規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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魔族皇子のディアギルム

「……やったか」

 

 粉々になった魔騎士を見つめてオレは言った。

 リリーナのリザレクションも終了し、聖騎士たちが蘇る。

 それと同時に、空間も割れた。

 

「ふぅ」

 

 父さんだった。

 その右手には、魔騎士の頭部を持っている。

 

「勝ったんですね」

「自称とはいえ魔王を名乗るだけあって、なかなかの強敵じゃった。18万2560回殺して、ようやく息絶えおったよ」

 

 メチャクチャ殺しまくってた。

 その時、外から声がした。

 

「瘴気がなくなったかと思えば……これは?」

 

 かつて四勇者と呼ばれた英雄――クリストフだった。

 オレは言った。

 

「見ての通りです。あなたが封印していた魔騎士は、オレたちと父さんでやっつけました」

「まさか勝利するとは……」

 

「これはわたしが魔騎士にも言ったことだが――。

 ヒトは常に進化している。数百年も昔の存在な時点で、今の時代では取るに足らなかった――ということだ」

 

「なるほど……そうか」

 

 クリストフは、穏やかな笑みを浮かべた。

 そして言ったリリーナは、フフン!とこちらを見つめてる。

 

(いいことを言ったろう?! 少年! 今のわたしは、とてもいいことを言ったろう?!)

 

 声には出していなかったものの、顔でそう言っていた。

 

「どちらかと言えば、リリーナさんたちが異常なだけだと思うっす……」

 

(だよなぁ……)

(死んだ我らを、蘇らせてくださったし……)

(我らでは、盾にすらなれんかったわけで……)

 

 ローリアや聖騎士たちは、冷静につぶやいていた。

 

「いずれにしても礼を言うよ。

 魔騎士たちが外にでなくて、本当によかった」

 

「クリストフさんは、これからどうするんですか?」

「キミたちが、戦いにでる前にも言った通りだ。死霊の体が維持できなくなるまで、外の世界を見て回ろうと思う」

「そうですか」

 

 温かな気持ちが芽生えた。

 色々あったクリストフだが、残された余生?は、穏やかなものになるのだろう。

 と――オレが思ったその時だ。

 

「魔騎士どもは死んだのか」

 

 声がしたと思ったら、何者かがクリストフに攻撃をしかけた。

 ザンッ――。

 クリストフの、死霊の体がえぐられる。

 だがクリストフは、かつては四勇者と呼ばれた身だ。

 突然の不意打ちに動揺することもなく、反撃をしかける。

 

「聖封・散弾射!!」

 

 それは相手に触れた部位を封印する、クリストフの奥技。

 オレもけっこう、苦戦させられた技であるが――。

 

「カアッ!!」

 

 現れた男は、気合いだけで吹き飛ばした。

 

「死霊は死んでおけ」

 

 男が軽く腕を薙ぐ。その一撃で、クリストフに残された体が消し飛ぶ。

 

「クリストフさん!!」

 

「気にするな……。レインくん。

 わたしは……元々、魔騎士を封印するためにこの世界にいた身だ……。

 その魔騎士が滅んだの……なら…………」

 

 クリストフは、消滅した。

 高潔なる勇者は、最期まで気高かった。

 オレはクリストフを殺したやつを見やった。

 

 先刻の魔騎士のボスと、どこか似た雰囲気を持つ銀髪の男。

 精悍な顔立ちをしている一方、どこか酷薄な印象を受ける。

 二本のツノが雄々しく生えて、両の瞳は血のように紅い。

 ひたいについている第三の目は、値踏みするかのような瞳でオレたちを見ている。

 

 男の横には、ふたりの少女。

 どこか無機質な印象を受ける無表情な少女と、悪魔のツノやコウモリの羽やヘビの形をした尻尾などを生やした幼げな少女だ。

 尻尾を生やした、幼げな少女が言った。

 

「あれれぇー? レリクスにリリーナぁ? こんなところで何してるのぉ?」

「知り合いなのか? リリーナ」

「そうだな……。

 少し昔の、知り合いだ」

 

「我を知らぬ者がいるなら、教えてやろう。

 我が名はディアギルム。

 人間からは、『魔竜殺しの七英雄のひとり、魔族皇子のディアギルム』と呼ばれている」

 

「ボクもそんな感じだねー。名前はロプトで、ついていた称号は『ジェノサイド・キマイラ』だったかなー?」

「まったく、懐かしい名前じゃのぅ」

 

 それを言う父さんは、かつての友を見るような眼差しを向けていた。

 今の友ではなくて、『かつての』だ。

 実際、オレも、クリストフを殺したやつにいい感情は持てない。

 

 七英雄のネクロが、自分たちを『魔竜を殺しただけの人間にすぎない』と称していたことも思い出す。

 ネクロの目的は死んだ恋人を甦らせることであり、世界を救うためではなかった。

 リリーナも、『真に英雄と呼べるのはレリクスだけだ』と言っていた気がする。

 

「我はヒトに興味がなかった。

 我が統治する魔族の民が無事であれば、それでよかった。

 貴様たちの魔竜討伐に協力したのは、魔竜が我が民にも危害を加える可能性があったからだ」

 

「それとまったく同じ理由で、ヒトに攻撃を加えにきたのか?」

 

「流石だな……レリクス。

 貴様はヒトの身でありながら、我をよく知っている。

 先日とある事情から、我はヒトを滅ぼすことに決めた。

 三魔騎士なる存在は、その尖兵にでもしてやろうかと考えた」

 

「ボクはどっちでもよかったんだけどねぇー。元々ギルっち寄りの存在だから、ギルっちについたって感じかなー」

「おヌシはどうなのじゃ? ティルト」

 

 父さんは、今まで一言もしゃべっていない少女に声をかけた。

 少女はしばし黙っていたが、ぽつりとつぶやく。

 

「……わからない」

 

 どこかマリナと似た雰囲気を持つ少女ティルトは、淡々と続ける。

 

「私は、作られた存在。

 それでも魔竜を倒したら、なにかがわかる気がしてた。

 だけどなにもわからなかった」

 

「だから今度は、ヒトを滅ぼしてみるわけか?」

「…………」

 

 ティルトは否定しなかった。しかしながらこの場においては、沈黙こそが肯定だった。

 リリーナが言う。

 

「あの子は、わたしたちが探索していた古代遺跡に封印されていた子でな。自分が生まれた意味について、延々と悩んでいた。『魔竜を放置していては、悩むための世界もなくなる』ということで協力はしてくれたのだが……」

 

「今回は、敵に回ったっていうわけか……」

「そうなってしまうな」

「しかし消耗しているなぁ? レリクス」

 

 ディアギルムの体から、殺気が漂う。

 かと思いきや。

 

 姿が消えた。

 目にも止まらぬ速さでオレの横を通り過ぎると、父さんに攻撃をかけていた。

 ガギイィンッ!

 鋭く伸びたツメと、父さんの剣が交差する。

 

「老いているなぁ、レリクス! 魔竜を殺したときの貴様であれば、我など両断できたであろうに!」

「否定できのんが辛いとこじゃなっ!」

 

 父さんは、ディアギルムのツメを押し、斬撃を放てる間合いを作った。

 目にも止まらぬ切り払い。

 だがディアギルムも速い。

 父さんの斬撃を回避した。

 

「ゴホッ……」

 

 父さんがセキをした。手の甲で唇をぬぐう。

 その手の甲には、赤い血がついていた。

 魔竜殺しの英雄として戦った父さんは、魔竜との戦いで傷を負った。

 その関係から、全力で戦える時間は短い。

 それでも大概の相手なら、本気をだすまでもなく勝てた。

 それがあの、ディアギルムは――。

 

 加勢しないと。

 オレが思ったその直後。

 ティルトと呼ばれた無表情の少女が、オレに攻撃をかけてきた。

 脇腹をえぐるリバーブローだ。

 

「クッ!」

 

 かろうじて剣を出したものの、意味はなかった。

 剣はバキンとへし折れて、少女の攻撃がみぞおちに刺さった。

 

「レイン!」

 

 マリナが少女の頭上に、氷のカタマリを出現させた。

 推定一トンはあろうかというそれが、少女に向かって落下する。

 ガシッ!

 少女はそれを抱きとめた。

 抱き砕く。

 少女の視線がマリナにいった。

 オレは折れた剣を捨て、徒手空拳で対応した。

 

「少年!」

 

 リリーナが手をかざし、回復魔法を飛ばしてくれた。

 ダメージが癒える。

 身体能力も向上した。

 

「それはずるいと思うよぉ、リリーナぁ」

 

 ジェノサイドキマイラと呼ばれた少女――ロプトが右手をすうっとかざした。

 右手の先がドラゴンに変わり、紅蓮の炎を吐き出してくる。

 ロプトはタンッと飛び跳ねた。ガゼルのような跳躍力だ。

 そして宙でくるくると回り、リリーナの上に落下する。

 

 ズゴオオンッ!!

 隕石が落下したかのような衝撃音が響き、地面には巨大なクレーターもできた。

 石の破片が、散弾銃のごとき勢いで散った。

 

 リリーナは、その攻撃を受け止めていた。

 

「うぅわっ。オーバーブレイドかぁ。肉体の限界を越える補助魔法を使用して、壊れる体は回復魔法で強引に癒やす。なんていうか……ズルくない?」

「魔物の力を取り込める、貴様ほどではないと思うがなっ!」

 

 リリーナは叫び、ロプトの体を魔力で弾いた。

 その全身は、白く光り輝いている。

 とても強く頼もしい、ワルキューレのような姿。

 だがオレは、直感でわかった。

 

 あの能力は、長い時間は使えない。

 

 消耗していて全力をだせない父さんと、単純に強いティルト。

 多少優勢ではあるが、それも時間の問題でどうなるかわからないリリーナ。

 状況は、最悪と言えた。


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