規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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七英雄ティルト、集積回路発動。

 父さんの救援には行きたいが、今のオレも苦戦している。

 目の前の少女――ティルトが救援を許してくれない。

 拳に肘に掌底波。

 あらゆる攻撃が重い。オレは防戦一方だ。

 ひとつでも直撃を受けてしまえば、一瞬で吹き飛ぶだろう。

 

 それでもなんとか耐えているのは、技量の差だ。

 父さんとの組み手を毎日のようにしていたオレは、格上との戦いには慣れている。

 一方で目の前の少女ティルトは、力押しの度合いが強い。

 それゆえオレは、最小限の力で防御に徹し、相手が一瞬の隙を見せたところを――。

 

 突く!!

 

 オレの掌底が、ティルトの胸に突き刺さった。

 ティルトの体が、後方に飛んでいく。

 今まで戦った七英雄の中では、一番くみしやすいかもしれない。

 

「マリナ!」

「うん!」

 

 マリナがオレを踏み台にして飛んだ。

 宙でくるりと回転し、オレが掌底を当てたところに追撃を放つ。

 

「…………」

 

 しかしティルトは頑丈だった。

 マリナの足を、ガシッと掴んでグオンと投げた。

 マリナは壁に当たる直前、背中に雪を展開した。

 

 その雪をクッションにして、ダメージを最小限に抑える。

 それでも衝撃は重かったらしい。ドォンッと鈍い音がした。

 心配になる一方、ティルトから目を離すわけにはいかない。

 

「ライトニング!」

 

 ティルトに雷撃を入れた。

 直撃を受けたティルトは、一瞬動かなくなる。

 

「雷撃魔法の被弾を確認。

 集積回路発動。

 アキュミレーションキャノン・レールガンモード」

 

 ティルトが右手をこちらに向けた。

 グォォォォォンッ!!

 雷撃魔法を跳ね返してくる!!

 軌道線上にある分子すべてを溶かし兼ねない威力だが、幸いにして直線的であった。

 横っ飛びで回避する。

 

 しかし回避したあとの地面が深く抉られていた。

 直撃すればただでは済まない。

 

 格闘戦のときも思ったが、ティルトの攻撃は大味だ。

 威力は高いが雑である。

 個人を相手に戦うよりも、大軍や大型のモンスター、城壁への攻撃などに向いていると思われる。

 攻撃力なら父さんクラス。だけど技術も含めると――。

 

 オレにも勝ち目が、あるかもしれない。

 

 そう考えた直後。

 

「重力百倍! グラビトン・フィールド!」

 

 ドォンッ!

 オレの体に、百倍の重力が圧しかかった。

 重力を操ると言えば、父さんと戦っていた魔族――ディアギルムの技だ。

 見ればディアギルムのひたいにある第三の瞳が、紫色に輝いていた。

 ただのネズミをライオンよりも強い『魔物』に変える、魔水晶の輝きだ。

 

「使うなら言えよおぉ……。ぎるうぅ……!」

「っ……!」

 

 ディアギルムの放った技は、ディアギルムの仲間であるふたりにも重力が加算されてた。

 

「重いっすうぅ……」

「ぬおぉ……!」

「この程度、神聖教会の聖騎士魂でえぇ……!」

 

 聖騎士やローリアたちも、地面にひしゃげて耐えていた。

 ディアギルムを除いた全員の重さを、100倍にするようだ。

 これはまずいと、オレは思った。

 全員の重さが百倍ということは、全員のスピードが極端に低下するということ。

 全員のスピードが極端に低下するということは――。

 

「…………」

 

 ティルトが無言で右手を構える。オレへと向ける。

 

「重力魔法の被弾を確認。

 集積回路発動。

 アキュミレーションキャノン・グラビトン」

 

 ディアギルムの魔力が、ティルトの右手に溜まっていく。

 ズドオォンッ!!

 漆黒の球体が、オレに向かって放たれた!!

 

「う……おおおおおおおおっ!!!」

 

 オレは全身の力を振り絞り、横に向けて転がった。

 でも足りない。

 まだ足りない。

 

「ファイアーボール!」

 

 火炎魔法を発射して、その反動で強引に飛ぶ。

 どしゃりと転がり起き上がる。

 オレの立っていた場所で、『グラビトン』が炸裂した。

 漆黒の球体が拡大し、範囲内のすべてを吸い込む。

 半球状の穴が地面に残った。

 

 これもやっぱり、直撃すれば命はない。

 しかも百倍の重力のせいで、オレの体は滅茶苦茶に重い。

 今はもう、立っているだけで厳しい。

 もう一度あの攻撃がきたら、果たしてよけられるかどうか――。

 なんて考えているとティルトは、腕を構えたままで言った。

 

「キャノン収束。

 クールモードに移行。

 5、4、3…………。

 集積回路発動。アキュミレーションキャノン・グラビトン」

 

 マジかよっ!

 即死級の攻撃を、五秒間隔で発射するとか!!

 

「ファイアボルト!」

 

 オレは雷撃を放つ。先刻戦った魔騎士なら、これで体が爆発を起こしたが――。

 

「雷撃魔法の被弾を確認。集積回路――使用中。帯電処理に移行します。

 アキュミレーションキャノン・グラビトン」

 

 ティルトは自らの周囲に雷を携えたまま、『グラビトン』を放つ!

 

「くっ……!」

 

 オレはオレの目の前で両手を重ね、全神経を集中させた。

 すさまじい重力波だが、要するに魔法。

 だったら魔法で相殺すれば――。

 

「オオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 自身の魔力を暴走させて、黒い球体にぶつける。

 大爆発が起きた。

 オレは後ろに吹き飛ばされて転がる。

 百倍の重力が伸しかかり、潰れそうになる。

 

 それでも堪えた。

 ティルトを見やる。

 漆黒の球体は消し去れたのだが――。

 

「キャノン収束。クールモードに移行。5、4、3…………」

 

 反則すぎる!!

 父さんに助けてもらうにも、父さんは父さんでディアギルムに苦戦している。

 このままじゃ――。

 オレが思ったその時だ。

 

「「「聖騎士魂を見せろおぉーーーーーー!!」」」

 

 この迷宮でなんの役にも立っていなかった聖騎士たちが立ちあがった。

 聖騎士のリーダー格に残りの聖騎士が力を渡す。

 白い輝きに包まれた聖騎士のリーダーが、その輝きをメイスにまとわせて投げた。

 

 メイスは、父さんに対峙していたディアギルムのこめかみに当たる。

 ゴスッと鈍い音がした。

 ディアギルムへのダメージは皆無。

 しかし視線が、聖騎士たちのほうへ伸びた。

 その一瞬を、父さんは逃さない。

 

 百倍の重力を感じさせない速さで突っ込み、斬撃を放った。

 三日月のような弧を描く、美しい一撃。

 ディアギルムの右腕が飛んだ。

 さらに父さんは、拳をディアギルムの顔面に叩き込む。

 ディアギルムは吹き飛んだ。しかし宙で回転し、体勢を立て直す。

 

「やはり摩耗しているな――レリクス。魔竜と戦った時の貴様なら、今の一撃で我を狩り取れていた」

「否定できんのが、辛いところじゃのぅ……」

 

 父さんは息を吐く。

 全身には汗がにじんで、限界を示していた。

 その父さんが、横目でオレをチラと見やった。

 目線はオレの手首を見ていた。

 つい先刻に、かつての勇者にして封印魔法のエキスパート――クリストフから授かった腕輪だ。

 

 効くかどうかの確信はなかった。

 しかし父さんが使えというなら、効くのだろうと思った。

 オレは、右腕を抱えて叫んだ。

 

「悪しき者どもを封印せよ! ハイラント・ズィーゲル!」

 

 ディアギルムとティルト、ロプトの三人の体が、白い光りに包まれる。

 勇者クリストフが数百年をかけて貯めた魔法の腕輪は、三人を封印した。

 ただし、魔法を発動したオレだからわかる。

 

 この封印は、一ヶ月と持たない。


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