IS IS学園って本来は女子校だから恋愛は基本的に百合なはずだよね?   作:セキエイ

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よッしゃ行くぞー!


第三話

三日前

 

 

「これが資料だ」

クリップで留められた紙束を、差し出される。

少女はそれを無言で受け取った。

目の前でコーヒーを啜っている男、笹山は彼女直属の上司であり、また保護者でもあった。

ここは基地の中でもめったに人が来ない一角。

空調は届いておらず置き忘れたかのように鎮座する青い自動販売機の蛍光灯がやけに眩しい。

背を預けたコンクリートの壁は制服越しでも氷のように冷たく感じられた。

紙をめくる微かな音と自販機の作動音のみが、少しの間空間を支配する。

紙面の内容は、これから米軍と自衛隊共同で展開される、とあるテログループ拠点施設への襲撃作戦に関してのことと更にその後、彼女の入学が決まったIS学園に関しての詳細だった。

約三分間の沈黙。

二、三度ある項目を見直す。

襲撃作戦に関しては、数ヶ月前から準備が進んでいたもので既にもう完璧に作戦内容は頭に入ってる。

問題は、その次のIS学園のことだった。

「…本当に入学するのですか?」

少女は思わず訊く。

自分がIS学園に入学する事を今知ったのだ。

「無論だ」

鋭い三白眼を更に眇め、男は横目に少女を見る。

嘗め回されるような、勝手に爬虫類的と印象付けている視線を強く身に感じた。

 

少し経ち、視線が外れるとプレッシャーが収まると、こわばった全身が僅かに弛緩する。

 

(免罪符は正常に作動中、か)

笹山は口に広がったコーヒーと同じ苦味を、思考の中に広げる。

今度は気付かれないように、目を閉じて壁にもたれかかっている小柄な少女を見た。

絹糸のような銀髪、左こめかみで鈍く輝く濃紺色の桜の髪留め、白磁器のような冷たさと硬質さを感じさせる白い肌。

それらは全て、心の中に刷り込ませた罪悪感というリードを付け、政治とカネ稼ぎと思惑の道具にされている、幻の人形を形作っている物。

(フン、ドイツの何たらとかいう強化人間より質が悪いじゃないか)

同期で、今はアグレッサー部隊に抜擢されるほどの実力を持つ友人が、とても羨ましく思える。

反して自分が今していること、未成年の少女を洗脳と薬漬けにして戦わせること、に酷く不快感を覚えた。

よく睨んでいる勘違いされることの多い三白眼を、煤けた天井に向けて嘆く。

 

(宇佐部さん、本当にこれで日本は良くなるのですか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「207号室っと、ここか」

左サイドテールに結った髪を揺らしながら、百合香は自分の部屋の前に着く。

荷物は後で運んでくれるらしいので、今は手に持った学園指定の鞄だけで問題ない。

問題なのは、自分のルームメイトにあった。

居ない、見当たらないのだ。

まさかと思って、部屋に入る。

並べて置かれた二つのベッド、二つの机、壁側に置かれたテーブルと重ねられた椅子。

右脇にはシャワールームとトイレの扉が見えた。

普通にいいとこのホテルのような部屋だ。

だが、そのいずれにもルームメイトの姿は見当たらない。

百合香は先に部屋に向かっていたとばかり思っていたから、ますます混乱することになった。

「そろそろ、自室待機の時間になる頃よね」

腕時計をちらりと見て。

部屋の片づけだったりなんだったりで、これから一時間の自室待機が解散時に言い渡されていたのだ。

時間を破るのは良くない。

「しゃーない、探しに行くか!」

彼女にとっては当然の帰結であった。

 

「確か名前は、ふかかど?……」

 

 

 

 

出しっぱなしにされた水が排水に追いつかず、すこしずつ底の方に溜まり始めていた。

視線を前に持っていくと、洗面所の大きな鏡には前髪から雫を垂らして前方を見据える、幽鬼じみた自分が居る。

戻した後の胸焼けのような感覚を拭おうとして、冷水で何度も顔を洗ったのだが結果として僅かに軽減されるだけに終わる。

「…っ、はあ…はあ…、うっぐ」

突然再来した吐き気に、くの字に体を折り曲げ、胸を押さえた。

せり上がってきた酸いものを吐き出そうと試みるが、何故か出せない。

全部この嫌な気持ちも、えもいえぬ不快感も出せてしまえればいいのに。

 

とりあえず、時間が無い

一度部屋に戻ろう。そしてちょっとだけ眠ろう

腕時計で時間を確認した後、さくらは改めて決心を固めた。

(…任務が終われば、ここに居なくてもいい)

ハンカチで濡れた前髪と顔を拭く。

腕時計を見ると、自室待機開始まで五分と無かった。

「…行かな、きゃ」

洗面台の淵についていた手を放し、若干フラフラするが歩き出す。

なるべく、はやく行こう

自分のこの状況を見れば、絶対に声を掛けてくるお節介な人間が居る、事実そうだった。

足取りは自然に加速する。

(…確か部屋は207。ルームメイトが居るらしいけど、あんまり話したくないな)

漫然と思考にそんな事が上がった。

 

 

207は前方2メートル位の地点にある曲がり角を曲がって、直ぐの所にある。

そんな折、学園の鐘がなった。

時間だ。

さくらの早歩きは走りとなり、引きずるようにに二歩目三歩目と踏み出す。

 

したがって、曲がり角で減速しなかった自分の不注意だ。

どん、と鈍い音が目の前でして、朦朧としていた意識の下にあったさくらは受身取るまもなく「へっ?、すみません!」やわらかい何かと衝突し、倒れた。

 

 

 

 

鐘が鳴り終わるのと同時に、百合香は胸の辺りに何かが衝突した事を悟った。

直後、人だと分かった。

自慢ではないが、百合香の胸はなかなかに大きいほうで、モロそれにぶつかったとしても痛くは無かったことだろう。

問題なのは、相手がバタンキューを地で行って床に打ち付けられたことだ。

「へっ?、すみません!」

反射的に謝り、倒れた生徒に近づく百合香。

 

リボンを見ると、自分と同じ新一年生であることが分かった。

「……、…」

上半身を起こすと、じっと差し向けられる紅い瞳と目が合った。

眠いのか半分閉じかかっていた。

「えっと、名前は?」

行ってから、倒した罪悪感と気まずさが身を浸す。

自分の胸元位の身長しかない、癖のある綺麗な銀髪をした少女。

いや、同じクラスなのでさっき名前は訊いた筈なのだが、なんとなくまた訊いていた。

「…み、深角…さくら」

尻すぼみに小さくなる、蚊の鳴く様なとでも形容すべき細い声。

やっぱり。

「へ、部屋の番号は?」

「…207」

 

目標発見(タリホー)

 

 

 

 

 

 

数分ほど自室待機の時間からオーバーしていたが、教師に見つかること無く部屋に落ち着いた。

それから数十秒後、部屋のチャイムが鳴る。

内心あせったが、見るとダンボールに詰まれた自分たちの荷物カートに置かれた形であった。

私物配達のようであった。

「あ~先生かと思った」

「……、」

取り合えずカートを室内にひっぱて来て、一番上にちょこんと乗せられたごく小さなダンボールを抱える。

宛名は《深角さくら様》

残りをざっと確認するも、ルームメイト深角さくらの箱はこれしかない。

(一個だけ?)

「えっと、深角さん」

不自然なまでの静寂に包まれた部屋に、私の不用意な声が木霊する。

「……」

こちらを見た。

意図に気付いたのか、私が二言目を紡ぐ前にひょいと箱を持ち去られる。

一瞬指先同士が触れ合う。

小柄な体が、震度6弱位でびくりと震えた。

(猫みたいだな)

不意にそう思い、じっと見つめてしまって居た。

深角さくらは癖毛を振り乱し、あわてて後ろを向いた。

照れているのかな。

「……ありがとう…」

背中越しに、ちょっとちらちらこちらを確認しつつ感謝された。

やっぱり照れてるみたいだ。

箱は、そのままルームデスクの上に放られる。

持った時の感触といい、対して重いものは入っていないだろうから、結構雑な扱い方だった。

 

時折、鋭い眦を向けることは合っても自分からは決して話さないルームメイトに、私はどう対応して言いやわからなかった。

というか常時視線は窓の外に向いていて、こちらを向いてくれない。

両隣の部屋から微かに聞こえてくる、笑い声と楽しそうな話し声が今は羨ましい。

「はあ」

制服がしわになるなー、とか漫然と思いつつ腰掛けていたベッドへ横になる私。

そのまま横目に、ルームメイトのベッドを見る。

ベッドの上で体育すわりをし、やっぱり彼女はぼうっと外を見ているだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どん、という加速Gを全身で感じて、更に機を速させた。

ミラーで後方を確認すると、しっかり僚機は付いてきていた。

「「目標は出現地点から動いていない」」

インカムから、そんな声が聞こえた。

(どうにも嫌な予感がする)

 

待機所にスクランブルのアラートが鳴り響いたのは数分前の事。

しかも、三段階ある警報の内最も緊急の事態を知らせる物、俗にホットスクランブルと呼ばれるものであった。

今回目標は、日本領空の境界線ギリギリに出現したらしい。

それに対して、南条と前田は出撃したのだった。

 

(嫌な予感?)

無意識に発した独り言がどうやら回線に流れたようで、前田が丁寧に聞き返してきた。

(そうだ、突然日本領空内に出現し、そのまま動かない。そんな対象、俺は5年前に一度だけ相手をしたことがある)

予定高度に達した、インカムから又司令部通信士の声が聞こえた。

アフターバーナーを切り、上昇させていた機体を水平に戻す。

(前田、お前はあの日非番だったな)

前田が息を呑むのが、分かった。

(俺が三沢に居た頃か。南条、それはここで話してもいい内容か?あの件は今でも自衛隊内で緘口令が敷かれていることだぞ)

(いいさ、それより…)

不快感と不安を煽るロックオンアラートが、けたたましく響いたのはその瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「それは本当かッ?」

笹山は電話向こうの相手に声を荒げた。

彼は今、IS学園外周の専用道路にて車で待機していた。

ほぼ24時間ここで待機し学園内から外、外から内の橋渡し役として機能することになっていたのだ。

まあしかし半分は寝ていてもいいような仕事であったから、そうしていたのだがそれは今掛かってきた電話で打ち切られることになった。

(ほぼ、5年前と同じシチュエーションじゃないか)

春の晴天に、苛立ちを込めた鋭い視線を送る。

詳細を聞き終えると通話終了ボタンを押し、続けてある番号へ掛けなおした。

「日本海にて国籍不明のISが自衛隊機と戦闘状態に突入した、か」

 

 

 

 

 

(国籍不明のISが攻撃、奴らなのか?)

宇佐部はこの情報を聞いた時、とある組織の存在を強く感じた。

そしてまた、自政権の危機も。

秘書官を呼ぶ。

「アメリカとのホットラインを繋いでくれるか、大統領と緊急に話がしたい」

殆ど全ての状況があの日と似ているのだ。

数多の走査網の目を掻い潜り突如として出現し領空に居座り、まるで試すかのようにスクランブル発進したした戦闘機部隊と交戦する、自衛隊が始めて行った防衛的《実戦》であり、初めての《戦死者》を出した戦闘。

 

2009年石川県沖不明IS交戦事件

 

前内閣時、丁度宇佐部が防衛省の職に居た時に発生した事案だ。

政府はこの件への対応が不味かった為に政権が崩れた、といっても過言ではない出来事だった。

低迷した支持率、相次ぐ政治家の汚職、それに加えて戦闘の経過など、全てが一致している。

「それと、笹山にも伝えてくれ。用意したアレが必要になるかもしれない」

 




次回は多分戦闘回になります。

次回:「第四話」
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