規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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バーサーカー気質のマリナさん

 森を越えたオレたちは、唸る滝に辿りついた。

 百メートル以上の幅に加えてビルよりも高そうな滝は、むかしテレビで見たナイアガラの滝を彷彿とさせる。

 

「飲み込まれたら、二度と浮かんでこれなさそうだぜなぁ……!」

「はにゃあぁん……」

 

 カレンとミリリが、オレにくっついて震えた。

 特にミリリは、無意識でそうしているような感じだった。

 オレはリリーナに問いかけた。

 

「なんかすごい滝があるけど、ここからはどこに行けばいいの?」

 

 リリーナは、滝を指差すと言った。

 

「ここをまっすぐだ」

「えっ……?」

「竜人の里は、この滝の裏側にあるのだ」

「「ええええええええええええっ?!」」

 

 オレとミーユが同時に叫んだ。

 リリーナは、淡々と言う。

 

「この滝を通り抜ける程度の力がなければ、竜人に会う資格もない、ということだ」

「ん………!」

 

 バシュボシュバシュンッ!

 マリナが滝にツララを飛ばした。

 一本一本が一メートル級の、かなり大きなツララであったが――。

 

 パキポキポキンッ。

 

 ツララはあっさり折れてしまった。

 一メートル級のツララも、滝の前では小枝であった。

 

 しかしマリナも、いきなりツララをぶっ放すとは。

 地味に力押しを好む、バーサーカー気質があると思う。物腰は穏やかで静かなのに。

 

 その時だった。

 森の奥から、巨大なツノイノシシが現れた。

 額には、魔物化を示す魔水晶。

 狙いはリリーナ。

 ミーユやミリリなら危ないが、リリーナなら大丈夫だろう。

 

 オレがそう思っていると、リリーナはバックステップで回避した。

 シンプルに見える仕草だが、残像が残るほどのハイスピードだった。

 ツノイノシシは、川へと落ちる。

 無数のピラニアがイノシシを食い荒らす。

 そのピラニアは、全身のウロコが魔物化の証である魔水晶と化していた。

 

「まぁこのように、川の中には魔物化した小魚も多いからな。油断はするんじゃないぞ?」

 

 リリーナの言葉に、ミーユが叫ぶ。

 

「今のやつらが小魚なんですかっ?!」

「体長三十センチ程度なら小魚であろう」

 

 しかし話を聞けば聞くほど、すさまじい滝である。

 どうやって突破すればいいものか。

 考えていると、リリーナが動いた。

 ふわっと跳ぶと――。

 

 川の上に着地する。

 

「すごいですねぇ」

「わたしはエルフだからな。風や水といった、自然系の魔法は得意だ」

 

 リリーナは水面を滑空し、滝へと向かった。

 危ない――! と言いたくなるような無防備さではあったものの、何事もなかったかのように滝の中へと入ってしまった。

 

 オレは心配になった。

 あれだけ普通に入った以上、常識で言えば問題はない。

 しかし入ったのはリリーナだ。

 想定外の誤算が起きて事故っていても、特に違和感はない。

 

 五分が経った。

 音沙汰がない。

 助けにいったほうがよいのでは……?

 

 と思ったその瞬間。

 リリーナは、至って普通に現われた。

 滝に入っていったときとおんなじように、ツウゥ――と水面を滑空してくる。

 意味もなく回転し、まばゆい飛沫を飛ばして言った。

 

「とまぁこのように、わたしクラスであれば難なく通れる」

 

 ミーユとミリリが、おずおずと手をあげた。

 

「それを難なくと言われましても、意味がわからないんですが……」

「そもそも、どうやって通り抜けたんですにゃ……?」

「そこは普通に、こう……だな」

 

 リリーナの体が、透明な水に包まれた。

 中にいるリリーナもまた、半透明になっている。

 

「このように自らをエレメント化させれば、滝の威力は半減できる」

「普通の人にはできませんよっ?!」

「ミリリも無理だと思いますにゃあっ?!」

「確かに多少の修練は、必要かもしれないが……」

「リリーナさまの『多少』な時点で、『多少』ではないと思いますにゃあ!」

「そもそも『エレメント化』なんて技術を、ボクは初めて聞きました!」

 

 ふたりは苛烈に突っ込みを入れた。

 だけど実際、どうなんだろう。

 

 オレは試しにやってみた。

 オレが使える属性は雷と炎なので、得意な雷でやってみる。

 自らの体を、雷にする感覚……と。

 バチバチバチッ!

 

「お、できた」

 

 自分で手足を見る限り、完全な雷になっている。

 

「えええええええええええええええええええっ?!」

「にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ?!」

 

 ミーユとミリリのふたりが驚く。

 

「わたしは………むずかしい………。」

 

 マリナは実践しようとしてたが、周囲の空気を凍らせているだけだった。

 

「一瞬でやれてしまうあたり、少年は『さすが』だな」

「さすがで済ませていいんですかっ?!」

「ミリリはおかしいと思いますにゃあ!」

 

 ふたりは突っ込みを入れていたが、オレは大したものには感じなかった。

 

「しかしこれ、見た目は特別な感じがしますがすごい状態になった感じはしませんね」

「エレメント化は、体を魔法体に変化させるものだからな。魔法の威力は上昇するが、剣が主体のキミには恩恵が少ない」

 

 リリーナは、オレに向かってナイフを投げた。

 しかしナイフは、オレを通過して背後の木へと刺さった。

 オレの体に穴があいたが、すぐにふさがってくれた。

 

「しかしこのように、多少の物理攻撃は無効化できる」

「便利ですね」

「魔法攻撃への耐性は落ちるため、一長一短なところではあるがな」

「こっちが攻撃するときも、エレメント化してる属性の魔法だけになりそうですしね。

 雷のエレメントになっているせいか、炎の魔法が使えません」

 

 オレとリリーナが会話してると、ミーユが叫んだ。

 

「どうしてこんなわけのわからない技術を一瞬で体得してる上に、技術の使い方についてまで話せてるんだっ?!」

「どうしてって言われてもなぁ……」

「レインはすごい。」

 

 ふと見ると、マリナは右手を氷化させていた。。

 

「わたしもがんばってみたけど、体の一部だけで限界。」

「右手を氷にしている時点で、おかしいと思うけどっ?!」

 

 確かにミーユが正しい気はする。

 でもできてしまっている以上、できるものだとしか言えない。

 そしてマリナは、氷と化した右手を滝へと向けた。

 

 ドゥンッ!

 

 氷のキャノンとでも言うべき技が、滝へと向かった。

 それは滝を凍らせる。

 が――。

 ピシピシピシ……ばしゃあぁんっ!

 滝はすぐにヒビ割れて、中の水がでてしまった。

 

「………。」

 

 マリナはほんのり不満げに、両の瞳を細めていた。

 とりあえずぶっ放すあたり、本当にバーサーカー気質だ。


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