規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
「あいててて……」
「はにゃあぁ~~~~~」
「ごめん…………」
地面に落ちたオレたちは、みな一様に目をまわす。
「………。」
無事だったマリナがオレを見つめた。
オレの右手をスッと取り――。
おっぱいをさわらせてきた。
「……マリナ?」
「こうなったときは、えっちなことになるのがお約束だと思った。」
すごい淡々と言ってるが、そのほっぺたはほんのり赤い。
わりと発情している感じだ。
それなのでオレも、乳首をキュッとつねっておいた。
「あんっ………♪」
「それでここは、どこなんだぜなぁ……?」
「ここがどこかも気になりますが、わたくしたちが落ちる寸前、だれかを潰してしまったような気も……」
カレンとリンがつぶやいた。
そのときだった。
「くひっ、ひぃ、ひいぃ~~~~~」
ボートの下から、誰かが這いずりだしてきた。
そいつは叫ぶ。
「いったいなにをしやがるのだ?! エルンは死ぬかと思ったのだ!」
現れたのは、緑の髪と赤い瞳が印象的な少女であった。
口には鋭い八重歯にも見えるキバがあり、頭部にはツノ。
そしてその背中には赤いツバサが生えていて、お尻からはドラゴンの尻尾。
その外見から察するに――。
「竜人か……?」
「いかにもなのだ! エルンは誇り高き竜人族の、若きエース的なアレなのだ!」
エルンと名乗った少女は、えっへんと胸を張った。
だがその胸は、全力で平たかった。
「しょっしょっしょっ、初対面でどこを見ているのだぁ?!」
オレの視線に気づいたエルンは、真っ赤になって胸を隠した。
「オマエなぁ……」
「ご主人さま……」
ミーユやミリリが普通に引いてた。
「オレは初対面の女性の胸をジロジロ見たりしないって発想は出てこなかったか……」
「とーぜんだろ」
「ミリリはミリリは、ご主人さまの強くおやさしくたくましいところは存じておりますミリリですが……。
別の意味でたくましい部位に、ほとんど毎日、貫かれてもいるミリリですので……」
「日ごろのおこないってやつだぜな! フハハハハ!!」
みんなから、そろって正論を言われてしまった。
それはさておき。
「エルンさん――でしたね。
竜人のあなたがいるということは、ここは竜人の里、でよろしいのでしょうか?」
「その通りなのだっ!
ここは竜人が集まる竜人の里なのだっ!
エルンはゲートの見張り番なのだ! 未熟なやつが近寄ってきたら、ドラゴンビームで牽制するのだ!」
オレはつい先刻に飛んできた閃光のことを思い返した。
アレはエルンの攻撃だった――ということか。
その時だった。
「へぶうぅ!!」
マリナが魔法で作った氷が、エルンのひたいを直撃した。
「なっなっなっなっ、なにをするのだぁ?!」
「レインのこと、こうげき………した。」
「説明を聞いていなかったのだ?! エルンは未熟な者は入れないように……ひいいぃ!!!」
エルンが話している間にも、マリナはツララをぶっ放す。
しかし事情は、理解しているのだろう。
相手の体には当てていないし、適度に攻撃をやり終えたあとには言った。
「………それはそれ。」
「ちなみに見張り番ってことは、オレの父さんにも会ったのか?」
「ニンゲン……? ならやってきたのだ……」
エルンは、ほんのりと青ざめていた。
「あのニンゲン……? は、試しの滝を吐息ひとつで吹き飛ばし、エルンの竜ビームの軌道も、にらむだけで逸らしていたのだ……。意味がわからないのだ……」
まず間違いなく父さんだった。
姿形の特徴は聞いてないのに、父さんであると確信できた。
「その人は、オレのことでなにか言ってませんでしたか?」
「女の子を連れた、利発そうな少年がくる。我が息子のレイン=カーティスというのじゃが――とは言っていたのだ!」
間違いなく父さんであった。
しかしその言い方、悪い気はしないが少し恥ずかしい。
いや、まぁ。
父さんにそう思ってもらえているってのは、うれしいところではあるんだけど。
「あとは……。
『レインが来たら、スケイルのところまで案内するように』とも言われたのだ!
オマエがレインなのだ?!」
「ああ、そうだ」
「わかったのだ! このエルンが、案内をしてやるのだ!」
オレはエルンに付き従った。
里の中を歩く。
質素な暮らしを心掛けていると思われる里の中は、村と呼ぶに近い雰囲気であった。
竜人たちが畑をたがやし、家も村っていう感じに古い。
あとは武術が盛んなのか、道場らしき建物が各所にあった。
「でも少し妙だな」
「なにがだ? 少年」
「この空間、すごく広いじゃないですか。滝の裏に、これほどのスペースはあったかな――と」
「あの滝の裏にあったのは、転移の魔法陣だからな。
何千年か前にこの里を建てたと言われる伝説級の力を持った初代長老が、世界各地に入り口を作ったらしい」
「なんでそんな面倒な真似を」
「強いやつとは戦いたいが、弱いやつがくるのは困るのだ!
だから弱いやつが入れないトクベツな場所に、入り口を作ったのだ!
と聞いているのだ!」
「なるほど」
(………。)
マリナが少しそわそわしていた。道場を見ている。
「気になるのか?」
「すこし………。」
地味に戦闘民族であった。
まぁオレといたときも、毎日のようにオレや父さんと組み手していたしな。
エロな意味でも健康的な意味でも、体を動かすことは好きな性格なのかもしれない。
「戦いだったら、スケイルさまともできるのだー!」
ということだったので、エルンの案内のまま進んだ。
◆
「ここなのだ!」
エルンに案内された先には、鳥居のように荘厳な門があった。
エルンが門をギギリとあけると、石造りの階段。
かなり高いその階段は、軽く百段はありそうだった。
そして階段の先からは、戦いの音が聞こえる。
非常事態か?!
と思ったオレは、一直線に走った。
一歩で十段は飛ぶ勢いで走った。
戦闘音の原因とは――。
父さんだった。
稽古でもつけているのだろう。
百人近い門下生らしき竜人を相手に、たったひとりで立ち回っていた。
拳や蹴りはもちろんのこと、気弾や閃光も、軽くいなし続けている。
一軒家ほどの大きさをした巨大な岩石を投げ込まれたが、右腕一本で受け止めた。
オレを見た父さんは、一軒家ほどの岩石を持ったまま、平然と言った。
「おお、我が息子レイン。ようやくきたか」
ティッシュを丸めてゴミ箱に捨てるような気安さで岩石を放り投げ、飛びかかってくる竜人にも微動だにせず叫ぶ。
「喝ッ!!」
その一声でドーム状の衝撃波が生まれ、飛びかかっていた竜人たちが吹き飛んでいく。
地面に敷き詰められた石畳も剥がれては舞いあがる。
父さんがいた地点で、核爆発でも起きたかのようだった。
「ん………!」
マリナが氷のバリアを張った。
厚さ五十センチ級の氷であったが、ビシビシとヒビ割れる。
そんなすさまじい喝なのに、父さんは平然としていた。
普通の人がヒヨコを握り締めるかのような手加減で、竜人たちを吹き飛ばしていた。
今日も父さんは、父さんをしているなぁ……。