IS IS学園って本来は女子校だから恋愛は基本的に百合なはずだよね?   作:セキエイ

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書き溜めた分、これで最後です。
私は今年はこれでフェードアウトしますが、皆さん良いお年を。


第二十話 死神の計算 後

五月下旬某日 午後

シリア首都ダマスカス郊外

 

猥雑とした人声に怒声と爆発の轟音、断続的な銃声。

煙たく臭く渇いた空気にそれらはよく響く。

血の染み付いた木製のハンドガードを握り込んで、AK小銃を携えた男は目の前泥沼に唾棄した。

そう、泥沼だ。

実際の沼地という事では無く、人の悪意と争いに満ちた泥沼という意味での。

恐らくこの土地は、この世界の中で今一番に醜悪な様相を呈していることだろう。

腹に響く鈍い音。

また爆発だ、今日は特に酷い。

持たれ掛けたコンクリートの壁伝いに、遠くからの衝撃を感じる。

間伸びした軍用航空機のエンジン音が死神の足音そのものに聞こえた。

泥沼で醜悪な土地。

このシリアという国は、様々な宗教やら昔の国家やらの聖地の極々近所であるのだが、この騒乱でせいで神聖さは欠片ほどにも見出す事は叶わない。

 

空爆で崩れ掛けたコンクリート製のマンションから引っ越すこともできず、怯えて暮らすしかならない彼がその醜悪さの被害者の一端だろう。

彼は元々運送業を営んで居た。

しかし民衆のアサド政権への抗議運動が激化し、現在の内戦状態となってからは当然これまでの様に職を継続していけるはずも無かった。

そして二年前の停戦期間中にシリア正規軍が行った大規模空爆で、妻を失い自らも片目を失った。

残った娘は無事な物の、空爆の流れ弾がいつ飛んで来るのか分からないから安全ではない。

 

少しだけ開けた窓から絶え間無く外を監視して、暴徒化し此方にやって来るような奴が居れば容赦無く射殺する、そうするしかこの街で生き残る術はない。

もう彼は運送屋などでは無かった。

娘を守る為と言えど、人殺しである。

せめて言い訳をするのなら、なりたくてなった訳じゃない、状況がそうさせたのだと言いたい。

再び航空機のジェット音。

上空を腹に爆弾を抱えたミグ29の二機編隊が、ヤケに低空でフライパスする。

今日は近くの広場で久し振りに反政府集会が行われるのを思い出した。

それを狙っているのか?

機体各所の継ぎ目や警告文、昇降舵の動きさえ視認できた。

振動でマンションが軋み、娘が怖がって愚図る。

そして百mもない地点で、ミグは抱えた爆弾を投下した。

AKを捨てて男は娘の名を叫んだ。走り寄る娘を、覆い抱く。

ギュッと目を瞑り、来るべき衝撃に身体を硬くする。

 

しかし聞こえたのはボンッ、という小爆発だけだった。

拍子抜けして立ち上がると、僅かな衝撃ながら大開きになった窓に近寄る。

二機のミグから投下された爆弾は、正面の大通りを80m程行った所の大通りと右手側の商店の上で炸裂したらしい。

白煙を上げる炸裂地点直下は、爆弾の破片と建物の被害と共に騒雑としている。

 

集会をおこなっている広場には届いて居らず、集まっていた反政府集会の人々は今は怪我人を介抱する事に徹していた。

不発か・・・。

小爆発を受け斃れた運の無い市民達の中には、男がよく世話をしてもらった三件向こうの奥さんの姿ががその中にあった。

今回のような爆弾の爆発は始めて見たが、まあ完全に炸裂するよりは良い。

もしそうなって居たら自分と娘は生きては居なかっただろう。

男は安堵した。

三件隣の奥さんの死を心の中で悼み、風向きで煙が此方に向かって来ることに顔を顰めた。

風は、何処か燃焼し終えた灯油の臭いを彷彿とさせ、不快だっ。

娘も鼻を摘まんでいる。

嘆息しつつAK小銃を拾って、男は窓を閉めた。

 

数分前から鼻水と涙が止まらなかった、また妙な吐き気と倦怠感が始まりそれが時間の流れと共に悪化しているのが分かる。

そんな中、外がさっきとは違う煩さに溢れて居るのを訝しみ男は震える腕で窓を解放した。

そこには呻きを上げて蹲る者、嘔吐する者、口から泡を吹いて痙攣している者、様々いた。

共通する事と言えば、1人として健常な人間は見当たらない事か。

兎に角明らかに異常な光景だ。

うぶっ、というえづきと共にそばにいた娘が突然吐いた。

吐瀉物が足元に拡がる。

そして娘はフラフラとへたり込むと、自身と同じ様に震えだした。

が、寒いというわけでは無く、額には汗の珠がきらめく。

その姿は、外で呻いている人々と同様だ。

娘の名を叫び、抱きつく。

今この場所で何が起こっているのか分からない、けれど起こっているそれは明らかに普通では無く、恐らく命さえも左右するのだろう。

それが言い様の無い恐怖を刺激してならない。

原因が何なのか良く分からず、その分からないものに生殺与奪権を握られているのだから。

 

ふと娘を見ると目を見開いてそのまま、瞬きがない。

いや、震えが止まり、それ以外の規則的な振動も停止している。

抱き着く力さえ感じられない。

嘘、だろ?

朦朧とする意識、今口にした娘の名前も呂律が回らず正確に発音できていない。

これは間違いなく、何らかの人体に有害なガスや気体の類が流れ込んできている。

しかし臭いは無かった、それが恐ろしい。

 

今しがた倒れた娘は恐らく死んだ、そしてこれから自分も。

娘を抱こうと掛けたその手はすっかり力の抜けて、まるで自分の其れだとは思えない。

くそったれ!

潰れて居ない片目で窓の外を見た、末期の空だ。

くそったれ!

脳裏には二年前に逝った妻と、今隣で逝った娘が浮かぶ。

くそったれ!

 

娘を守れなかった俺を、妻は許してくれるだろうか

 

窓の外は沸き立つ様な晴天だ。

 

〜〜〜

 

シリアの首都近くで化学兵器が使用された、という一報からアメリカ軍の動きは異様なまでに速かった。

以前シリアで化学兵器が使用された時、アメリカは「断固たる措置」を行おうとした。

しかしイラク戦、アフガン戦と続いた戦いで厭戦気分の議会はシリアへの攻撃を承認せず、また直後にシリアは手持ちの化学兵器を国外へと移送し無毒処理して廃棄すると宣言したことから、当時のアメリカはこの件には手を出しそびれた形となったのである。

この経験を踏まえてアメリカは今回の新たな化学兵器使用の報道の後、すぐさまシリア全土への爆撃を行うと発表した。

一方のシリア側はというと、この一連の攻撃は昨年末から今年に掛けて爆発的に広がりを見せて居るISISに対して行った攻撃で、化学兵器はそのISIS側の反撃によるものだと声明を出している。

もちろんアメリカに対しては、気休めにすらならないのは自明の理だ。

 

試合まで一週間を切ったある日の放課後、さくらは廊下の片隅で携帯電話を耳に当てていた。

朝の定時連絡で、さくらは放課後に直接通話するように指示されていたのである。

相手は勿論笹山だ。

「「新しい任務ださくら。

詳細資料はミラージュ・ダンスのアップデートデータに同梱してあるから、後で適当に参照しろ」」

「・・・はい」

スピーカーの奥でガサガサと紙をいじる音が混じる。

「「今回の任務も、クライアントはアメリカ合衆国からだ」」

「・・・、・・・はい」

 

通話は、ほんの数分で終了した。

携帯をぱたんと閉じて、まだ高い陽にさくらは目を細めた。

今回の作戦は少し気を使う。

「・・・ISを使用し米軍と共にシリア政府軍の基地を急襲、極秘保有していると思われる化学兵器を確保する」

そこは問題ではない。

問題なのは、

「作戦発動がクラス対抗、タッグマッチ戦の48時間後。

オペレーション【デザート・ムーン】」




次回、第二十一話
恐らく次回はクラス対抗戦兼タッグマッチになると思います。
皆様また来年に会いましょう。
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