規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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今後の方針

「いやはや、衰えたものじゃのぅ」

 

 父さんが、口元についた血をぬぐった。

 

「ロプトたちは、逆に強くなっていたな」

 

 リリーナも、疲れたように息を吐く。

 

「大丈夫か? マリナ」

「………くるしい。」

「どこが苦しいんだ?!」

「むね………。」

「胸か。衝撃は殺していたように見えたけど、殺し切れていなかったのか……?」

「ちがう………。」

「違う?」

「好き好き病で………くるしい。」

「ええっと……」

「戦うあなたが、かっこよすぎて………。」

 

 マリナは本気で言っていた。

 玉のような汗が浮かんだ顔の熱病にうなされているみたいな様子で、荒い吐息を吐いていた。

 

「あなたが好き好きしてくれないと………死んじゃう………。」

 

 マリナは本気で言っていた。

 この場でなにを言っているんだと思ったりするが、いつものマリナと言えばその通りである。

 

「すいません、マリナの具合が悪いみたいなんで、隣の部屋で休んできます」

「わたしも付き合おうか?」

「ふたりっ切りで大丈夫です」

「そうか」

 

 マリナを抱っこし、隣の部屋に移動した。

 マリナと軽くやらしいことする。

 

「なんかいつもより敏感だな」

「今日は………がまんしてたから………。」

 

 迷宮にくる前にもヤッたはずだが、ガマンしていたことになっていた。

 もはやAM24時――安定のマリナ、24時間えっちしたがる――だ。

 行為が終わった。

 しばし休んでから尋ねる。

 

「もう大丈夫か?」

「うん………。」

 

 かわいいマリナは、ほっぺたを赤くしてうなずいた。

 父さんたちのところに戻る。

 

「戻ったか、我が息子レインよ」

「はい」

「時にひとつ質問なのじゃが、おヌシの感覚では、ディアギルムたちはどのくらいで出てきそうじゃった?」

「一ヶ月ぐらいだと思います」

「やはりその程度か」

「父さんの見立てでも、そんな感じですか」

「その通りじゃ」

「一ヶ月後には、勝てそうですかね?」

「無理じゃろうな」

 

 即答だった。

 

「ワシには、魔竜と戦ったときの傷が残っておるからのぅ。これがある限り、やつには勝てん。

 治療を試みた時期もあったが――」

「わたしの回復術はもちろんのこと、死者を再生させるネクロの死霊術でも治らなかった」

「傷というより、呪いに近い代物であるしの」

 

 父さんでも勝てない。

 そのシンプルな結論は、理屈で言えば絶望だった。

 この人で勝てないのなら、世界に勝てる人はいないだろう。

 そう思わせてくれるのが、オレの父さんだったのだから。

 その父さんが、勝てないことをあっさりと認めてしまった。

 本来であれば、絶望のあまりに崩れ落ちてもおかしくない。

 

 だがオレは、理屈で言えば味わうべき絶望を、味わってはいなかった。

 父さんとリリーナが、落ち着いていたせいだ。

 ふたりが落ち着いているなら、なにかの策はあるだろう――と思ったのだ。

 聖神官のローリアが、そんな気持ちを代弁するかのように言う。

 

「ふたりとも落ち着いているっすが、なにか策はあるっすか……?」

「策と言えるほどの策はないのぅ」

「そうだな。策と言えるほどの策はない」

「それなのに落ち着いていたっすかっ?!」

「慌てて妙案がでるのなら、いくらだって慌ててみせる。しかし現状は違う。それなのに、どうして慌てる必要がある?」

 

 実に理路整然とした主張を、淡々と語るリリーナ。

 こういうところは素直にすごい。

 やはり場数を踏んでいる、魔竜殺しの七英雄だ。

 が――。

 

「…………」

 

 数秒間の沈黙を挟んだあとに。

 

(今のセリフは、クールだったとは思わないか?!)

 

 両手をグッと握りしめ、オレを見てくる。

 エルフの耳はぴこぴこ動き、瞳はキラキラと輝いている。

 まるで飼い主が投げたボールを取ってきた子犬のようだ。

 定期的にクールでかっこいいのがリリーナならば、かっこいいところを的確なタイミングで台無しにするのもリリーナだった。

 オレはリリーナの頭を軽く撫で、父さんに尋ねた。

 

「策と言えるほどの策がないことはわかりました。では策と言えないような策はあるんですか?」

 

 父さんは言った。

 

「竜人の里じゃ」 


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