IS IS学園って本来は女子校だから恋愛は基本的に百合なはずだよね? 作:セキエイ
前政権の総理大臣が現政権のテロ復興大臣となる事など、ハッキリ言って前代未聞である。
急遽として行われた会見は、賛否様々な意見を生んだ。
やはり総辞職の後、日を待たずにそれまでの党を辞め対立候補に入党するなどあり得ない、ただ勝ち馬に乗りたいだけなのでは?という声が国民の中では非常大きかった。
が、会見の時に前総理が語った「自分が招いた被害を、誰かに押し付けて去る事は絶対にしたくない」
という言葉を信じる国民も、少なからず居た。
けれどこの行動の成否を判断するのは今では無い。
今後どのように宇佐部が動くか、それがどんな結果を招くかによるだろう。
TVのナレーターはそこで言葉を終える、TVの電源を落とす。
「真耶はこれをどう思う?」
職員室で昼食を摂っていた千冬は、唐突に同僚に振った。
う〜ん、と頭を抱えて少し考える。
「私は、悪くないと思います。自分の失敗を誰かに押し付けず、ちゃんと自分で尻拭いする姿勢は良いとは思いますね」
「ほう」
コーヒーを啜る。
「それに」
「?」
「それに私情ですが、ボーデヴィッヒさんの脚の事も有りますし」
そう言う考えもアリか、千冬内心で呟く。
「確かに。アイツの義脚はもう馴染んだみたいだが、片脚を失った事には代わり無いからな。
そしてその責任はあの元総理にある」
〜〜〜
「ラウラ、もう脚大丈夫なの?」
「ああ。まだちょっと違和感が無いことも無いがな」
パチンッと右太腿のシリコンの外皮を叩いた。
先の日本を揺るがした所属不明のISと戦闘機によるテロ。
学園を護る為に出撃したラウラが戦闘の終盤で迎撃した気化爆弾の被害が、自身の右脚だった。
気化爆弾の迎撃の為に放ったレールガンのプラズマが運悪くこの時に限っては、機体右脚アーマーの筋力補助システムの誤作動を誘発しラウラの股関節から下の右脚は、絶対防御の内側から破壊された。
文字通り擦り潰れたのである。
今はかつての生身の右脚に精巧に似せた高機能義足を装着することで、以前とほぼ変わらない外見と身体能力を取り戻し、ラウラ自身も何事も無かったようにしている。
けれどシャルロットにとってはラウラがそうやって気丈に振る舞いながらも、心の中では未だ恐怖と怒りが燻っているのではと疑心していた。
「そう、」
シャルロットの顔は晴れない。
そんな彼女の疑心をラウラとうの昔に見抜いていた。
「そんな顔をするなシャルロット、私はもう以前と変わらない。本当に、本当に大丈夫だから」
いつもと同じ男勝りな頼もしい微笑みを向けてまだ釈然としない面持ちのシャルロットを胸に抱いく。
「っ!」
「私が怖いものや嫌な物は包み隠さず喋ってしまう性格だということを、一番知っているのはシャルロットだろう?」
「うん、そうだったね」
ぎゅっとシャルロットも抱き返す。
「ごめんね、ラウラ」
「いや、良いんだ」
〜〜〜
クラス代表バトル及びタッグマッチバトル、一週間前の放課後
一年四組の生徒四人と千冬、そして指南役として呼ばれたラウラ・ボーデヴィッヒは第一アリーナのピットに居た。
これからISを用いた実戦形式の練習を行うのだ。
彼女達の目の前には、貸し出されたIS打鉄とラファール・リヴァイヴが武者鎧の如く鎮座している。
それを尻目に、監督及び指導を行う千冬とラウラはISを搬入した三年の技術科生徒と話をしていた。
が、そんな事はどうでもいい。
蘭とカメリアが目下気になるのは、何故百合香がさくらや蘭と同じ様にISスーツを身に纏って立っているのか、だ。
「なんで百合香もスーツ着てるのよ、ていうかそもそも何でここに居るのよ!?」
「貴女〜、たしか昨日立候補も推薦していなかった様なぁ〜。ねえ、バスト何センチ?」
「・・・、」
「はあ、」
百合香は大きく溜息をついた。
「単純な話だよ。放課後、先生に立候補しますって言っただけ」
「あ、ああ。そうなのね」
蘭としては釈然としないものが有るものの、それが答えなのだからしょうがない。
「おっぱい!おっぱい!」
目をキラキラさせながらロシア娘が何か言っている。
「胸についてはノーコメント、というかカメリアさんの方が大きいでしょ?絶対」
「そうかな?うむむ」
唸りつつ制服の上から胸を押し上げたり寄せたりするカメリア。
たわわに実った得物がが制服から溢れそうで、妙に生々しい。
「・・・くっ!」
身体のラインがくっきりと出るISスーツを着用している蘭は、こちらに背を向ける。
蘭も平均的に見れば小さくは無い方なのだが、比べる相手が悪かったとしか言いようが無い。
さくらはこちらの会話との関わりを拒絶するかのように、部品箱に腰掛けて目を瞑っていた。
「お前達、何をしている?」
その言葉の中には明らかに呆れのニュアンスが込められていた。
「女子高生が、それも人前で胸を弄るなんてみっともないことをするんじゃない。始めるぞ」
展開
薄く呟くと、髪留めが淡く燐光を放つ。
その燐光が全身を包み形を結ぶとISの装着が完了する。
現れたのは、鋭利で濃紺色をした装甲を纏ったさくら。
周囲には計六枚の大盾が浮遊している。
小柄な彼女の身体とあいまって、ISミラージュ・ダンスは大きく見えた。
事実この六枚の大盾、推進器と武装架を兼ねたステルスバインダーシールドが訓練機のリヴァイヴ3倍程の横幅を作り出している。
モーターの稼働音を微かに、さくらは千冬に指示された通りフィールドの中央へ向かう。
次いでリヴァイヴ、打鉄を装着した蘭と百合香も同様にフィールドの中央に集まった。
百合香が打鉄を、蘭がリヴァイヴをそれぞれ使用している。
「集まったな。それでは全員、ボーデヴィッヒから刀を受け取れ」
倉庫から何やら頑強そうなケースを引っ張ってきたラウラが、その中身である近接用刀を配った。
刀はオーソドックスなIS用の刀だ、特にこれと言った仕掛けや機能は無い。
「刀は渡ったな。それじゃあ深角とボーデヴィッヒ、南條と五反田でペアを作れ」
「「「はい」」」
機体を滑らせ、ペアを言われた人間の横につく。
蘭と百合香はまだ操作がぎこちなく、機体の制動に不安があった。
「今設定した二人で近接戦闘を行え。シールドバリアは6000、10分間の制限時間以内に先にバリアを0にするか終了時にバリア残量が多い方を勝者とする」
さくらとラウラは、互いに刀を構えて対峙している。
手始めに経験者だからという理由で、見本も兼ねたさくら対ラウラのバトルはもうすぐ始まる。
耳障りな開始ブザーが鳴った。
ドウッ、開始と共に砂埃を巻き上げて突進する漆黒と濃紺、互いに速度は最大だ。
そしてぶつかる
「くッッ!!!」
「・・・っつ!」
ギリギリと硬質な金属音が生じて、触れ合う刃から炎の欠片が舞い散る。
その時初めてラウラの視界に対象を捕捉する、ロックオンマーカー・サークルが表示された。
(この距離でやっとロックオンが出来るか)
ラウラは歯噛みした。
ISは本来宇宙作業用のマルチフォーマルスーツとして開発されたものだ。
その為に搭載されているハイパーセンサーは、遠く離れた恒星や比較的近い位置に浮かぶ岩石などの位置を総合して現在位置を割り出す事をする為、かなりの感度を有してる、筈だった。
(バトル開始時の距離は68・7m。大した距離では無いのに、こうして1m以下まで近づかないと捕捉出来ないとは!)
バトルの前に相手が表示した大まかなスペック表に、はただステルス特化型試作機としか書かれていなかった。
ラウラはそれに対して警戒を怠った積りは無い。
しかし、100mも無い距離でハイパーセンサーを欺瞞する性能を有しているとは、完全に予想外であった。
「っ、ハァァア!!!」
それでも、鍔迫り合いを解きそこから踏み込む。
こうして離れなければロックを外れる事は無い。
そして振る。
更に振る。
貪欲に手にした太刀を振る。
ラウラが普段使う実刃刀剣は西洋式の両刃が主だが、太刀にしろ両刃剣にしろ基本形は変わらない。
ラウラの圧倒的な反応速度と機体の筋力補正により可能な斬撃のラッシュ、刃の暴風とでも言おうか。
対してさくらは刀の面の部分を盾にして剣撃を辛うじて防いでいた。
斬る、斬る、突く、斬る。
防ぐ、防ぐ、防ぐ、弾く。
ここまで、さくらは一切の攻撃を仕掛けて来ない。
ラウラにはそれが大きな違和感として、思考の中心に据えられていた。
「遠慮は要らないぞ、新入生」
「・・・、はい」
瞬間、風を切って顔面の左真横を刃が駆けた。
「ほう、言った先にこれか」
次の剣撃に対しては身体を逸らして避け、さくらはそのまま一気にラウラの左脇を抜けた。
いい腕をしている。
(だが甘い、)
このままただで逃げられるほど彼女は未熟では無い。
機体を後方に跳躍させ、大ぶりながらもさくらを斬りつける。
「・・・っ!?」
全身を鞭のようにしならせて、背面飛びの要領で斬撃したのだ。
操縦者を囲む大型シールドの隙間に一太刀を穿つ。
バリアが作動して淡く燐光を放った、手応えありだ。
残りバリア5622。
ラウラが態勢を立て直す前に、さくらは手にした刀を地面に突き刺して強引に左へ旋回した。
地面を蹴って推進器に点火、着地したラウラの爪先を掬い僅かだがバリアを削る。
そしてその低い態勢からスラスターを利用し、回し蹴りを加えた。
ISの肉弾攻撃は総じてダメージを与え辛くこの蹴りも例に漏れない、が、ラウラの予測の一瞬先を行った速さで見事腰にヒットした。
流麗な二段攻撃は迷いが無い。
(蹴り、か)
「・・・一撃、返しました」
さくらは小さく呟く。
動揺する事なく引き下がったラウラ、距離は約15m程。
「凄い、」
モニターを見ながら蘭の口から吐いたのはそんな一言。
そして自分が敵意を抱いている人間が、こんなにも凶暴なのかと知る。
側に立つ百合香、ただ呆然と見ているだけだ。
千冬は何時も通りに険しい顔で、カメリアはと言うと、なんかニヤニヤしている。
何がそう面白いのか、さっぱり検討がつかない。
画面に視線を戻すと、さくらの回し蹴りの後に再び対峙した二人が、これまた超至近で競り合う光景だ。
序盤と打って変わり、さくらも容赦無く攻め立てている。
武器を使用するだけでは無く、殴る蹴るを含めた徒手近接格闘戦だ。
振り下ろした一撃が腕ではじかれその隙をつく突き、それさえも蹴り払われ、それでも相手の足を摑む。
掴んだ足に刃を突き立てるも、無防備になった胸に剣撃が襲い掛かる。
くんずほぐれずといった具合でラウラはともかく、普段の物静かで無反応なさくらからは、全く想像も出来ない荒々しい戦いを繰り広げていた。
「・・・やっぱり、強い」
飛び跳ねて、上空からの位置エネルギーをも利用した重い一撃を加えられる。
ラウラの駆るシュヴァルツェア・レーゲンは、自分のミラージュ・ダンスと大差ない大柄な機体なのに、ああも軽快な動きをする。
スラスターの数や出力は確実にミラージュ・ダンスの方が上回っている筈なのに。
「・・・技量の違い、経験の差」
さくらの振った一閃が躱される、身を屈めたのだ。
「そうだ!まだ貴様は甘い、センスは有るがな」
頭上を刃が過ぎた後、飛び上がったラウラはそのまま自らの身体をさくらに衝突させる。
「・・・ぐっっ、!!!」
ごくごく単純な体当たり、けれどさくらは受け身も取れずに仰向けに転倒した。
回避、防御、様々な選択肢が脳内を逡巡し、取り敢えず足を屈めて盾とし剣を防ぐ。
「・・・っあああ!!!」
「ッッ!!!」
ザアッ、甲高い金属音と共にバリアが根こそぎ持っていかれる。
「・・・やって、やる!!!」
けれどもさくらはそこから片手だけで跳ね起きた、そしてそれまでよりも更に速い一閃がラウラの胸元を奔る。
回避さえ間に合わない速さ。
ラウラのバリアを削る。
が、それだけだった。
さくらのその一撃は、如何せん大ぶり過ぎた。
その後受ける攻撃や次に繰り出す攻撃について、何も考えられていない。
故に、それだけの攻撃だった。
「チェックメイト」
死刑宣告、ドイツの冷氷と謳われた彼女にこそ似あう言葉。
刀を振り切った瞬間のさくらの右手首に踵落としを加え刀を手離させると、がら空きになった首に全力で刀を突き出す。
目の眩む激しいスパーク、発動した絶対防御。
武器を失い抵抗出来ないさくら。
バリア残量を示すゲージがみるみる減少してゆく。
そしてゼロになると、ブザーが鳴った。
「勝者、ラウラ・ボーデヴィッヒ」
格坐したさくら、砂塵が少し霞むアリーナに千冬の声が木霊した。
次回「第十七話」
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