IS IS学園って本来は女子校だから恋愛は基本的に百合なはずだよね?   作:セキエイ

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かなり遅くなりました、誠に申し訳ありません。
更に今回はアホみたいに長くなってしまったので、見辛いかと思います。


第九話

「「ボーデヴィッヒ、本当にいいんだな?この学園の生徒である限り、本国の命令は決して絶対ではないのだぞ」」

構いません、ラウラは言った。

今しがた、彼女の母国であり帰属するドイツ国防軍から、直通回線で直々に命令が下った。

その命令とは

「このIS学園を、私が守りたいものを護れ」

世界各国の生徒が在籍する学園を守ることで各国に恩を売っておきたい、というドイツ政府の見え透いた魂胆である。

しかし彼女自身、初めて好きな場所と人達を守る為に力を尽くせるということがとても嬉しかったのだ。

今、彼女のISは競技用としての戦闘制御管制を実戦用の制御管制に切り替える為の再読み込みを行っていた、機体そのものの形状や武器等の物理ユニットの基本構成に変更はないものの推進力やシールドバリアの強度等、ISの戦闘能力を完全に引き出す為には、それなりに適当な管制システムを構築する事を要したのだ。

 

IS学園上空に飛び出したラウラは、同じくISを装備した教師達と合流する。

「先生がた、聴こえていますか」

教師用コードにボイスアクセスすると、直ぐに返答が有った。

都合6機のISが空域に展開している。

「では、全員私の指揮下に入って頂きたい。レーダー性能は私のシュヴァルツェアレーゲンが現状一番高い」

了解の声が続くなかで、一人違った声が上がった。。

「「それは構わないが、索敵と指揮を両立出来るのか?」」

二年化学教師の声だ。

「私はそれが出来るように造られています」

ラウラはそう言って視線を返した。

そうか、と一人心地に納得すると最後に了解とだけ言い、化学教師は通信を切った。

 

耳元でアラームが鳴る。

情報がホロスクリーンでぱたぱたと表示されていく、例のSu27がレーダー圏内に入ったのだ。

またIS本体のレーダーではなく別の情報元からの諸元情報が舞い込むが、それは彼女らより上空を飛行する航空自衛隊所属のE2Cホークアイ早期警戒機であった。

「自衛隊か、感謝する」

そして一瞬目を伏せると左目の眼帯を取り去った。

「敵機視認。高度1500。武装は両翼下に恐らく航空機用ミサイル合計4、胴体下にも数不明ながら航空機用ミサイルと増槽らしきタンク。全機ツーマンセル、味方の各航空戦力に留意しつつ、ツインズリング陣形で精密射撃3秒」

ラウラの背後両翼をリング状の陣形で展開した教師群が、ロングバレルライフルを一斉に構える。

「撃てぇッ!」

引き金が引かれた。

中空に幾筋もの光軸が疾走する。

そして3秒、レーダーからSu27は消えていなかった。

「射撃停止、敵機高度2000。私が狩る、先生は奴の動きを抑えろ!」

敵機は射撃時に発生する熱と地球の重力で照準が僅かにズレるのを利用し、放たれたビームの光を目隠しにして高度を上げたのである。

手練れだ、ラウラはひしと感じる。

 

その後、ドイツ本国から送られてきたIS用タングステンNATO12・7mm実包式IS用自動小銃、ISGAR36をよびだすと、チャージンクハンドルを引き初弾を込めた。

凹凸が少ないフラットでシンプルなデザインの本体に、その上部にはドットサイトが装備されたIS規格のレール・キャリングハンドルが目を引く。

本体右側面にスイングされたスケルトンストックを起こし、構える。

頬付けたストックは体温で直ぐに温まった。

強化複合ポリマー樹脂の為金属製品特有の肌を刺すような冷たさは無い。

同じく樹脂製シースルーショートマガジンの装弾数は20、ハンドガード部分には銃剣として腕部と同様のプラズマブレードがレールで着剣されている。

この銃は大口径レールガンだったりワイヤーケーブルだったりと、極端な装備しか無いこのISの運用効率を底上げする為にラウラ自身が強く望んで追加したのだった。

 

セレクターをセーフティからフルオート射撃に切り替え、その引き金を小刻みに引き絞り二点バースト射撃をする。

12・7mm口径小銃、本来の用途ならば固定機銃のように据え置きで使用される銃の口径だが、ISはそれをも軽々扱えた。

ホロスクリーンの視界両脇に表示された残弾数が減っていくが、有効弾を与えられないままひらひらと絶妙な間合いを維持して回避され続けた。

それもラウラ一人だけではない、この戦闘空域にいる全ての戦力を相手にしながら。

「惜しいなテロリスト」

ラウラはだが嗤う。

撃ち切った弾倉を破棄し、ニーアーマーの裏に収納された新たな弾倉を差し込んだ。

ボルトストップを叩き込み、チャージングハンドルをコック、小銃上面のレールに取り付けられたホロサイトの輝点を揺れるフランカーに合わせてフルオート射撃の牽制を加える。

小銃の射撃でふらふらとした動きを固定されたフランカーに、後方から四機のF15Jが肉迫したのだった。

IS7機、戦闘機12機相手にたかだか一機の戦闘爆撃機では叶う筈がない、一国を壊滅的損害を与える事も可能な戦力をぶつけられているのだ。

十死零生が確定している無謀な賭けだ。

「射撃停止、敵機を囲む様に退避だ。自衛隊がカタをつける」

指示の通り教師群は機を翻して間合いを取る。

後は包囲陣形を維持し、教師達の装備をショットガンなどの制圧力に長けたものに換装させ飽和攻撃をし掛けるのみであった。

最大高度は一時2000まで上がったものの今は1000前後、ジェット機は低空域での安定性に劣る為、これ以上高度を上げさせなければ勝負は決する。

航空自衛隊も条件的に同等ではあるが、ISがバックアップしているアドバンテージは相当のものであった。

「やれる!」

ラウラはそう確信した。

 

 

だが、その瞬間状況が一転した。

ぐいと機首を転じ、その先をラウラのシュヴァルツェアレーゲンに向けたののだ。

翼下の短距離ミサイルが放たれる、合計2発。

ラウラにとって全てを振り切る事に造作はないが、機体の真横を通過することで隙が出来た。

そうして、一瞬であれどラウラを盾にし後ろのF15やISの射線から脱すると、一気に上昇した。

「やらせるか!」

同時に大した腕だと忌々しく思った。

ワイヤー、小銃、レールガン、手持ちの全ての火力をあの小癪なテロ戦闘機に叩き付ける。

ドイツ製の荷電粒子整流装置特有の、赤黒い禍々しい輝きが、花火の如く輝いた。

「クソッ!」

一息遅れて反転し、再度後方に取り付いたF15Jがミサイルを放つ、教師群のビームが空を焦がす。

だがフランカーは、ひらひらとこの状況を抜ける最適解を既に知っているかの様に回避を繰り返し、全ての射撃を除けた。

ラウラのレールガンの一射、二射目も照準が甘く外れる。

機を軽くするのだろうか、機体の腹に取り付けられた増槽と思しきものが排除された。

一発目、二発目のレールガンの射撃で電磁波障害を含んだ乱気流発生しISの自動照準の処理限界を超え、一瞬フリーズした。

「チッ!」

こうして増槽の投棄で奴の運動性能の制限が無くなった。

Su27と言えば運動性能で定評のある戦闘機である。

加えて燃料は最小限に抑えられ対空ミサイルの残りは少ない、高度も最適だ。

フランカーにとってこれは大きなメリットと言えた。

「奴を何としてでも落とせ!」

ラウラは叫ぶ。

しかし増槽が排除された直後、機体が大きくバランスを欠いて揺れた。

目ざとく教師のビームがその巨大な翼を貫くと、自衛隊機のミサイルがそれに続いた。

好機だった。

それを逃すラウラではない。

その中をシュヴァルツェアレーゲンのワイヤーが貫通し、タングステン弾が銃創を穿つ。

火焔にフランカーが包まれる。

破片が飛び散り、燃料かはたまた撃たなかったミサイルか誘爆を起こす。

パイロットの脱出は確認出来なかった。

拍子抜けな程に呆気ない最後だった。

あのフランカーは増槽投棄の瞬間を制御しきれないという、初歩的ミスを犯したのだ。

あの舞う様な回避機動で射撃を翻弄していたとは、とても思えない。

が、撃墜は撃墜である。

 

ラウラはこの戦闘で堕ちた一人の生命に対し最初から一切感情を持たないと決めて居た、そして仲間を守れたという事だけを見つめようとした。

何故か、怖いからだ。

自分が人を殺したという事実を見たくないからだ。

兵士として、そうするため為に産まれたニンゲン兵器として、とても滑稽だという事は自覚している。

小銃を量子空間に格納し、ラウラは自身の小振りな胸元を両手で掻き抱き背を丸めた。

何かから身を守るように。

「マモレタ、マモレタ、マモレタ、マモレタッ」

人殺しを正当化する為に、彼女はそう言い聞かせられずには居られなかった。

 

しかし、そのフランカーには一つ置き土産があった。

投棄された増槽の様なもの、実際には亡国企業所有の旧ソ連製燃料気化爆弾。

ボシュッとタンク型の後端にある推進器の焔が数秒の間灯ると、高度が今ラウラや教師群が居る場所より数百メートル上空に落ち着いた。

心の安定に気を取られていた彼女がそれが何かと詮索し、落とす事に決心するより早く気化爆弾は最初の炸裂をした。

濁った色の煙の様な気体が半径一キロばかりの空間に撒布される。

マズイ!

正体を理解し、今身に差し迫っている危険を同時に理解した。

小銃を呼び出す時間はない、ワイヤーでは爆弾に到達するまでが長すぎる。

レールガンの銃口を向けた。

射出レールは既に帯電していて、弾頭の液体火薬の着火を待つのみである。

「、ッ!」

引き金を引く、だが一瞬だけ遅かった。

 

 

 

ほぼ同じタイミングで、さくらは東京に向かうもう一機のフランカーを有視界戦闘圏に収めた。

だが回転式速射砲の残弾はゼロ、小銃の残弾も今込めて居る30発弾倉とタクティカルリロードを行い5発だけ残った予備が一つだけ。

両腕のアームアーマーには荷粒子砲、エネルギー刀、エネルギーシールドとして使う事の出来る複合武器が有るものの、機体エネルギーを更に使用する上、日本がISを軍事的に所有している事に勘付かれる危険が増す。

従って実質の使用不可である。

ではどうするか。

簡単だ、近接戦闘で片を付けるのだ。

シールドの枚数を元に戻しその裏面に小銃を預けると、広げた手を前に突き出した。

手から数センチの空間が粟立つ様に発光しそれが形を持って表される、それは一振りの太刀と呼べる刀剣であった。

その容姿、これまで使用した円環取手刀やナイフ等の変化球的なものとは違い、あくまで各国が採用している主力の近接刀剣の類のそれである、長さを除いては。

「・・・14式試作中距離ブレード、アサギリ」

それが、6・5mという異常な長さを持つ太刀の名前である。

近距離から中距離までをカバーする長刀という目的の元製造された、変態的と言える得物だ。

しかしながらさくら自身、刀剣のみによる格闘戦闘をあまり好まない。

基本的に単対多の戦闘を行うIS戦闘において、近接武器しか使えないというのは、多方向をカバーするのには向かないからだ。

だが、状況が状況だけにそのような我儘は許されない。

手にした太刀を一度シールドアームに預け柄を掴み抜刀する。

擦れる金属音が涼やかに響き、全長6・5mの刀身が傾き始めた陽光を受けて、あたかも熱された鉄の如く燃えて見えた。

「・・・東京は、やらせない!」

脚部のスラスタースリットが解放され、呟きを後方に残しさくらはフランカーを目指す。

このままではどう撃墜しても都内に落着し一般市民に被害を与える事になる、それでもやらなければならないのだ。

 

 

 

 

 

「ラウラッ!」

戦闘の様子を余す事なく映し出していた3面スクリーンにシャルロットが齧りつく、しかし視線の先は爆発の衝撃波がこの映像を撮っている外部カメラに到達すると、全て砂嵐に変貌し何もなくなった。

地下の生徒達がどよめく、千冬でさえも目の前の惨禍に戦慄を露わにせざるを得なかった。

シャルロットは背中で括った金髪を小刻みに震えさせ、俯く。

そして無言で右手を後ろに突き出し、自機のラファール・リヴァイヴカスタム2の右腕を大口径機関銃と共に呼び出した。

「助けに、行きます」

「馬鹿か」

千冬の声がシャルの発言の余韻を掻き消した。

「そのISを仕舞え、許可は下りていない」

教師という立場からか、数多の死線を超えて来た戦士の経験からか、冷静さを瞬時に取り戻した千冬はやはり冷徹に促す。

「友達がっ、目の前で生きているか死んでいるのか分からなくなって、正気で居られる筈が有りません!」

シャルロットは明らかに取り乱していた。

顔は真っ青で瞳孔が開ききり、呼吸は荒い。

この場にいる一年生五人の中でも一夏を除いて最も長くラウラ接し、あまつさえルームメイトをしているシャルロットの不安は人一倍だった。

当然だ。

しかし見ると、一夏を筆頭とした新二年のメンバーもそれぞれのISの格納形態であるアクセサリーに手を掛けている。

その視線が語りかけている思いは同じだった。

千冬自身、この状況で何をどうしたいのか痛い程自覚している。

しかし彼女は一人の大人であり、少なくともこの場にいる生徒の身の安全を任されている身である。

そればかりか、自分が許可したばかりにラウラが出撃し、撃墜されたと言っても過言では無い。

間接的に原因を作ったのだという責任が千冬にはあった。

「それは皆や、私だって同じだ」

「だったら助けに行けばいいじゃないですか、この場には専用機持ちが沢山居ます、皆で探せば早くラウラを見つけて手当を出来ます!」

ふと、脇にいる今まで塞ぎこんでいた楯無が、一本前に出ようとした。

どうせ『私が責任を取ります、だから行かせてやって下さい』とでも言うに違い無い。

だから、

「わざわざお前の我儘の為に、限りあるISの専属操縦を認められた人間を、生命の危機に追いやるのか?」

楯無が言う前に、千冬は一瞬彼女に視線をやってからシャルロットに言い放つ。

シャルロットは何も言わない、言えない。

「そういう事だ。私だって可能なら使える物と人材を全て投じてラウラ救助に参加するだろう。デュノア、いいか落ち着け。我々はこの自体が収束するまでこの地下室に避難していなければならない。これは私からの命令では無い、学園の決定による命令であり日本政府からの命令だ、私の権限程度ではどうしようも無いんだ」

ペタンとシャルロットはその場にへたりんだ。

部分展開されたISは自動格納された。

「、シャル」

一夏は恐る恐る近づくと、震えているシャルロットの肩に静かに手を掛けた。

千冬は既に背を向けてモニターを注視している。

「・・・、ねえ一夏」

蚊の鳴くような声だった。

「なんだ?」

「・・・・・・まだ、私達は子供なんだね」

頷こうとして、一夏は辞めた。

代わりに「立てるか?」と聞こえないフリをして、シャルロットを促した。

既に自分は餓鬼で有る事は認めた積もりだった。

けれどこうして仲間が目の前消息不明になってみて、まだ自分にはできる事が有るのではないか?と無駄な勇気が湧いて来るのを、それでも否定したく無いのだ。

飲み込みたくない、が飲み込まざるをえない。

そういう葛藤自体が餓鬼である事の証左なのは、重々承知している。

 

 

 

 

 

異常なまでに近いジェット戦闘機のエンジン音を聴きつつ、陸上自衛隊中央即応団中央即応連隊特殊作戦群、いわゆる自衛隊特殊部隊の一部が、瓦礫と化したコンビニエンスストアの前に辿りついた。

それ以前に、荷電粒子砲の射線となった街道の惨状に言葉を無くしていた隊員達はその終着点たるコンビニの状況に際して、もはや機械のように働いていた。

班長の全員降車の一声により隊員達はこれまで乗車して来た高機動車を降り、瓦礫の方向からの盾にするカタチで展開する。

「「こちら青森こちら青森、被害当該地区に到着した。目標は恐らくコンビニの瓦礫の下だ、現状の人数だけでは対応に限界がある。秋田、岩手をこちらに回してくれ」」

今回の作戦において、特殊作戦群は部隊を県名にして呼称し振り分けていた。

そしてその青森部隊の班長は今、全体の司令部である東京に応援を要請したのだった。

機動車の通信機での通信を終えると、荒れたアスファルトの上に強引に横付けされた三台の機動車との背後でSCARーHライフル、若しくはMP7A1サブマシンガンを構える隊員達を眺める。

彼等の目には任務、今回の場合は行動を停止したテロISの捕獲という任務を正確に達成しようという機械じみた意志だけが宿っているのを認めると、彼自身も意識を切り替えた。

 

コンビニの周囲を囲むように近隣のビルの屋上に配置された特殊作戦群の狙撃班の観測手は、徐々にヘリが近づいて来ているのを察知していた。

直ぐ横でレミントンM24狙撃銃を構え、スコープで瓦礫の山を捉え続ける狙撃手にそれを伝えると、そっと通信を青森部隊班長に繋げた。

「こちら陸奥狙撃班。北北西の方向よりヘリ音1、機種不明なれど民間機、ドクターヘリだと思われる。対応の指示を請う」

程なくして返事が来た、各狙撃班との共通回線だ。

ヘリのローター音が近くなる。

「「こちら青森、狙撃班全班に通達する。これより我々の上空をドクターヘリが通過する、狙撃手の位置は変えずに擬装し観測手は身を隠してやり過ごせ」」

了解と再信し、戦闘服の上に背負った背嚢から暗灰色のシートを取り出して、銃を構えている狙撃手の肩を二度叩いた。

狙撃手は装着しているヘッドセットを少しズラす。

「今からシートを被せる、体勢はそのままで構わない」

そっと耳打ちすると、わかったと一言。

そして出来るだけ音を立てないように手早くシートを被せた。

自分もMP7のセレクターがSEMIに入って居る事を確認すると、屋上に置かれた四角い大きな排気ダクトの側に身を寄せる。

ヘリの爆音が更に近づく。

戦闘服がヘリの起こす風で靡く、狙撃手に掛けたシートが不安だったが大丈夫のようだ。

(早く行っちまえよ)

緊張感と焦燥感が同時に襲い、全身がむず痒い厭な感覚に囚われる。

だいぶ傾いてきた陽光に陰を投じながら、ヘリは観測手の直ぐ上空を通過した。

そして、観測手はダクトの影からヘリの行方を追う。

真上を通り過ぎて行ったドクターヘリは、白と青のツートンカラーに赤十字が書き記されている、極普通のデザインだ。

所属は東京消防庁となっている。

もう少し身を乗り出すも、窓の中の様子は生憎ここからでは見えなかった。

そして

「はっ?」

そのドクターヘリのローター音は遠ざかる事は無かった。

観測手は思わず声をもらした。

ドクターヘリは、ちょうどコンビニの瓦礫の上空で停止したのだ。

 

 

 

アフターバーナーの轟音も既に耳心地良く感じるようになって、最後の増槽を投棄した。

もちろん下は人気の無い山でも無ければ海面でもない、住宅や商店が立ち並ぶ市街地である。

ついでにフレアも一緒にばら撒いておく。

「ククク、別に爆弾やミサイルで無くとも一般人を捻り潰すのは簡単じゃないか」

いつ、自衛隊地上部隊による地対空ミサイルや高射砲などの攻撃受けるか分からない状況で、男はむしろそのスリルを楽しむ節さえあった。

「航空燃料には人体に有害な成分も含まれているからな、今のは擬似化学爆弾頭と言ったところか」

そして汗の染みた赤い鉢巻を一撫でし、男は燃料の残量を見て決める。

目標は皇居周辺にしよう。

飛行服の腕にビニールテープで貼り付けた地図を見て、座標と機首方向を修正する。

目標地点、つまりこの男が作戦目的達成の為に身を捨てる文字通り死に場所である。

 

さて、ここからが大仕事だった。

何せ都会の乱立する建物にレーダーは阻害され、またそれにより地上部隊も何処に居るかという事も、より一層分からなくなる。

特に重要拠点には、絶対に自衛隊は展開されて居るはずだ。

男は何処から湧くか分からない敵と、場所が判明して今も自分を待ち構えている敵、その二つを同時に相手するのだ。

では、それらを突破し攻撃を完遂させるためにはどうすれば良いか?

単純だ、単身気化爆弾を抱えての急降下「特攻」だ。

中東イスラム圏の過激派自爆テロ等と同じやり方である。

これで無差別に日本の人命や構造物を破壊する事が出来る。

 

しかし、そうするとなると自衛隊による地上から若しくはヘリによる低空からの攻撃を最も避けなければならない。

一度高度を上げて目標地点の上空から急降下、これがベストだった。

操縦桿を手前にぐっと引きつけ、機を夕陽が染める大空へ運ぶ。

眩しく輝く四月の太陽が見えた。

「これが最後の夕焼けか」

上昇していく景色は血のように紅い。

喉にヒリヒリ痛む乾いたエアや、ぐっと背中に掛かるGもこれで最後かと思うと、それはそれで考えるものがあった。

高度3000m。

上昇の頂点に達し、ここから折り返し降下する。

座標調整はこの降下中に行う。

「最後の仕事だ!」

引いていた操縦桿を、さらに手前に引きつける。

上昇をしていた機体が空中で一回転し、機首を真下にむける。

落下時に生じるマイナスGが下腹部から全身にかけてを不快感に包み機体が軋みの断末魔を零す、推力を上げた。

不快なマイナスGが加速によるプラスGに変わり、重力に引かれていよいよ速度を上げた。

音速を突破し空気を叩く破裂音が鼓膜を震わせると、男は今の瞬間にも増えていくGに指先一つ動かすことに苦労しながら歓喜の雄叫びを叫んだ。

上空3000mから振り下ろされた怪鳥は、夕焼けの紅蓮に刻まれた一筋の弓矢であった。

登る時とは相反し高度計の数値がみるみる低下していく。

高度が1200mを割る。

 

まともに動かせない視界の中央に黒い小さな影が見えた、ような気がする。

それは今の今まで無かったもの、嫌な予感がした。

 

 

 

 

皇居上空500m、そこにさくらは居た。

上空から垂直降下して来るのは、これまで日本へ災禍の限りを尽くして来たSu27。

手にした長刀アサギリを振りかぶる。

冷戦時代を象徴する東側陣営の巨大な怪鳥は、真正面から見たシルエットでさえかなり大きく見えた。

が問題は無かった。

「・・・ステルスを二回、0・8秒だけ解除」

五秒のインターバルを置いて機体の空間投影、光学迷彩、ジャミングが解除される。

敵機は気が付かない。

それまでだな、さくらはSu27を見限った。

推力を最大、長刀を振るう腕を更に引く。

ほぼ一瞬で接敵したさくらは、目の前の戦闘機のコックピットと右翼を削り取るように切り結ぶ。

「・・・気付かれてたっ、?」

しかし、刃が装甲を切り裂く寸前に狂いが生じたのだった。

何故か、敵機が左へ旋回運動を掛けたからだ。

コックピットを狙った刃は装甲に傷跡を残すだけで、流れた刃が全く見当外れの右翼を中腹から切り落とす結果になった。

「・・・、くッ」

怪鳥は高度を上げてようと、機首を上空に再度求めている。

機体の腹に抱えられたタンクが切り離される。

それはIS学園近海で交戦したSu27が搭載して居たものと同型の気化爆弾であった。

「・・・、!」

さくらはここで、大きなミスを犯した。

ドロップした気化爆弾ではなく、飛び上がるSu27を優先したのだ。

重力に半ば囚われたままの戦闘機はいとも簡単にISに追い付かれ、回避も虚しくコックピットを袈裟懸けに寸断される。

(・・・、これで)

 

さくらが戦闘の勝利を確信した瞬間、高度500mで制限装置が解除された気化爆弾が猛炎と暴風となり炸裂し、半径1〜2キロが炎の海となった。

 

 

 

 

都会はコンクリートジャングルと揶揄されるように、建造物が乱立している。

この気化爆弾の炸裂で、それらの窓ガラスや細々とした破片、爆炎による高熱がコンクリートジャングルの東京を襲い、あたかも竜巻被害をそのままスケールアップさせたような被害に包まれた。

後々の証言では火災旋風という状態に陥ったとも、言われている。

それはとにかくとして、非常事態宣言による交通規制で混乱が生じていた道路交通がこれで完全に麻痺を起こした。その他鉄道等の公共交通も軒並みストップした。

日常における一般市民の「足」は完全に封殺されたと言っても良いだろう。

爆風の影響はこれだけに留まらず、効果範囲の電線を全て引き千切る事で停電と通信障害を引き起こした。

また、切れた電線による感電や爆発の爆炎と衝撃が火災旋風による火災をより広範囲なものとし、前述した交通麻痺が緊急車両の急行を妨げ消化活動や人命救助を手間取らす事となった。

つまるところ、都市部における考えられる限りの最悪の事象が起ったのだ。

加えて、気化爆弾の炸裂地点のほぼ真下が首相官邸であった事から、一連の領空侵犯事件の対応に集まった政治家や官僚達が特に被害を受ける形となった。

これは即座に日本の政治的機能の麻痺を意味し、現状の都内の被害を更に悪化させ、一般市民の死傷者数を増大させる結果となった。

 

 

日本はこの日、完全に敗北した。

初動の遅れを覆せぬまま、自衛隊、米軍、極秘裏に投入したISさえも有効に活用出来ずに。

そして気化爆弾の爆発により政治的機能を失いその上国民を巻き込み、更にIS学園への襲撃や福島第一原発を爆撃されたことにより、その被害は世界各国へにも及んだ。

これは日本の安全保障の脆弱さや、組織の体質日和見主義、平和主義の弱点を最悪の形で国際社会に露呈させたと言っても過言では無い。

 

後世の人間は皆揃ってこう言う。

この日こそ、日本が本当に戦後を抜け出さないといけない事を自覚した日である、と。




次回、第十話。
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