IS IS学園って本来は女子校だから恋愛は基本的に百合なはずだよね? 作:セキエイ
「それで、何故私が?」
HR終了後千冬に廊下へ呼び出された百合香は、二種類のバトルに出場する事になった蘭とさくらのサポートをするように言い渡された。
「五反田とは親しいそうだし、深角とは寮のルームメイトだ。これ以上の適任は居るまい?」
確かにそうだ。
百合香にも色々思う所が有ったが、考え直して見るとそれはどれも些細な事だった。
主に、クラスで余り溶け込めてないさくらを親密に相手にして、自分が彼女と仲が良いのではないか?という疑いを掛けられる事とか。
いわゆる見栄、外面を気にしていただけだ。
だが百合香は普段の無表情で無愛想なさくらに潜む、恐怖に怯え震えるか細い姿を知っている。
見捨てられない。
「分かりました、二人のサポートをやります。ですが」
ありがとう、と口にし掛けて辞める。
「なんだ?」
百合香の瞳には若干の戸惑いが残っているみたいだ、千冬は感じる。
「私も、タッグマッチのみですが立候補させて頂きます」
が、決心したようだ。
〜〜〜
入浴を終え部屋に戻ると、暗い部屋の中から微かに規則的な息遣いが聞こえた。
「?」
入り口の照明のスイッチを着ける。
見ると、珍しくベッドを仕切る間仕切りが解放されていた。
部活の入部に関してさくらに聞いたあの日以来だろうか。
「っ、ふふ」
そして、さくらがベッドの側面でもたれかかるように眠っていた。
服装は部活の時に着用していたジャージのままだ、部活が終わって部屋に戻りそのまま眠ってしまったのだろう。
そっと顔を覗き込むと、額に皺を寄せてビッショリと汗をかいている。
余り良い夢見では無いようだ。
さて、時間はそろそろ夜9時になろうとしている。
この分だと彼女は夕食も取っていないにちがいない。
「深角さ〜ん、起きて起きて」
そう言って肩を揺さぶる。
「・・・、!」
長く眠っていた割にアッサリした目覚めだ。
「おはよ。いや、こんばんわが正解か」
前髪に若干遮られた鋭い視線で周りを一瞥。
「・・・、ありがとう」
ゆっくりと立ち上がる。
しゃがんでいた百合香も釣られて立ち上がった。
時刻は午後10時を回って久しい。
いつもなら二人の間に置かれる間仕切りが、今日は無かった。
いつかのようにベッドの腰掛けて向かい合う二人の、けど今回話を切り出したのは意外にもさくらからであった。
「それで、話って?」
さくらは無表情に俯いていた、いや少し顔か紅潮しているような気もする。
「・・・うん。わたしね、今日代表戦とタッグマッチに、推薦されたよね?」
「ええ」
「・・・わたし、そういう何かのトップに立って競技をするっていう事、初めてで・・・それが、怖い」
愚痴を言いたいのか、と思ったが案外そうでも無いらしい。
まあ愚痴でも正解のようだが。
要するに自信の無いさくらを元気づければ良いのだろう、彼女はこの代表に選ばれた事を自ら降りる気は無いらしい。
なら話は簡単だ。
自分のベッドを立つと、百合香はさくらの隣に腰掛けた。
そして彼女の手を取った。
「・・・え!?」
自分よりも小さい手。
「つまり今の深角さんは、周囲からの期待を受けて緊張して、自信を失っている状態なのね」
ゆっくりとさくらの手を握る、指を絡める。
自分よりちょっと小さい手のひらは冷たい。
「・・・」
「でも貴方は怖がりこそするけど、逃げたいとは言わなかったわ。これはとっても素晴らしい事よ」
未ださくらの瞳は暗い、けど話す前よりも幾分マシになっているように思える。
もう一押しだ。
「私はさっき先生から、深角さんと蘭のサポートをするように頼まれたの」
「・・・」
握った手を少しだけ握り返してくれて、百合香は今やっていることが無駄ではないと確信する。
「そして、私もタッグマッチだけなんだけど、立候補したんだ」
「・・・えっ?」
さくらの瞳が揺れた。
「だから大丈夫、安心して。
私は貴女を一番近くで応援する」
「・・・うん」
「こうやって自信がなくなった時には勇気付けてあげる」
「・・・うん」
「だからさ、深角さんはやれる事をやれるだけ精一杯頑張って」
百合香はさくらの憂いが取り去られた瞳に笑いかける。
さくらも一瞬はにかんで、直ぐに顔を伏せた。
ほんの一瞬のその笑みは、百合香の胸を高鳴らせるのに十分過ぎた。
「・・・南條、さん。わたし、頑張ってみる」
「うん、応援してるからね」
「・・・、・・・」
何故か押し黙ったさくら。
ちょっと経ってから、唐突に口を開いた。
「・・・南條さん、も頑張って。・・・わたしも応援、するから」
「ッ!」
他の人達はこの娘の深い所を知らない、こうして二人きりの時にどんな表情を見せるのかを知らない。
私だけが知っている。
そう考えると、百合香はちょっとだけ優越感を覚えた。
クラスでは皆と同様に、その異質な雰囲気から無意識的に腫れ物としてなるべく関わらないようにして居る自分に蓋をして。
「ふふっありがとう!
さあ、今日はもう遅いからねよっか。明日も授業と部活が有るし、ね?」
百合香はまた自分を繕う。
違う彼女の一面を見れたことの嬉しさ半分、罪悪感半分と言った所か。
〜〜〜
深夜、さくらは目を覚ました。
窓側のベッドを使う彼女に差し込む月光が、少々眩し過ぎたのだ。
普段はルームメイトを仕切る間仕切りが無いことも大きいのだろう、久し振りに開放感に溢れたこの部屋は、まるでさくらの心境そのもののようだった。
心の中のモヤモヤがひとしきり解消されて珍しくスッキリしている、月光に照らされて晴々としているこの部屋みたいに。
けれど部屋はまだ夜に包まれていて、月光が届かない隅には細かな闇がまだ渦巻いている。
暗示と催眠によって絶える事が無い罪悪感と不安を、それが代弁していた。
完全に目が冴えてしまった。
「・・・ハア」
起こした半身からシーツが零れ、何も着用していない素肌を舐める。
「・・・わたしは、変わっていくのかな?」
闇が滞留する虚空に言葉を投げ掛ける、返事は無い。
さっき、南條百合香に思い切って告げた言葉を思い返す。
問いへの答えは、さくらがよく分かっていた。
多分わたしは変わりはじめている、この学園の空気に触れて、他の人間と接して。
殺人機械、国家の槍として育てられたわたしが。
驚くけど、厭な気はし無い。
隣で眠るルームメイトは静かに寝息を立てている。
そう言えばこうして寝顔を見たのは初めてなのかもしれない、さくらはふと思う。
ずぶ濡れで帰って来たあの日のこの部屋の入り口で、そして浴室で、記憶がフラッシュバックする。
柔らかくて温い、人間の心と体の温度。
突然とはいえ
「・・・初めて安心した、かも」
ガラ空きの胸の中が少しだけ埋まった気がしたあの瞬間。
けれどもう一人のわたしが言う。これ以上求めちゃいけない、って。
わたしは少し、汗をかいていた。
最近は割と時間が取れるのでサクサク書けます。
それでも質が落ちない様にしたいですね。(元から質はアレですが)
御意見、御感想お待ちしております。