「サマラの戦闘団だって? 確かに悪魔だのなんだの言う奴らがいるが、そいつら全員頭がイカれてるね。誰がこの一帯で一番ネウロイを食い止めてるか、ちょっと考えりゃわかるだろう?」
東部戦線へと向かう途中で立ち寄った村での取材にて――リベリオン・タイムズ紙
つい先程まで共にいた仲間が落ちていくのが視界に映る。怒りの表情で、悔しさと謝罪を口に落ちていく。誰も責めてきたりしない。ただ、先に逝く事への謝罪だ。
やめろ。諦めるなと叫んでも、救いにも行けない。押し寄せる黒の集団。血のように赤いビームの弾幕を避けるのに手一杯だからだ。
ふざけるな。人間を舐めるなよバケモノ共め。貴様ら全部殺し尽くしてもまだ手向けにならん。憎悪を口に、自身と仲間を駆り立てる。撤退という手はそもそも打てなかった。この先には自身の愛する人々が居た。バケモノと戦う術を持たない。自分たちを歓迎してくれた人々だ。
一体。また一体と落としても数が減っている気がしない。遂に僚機のヴェロニカが落ちそうになり、思わず手を伸ばし、抱きとめた所でマルギットの視界は暗転した。
ガンッ! と、物が強くぶつかり合う音で目が覚めた。差すような夕日の明かりを認めると、直後膝から登ってくる痛み。
「クッソ……」
硬い机の裏に打ち付けた痛みのせいで、自然に出る悪態。痛む膝をさすりながら机の上を見ると、衝撃で崩れた書類の山。どうやら寝ていたらしい、昔の夢を見たことも覚えている。やっちまったなと、マルギットは呟いた。
小さくため息を吐き、緩いウェーブの癖がある長い金髪の間に指を入れ、バリバリと掻きながら紙巻きタバコに手を伸ばす。口に銜えて、オストマルク製のライターで着火。
「ふぅ……」
大きく息を吸い、吐き出す。寝起きの頭がクリアになり、同時に夢の内容を鮮明に思い出す。嫌な夢だった。本当に嫌な夢だった。
(あの戦いからもうしばらく経つってのに、未だこうして夢で見るとはなぁ)
それはトラウマだった。ネウロイ侵攻の戦いでヴェロニカを除く全隊員を失ったという記憶。ネウロイの侵攻最初期の出来事だ。信頼する部下を失い、その後は怒りに任せ、休息なんていらないと戦場に立ち続けてきた。それこそ参加した作戦数で言うならば、世界トップクラスだろうという自負も有る。
「いかんな」
煙を吐いて、頭を振る。夢を見た後はいつも現実感の無いふわふわとした感情に浸ってしまう。
同時、けたたましい空襲警報。同時に釣り上がる口角。ちょうどいい、今のマルギットは大層機嫌が悪い。
「世は全て事もなし、だ」
真紅の軍服の上に、純白のコートを羽織る。その目には、爛々と殺意が宿っていた。
I
開いたドアから乱雑に放り投げられたボストンバッグに続くように、カールスラントの軍用車両、ホルヒから一人の少女が降りた。ポニーテールに纏められた茶色のロングヘアに、同じく茶色の瞳。カーキ色のコートに、黒いマフラー。首から下げたコンタックス。彼女は運転席から身を乗り出すオラーシャ軍人に謝意を述べると、ポケットの中から取材許可証を取り出し首に下げた。
(遂に彼女に会うことが出来る)
元リベリオン海兵隊ウィッチこと、現従軍記者のジョセフィン・フォースは、その茶色の瞳を閉じ、サマラの大地を踏みしめ感慨に耽った。
リベリオンより扶桑経由で10,000kmオーバーの旅路、最終目的地をサマラとして、決して短くない旅路をジョセフィンが歩んだのは無論理由がある。
かつてのカールスラント撤退戦で見たあの黄金の女王に礼と、そしてもう一度飛ぶ姿を見たいと焦がれたからだ。
鮮烈だった、そういって過言ではない。応援として派兵され、誇り高きリベリオン海兵隊があって尚無様にも食い破られそうだった戦線を、猛禽の如く勢いで敵を殲滅する優雅な飛び方。彼女に追従し、乱れること無く的確に戦況を見極め、圧倒的な力で戦線を復旧した彼女の部隊。
今回の取材対象である、『空の女王』ことマルギット・クリスタ・フォン・リヒトホーフェンの経歴は華々しい。前大戦で大戦果を上げたカールスラントの『赤い女男爵』マルガレーテ・フォン・リヒトホーフェンの愛娘。年齢一桁で士官学校に入校し、三度の撤退戦を経て皇室直属武装親衛隊に所属。サマラに送られる際の、『余が最優と信ずる航空ウィッチの一人をサマラに送る』というカールスラント皇帝の言葉からも、その信用が伺える。
(リベリオンの評判と現地の評判じゃ乖離があるのが面白いけど)
そう思いながら、ジョセフィンはマフラーを少し緩める。
(リベリオンでは『戦争狂い』。実際に戦うウィッチの間では『空の女王』。はてさて実際はどっちなんだか)
本国にて曰く、『戦争マニア』
扶桑にして曰く、『西欧の悪魔』
しかし前線で取材を重ねていると、この悪名とは別の表情が見えてくる。
それはとある威圧的なウィッチからの評価であり、一兵卒からの評価であり、基地司令官からの評価である。
ジョセフィンは伊達に10,000kmも旅をしてきたわけではない。この旅程は彼女に多くの取材をする機会を与えた。特に大陸に渡ってから、オラーシャでの取材はジョセフィンにマルギットという人間の人物像を描かせるには十分な知見を与えてくれたのだ。
彼ら、あるいは彼女らからの評価は一点して好評価の一言に尽きる。
曰く、『ただひたすらに強い』
威圧的なウィッチはこう言った。『誇りと冷徹さの同居する空戦の達人だ』と。
とある一兵卒の戦車兵はこう言った。『いくら劣勢でも彼女の姿を見つけたら勝ちを確信出来る』と。
とある基地司令はこう言った。『大枠の指示だけ与えて野放しにすれば戦果を上げて帰ってくる』と。
(まぁ、所属隊員に名だたるウィッチがいる時点でその頭領も怪物染みてるのはなんとなくわかるけど)
『夜間戦闘の母』ヴェロニカ・シュトライプ。『赤いチューリップ』エルナ・グラーフ。『夜の妖精』ヴァルブルガ・ファルク。
錚々たる面子だった。昼間戦闘エースと名高いあるエルナと、夜間戦闘防衛網の礎を築いた二人を擁している時点で大概である。
何より着目すべきは、小型ネウロイの撃墜は個人カウントに含まないというところだ。つまり、大型を5機を撃墜しなければエースとして認められない。これの理由は単純で、敵の数が多すぎるから小型のカウントまでしている暇はないというものだ。
(しかし、ここまで来ると流石に冷えるかぁ)
思考に埋没しかけたジョセフィンはブルリと身を震わせた。
ウシャーンカをかぶり直し、コートの前ボタンを全て締め、マフラーを巻いているにも関わらずサマラは寒い。サマラは典型的な大陸性気候の地であり、夏は異様に暑く冬は尋常でないほど寒い。改めて、こんな場所で戦うウィッチに、敬服の念を抱いた。
Ⅱ
「東部戦線とは何か?」
サマラに来るより遥かに前。私が記者になってから日の浅い頃の話だ。各国のウィッチ達が一同に介する場所にて。運良く取材の機会を得た私はそんな質問を投げかけた。
「東部戦線は地獄だ」
その一声に、精強なウィッチが皆納得する。
地獄と称される東部戦線。湯水の如く投入される物資と、同じように消費される弾薬。四六時中鳴り止まない警報。ただでさえ数の少ないウィッチが、ベテランであろうと魔力枯渇で落とされていくのだから、確かに地獄だ。
しかしオラーシャを縦に横断する戦線において、最大の激戦地は一体どこか? 地獄と称した軍人達に改めて問えば、またしても皆が、今度は異口同音にこう答える。
『それはサマラだ。あそこが釜の底だ』
サマラとは、モスクワより東に850km程の場所にある工業都市だ。
ヴォルガ川をネウロイ侵攻への防衛ラインとし、敵の眼前に陣取って尚不落であり続ける。
所属する航空ウィッチは40名余り。百戦錬磨の猛者共と名高い『レイジングウィッチーズ』が根城としている地獄の果て。
ならばそのサマラで最優のウィッチは一体誰か。そんな質問を重ねてみれば、数人の名前に絞られる。
とある夜間戦闘隊に所属するウィッチはこう答える。
「私はシュトライプ大尉だと思うわ」
『ヴェロニカ・シュトライプ』
カールスラント空軍所属、サマラ駐屯航空戦闘団副団長。『夜間戦闘の母』と呼ばれるウィッチだ。
ふわりとした腰まで伸びた銀髪に蒼い眼、。母性を感じさせる目元と、スタイルの良さから各国でも人気のウィッチだ。
ストライカーユニットを運用しての夜間戦闘、その礎を築いた一人としてあげられる彼女の功績は、ナイトウィッチ達からも実際母の如く慕われているという評判からも察せられる。恐らくは誰よりも夜戦理論に精通した一人、なるほど優秀だ。
「それだったら私はヴァルブルガ中尉を上げるわ。あの娘も夜戦の手練なのは間違いないでしょう?」
先に上げたウィッチの同僚の少女がもう一人の名を挙げる。
『ヴァルブルガ・ファルク』
カールスラント空軍所属、サマラ駐屯航空戦闘団第二夜間戦闘隊隊長。『夜の妖精』と讃えられる少女だ。
小さな身長にセミロングのくすんだ金髪。とろんとした、眠そうな瞳のブロマイドが有名だ。
シュトライプ大尉と同じく、夜間戦闘の礎を築いた一人として名高い。
小柄な体躯と、ミステリアスな雰囲気。その姿からは想像も出来ないほど勇猛果敢であり、最低限にして的確な指示で上げる戦果が支持されている。
「いやいや。グラーフ大尉でしょうや。撃墜数を見れば一目瞭然だ」
そこに被せる一声。
『エルナ・グラーフ』
カールスラント空軍所属、サマラ駐屯航空戦闘団第二戦闘部隊隊長。彼女はストライカーユニットに書かれたエンブレムから、『赤いチューリップ』と呼ばれている。
ボブカットにした黒髪と、スラリとした高い身長。歴戦の勇士であると思わせる風格。しかし諧謔味のある黒い瞳。彼女も全国のウィッチに憧れられる存在だ。
卓越した射撃眼と、冷静ながらも敢闘精神旺盛な姿勢。時として防御よりも撃墜を優先しても、仕事は間違いなくこなすプロフェッショナルとして名高い。
なるほど彼女も、まさにトップエースの一人だろう。
名を上げているウィッチ達は一人残らず今次の大戦初期から飛び続けている猛者達だ。語る彼女達も百戦錬磨と言うに値するにも関わらず、まるで映画スターの話題で盛り上がるように目が輝いている。
「私は昔、リヒトホーフェン隊長の下で飛んだことがある」
誰もが自分の上げたエースが最優だと述べる中、一人の整備兵の少女が声を上げる。その声に、先にエースの名を上げた少女たちはぎょっとした風に、整備兵の少女を見た。無論、私も。
なぜなら、それが事実ならば、彼女は私が礼を尽くしても足りぬ恩人の一人だからだ。
「私は魔力が枯渇して飛べなくなったけど、あの人の下でなら死ぬ気はしなかったし、きっと死にはしなかった」
その少女は、ダイナモ作戦で共に飛んだという。そしてその戦いで魔力が枯渇し、口惜しくも除隊するしか無いという時に、当時大尉のマルギットの口添えで整備兵になれたとも。
ダイナモ作戦とは、ブリタニアへ、軍艦から民間船まで全てを動員した一大避難作戦だ。
そして、話の花となっている現サマラ駐屯団の名が世界に轟いた作戦でも有る。
ベルリンより撤退する小ビフレスト作戦。カールスラントより完全撤退する大ビフレスト作戦。そしてその延長に有るダイナモ作戦。それぞれの殿を自ら志願しただけではなく、オストマルクからの避難作戦である『最も長い撤退戦』。逃げる時間をできるだけ稼ぐ遅滞作戦からの、返す刀での作戦行動であったというのだから、常軌を逸している。
「マリィさんは、強い。それこそ鬼か悪魔なんじゃないかってくらい」
『マルギット・クリスタ・フォン・リヒトホーフェン』
カールスラント皇室直属武装親衛隊所属。カールスラント空軍派遣将校。サマラ駐屯航空戦闘団団長。『空の女王』それが、サマラの航空ウィッチの頂点に立つ少女の名だ。
幾度と無く行われた撤退戦に参加し、それぞれの作戦で戦果を上げたウィッチ。朝焼けのような長い金髪と、エメラルドを溶かしこんだ様な碧い瞳。お伽話から出てきたような見た目にも関わらず、挑発的な瞳が印象に残る。そんな少女だ。
その飛ぶ姿は猛禽類のように優雅で、レッドカーペットを歩む女王の様に何者にも止められないと少女は言う。
彼女が率いる部隊が飛ぶだけで、避難民の鼓舞になったと少女は言う。
彼女の赤いストライカーユニットを見るだけで、部隊の皆はきっと勝てるという自信が湧くと少女は言う。
「だから、マリィ隊長が最優。どう? 説得力あるでしょう?」
その締めの一言で、紛糾していた場が静かになる。己の挙げたウィッチが最優だと証明したいが為に。間違いなく、この場で挙がったウィッチは手練の猛者。甲乙付け難く、最優を語るのに誰もが遜色ない存在。
――東部戦線には、かつての撤退戦で、空にいるだけで勝利を疑われなかったエース部隊がいる。
――東部戦線には、世界に名を馳せるエースを有して尚、彼女達から指揮官と信奉されるウィッチがいる。
私はその場にいて、間違いなくこう思ったのだ。『この勇者達が信奉するほどのウィッチ達。彼女達に会ってみたい』と。
そして幸運な事に、その願いは成就した。だから私はこうして、サマラに立っている。
Ⅲ
少佐の執務室へと案内してくれるというガリアの青い制服を着たマリエル・アルベール少尉を先頭に、私はその後ろを歩いている。基地内は、前線だというのにまるで観光名所のような、歴史を感じさせる作りとなっている。
築何年位なんだろうか。これだけでも面白い記事書けそうだななんて思っていると、けたたましく鳴り響く警報。第一種空襲警報だ。
「うわぁ……」
覚悟はしていたが、げんなりしてしまう。まさか取材前に出くわすとは想像していなかったのだ。
「顔色が悪いですね。大丈夫ですか?」
そう言いながらこちらを見る少尉殿に、性悪めと言いたくなるのを抑えながら、私は出来るだけ平静な風を装う。
「ええ、覚悟はしていたので……ところで少尉殿は行かなくていいのですか?」
「昼に一度出撃していますので、今回は休みます。お姉さまの隣に私以外が立つのは業腹ですが、まぁおそらくグラーフ大尉あたりでしょう」
お姉さまという単語に面食らいつつも、マリエルの言葉を咀嚼する。昼に、ということは少佐は連続出撃かな? そう思い聞いてみると、肯定。鉄人か、少佐は。それも聞いてみると、どうやら魔力が多く、回復もべらぼうに早いらしい。
「まぁ、それは良いでしょう。一応、こうなった時は作戦室に連れて行けとお姉さまから言われています。どうぞ、着いて来て下さい」
うわぁ。今度は言葉に出さずに心のなかに留めることに成功した。リベリオンの記者をいきなり作戦室に通して大丈夫なのだろうか。
「お姉さまが通して構わないと言っているのですから、良いのでしょう」
こちらの心を見透かしたかのように言い放った少尉に顔を引きつらせつつ、そのブラウンの髪色の麗人におとなしく付いて行く事にした。
Ⅳ
「あら、エリー。いらっしゃい……ああ、初めまして。あなたが記者さんね? 私はヴェロニカ・シュトライプ。ここの副団長をやっています」
そう言いながら手を差し出してくる少女に、私は言葉を失った。
美しいとは聞き及んでいたが、まさかここまでとは。綺麗な銀髪と青い瞳。私が見惚れたのは人生で二度目だ。一度目は、ダイナモ作戦の時にみた当時大尉のマルギットだ。
「は、初めまして。ジョセフィン・フォースです。こうして会えて光栄です」
慌てて自己紹介をすると、ヴェロニカは口元を隠しながらくすりと笑うと、笑顔で握手をしてくれた。何やっても様になるなと、軽い敗北感。
「まぁ、取材は色々あるかもしれませんが今は作戦中です。一応機密だから、記事にはしないでね? あと、邪魔にならないようにしてくれれば大丈夫」
その言葉にもちろんですと返すと、マリエルが椅子を用意してくれた。なんだか申し訳ない気持ちになってくる。
「では、簡単に状況を説明するわね。つい先刻、聞いての通り防衛網にネウロイが引っかかりました。それを受けてマリィ率いる第一航空隊と、エルナ率いる第二航空隊が出撃。接敵ポイントまではもうすぐってところね」
私がいるからだろう、わかりやすく説明してくれたヴェロニカに頭を下げると気にしないでという返答。
『1710。高度3500にて接敵!』
通信機から、女性の声。聞いたことはないけど、この声がマルギットの声なんだと不思議と確信した。
『ボス。小型ばっかりだ。今日は我々の撃墜数に変化はなさそうだな?』
『ッハ。食前の運動には丁度いいだろう? 今日はちょっとした歓迎会だ。腹を空かせて帰るとしようか』
戦場だというのに酷く気楽な声。なるほど歴戦の勇士らしいな、なんて少し興奮気味の頭で考える。
『1713。1機撃墜残り23!』
『残念だボス。残り22』
早速の戦況報告。一体どんな敵なのかは分からないが、小型ばかりというのだからヒエラクス型あたりかなと目星を付ける。
数が多いのは厄介だけど、空飛ぶ亀というか、とにかく航空ウィッチからしたら大した敵じゃない。
『続けて2機撃墜! 残り20!』
『同時、1720。1機撃墜』
凄まじくハイペースで撃墜していく報告に舌を巻いた。マルギットも大概だが、僚機らしき人も凄まじい。同じくらいのペースで撃墜していっている。
表情が顔に出ていたのか、エリーと呼ばれていた少尉が小声でグラーフ大尉ということを教えてくれた。なるほど、サマラの昼間トップエースの両翼なら納得だ。
『1724。2機撃墜。ボス。今晩の肉は私が多めにいただくとしよう』
その報告の直後、またエルナから撃墜報告。これで残りは15機。
『おいエルナそいつはオレの獲物だぞ!』
『はっはっは。早い者勝ちだボス』
『んにゃろう』
『おい待ってくれボス。そいつは反則だろう』
『今宵の肉は私が頂いたァーッ!! 』
どうやら夕食を掛けていたらしく、中々必死な声が聞こえてきた。ヴェロニカがいつもの事よ、なんて言っているけど、良いのかこれでと思う。
『撃墜5! 一気に捲ったぜ!』
「はぁ!?」
待って。今なにしたの?
小型とはいえ一瞬で5機も撃墜するなど正気の沙汰ではない。思わず驚きを口にして、椅子から立ち上がってしまう。
「マリィの固有魔法はサイコキネシス。それで30mmの砲弾を操作しているの」
口を空けて驚く私に、ヴェロニカがネタばらしをしてくれた。
それにしてもなんだそのふざけた能力は。そんな滅茶苦茶な使い方は初めて聞いたぞ。
「けど、現にやれてるんだから仕方ないわ。そういうものだって割りきらないと、ここじゃやっていけないわよ?」
窘めるようにそう言う大尉だが、納得いかない。怪物か、少佐は。いや、散々鬼のように強いだの悪魔みたいだと聞かされてきたけど。
『敵機撤退。エルナ。ごちそうさまだな?』
『これだからボスとロッテを組むのは嫌なんだ』
『あっはっは。言っとけ言っとけ。帰投するぞ』
今回での戦闘結果は14機。内8機がマルギット。残り6機がエルナの戦果。エースがロッテを組むと、こんなにも一方的なのか。
Ⅴ
作戦室を出た私は、ヴェロニカとマリエルと共にハンガーへと移動した。
これから会えるのだと思うとどうしても胸が高まる。
旅中、いやというほどマルギットの噂は聞いてきた。誰も彼もが認める東部のエース。まさに女王と言わんばかりの話をずっと聞いてきたのだ。私の期待は頂点に達している。
「帰ってきました!」
先にハンガーに居た、オラーシャの軍服を着た曹長が指差す方に目を向けると、編隊を組んだウィッチ達の姿があった。
最初は豆粒の様だった姿も、徐々にはっきりと、その先頭にはマルギットの姿。何度も肖像画やブロマイドで見た。赤く塗りつぶしたストライカーユニット。
「よっこいしょっと」
そんな声を上げながら着陸。ユニットを整備兵に任せると、そのまま整備兵達の肩を叩いたり、ハイタッチしたりしながら、私の方へと向かってくる。
「よう。記者さん。話は聞いている。こんなところまでようこそ」
朝焼けのような金髪。エメラルドを溶かしこんだような碧い瞳。お伽話から出てきたような容姿なのに、白いコートを肩に引っ掛けて、コートのポケットから取り出したタバコを銜えたせいでそれらを台無しにしている姿。
「我々は娯楽に飢えている。地獄の釜みたいな場所だが、楽しませてくれよ?」
私と空の女王の出会いは、そんな一言から始まった。