規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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魔法を食らう騎士の最後

「強いな……。ククク。

 貴様の仲間が言った通り、我らはもはや、時代遅れの産物ということか……」

 

 腕を切られた紫の騎士が、腕のない右腕を押さえた。

 

「しかしこの我とて、伊達や酔狂で三魔騎士を名乗ったのではない!

 ただ駆逐されるためだけに、500年を越えるあいだ眠り続けていたのではない!

 オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

 

 紫の騎士が雄叫びをあげた。

 周囲の瘴気が螺旋を描き、紫の騎士に集まる。

 瘴気の中には、死の音を得意にしていた黒い騎士の怨念も混ざっていた。

 すさまじい風が吹き荒れる。

 

 今すぐやつを討伐しなければと思う反面、近づいたら吸い込まれる――という危機感もある。

 というか実際、嵐に巻き込まれないよう、立っているだけで精一杯だ。

 

「コヒュー…………」

 

 そうこうとしているうちに、騎士の変身は終わってしまった。

 単純な大きさが倍になり、体からは四本の腕。

 大きなヨロイは黒と紫の色が不自然に混ざり、おどろおどろしい雰囲気を与える。

 周囲の瘴気の影響だろう。その頭部には、ガイコツの頭部ができあがっている。

 

「クカカカカ……。ゆクゾ」

 

 魔騎士がチャージをかけてくる。

 目にも止まらぬスピードだ。

 

 ギャリィンッ!

 オレは振り下ろされた剣の横に斬撃を入れ、軌道を逸らして回避する。

 

 ドゴォンッ!

 オレの斬撃で威力が死んだはずの一撃は、それでも硬い地面を砕いた。飛び散った破片が、オレの頬にパチパチと当たる。

 魔騎士の別の腕が、切りあげるような薙ぎ払いを入れてきた。

 身をのけぞらして回避。鼻の先を剣がかすめた。前髪も散る。

 魔騎士の残り二本の腕が、同時にオレを攻撃してくる。

 

 ガガガガガッ!

 マリナのツララが、魔騎士の剣の横っ面に当たりまくった。

 同時にマリナはチャージをかける。

 魔騎士の手前で深く踏み込み、頭部を狙ったジャンプ――。を、すると見せかけ横っ飛び。

 オレの体を抱きしめ転がり、魔騎士との距離を取る。

 

「へいき………?」

「ああ」

 

 オレはうなずき、笑みを浮かべた。

 マリナが安堵の声を漏らす。

 

「よかった………。」

 

 魔騎士の骨の頭が、こちらのほうを向いた。

 パカリと開く。

 

 熱閃砲!!

 

 空気をも溶かしかねない閃光の塊が、一直線に飛んでくる!!

 が――。

 

 オレは縦に切り裂いたっ!!

 

 ズバッと切れた閃光は、オレの後ろにあった壁に、二筋の深い穴をあけた。

 魔騎士がスケルトンの口を、カタカタと鳴らした。

 

「クカカカカ……。ツヨイ!!」

 

 その場で飛び跳ね一回転し、顔をぐるぐると回す。

 断続的に発射される熱閃光が、床や壁や天井を壊した。

 

「面倒なマネを」

「マリナはオレの後ろにいろよ」

「うん………。」

 

 リリーナがバリアーを張ってやりすごし、オレは飛んでくる閃光を切り裂いた。

 しかし強いと、自称するだけのことはある。

 熱閃光の出力は、発射のたびにじわじわとあがっている。

 というかオレは大丈夫でも、剣のほうがまずい。

 切っ先が、ほんのわずかに溶け始めている。

 予備の剣もあるにはあるが、無暗に出してもジリ貧だ。

 

「んっ。」

 

 マリナが剣を出してきた。

 それは氷の剣である。マリナが魔法で作ったものだ。

 

「手のところ、すこし冷たい………けど。」

「あとでマリナにあっためてもらうさ!」

 

 オレはまっすぐに突っ込んだ。熱閃光をかいくぐり、氷ではないほうの剣を投げる。

 

「クカアッ!」

 

 半ば溶けていた剣は、ポッキーのように折れてしまった。

 

「アイテムボックス、オープン!」

 予備の剣を取り出して、二刀流で切りかかる。

 相手の剣は四本に増えているものの、精密さが落ちている。

 

「アンタ……二刀流のときのほうが強かったぜ!」

 

 ガキイィンッ!!

 魔騎士の剣を二本弾いた。しかし発生した隙を、魔騎士は的確に狙う。

 二本の剣が、オレの両肩に落ちようとした。

 

(ダブルッ!)

 

 だがオレは、咄嗟に雷をベースに作った分身を展開する。

 分身による体当たり。

 魔騎士は尻餅をついた。

 しかしオレの分身は、すぐさま魔騎士に吸収された。

 相手の魔法を吸収し、増幅させて跳ね返す技能はそのままのようだ。

 が――。

 

「ファイアボルト! ファイアボルト! ファイアボルトオォー!」

 

 オレは炎と雷撃の性質が混ざった魔法を、一気呵成にぶち込み続けた。

 

「グオオオオッ……!」

 

 つい先刻に父さんは、紫の魔騎士を魔法で倒した。

 コイツはある程度の威力の魔法は吸収するが、すべての魔法を吸収してしまうわけではない。

 もっと言えば――。

 

「マリナ! すぐに使える最大級の魔法を、あいつにぶち込んでくれ!」

「効くの………?」

「実験だ!」

「うん………。」

 

 マリナは自身の魔力を高めた。

 周囲の温度を八度はさげて、小さな声でぽつりとつぶやく。

 

「アブソリュート………ゼロ。」

 

 カキイィンッ!

 魔騎士の体が、巨大な氷に包まれた。

 しかし魔力で作った氷は、みるみるうちに吸収される。

 今までの流れから言えば、氷の魔法がハネ返ってくる。

 が――。

 

「グゴッ、おっ、オオオ……!」

 

 魔騎士は悶え苦しんだ。

 

「………?」

 

 首をかしげてしまったマリナに、補足説明を入れてやる。

 

「あいつは魔法を、吸収・増幅してハネ返す力を持っていた。

 そこでプラスのエネルギーを持った炎と、マイナスのエネルギーを持った氷を同時にぶち込んでやれば、体はどうなるのかなぁ――って思ってな」

 

 プラスのエネルギーとマイナスのエネルギーを、ひとつの体で増幅させる。

 常識で言えば、矛盾していて不可能なお話だ。

 それをやったらどうなるか。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

 大爆発。

 

 力を吸収し無敵になったつもりの騎士は、自らの力で死んだ。

 

 


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