IS IS学園って本来は女子校だから恋愛は基本的に百合なはずだよね?   作:セキエイ

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だいふ間を開けてしまい実に申し訳ありませんm(_ _)m
この文を書くのも正直何回目か分かりませんね(汗)
さて、この作品を執筆して一周年経ちましたがやってる内容は四月某日の学園の入学式一日という酷い有様です、しかしなんとかケリはつきましたのでこれからバンバン話を進めて行こうかと思います。

でも百合ん百合んには程遠いなあ。


第十話 戦禍の夜

日没から降り出した雨は、昼間の騒乱を洗い流すように激しかった。

 

 

雨は窓ガラスを叩き、定期的に作動するワイパーの稼働音がなけなしの抵抗を試みる。

彼女のISの待機状態である髪留めをパッと外して、「いいぞ」と、運転席の笹山は隣に座るさくらを促した。

横目で見るさくらは何処を見るともなくともすれば人形の様に俯いている、まだ薬が抜け切って無いのだろう。

瞳孔が開いた目には生気の欠片すら発見出来ず、唇は乾ひび割れ頭髪には枝毛が散見している。

女子高生としてあるまじき姿である。

(まるで死体だな)

しかし笹山の鋭い視線も、今は彼女に届かない。

「・・・」

膝の上に投げ出された手が蝋の如く真白い。

こんな年端も行かぬ少女を廃人の様にしてまで仕事を行わさせる笹山の心中で、様々な感情が渦巻いているのは言うまでもないだろう。

聞こえなかったのか?

が彼は務めて冷静に対処した。

それとこれとは別、強引に意識を切り離す。

直後、さくらは首を軽く横に振ると素早い動作でドアを開け車を降りる。

いやに俊敏な動作でだ。

しかし

「忘れ物だ」

そのまま歩き出したさくらに、笹山はダッシュボードから新しいプラスチックの注射器を取り出し放った。

これは彼女を操る為に必要なツールの一つである。

振り向いたさくらは、それを若干皺になった学園の制服の胸で受ける。

「!」

樹脂製の注射器が地面に落下する硬い音が、柔らかな雨音を少しだけ割った。

さくらは、何が起きたのか理解出来ていないかのように、ボーッと雨中を立ち尽くしている。

いつもならしっかりとキャッチ出来る筈なのだが、どうしたものか。

しかし感情の乏しい彼女の内心を見抜くのは至難であり、笹山は今さくらが何をどう思っているかという事をもはや意図的に無視していた。

だから視線を手元のハンドルに落し、胸の違和感の元凶を視界に入れないようにした。

「俺は一度技研本社にISを預けてから、外周の道で待機して居る。何かあったら連絡しろ、それと篠ノ野妹、織斑姉弟の監視は明日からでいい。大丈夫だな?」

反応は無い。

笹山は立ち尽くすさくらに構わず、車を発進させた。

 

緩慢な動作で注射器を拾ったさくらは、濡れそぼった小汚い捨て猫のような様相を呈していた。

春の雨は彼女の下着まで濡らし、寒さと共に喉奥の不快感が襲った。

加えて戦闘の為に使用した薬物の副作用で、目の奥の辺りが鈍く痛んだ。

これが、これだけがどうしても嫌だった。

そしてこの痛みは、さくら自身の見たくも無い心の内面までもを、思考の流れに引きずり出そうとする。

この時ばかりは、何時ものような足場の無い安定性を欠いた精神状態が立ち消える。

そして、まるで酒酔いから覚めた時のような妙に冴え切った心持ちになる。

これが彼女の心の中を無駄に鋭く邪推し、結局ネガティヴな方向に考えを持って行かれるのだ。

そもそも普段から慢性的な根拠の無い不安と恐怖に駆られる日々の中に居るさくらは、もう既に不安と負の感情の許容量をオーバーしていると言えた。

戦闘に身を任せていた少し前と異なり、痛みで覚醒し切った思考と夜闇に映える学園の輝きが刺さるように痛みを助長させて、涙が溢れる。

それは、痛みと根元不明の罪悪感とそしてまた上手く捉える事の出来ない、さくらにとっては意味不明な感情の揺れ動きから来るものである。

「・・・うううッ、んっ」

それは啜り泣きだった。

 

 

午後10時を周り、学園寮のタイムスケジュールは消灯までの自由時間となっていた。

ただ其処にはいつもの様な喧騒は無く、高校という場には到底似つかわしくない粛々とした時間だけが流れている。

額にべったり張り付いた前髪を梳いて、さくらは厚手の絨毯が敷かれた寮の廊下を歩く。

煙に巻かれた身体が臭い。

当然ながら食堂にはシャッターが降ろされていて、傍の自販機の蛍光灯が寒々しく輝いているだけだ。

途中何人かの生徒とすれ違ったが、皆一様に自分の事を異形なモノを見る様な目で見るだけで、話しかけられる事は無かった。

煤けた制服で雨雫を垂らした、ボロ雑巾のような成りで歩いているのから仕方ないだろう。

そうして、自室の前に着く。

途中トイレで戻して来ようかと思ったが、辞めた。

 

ここに来て思い出す事があった。

「・・・・・・」

今この部屋の中には相部屋になった生徒が居るはずだろう。

その為、さくらは入室する事に躊躇う。

けれどもう彼女は疲れ切っていた。

他人に神経を尖らす事さえも億劫な程に疲れ切っていた。

「・・・、いいや。」

だから、自分の手と同じ温度の金属製のドアノブを躊躇無く捻った。

 

〜〜〜

 

頬に雨の冷たさを知覚して始めて、青森班班長、呉坂は自分は意識を失っていたのだと気付いた。

(まさか生きているとはな)

ぼやけた思考の中で自嘲する。

同じくぼやけた視界にで辺りを見回すと、ひしゃげて焦げたドクターヘリに瓦礫とヒビが入りガラスが軒並み割れた建物、始めて訪れた時よりも更に荒れ果てた街道があるだけである。

「くっうう、イテえなあ・・・ッ!」

胎児のように丸めた身体の節々が悲鳴を上げる。

それでも、全身を丸めて抱え込んでいたブツの硬い感触を確かめて、安堵の息を吐いた。

それは鋼鉄の外殻に保護されたソフトボール大の、目標。

インフィニット・ストラトスのシステムの根幹を成す、メインコア。

それを胸に抱え込んで立ち上がる。

ずり落ちた負い紐を外すと、衝撃を受けてひしゃげて動かなくなったMP7を手にした。

ざっと外観を見回した後、まだ弾が入ったままのマガジンを抜くと、難儀しながらもボルトを引いて薬室内の弾を排出しセーフティを掛けた。

これでもう、この銃は発砲出来ない。

「、フフ・・・」

呉坂は薄く微笑した。

普通の軍隊ならこんな事はしないだろう、しかし彼はあくまで日本国自衛隊に属する一人だった。

彼の自衛官としての矜恃が、例え壊れた銃であったとしてもこのような厳重な取り扱いをさせたのだった。

仕上げだ。

手に残された未使用弾とマガジンを弾帯とマガジンポーチに仕舞う。

本体をそのまま放置して置くのは忍びないのでタイル状の瓦礫をその上に置いて、破れた迷彩柄のウエストポーチで覆う。

「これで、良いか」

ホッとした束の間、痛みが襲った。

特に左の脛が強烈に痛みを発し、思わずバランスを崩しかけた。

「っ、チクショウ!」

それでも呉坂は、太腿のホルスターに収めたシグザウエルを抜き壁を伝いながら歩みを進めた。

このコアは、今後の日本の行き先さえ左右しかねない代物、奪われる訳にはいかない。

国がこれをどう活用するかは分からないが、少なくとも持ち帰らない事には何もできない。

 

 

~~~

 

 

湯のむっとした熱気に自然と頬が緩む。

雨に濡れ戦闘で疲労した身体には心地良く感じられた。

「あなた、そんなに疲れてたの?」

が背後から声が聞こえ、さくらは居住まいを即座に引き締めた。

「・・・別に」

反射的に言い返し、しかし背後のルームメイトを置いて行く様な事はしない。

当の百合香はというとクスクスと笑っている。

「昔、そんな受け答えして干されてた芸能人がいたっけ。ふふふ」

若干の苛立ちを知覚するが、百合香が促し大浴場に入る。

今の時間は一学年が使用するスケジュールになっており、周囲を見回してもテレビや雑誌に出ていた二年三年の先輩の姿は無い。

そしてそんな中でもさくらは、更にもう一年年下であるような身体の小ささであった、身長の大きい人とならば頭一つ分位は違うだろうか。

百合香は何故か彼女に、子猫のような印象を抱いた。

さっき雨でずぶ濡れになって帰って来たさくらを、部屋を出ようとした所に鉢合わせ、勢いのまま抱きとめてしまった事が原因だろう。

慣れない自己分析をしながら温い床を歩く。

 

そして二人は手近な空いて居る蛇口の前に身を置く。

この辺は一般の銭湯と何ら変わり無い。

シャワーで全身を湯で濡らすと、さくらの凹凸の少ないやや骨が浮き出た貧相な身体を、暖かな温度が流れ落ちる。

微かに膨らみが有る乳房と隣に身を寄せた百合香の肉付きの良い均整の取れた肢体とを、無意識に見比べていた。

シャワーで流した湯が、百合香の大きな胸の谷間で水流が複雑に変化してくびれた腰を伝い、タイル張りの床面に落ちる、それを目で追う。

「どうしたの?」

そう言われ、さくらは我に帰った。

「ん、何か付いてた?」

「・・・ち、違う!」

そして咄嗟に身体を両の手で抱くと、百合香に対し遮る様に僅かに背を向けた。

さくら知っているのだ。

隣に居る彼女の柔らかさと暖かさを。

だからだろう、まだ肌に残っている気がする妙に生々しい抱きあった記憶で頭が一杯になった。

そしてそれが悟られそうになったことが一番恥ずかしい。

「・・・何でも、無い」

マトモに顔を向け合っていられる訳は無く、ぷいとあさっての方向に視線を除けた。

あからさまに変な反応だった。

抱いた時のさくらの細い身体を僅かに思い出しながら、そんな訳無いだろう、と百合香は思った。

何だろう、見られたく無いものでもあるのか。

しかしそれを詮索する権利も百合香には無い。

さくらはそのまま格好で頭を洗い出したのを見て、器用だなとまた百合香はぼんやり思った。

 

 

湯船に浸かると、溶け出すように全身の筋が弛緩してそれが更に心地良かった。

湯船の壁にもたれかかり、百合香が見てないうちにそっと手を首元の注射跡に添えて隠す。

「ねえ深角さん。今日早退したって聞いたけど、大丈夫だった?」

それは自分の早退した理由の事か、はたまた今日午後から起きた首都大規模襲撃についてのことか。

恐らく両方だろう。

「・・・わたしは、大丈夫。でも都内で車に乗ってる時、爆発に巻き込まれかけた。けど、わたしは今ここに居る」

さくらはぎこちなく、そして微かに口元を笑みの形に歪めた。

それはたった今嘘を付いた事への贖罪の気持ちもからである。

「・・・だから多分、大丈夫」

小さく、小さくさくらは呟く。

しかし、横目で見た百合香はさくらを見て居なかった。

いや、正確には視界の中にさくらは存在しているものの、思考の中には居ない、例えるならそんな感じだろうか。

薄く微笑を湛えた瞳の奥には、別のもの光が宿っているように見えた。

それはそう、不安だ。

「・・・、あ、あの。南條、さん?」

震えた声で尋ねた。

「っ、ああゴメンね深角さん。ちょっとだけ、考え事をしてたの」

「・・・そう」

そしてまた、会話は途切れる。

背を預けた壁に完全に身を委ね、目を閉じた。

身体の周りを水が対流する感覚、周囲の明るい声、吸気に孕む熱気と湿気。

身体を動かすと、隣の百合香と密着している度合いがもっと大きくなった。

 

「ねえ。一つ、いいかな?」

唐突に百合香は切り出した。

その表情は不安の闇に染まり、芳しくない。

さっきまでの繕った明るさはどうやら捨てたようだ。

コクリとさくらは頷く。

「私ね、家族が一人しか、お父さんしかいないんだ」

「・・・うん」

「それで職業は自衛官、航空自衛隊のパイロットをやってるの」

「・・・」

「それでね、今日はお父さん警戒飛行の当番の日だったんだ」

そんな中で今日の一件か、何と無く見当が付いた。

今にも泣きそうな表情でこちらを向いていた百合香は、遂に顔を胸元に伏せた。

足を抱えて、大きな乳房が形を柔軟に変えた。

「私のお父さんは石川県の基地に務めてるんだけど、多分今日の事件で、出撃したんだと思う・・・」

確か戦況情報ではISによる自衛隊戦闘機の撃墜機は無かった筈、東京での戦闘はともかく公共機関や民間への被害の大部分はあの気化爆弾を投下したフランカーなのだから。

つまりあの戦闘で彼女の父が撃墜された確率は、そんなに高くない。

けれど、何も知らない目の前彼女はただただ不安に打ちひしがれている、不安を宿している。

その気持ちは、さくらには痛いほど良く理解できた。

しかしおいそれと自衛隊の情報を漏らす訳には行かないし、さくらにはそうする義理も無い。

何より、そんな事を話したら自分が自衛隊に所属しているのだと知らせているようなものだ。

けれども、さくらの胸にはまだモヤモヤが滞留したままだった。

 

爆発で地上に叩き落とされ、周囲を見回した時に広がった爆心の光景が今でも目に焼き付いている。

血のように紅い灼炎と夕陽のコントラストが、東京を残酷に美しく染め上げているのだ。

丁度湯気でぼやけた灯りで照らされているこの浴場のような明るさだった。

そしてその時さくらの目に映ったのは、あの東京の風景だけでは無い。

これまで渡り歩いた数々の戦地で見た光景が雑多に入り混じり、眼前にある煙と焦げる血肉の匂いや油の臭いが昔の記憶を鮮明に観せた。

肉を断ち切る生暖かな手応えや引き絞った引き金の硬さも、同時に。

全身は泥のように重たいのに、氷漬けの如くもはやへたり込む事さえ出来ないまま割れたアスファルトの街道に立ち尽くした。

そこでやはり自覚するのだ。

自らは無力だという事を。

そして記憶の一番奥底に散らつく唯一心を許し憧れた男の影が見えて、さくらは彼との約束を守れなかった事を認めた。

もはや涙は枯れて果てた。

再び周囲を見渡した時に聴こえたのは、人々の叫びや救急車のサイレンばかり。

ISスーツ越しに感じる四月の風と炎の熱が、すべてがさくらの一瞬の判断ミスによって生じた結果を責め立てているかのように感じてならなかった。

あの時に、もしフランカーが落としたタンク型の爆弾を斬っていれば、数刻前に見た東京のような生き地獄を生み出す事は無かったのだろう。

しかし時の流れにifは無い。

 

今みたいに、誰かの不安を一緒になって共有して和らげる事は、さくらにとって初めてだった。

誰かと交流を密にして何かを共有する、他人との触れ合いを苦手とする彼女にとってそれは少し荷が重い。

それでも父が無事である事実を言おうか言わまいか、答えは出ている筈なのにグルグルと無駄に思考を重ねている自分が居るのは、単に甘いからだとさくらは自分自身に言い聞かせる。

だがその時、浴槽の底に置いていた手に暖くて、柔らかい感触が重なるのを知覚した。

百合香だった。

「顔、暗いよ?」

そう言って、まだ曇りが残る微笑みをさくらに向ける。

人の事なんて言えないくせに。

でも、重ねられた百合香の手は浸かったこの湯よりも温い。

(わたしはこの女の様にはなれない、こんなに暖かい人間にはなれない)

チクリと小さな胸の奥が疼いた。

「・・・お互い様、でしょ」

人を殺して生きて来たさくらにとってこの暖かさこそが一番辛い。

自分が生きているという事を嫌でも自覚させられるからだ。

そしてそれは同時にこれまで殺してきた人間にも自分と同じように人生があって、意思があって、感情があって

、その上で死んでいった事を無視出来ない程に直視させるれるのだ。

そうして後に残るのは後悔と罪悪感だけ。

「そう、だね」

微笑みが消えた。

 

そして、さくらは抱き留められた。

 

何か確かめるかのような、百合香の強い抱擁。

起こった事が理解出来ない。

「・・・ッ、うぁう」

「・・・・・・」

変な呻きを出したのが少し恥ずかしい、けれど抱きついて来た百合香はどうしてか、暖かい。

柔らかくて良い匂いがして鼓動がして、そして感情を露わに泣いている。

「・・・・・・」

骨が軋むほど強い。

背中に回された手が、背筋を優しくなぞった。

それは子供が母親にされるそれと同じ性質のもの。

でも何故だろう、妙に心が落ち着き、安心する。

さくらも、恐る恐る手を百合香の背中に回して、ゆっくりと撫でたのだった。

顔が緩み切って居るのを見られたくないので、顔を伏せる。

少し疼いていた胸の奥が優しく溶けていくのが、分かる。

こんな感覚は始めてだ。

ISに身を包んだ時と同じ位に安心する、人肌とはこんなにも安らぐものなのか。

微かに身じろぐと百合香の鼓動が早くなり、そしてさくらは柔らかな胸に頭を預け、最終的には全身の力を抜いた。

 

其処に流れる二人にとっての時間は、悲しみと安らぎに彩られた儚くも甘いものだった。

 

 

しかしその時間は、数多くの尊い命と虚構の社会によって成り立っている。

彼女らはそれを朧げながら理解していて、でも確信出来ずにいる。

彼女らは今、子供程無知でも無く大人程知り得て居る訳では無い、思春期という中途半端な立ち位置に居る。

 

 




相変わらずの長い駄文にお付き合い、ありがとうございます。
今の所タイトルとは遠く男臭い小説になりかけていますが、ちゃんと百合百合させていくんでよろしくお願いします。
それとかなり今更ですが、この小説に出てくる国家、組織、団体、企業、人物その他は実際とはなんら関係は有りません。


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