大型か…」

 

 認識感知内に入った瞬間、猛攻を加えてきたネウロイの姿を見てマリィは舌なめずりをした。

 悪いな戦友諸君、今宵の戦果は我らの物だ。そんな事を考えながら、マリィはネウロイへと一気に接近を試みた。ピタリと、斜め後ろにヴェラが付いた。

 二人にとっては慣れた敵だ。鋭角的な、表面が漆黒のガラスのようであり、同時にヌメリとした光沢を持つ、原始的な嫌悪感を催す見た目。

 二人にとっては慣れた敵だ。これまで幾度と無く滅殺してきた怨敵の姿。幾ら出てこようが拭い去ることの出来ない憎悪の対象。

 

 「来ます」

 

 ヴェラがそうインカムに呟いた瞬間、二人目掛けてビームが襲来した。

 

 「第二射から四射までマリィ」

 

 また、呟いた通りにマリィに第二射のビーム。回避。第三第四射。これも回避。未来予知のように的確に標的を告げるヴェラに従い、当然の様にマリィはこれらを回避した。

 

 「20秒後に転身」

 「転身後5秒でマリィに六発」

 

 マリィの指示通りきっちり20秒後に二人がインメルマンターンで転身して5秒後、またもやヴェラの言葉通り六条のビームがマリィを襲った。それらを回避しながら、ダララッダララッとマリィが指切りで断続的にMG42を発砲する。同時に着弾するヴェラの銃弾。有効打は確認出来ず。ネウロイの身体に十字の弾痕を残しながら二人はサッチウィーブで交差する。反撃のビーム。回避。即時離脱。すぐさま転身し、マリィがMK101を構えて腹下へと移動。攻撃が集中していることから、ネウロイの標的がマリィであると二人は理解していた。

 

「コイツを耐え切ったら、褒めてやるよ」

 

 続けて、逃げられるならなと。そう呟きながらマリィはおおよそ2.6mにもおよぶ機関砲の引き金へと指を掛けた。同時に、連続した銃声が鳴り響く。ヴェラのMK151だ。反対側の腹下から20mm砲がネウロイの装甲を紙くずのように吹き飛ばしていく。致命打は与えられなかったがしかし、血のように赤いコアはマルギットの碧い眼にはっきりと写し出された。

 即座にネウロイが反撃をしてきた。それは生存本能からか、何条にも及ぶ雨のようなビーム。直撃すれば骨も残らぬ可能性がある死の豪雨。回避行動を取れば、シールドを張れば、この心臓たるコアを撃ちぬくチャンスが遠のく。しかし取らざるを得ないこの状況で、数多のウィッチが目を疑う光景が繰り広げられる。

 誰が予測し得るだろうか? 回避運動中、無造作に、あらぬ方向に放たれた砲弾の機動が折れ曲がり、ジグザグに駆けまわることを。

 誰が信じられるだろうか? 30mmの砲弾が冗談のような機動を描きながら180℃の転身すらして、ネウロイのコアへと突き刺さったことを。

 

「耐え切ってくれるなよ? 一応必殺技なんだ」

 

 その言葉に答えるように、断末魔のような耳障りな音を立てながらネウロイが落ちてゆく。ガラス片のような装甲を撒き散らし、キラキラと輝きながら地へ落ちていく様をマリィは満足そうに眺めていた。

 

「こちらリヒトホーフェン少佐。ネウロイ消滅。二人共損傷なし。応援は遅かったようだな?」

 

 そう彼女が報告すると、無線越しに息を飲む声が聞こえる。

 

 『流石ですね少佐、そして大尉も。二人共ご無事で何よりです』

 

 先程の軍人然とした態度から一転し穏やかな声。その声に返事をして、飛び去る影2つ。先導する少女の名は、マルギット・クリスタ・フォン・リヒトホーフェン。後ろに従う少女の名ををヴェロニカ・シュトライプという。

 彼女達の所属する隊は命知らずの寄せ集め。最前線に己から志願する死にたがりの戦闘団。怒れる魔女達。時として味方からも恐怖の対象としてみなされる戦争魔の集まり。人呼んで『レイジングウィッチーズ』という。

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