規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
オレたちは修行のため、竜人の里に行く必要がある。
竜人の外へ行くには、巨大な滝を超える必要がある。
その滝は分厚い。厚さ数百メートルはある。
マリナが氷の魔法を放っても、一瞬凍ってすぐ溶ける。
「ファイアボルト!」
オレは炎雷の魔法を放った。
ジュワアァンッ!!!
白い蒸気が爆発を起こした。
しかしわずか五秒程度で、滝は元に戻ってしまう。
「ふむ……なるほど」
オレがつぶやくとミーユが言った。
「なにかわかったのか? レイン」
「わかったって言うほどじゃないけど、手応えは感じたって感じかな」
「レインは、やっぱすごいな……」
オレはミリリに耳打ちをした。
「はにゃ……!」
ミリリはビクッと身をすくめ、赤くなってぷるぷると震えた。
「わっ……わかりましたですにゃ……」
頭の猫耳を両手で押さえ、ふうっとひとつ息を吐く。
「大いなる大地よ、ミリリの命に従ってくださいにゃっ!」
両手をかざし、魔力を発した。
土の形の、モーターボートを作りだす。
オレたちは、ボートへと乗り込んだ。
「次は……。
このボートを浮かしてくれ。ミーユ」
「あっ……ああ」
ミーユは風魔法を使ってボートを浮かした。オレは火炎魔法を使い、ボートを川の上へと移動さす。
「な、なぁ、レイン」
「どうした? ミーユ」
「ボク、イヤな予感しかしないんだけど……」
「確かにアタシも、力という名のパワーで押す展開しか見えないぜな……」
「ミリリはミリリは、ご主人さまを信じますです……にゃあ」
ミーユとカレンが不安を漏らす中、ミリリだけはオレを信じた。
「ご主人さまなら、力押しでもなんとかしてくださると、信じております……にゃあ……!」
しかし結論から言うと、ミーユたちと大差なかった。
でもそれが、正解でもあった。
「ミーユはボートの浮遊。ミリリはボートが破損したら修理。カレンとリンは、ピラニアとかが飛んできたら撃退してくれ」
「わたしは?」
「マリナは、どれって言うことはない。オレたちが危ないと思ったら、自己判断でオレたちを守ってくれ」
「わかつた。」
マリナは微妙に舌っ足らずに言ってうなずく。
(そわそわそわ)
なにも言われなかったリリーナが、そわそわそわと待機していた。
(そわそわそわっ!)
オレと目があうと、『そわそわ』はより強くなった。
「じゃあ行くか」
「少年?!」
「この滝って、滝をどう越えるかってのも修行とかの一貫じゃないの?
だからリリーナは、最低限の情報だけ与えて黙っていたんじゃなかったの?」
「それは確かに正論だ!
キミから『この滝をどう越えればよいのか』を問われていたら、わたしはそう答えていた!
しかし尋ねられてから『自分で考えるのだ』と答えるのと、なにも問われずに無視されるのとでは、わたしの気分が変わるではないかっ!」
リリーナさん二八〇歳は、今日も二八〇歳とは思えなかった。
もっとも見た目はロリなので、見た目的には問題ないが。
「じゃあリリーナは、オレたちの突撃が破綻しそうになったら助けてくれるような感じで」
「うむっ!」
リリーナさん二八〇歳は、満足そうにうなずいた。
「っていうかレイン! 今『突撃』って言わなかった?! 突撃ってどういうこと?! ねぇどういうこと?!」
「そのままの意味だぜ? ハッハッハッ」
オレはボートの後方に、右手をツイッと突き出した。
「ファイアッ!」
炎がゴウッと噴射され、ボートは一気に前にでる。
巨大な滝が、眼前にまで迫る!
「魔法剣――サンダーブレード!」
オレは剣に魔力を宿し、十字に振るった。
ズバアンッ!!
巨大な滝が十字に割れる。
滝の奥には、ほら穴も見えた。このままボートで突っ込んで行っても構わないような、はば広いほら穴だ。
穴までの距離、七〇〇メートル。
ボートは進む。グングン進む。
けれども、水が落ちてくる。
わずかな飛沫も、超高速で落ちてきたなら兵器と変わる。
飛沫に紛れた小さな小石が、オレの頬をチリッとかすめた。頬から赤い血が垂れる。
ボートもボコッとへこんでしまう。
「はにゃああ……!」
ミリリがすぐさま修復をかけた。
滝の左右からは、ピラニアも飛んでくる。リンとカレンが、槍や棒ではたき落とす。
「くうっ……!」
ミーユが辛そうに顔をしかめた。
滝の勢いが強すぎて、ボートを支え切れないでいる。
補助したほうがよさそうだ。
オレがそう思った直後。
空から水が落ちてきた。
「んっ!」
マリナが滝を凍らせて、一瞬の時間を稼ぐ。
「ミーユ!」
オレはミーユを抱きしめて、右手をスウッと添えてやる。火力で浮力を増加させ、ボートは安定を保った。
「ごめん……」
「気にするな」
「レイン………!」
今度はマリナが、辛そうに顔をしかめた。
水量が多すぎて、支え切れないでいる。
「ファイアーボール!」
オレは炎を空へと飛ばし、滝の勢いを相殺した。
穴までの距離、三〇〇メートル。
これはイケるか……?
と思った次の瞬間。
「レイン! 前!」
前方から、超高速の閃光がっ?!
「なんだコイツはっ?!」
オレは剣で閃光を弾く。
ギュインッ! ギュイィンッ!
独特な音と共に、閃光は弾かれる。
しかし剣が溶けてしまった。閃光は、二閃、三閃と飛んでくる。
「チッ!」
オレは溶けた剣を投げ、一本の閃光を弾いた。
残り二本を素手で受ける。
バギイィンッ!
両手の骨がわずかにひしゃげる。
オレは魔力を全開にし、強引に弾いた。
「ファイアボルト!」
閃光を放った何者かに対し、炎雷の魔法を放つ。
ボートは滝を突破して、ほら穴の中に入った。
幅広いほら穴の中を、一直線に飛び進む。
その時だった。
周囲の景色が一瞬ゆがむ。
そして外に飛び出した。
青い空と緑の芝生と見たことのないような形の木々。
流れる一本の小川の上では、虹色のプリズムがかかった大きなシャボン玉のようなものが浮かんでいた。
「おお……」
幻想的な光景に、オレは一瞬、見とれてしまう。
でもそれが失敗だった。
「ふえぇん……。ごめん……」
ミーユがだらりと力尽き、ボートが浮力を失った。
オレたちは、ボートごと落下していく。
『ほあああああああああああっ?!』
ボートの下から声がしたような気もするが、そんなことを確認する余裕もないまま――。
落下した。