IS IS学園って本来は女子校だから恋愛は基本的に百合なはずだよね? 作:セキエイ
「がんばれぇええ!!!」
「…が、頑張って」
隣で叫ぶ百合香に合わせて、さくらも薄く拳を揚げる。
アリーナの反対側では自分達と同じように、相対する1組の生徒が黄色い歓声を伴って応援を送っていた。
視線を試合に戻す。
二人の戦いは彼女にして見れば幼稚、という他に無かった。
射撃も接近戦の踏み込みも高速機動も何もかも。
高度も余り取らない所から、お互い空を飛翔する感覚に慣れていないに違いない。
いや、ISという兵器を身に纏って動くこと、それさえ以前に戦う事に慣れていない。
勿論たった二ヶ月前にはじめてISに触れたばかりの人間なのだから仕方が無いという理解はあった。
「やっぱり、見ててつまらない?」
応援に夢中になっているとばかり思っていたルームメイトは、少し寂しそうな顔をして笑う。
見透かされていたのかと戦慄する。
「…いや、違う」
前髪で目元を隠すように俯いた。
この百合香という少女に、さくらは距離感を計りかねていた。
さくらは彼女に「「暖かさ」」を見出している、それは揺るぎ無い事実で認めざるを得ない。
が、たまにこうして内心を観られているかのような行動と発言で、ヒヤリとする事があった。
(もしかしたら、私が自衛隊所属であるのも見破られるのかもしれない)
こんな有り得ない事まで考えてしまう程に、南條百合香という人間は無意識的に鋭い一面がある。
それが、暖かさを認めるものの気の抜けない相手であると認識してしまい、距離感を狂わせる原因ともなっていた。
〜〜〜
腹にマトモに直撃を喰らった相手は、残りシールドエネの残量は1/3を切った筈。
彼女はとうとうアサルトライフルをコールして、上空へ逃げだした。
敵よりも高い位置に着く、敵よりも優位に立つには手っ取り早い方法だ。
そのままライフルによる牽制を行う。
「面倒な」
それでもメインで薙刀を選ぶ位に彼女の銃撃は下手だった。
サブマシンガンで応射しながら、私も被弾を承知で地面を蹴って飛び立った。
このままでは一方的に不利なままだ。
右手のショットガンをアンロックユニットに懸架して空いたそこにサブマシンガンを移して撃つと、リヴァイヴの背後を奪おうと右に大きく旋回した。
「させないわよっ!」
オープンチャンネルから怒声が届き、彼女も私の背後を奪おうと旋回をはじめた。
いわゆるドッグファイトに陥る。
こうなると後は私か相手か、どちらかが痺れを切らすのを待つしかない。
「厄介ね。それに肩も痛い、ショットガンはもう使えないかな」
カメリアに諭された癖にショットガンを乱射したからか。
それにもう弾が入っていない。
膝アーマーの裏には替えの弾が装備されているが今弾込めをするのは全く得策ではない。
左にふわりと寄ったリヴァイヴ目掛けて撃つ。
ところが警告ブザーが鳴り響く。
「って、こっちも弾切れ!?」
間を置かずして、サブマシンガンのボルトが金属音と共に下げられた位置でホールドされる。
弾切れだった。
残弾数はホロスクリーンに表示されているのに見落としていた、迂闊だった。
相手ばかりに気を取られ過ぎていた。
相手はここでこれを好機とばかりに距離を詰める。
「…チッ!」
何発かが掠め、エネが持っていかれるた。
私はサブマシンガンのマガジンキャッチを押し込んで空の弾倉を破棄、腰アーマーから予備の弾倉を掴んで銃に嵌め…
「あれっ、嵌らない!?」
マガシンハウジングに新しい弾倉を差し込もうとするも、何故か嵌らないのであった。
動揺に機体の機動軸線がブレて、直撃弾を喰らった。。
バリバリと青白いスパークに目の前が染まり、つい細めた。
「イヤぁっ!」
バッ、バッと左右に大きくバンクしてフェイントとも言えない機動を描き弾を避ける、よく見るとマガジンは前後逆だ。
ちゃんとした向きで本体に挿し、慌てて震える手でボルトストップを叩き落とし解除。
前進するボルトが新しい弾を咥え込んで薬室に進む。
「ここで、ここで負ける訳には行か無いのよ!深角さくらに勝つまではァッ!」
至近で被弾した恐怖からか、弾倉を交換して対抗できる体制になったからか、柄にも無く私は叫んだ。
バララララッと腕の中で銃が踊った。
けれども全身がスラスターの塊の相手は、縦横無尽に造作もなく避けていく。
私はどちらかというと射撃の方が得意だが、当たらないものは当たらない。
こんな鼬ごっこを続けているのでは埒があかない、制限時間が迫りつつあった。
アサルトライフルの銃撃が大体頭の上を掠めた、これは高度を上げまいとさせる牽制だろう。
「冷静に、冷静なれ!慌てるな私!」
焦る頭を無理やりに冷して、今現在相手よりも有利な条件を考える。
高度。
これは互いの技量から容易に変動するのでアテにならない。
武器。
射撃の精度はこちらに分がある積りだが、相手も避けるのだけは上手い。
シールドバリア。
残量、機体が攻撃を受けた時のダメージ量の少なさも相手より勝る。
「これだっ!」
総合的な耐久力に勝る打鉄なら多少強引に戦っても勝機は見出せる。
懸架していたショットガンを再び手にする。
そして膝アーマー裏のシェルホルダーから50mmショットガンのシェルを無造作に掴むと、トリガーの数センチ前方にあるローディングゲートにシェルを苦心して2発流し込んだ。
それだけあれば十分だった。
ショットガンを持ち直し先台を引く。
当たらない牽制射撃が周囲を通過するけど、そちらもどうやったったて当たらないものは当たらない。
「おりゃぁあっ!」
右半身の推進機を逆噴射して身体を回転、相手と向かい合うようにし、手足と装甲を目一杯ひろげて今度は全身で逆噴射。
一気に制動する。
互いの距離がぐぐっと縮まり、私は被弾する。
マズルフラッシュの輝きがタイムラグ無しに私の手持ちのシールドエネルギーを削いで行き、でもそれはリヴァイヴと比べると過小だった。
まだこちらが残量では上回っていた。
不意に相手のスラスターが横方向に瞬き始める、大きくバンクをする挙動をして、それが距離を取る為のだと分かる。
「逃げるんじゃないわよ!」
回避機動に移りかけている彼女に重い反動と共に重い一撃を。
放射状に散らばる散弾。
極々至近にまで近づいたリヴァイヴを襲う。
残量が低下したバリアが散弾を止められずに貫通して機体そのものが被弾した。
「嫌ぁッ!」
私を見る瞳の中に、明確な恐怖の情が宿っていた。
バランスを失ったリヴァイヴはそのまま不規則回転を起こす。
増設した推進器がバラバラの方向を向いて噴射された事で錐揉み落下をしているのだ。
最終的に立て直せぬまま、アリーナの地面に叩きつけられる。
無論死んではいない、けれどもこれで試合終了とも行かなかった。
制限時間はまだあって、相手もシールドエネルギーも0になってない。
彼女をまだ倒していないのである。
「止めを刺さなければダメって事か」
上方にスラスターを噴射して高速下降をして近寄ると、リヴァイヴの残りシールド残量は雀の涙もかくやという程度。
ずり、ずりとそれでも彼女は這って逃げようとしていた。
私はその背中に50mm口径の銃口を向ける。
「…、…ッ!…」
銃を握って無抵抗な相手にそれを向ける、引き金を指を掛ける。
戦いは無常。
けれど今こうして去来する嫌な感覚は、そんな言葉では到底飲み下す事なんて出来ない。
目の前が黒く染まる気がした。
そんな折、ふと脳裏に過ぎったのは深角さくらの瞳だった。
暗く淀み、けれどそこに殺気めいた黒い気迫が渦巻く、そんな瞳を。
そう、勝つ為には。
目の前にいるコイツではなく、深角さくらその人に勝つ為にはどうすればいい?
さくらに勝つ、そもそもそれが目的だ。
そしてその他難敵を退けて、最終的には一夏さんに愛して貰うんだ。
そう、それが目的でゴールだ。
じゃあどうすればいい?
答えは簡単に出た。
「ゴメン」
銃声の残響が勝利のブザー音に掻き消された。
〜〜〜
ピットに戻ると周囲の人間に被害を与えないように制動して、ハンガーに機を固定させた。
ただその時、壁にアンロックユニットを思い切り擦り付けてしまった。
不協和音に近い振動でユニットが震える。
ユニットにも壁にも痕が残る。
「うわっ、やっちゃったぁ」
そこに担任の山田真耶が駆けてくる。
怒られるな、これ。
「五反田さん!」
「済みません、本当に済みません。壁に擦っちゃいました」
必死に頭を下げる。
しかし、真耶の声は柔らかい性質のものだった。
「あんまり気にしないで下さい。帰投時にこの壁に擦るなんて、一年生がみんなやる事です。
この学園から一人前になった先輩達は大体ここで擦ってますよ」
一時的に設定した私の装備を消して、次の生徒が使う装備を項目欄の一番上に表示させておく。
機体の装甲を解放して、ISを量子空間に格納しないで私は機体を降りた。
「よいしょっ、と」
硬質な床の感触が妙に懐かしく、そして私は倒れた。
「五反田さん大丈夫ですか!?」
ISに乗っていた時間はそんなに長くないのにどうしてか身体がふらつく、空を飛ぶ感覚が変に残っていた。
何よりショットガンを連発し過ぎた所為で、右腕全体と肩がジンジンと痛んだ。
介抱されながら壁に伝って立ち上がると、カメリアが現れた。
「お目出度う、蘭」
目が笑って無かった。
変わって浮かんでいるのは憤怒の涙。
「…、……」
こちらを睨んで動かない彼女にどうして良いか分からず、数mの空間を経て対峙する格好になっていた。
「……ばか…」
「えっ、むぅッ!?」
もう一度ばか、という呟きを漏らした後にカメリアはこちらに走り寄って私を抱きしめた。
そして彼女の左手がショットガンを乱発して痛む私の右手を慈しむように撫でる。
「痛いでしょ」
「うん」
身長差のせいか私の肩に顔を埋めて啜り泣く彼女。
「ばか、ばか」
今更だけど勝ったのにこうして泣いているカメリアの内情がよく掴めなかった。
いや、彼女の心を推し量るのが何気に難しいのは何時もの通りなのだが。
「ショットガン、あんまり撃つなって言ったよね…」
「うん」
そうして身体を痛めてしまった事に腹を立てているのか?
「ISは兵器なのよ…、いくらスポーツだ何だって言葉と解釈で着飾っても、あれは何処までも人殺しの道具に過ぎない」
私を抱く細腕に、より力が篭る。
「お願い、勝利なんかの為に心と身体を兵器に譲って壊してしまわないで」
その一言に思わず息を呑んだ。
止めの一撃を下す直前に内心をコーティングした黒い感情、これを彼女も知っているというのか。
「カメリア…」
「蘭、貴女が最後止めを刺す時に何を考えていたのか、私分かるよ」
「呑まれないで、ね?」
緩くウェーブに掛かった金髪に眼差しを隠匿して、まだ蘭には啜り泣いている様に思わせながらカメリアは薄く微笑する。
次回「第二十一二話 開催!クラス代表戦&専用機所有者タッグ戦 タッグ戦」(仮)
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