IS IS学園って本来は女子校だから恋愛は基本的に百合なはずだよね? 作:セキエイ
近いうちに、現状の登場人物一覧みたいなものを出そうかとかんがえています。
五月上旬某日
政権を勝ち取った民主在権国民党が内閣の人事を発表して約一週間、突如として官邸で会見が執り行われようとしていた。
余りにも突然に催されたもので、マスコミはおおまかにさえ内容を把握していない。
しかし困惑と忙しさに騒がしい記者席と反比例して、会見台の舞台袖はひたすらに静かであった。
会見開始の時刻まで後三分、先に司会担当者が先に一礼して舞台へと上がった。
「総理、本当にこれでいいんですね?」
会見台裏の通路で控えた元総理大臣宇佐部は、向かい合う現総理大臣に呟く。
「ええ。むしろ貴方こそこの件をお受けしても良かったのですか?」
常に崩すことの無い穏やかな笑みは、最早顔に張り付いていると言ってもいい。
「日本の為ですから。
それに自分の尻拭いを誰かにさせる、というのは一番嫌いなので」
「ならば私は、出来うる限りの事を手伝うまでです」
「・・・、・・・」
「この国がこの様に舐められたままでいるのは我慢なりません、貴方が選択した事は私にとっても益となります。使えるモノは何でも使う、それが私の主義です故」
隣に控えた秘書官が時間を知らせた、もうすぐか。
「宇佐部さん。これから色々有るでしょうが、一緒に頑張りましょう」
そう言って、ぐっと拳を宇佐部に向ける。
意味を理解するのに数秒を要して、拳をぶつけ合った。
やはりこの男は妙に若々しいというか、この様な仕草がよく似合う。
そういったカリスマ性も含めて、今回の選挙では宇佐部が〈かつて〉党首を務めていた党が大敗したのだろう。
しかしそれだけが理由では無いと信じたいのは、宇佐部が感じた人としての劣等感に他ならない。
〜〜〜
劣等感、それは誰の心の内にも存在する感情。
それを感じると、酷く苛立ち自らを保証したくなり、そして内心ではこれまでにないほどに怯えて自分の存在に自問自答する。
最終的には、その劣等感を感じさせた対象に対して怒りを覚える。
五反田蘭は、その劣等感の最終段階にいた。
(何故アレが私じゃ無かったのか、何故私はあの人と同じ年齢でないのか、何故私は、何故私は)
そんな劣等感と不安と思春期の片恋におぼれた自問自答は、歪んだ終局を迎える。
「全部、深角さくらが悪いんだ」
時刻はもう午前を迎えてから更に一回りしている。
しかし布団に潜り込んだ蘭の目は肉食獣のそれのように輝く。
彼女の片恋の相手である織斑一夏が学園に入学した昨年から、彼の周りに魅力的な女子が集まっている事は知っていた。
そのうちの何人かには直に話した事だってある。
だからこそ、その女子がいかに強いのか、自分がいかに力及ばないのかを知っていた。
そして入学式の日の夜中。自販機の前で会った時の事、しっかりとシャルロットの手を握って走って行った背中を覚えている。
極め付けは入学してから一ヶ月が経ちだいぶ学園に慣れ、いざ一夏先輩への猛攻勢を始めようとした最中の出来事だ。
部活の体験入部での一件、同級生で同クラスの学年唯一の専用機持ちが一夏の腕に抱えられて現れたあの時である。
それが蘭の心を完膚無きまでに打ち砕いた。
何故抱えられるのが、私じゃ無いのか。
それは矢張り才能か?
それとも専用機を有しているからか?
蘭は情緒の不安から完全に正常な思考が鈍っていた。
だから罪の無いさくらを逆恨みする結果となった。
とはいえ、全て彼女に非が有るとは当然言えない。
前述した理由に加え、新しい環境だという事と入学して知った一つ歳上のライバル達の凄さ。
特に学園生徒の頂点に立つ会長さえも、彼の虜になっていると聞き入れた時は絶望というものを久方ぶりに悟った。
彼女らと自分の間の壁は高い。
それら全てが一気にのし掛かったのだから、所詮まだ15の少女のメンタルは早い内に砕け散るのは誰にでも予想できる。
そうして今夜も眠れない夜を、蘭は越えて征く。
〜〜〜
「さて皆聞け。再来週に行われるクラス代表戦とタッグマッチ戦についてだが、まだこのクラスはそれらに出場するメンバーを決めていない。
そこでこの一時間HRの内にそれを決めてしまいたい、誰か出る人はいないか?」
蘭にとって、これはまさに天からのお目こぼしに思えた。
クラス代表戦とタッグマッチでは、もしかしたら一夏が対戦相手になるかもしれない。
それでなくてもクラスの級長である現状に、もう一押し箔をつける事が出来る。
チャンスだ!
しかし、上がった挙手はひとつだけでは無かった。
「先ずは五反田蘭、代表戦とタッグマッチ両方に普通立候補か。級長の仕事も同時にこなす事になるが大丈夫か?」
「大丈夫です、やれます!」
そうか、カツカツと黒板に示す。
そして。
「次、手を挙げた奴は誰だ?」
蘭の目付きが険しくなる。
「はいは〜い、あたしでぇ〜っす!」
人知れず堅くなった蘭とは対照的に、朗らかに手をあげた生徒。
緩くウェーブを掛けた金髪に蒼い瞳、和紙の様に真白い肌を持ったロシアの代表候補生、カメリア・イリイチ・カラシュニコヴァだ。
「私は別に立候補じゃないです。私、カメリアは、深角さくらさんを推薦します!」
自信満々に言い切る。
蘭は奥歯噛み締めて、これ以上目付きが険しくならないように務めた。
「ほう。ではカメリア、推薦の理由を言え」
にへっ、とカメリアはさくらの方を一瞬見てはにかんでから千冬を向いた。
さくらは相変わらず無表情だ。
「私が深角さんを推薦する理由は単純に実力が有るからです。このクラスの中、いえ学年の中では恐らく一番長いISの稼働時間を持っています。つまり実戦経験が一番長いということです」
カメリアの顔は先とは打って変わり、真剣そのものだった。
故に彼女の発言が鬼気迫って見えた。
「そしてこれらの学年対抗形式で行われるクラス代表戦と学年無視のタッグマッチバトルを勝ち抜く為には、彼女の力が必要不可欠だと私は思いました」
言い終わるカメリア、クラスがしんと静まり返る。
入学から一ヶ月経ち、おちゃらけたキャラとして定着した彼女のイメージを覆す為に今の語りは必要十分であった。
「成る程、よく分かった」
千冬は一言そう言って、さくらの名前を黒板に刻む。
蘭は、この金髪のロシア女の心中を見出そうと躍起になる。
それもそのはず、カメリアとさくらには今の今までクラスメイトという以外には接点など殆ど無かったのだから。
〜〜〜
五月上旬のある日の放課後、生徒会長の更識楯無は理事長室に居た。
少し開けた窓からは部活に勤しむ生徒の黄色い声が、時折飛び込み、理事長席の前に立つ楯無は少し煩く感じた。
「私が何故ここに居るのか、わかって居ますよね?」
普段は学園の清掃員に扮して生徒達を見守っている男は、ゆっくりと頷く。
「先月の、あのテロの事だろう?」
「ええっ!」
彼女激昂を抑える事で必死だった。
あの日、専用機所有生徒保護の名目で多学年専用機所有生徒と共に私を地下統合情報処理所に拘束し、そうして主たる彼女が不在の中〈暗部〉の実行部隊を動員し、日本を動乱に落としめた元凶の一つたるテロISの確保を行って居た。
それだけならいざ知らず、その事を楯無が知ったのはほんの数時間前だということだ。
「理事長、部隊にテロISの回収を下したのは貴方だと仰られましたねっ、何故なのですか?」
煮え繰り返った腸を隠しきれ無い辺り、まだ子供か。
「簡単だ、この更織の家がより力を持つ為だよ。もし君があの時自由の身に有ったならば、同じ事を命じるだろう?」
図星だった。
「しかし、物事には順序というものがあります!
あんな強引な手段では我々の関与が、引いては存在そのものが露呈してしまいます!」
ふう、と理事長は大きく息を吐いた。
「楯無君、君はあの時の状況報告を忘れているようだね。」
そう言うと、手元のデスクトップPCの画面をずいと見せた。
操作をして、三重のパスワードロックを掛けたフォルダを解放し、とある動画を開いた。
「再生しよう」
表面が溶けたビルと道路、スモークで視界が異常に悪い。
その中で瓦礫を盾に幾つかに別れて蠢く人々。
全体的にうす暗く、何より荒い。
断続する破裂音は銃声だろう、動画を撮っている人間は下手な朝鮮語を操りAK小銃を手にしている。
パパンッ、ザアァ。
「「「####〜@@&@#ッ!?」」」
パパパパンァッ、パンッ!
ドシャッ、ガガガガン!
「「「〜っ、##@&//&ァッ〜!!!」」」
数分の動画は終始このように騒雑としていた。
戦闘音に紛れて聞こえる人の声も、到底判別不可能だ。
「この動画を音声調査に掛けて調べて見た所、分かった事があった」
じっと、楯無は理事長を見据えた。
「まずこの動画で聞こえる声には、複数の言語が入り混じっている事。
動画を撮ったこの部隊が使う朝鮮語、我々とは全く関係の無い者が使う朝鮮語、日本語、英語、これらだ」
「〈暗部〉部隊、北か韓国の工作部隊、米軍、自衛隊、という訳ですね?」
大きく頷く理事長。
「そうだ」
PCの画面を直してフォルダを閉じ電源を落とす、そして理事長は席から立ち上がった。
「楯無君、君は物事には順序がある、と言ったね?」
「はい」
「だが実際にはそうはいかない事も多い。今回のように、順序を何段も飛ばして対象しなければならない事もある。そうもしないと得られない事だってある、そうして我々は得たものもある。
君はそれを良く理解しなくてはいけない、スマートに進む物事は極僅かだよ」
〜〜〜
オン・ユア・マークス
セット
・・・、・・・
・・・・・・。
「はい、腰を降ろして」
その声で短距離走のクラウチングスタート姿勢を解く。
初めてこの姿勢をした時に比べて、慣れてきたという実感はあった。
「結構様になってきたじゃない、深角さん?」
さくらの直線前方から、スタート姿勢を確認していた部長は含んだ笑みを浮かべて歩み寄った。
「・・・、ありがとうございます」
「可愛い後輩の為だもの、構わないわ。
所で私思うんだけれど、そろそろ貴女は走らせてもいいんじゃないかって」
さくらは部活に入部してからのこの二週間弱、種目専門練習の時は他の短距離志望の新入部員と共に、ひたすらスタートの姿勢だけを練習させられてきたのだった。
「どう深角さん、走りたい?」
決して走っていない訳では無いが、走りたくてもその一歩手前で寸止めされ焦らさせるこの境遇に、さくらは苛立ちを覚えていた所であり、まさに渡り船である。
「・・・、・・・はい!」
さくらは頷いた。
が、自身が知る限りあのように部長から言われた新入部員を、他に知らない。
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