IS IS学園って本来は女子校だから恋愛は基本的に百合なはずだよね?   作:セキエイ

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今回は何とか一ヶ月空けるだけで済みました、それでも本当に申し訳ありません。
まあでも、忙しいんだから仕方ないね(白眼)


第一章 泥沼の底から見る晴天
第十二話 孤独の風


入学式から一ヶ月後、五月某日

 

深角さくらの朝は割と早い。

午前5時きっかりに起床すると、水をコップ一杯だけ飲み15分程で諸々の支度を終える。

そこから何をするのかというと、学園敷地遊歩道での朝のランニングである。

このランニングはまだ余り人が居ない学園円周に沿う遊歩道をたっぷり45分掛けて一周半する。

そこまでで5時45分、起床の放送が6時15分に掛かるので走り終わって授業の準備をしても余裕があった。

 

タンタンタンタンと、渇いたアスファルトにリズミカルな足音が躍り、さくらは射し込む朝陽に目を細める。

空気の湿気った匂いが鼻についた。

未だ翳りのある西の空には分厚い雲のかたまりが鎮座して居て、今日は少し風もでているから午後から天気が崩れるに違いない。

「・・・ッ、」

流れる風景の先に再びスタートした植木が見え始めて、そこを通過すればここを一周した事になる。

その間ずっと、湿気と身体の揺れで舞う鬱陶しい髪。

そろそろ切ろうかなとさくらは思った。

数十分後、ランニングを終えると校舎裏のやや入り組んだ人気のない敷地へと足を運ぶ。

そこはぽつぽつと思い出したかのように桜の木が数本植わって居るだけの、他に何も無いスペースだった。

周囲の校舎も、開けたそのスペースに向けた窓は無いため人が来ない上に見つからないと言う、さくらにとって都合の良い場所である。

そこで腰をぺたりと下ろすと、ポケットに入れた携帯の電源を入れた、着信は一件。

発信者はさくらの保護者にして監視者の だ。

 

観察対象及びその他諸々に異常なし、状況を続行する

 

それだけを打って、定時連絡の返信とした。

 

 

部屋に戻ると軽くシャワーを浴びて汗を洗い流す。

そうすると時刻は6時10分、丁度今ルームメイトが起床する所であった。

「ぁ〜、おはよ〜〜」

「・・・おは、よう」

未だ寝ぼけ眼でぼんやりとしている百合香、彼女に背を向けてタオルで髪ゴシゴシと強く拭き手早に衣類に身を通す。

「っんーっ、はぁぁ。」

後ろで大きく伸びをして覚醒した百合香は、テレビを付ける。

静かな朝の部屋に文明らしい音が混ぜられた。

テレビの内容は、昨日組閣された日本の新しい内閣について、そしてあの東京テロから一ヶ月を知らせるものであった。

この内閣もとい政党は、前政権の解散総選挙にて歴史的大勝利を納めた事で話題になっている。

まあ、前政権が元々汚職に失政を重ね、終いには東京へのテロを許すという大ポカの連続であった為、この結果はいた仕方ないとも言える。

事務所で拍手をしている新与党の党首の場面から移り変わり、次は東京の復興についてだった。

テレビ局本社ビルの屋上から撮影された東京の風景は、曇りがちながらテロ以前と遜色なく見えた。

実際もそうであり、一部の街道以外はほぼ完全に復旧が終了している、各交通関係も前と変わらず運行して居るし、人々は何事もなかったかのように生活を続けているのである。

洗面所に行こうとした百合香が、テレビのリモコンを置く、それを目で追う。

「あっ、リモコン使う?」

「・・・いらない、消していい」

わかった、洗面所に立つついでに百合香はテレビを消した。

 

〜〜〜

 

深角さくらがこの学園に派遣された理由は即ち、織斑一夏とその姉千冬、現在失踪中である束博士の実妹、篠ノ乃箒の3人の監視であった。

加えて、あわよくば接近した束博士の身柄の拘束をも含まれている。

政権が変わり、指揮者が変動した現在でも彼女の任務に変更は無かった。

 

さくらは目の前の皿から一切れサンドイッチを取り頬張る。

今、彼女が腰を落ち着けている食堂窓際のテーブルは人気が高く、普段は入れ替わり占領されているのが常だが、午前6時半少し前ではその三分の一が埋まってるに過ぎない。

この時間は在籍している生徒が信仰する、各宗教の朝の祈りの為に設けられた時間だからだ。

30分から40分までその祈りの時間は設けられていて、そうする必要が無い生徒のみこうして先に朝食をとっているのであった。

「・・・、・・・」

手元には開いた新聞が置かれ、さくらはそれを見ながらサンドイッチを口に運ぶ。

トマトとハムとレタスが挟まれたそれを、無感動に咀嚼する。

朝刊の一面トップは、やはり昨晩の選挙開票による新与党の成立だ。

真ん中で両腕を振り上げ万歳をする男が、その新与党の総裁である。

その姿はまるで壮年とは思えない。

年齢の割に溌剌とし、痩身ながら気に満ちた出で立ちと髪の黒さ、その無邪気な少年ような政治家とは相反する笑みから生じる若さが、そう思わせているに違いない。

名を、藤堂新一と言った。

彼は今までこの党の副総裁を務めていたが、先の東京へのテロ攻撃で本来の総裁が大怪我を負った為に辞任した事から今の地位に着いたのであった。

が、元々の総裁本人が非常に高齢で引退も噂されていたため引退が早まっただけのようなものであり、実質的に党の運営には何の支障も無かった。

藤堂は紙面でこう語っている。

「「先の東京や日本各地への被害を通して、皆さんはお分かりになったことでしょう。

この日本の弱さというものを。

私はこのテロを教訓として、国民が安心して日常を送れて夜眠れる国を、この国の基本精神を曲げる事無く国民やその財産の保障を万全とする、そんな国を作って行こうと思います」」と。

 

「・・・前政権の遺産である私に対して特に何も無いのは、多分その為なんだろうな」

そこで三切れのサンドイッチが全て無くなった。添えられた残り僅かなコーンサラダを手早に食べ終えて、最後にポットから冷水を一杯注いだ。

ポケットに居れていたピルケースから、種類の異なる錠剤を五錠取り出す。

それを水と飲み下す。

なんとも言えぬ嫌な感じが喉奥から這い上がり、顔を顰めて耐えた。

さて、徐々にこの大食堂に人の数が増えてきた。

柱のホログラム映像に投影された時計の針が指し示すに、祈りの時間は僅かに過ぎて居た。

そろそろ食堂を出よう、さくらは席を立つ。

 

〜〜〜

 

「それで、そっちのルームメイトはどうなの?」

「別にな〜んにも、相変わらず無愛想で無反応を貫いてるだけよ」

浴槽の中で抱き締めた記憶に鍵をかけ、百合香はぼやく。

「ベッド脇の仕切りはいっつも開いたままで部屋に帰るとすぐその仕切りの向こうに一直線、顔も出さないし。

それに朝は早く起きてランニングしてシャワー浴びてるらしいから、話すヒマなんて無いし」

反対側の椅子に腰掛けてトーストを齧る五反田蘭は、ふーんと返す。

「よく観察してるのね」

冷やかに紅茶をすする。

「あっ、もうそんな訳じゃない。そういう蘭はどうなのよ、一夏先輩には仕掛けてるの?」

「うっ」

目が泳いでいる。

この反応からして、特に何も出来て居ないみたいだ。

蘭は天井を仰いだ。

「はあ、私って本来にヘタレだわ」

「その通りね」

百合香の相槌にむう、と頬を膨らますも直ぐに萎む。

(それにしても、私も私よね)

百合香は心の中で自嘲する。

 

〜〜〜

 

終業のチャイムが鳴り、ホームルームの壇上にたった千冬は一枚の用紙を皆に提示した。

「全員よく聞け。以前この紙を渡したと思うが、この部活動入部届の受け付けは今日までだ、まだ出していない奴は今日中に提出しろ。

この学校は一応部活動への参加は自由だが、生徒はできる限り何らかの部活動への参加をしてほしい。以上だ」

 

「・・・部活、か」

一人だけの部屋の中を、さくらの掠れぎみの声が意外と大きく震わせる。

担任はあのように言っていたが、さくらは部活動に参加する気は甚だ待ち合わせて居ない。

おもむろに腰を下ろしたベッドから立ち上がり、制服を脱ぐ。

単純に皺になるのが嫌だからだ。

そうしてジャージに着替えてひと段落し窓の外を覗いた。

五月の太陽はまだ高く夕飯には早い、しかし昼寝をするには時間が短すぎる。

微かに外から部活動に励む生徒の黄色い声が聞こえた。

この広い学園の喧騒のどこかに、織斑一夏は居るのだろう。

探してみようか。

こんな考えはほんの気まぐれに過ぎないものの、自分自身驚いた。

それは無為な散歩と同義だからである。

 

〜〜〜

 

ただぼーっと学園を散策して居るほど、さくらは時間というものを軽視していない。

ジャージの上着を見知った街路樹の根元に置き、さくらは毎朝のランニングルートを毎朝よりも早く走っていた。

更にいつもの外周ルートから外れて今回は学園校舎が建つ込み入ったルートを走り込んでいた。

何時もよりも荒い息遣いで風を切る感触、陽射しが朝とは真逆の位置から照らして暖かく、それが新鮮だった。

堅いアスファルトは余り足には良くは無いが、それを差し引いて今は純粋に面白い。

この季節、ここが内陸部であったなら蒸し暑く纏わり付く湿気が癇に障っただろうが、ここは人工島。

適度に冷えた風が、浮き出た汗を蒸発させる。

戦闘前に投与するあの薬物を使用したときのように妙な充足感が身を浸す、しかしこの充足感はクスリで無理矢理に満たされたものでなく、100%自らの力で満たしたもの。

それ故に常に彼女を苛む不快感も、この時ばかりは影をひそめていた。

「・・・はっ、はっ、はっ、!」

脚の回転が徐々に早まる、車がゆっくりとアクセルを踏み込んでいるが如く。

もうそれはランニング、という範疇に収まらない速度ではなく短距離走のそれだ。

ランナーズハイのそれである。

さくらはもう走っているという気分は無く、ISを身に付けて飛翔している時と同様の感覚に近い所にいた。

速度が増し、景色が流れ、脚が重く痛みを湛える。

 

「・・・っかはぁッ! 」

 

それが限界に辿り着いた時、そこは丁度最初にジャージを置いた街路樹の下だった。

「・・・ハァッ、ハァッ、ハァッ!」

脚が痛いというか重いというか、例えるなら「鈍い」という感じか。

膝をついて汗を乱暴に拭うと、微風が伸び過ぎな前髪を揺らす。

汗で張り付いたシャツも不快では無く、その風の心地よさに目を細めた。

パチパチと一人だけの拍手が聞こえて来たのは、まさにその時の事だ。

 

「学園外周、距離にして大体3kmを約12分強。なかなかの好タイムだな」

ストップウォッチを覗き込みながら現れたのは、監察対象の張本人たる織斑一夏その人であった。

 




読了感謝です。
次回もまた穏やかな学園生活を書いて行きたいと思います。
それから先は穏やかかどうか分からないけど。

次回「第十三話」
やっぱりまだサブタイトル決まってません、申し訳ないです。
ご意見ご感想、お待ちしております。
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