規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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竜人幼女スケイル

「相変わらずにゃのぅ、レリクス」

「こちらこそ、よきリハビリとなりました」

 

 道場の奥から、ひとりの幼女が現れた。

 薄いピンクのかかった髪に、幼い体型。

 竜人を示す羽と尻尾に、二本のツノ。

 しかしその立ち振る舞いは、どこか『達人』を彷彿とさせる。

 油断ならない人だなぁ、と思って見ていると――。

 

 動いた。

 

 オレか父さんでなかったら、『消えた』かと錯覚するほどの超移動。

 オレはほとんど直感で、心臓の前に手のひらをやった。

 

 パシッ!

 竜人幼女の攻撃を、かろうじて防ぐ。

 幼女の動きは止まらない。

 拳を引くと足払い。オレのバランスが崩れたところで消える。

 こういうときのセオリーは――。

 

(背後かっ?!)

 

 その通りだった。

 無防備になったオレの背を目がけ、掌底が放たれる。

 オレは反射で振り返る。かろうじてガード。

 けれども、後方に飛ばされる。そんなオレの頭部を、逆立ちのような格好で掴む。

 

「ハアッ!」

 

 オレは全身から雷撃を発した。幼女の拘束をゆるませる。腕を掴んで一本背負い。

 幼女は素早く受け身を取ると、オレから離れた。

 

「初見でここまで防ぐとは……」

 

 そうつぶやいた幼女の頭上に、巨大な氷が落ちてくる。

 

「ふおおっ?!」

 

 ズゴオォンッ!!!

 隕石のようなそれは、隕石が落ちたかのようなクレーターを作った。

 

「レインを………、こうげき………した。」

 

 マリナは、軽くキレていた。

 しかしそんなマリナの怒りを、幼女はあっさりといなした。

 怒気の風の隙間をくぐり抜けるかのような動きで、マリナの背後に移動する。

 背中を指で、トン――と突ついた。

 

「わっちが本気であったなら、絶命していたところにゃのぅ」

「………。」

 

 マリナは、はた目にはなんの動揺もない無表情であった。

 でも付き合いの長い、オレにはわかる。

 かなり悔しがっている。

 さらに幼女は、ミーユたちをチラと見た。

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

「はにゃっ?!」

「ぜなあぁ!!」

 

 みな一様に、体の一部を突つかれたかのような反応を見せた。

 ちなみに『きゃっ!』と悲鳴をあげたのは、リンである。

 普段はクールぶってるが、咄嗟の悲鳴は女の子らしかった。

 

「今のは、わっちが本気を出していたなら突くことができていた『急所』じゃな。」

 

 確かにミーユらが押さえているのは、首筋や胸元だ。

 普通に攻撃を食らっていれば、致命傷でもおかしくはない。

 というかオレに対しても、幼女は視線をやってきている。

 もっともオレは、食らうことなく弾いているが。

 

「これは……確かに。

 レリクスが推薦するだけのことはあるのぅ」

「そろそろ、自己紹介をしていただけませんかね?」

 

 異世界につきものの【鑑定】スキルは使ってみてるが、特殊な力で弾かれてるのだ。

 まぁたぶん、里の長老とかだろうけど。

 

「ふむ……。そうじゃな。わっちの名はスケイル。竜人の里の、十六代目長老じゃ」

「そうでしたか」

「しかしこの身のこなしと対応力。凄まじき才能と修練のあとを感じるのじゃ……」

「我が息子ですからのぅ」

 

 父さんが、誇らしげに言った。

 まぁ鍛錬に関しては、小さいころから父さん相手にやっていたからね。

 こう見えて、鍛えている部類ではあるのだ。

 

「まぁしかし、話が通っているなら早い! 以前にわたしにしてくれた、潜在能力がプワァーっと開花するパーっというやつで、わたしのレイン少年たちを、ぺーっと強くしてやってくれ!」

 

(ぐいっ。)

 

 リリーナが言うと、マリナはオレの腕を組んだ。リリーナを見つめる。

 

「あっ、ああ。『わたしの』ではなかったな。キミであって、ミーユたちのでもある、みんなのレインだ」

(ん………。)

 

 満足したらしい。マリナは小さくうなずいた。

 でも組んだ腕は離さなかった。

 リリーナは、改めて言う。

 

「ではレイン少年たちを、ペーッと強くしてやってくれ!」

 

 長老のスケイルは言った。

 

「イヤじゃ」

「なにいぃーーーーーーー?!」

 

「そもそもわっちら竜人の民は、基本的に中立じゃ。

 ディアギルムは魔人族のことしか考えておらん粗暴なる男じゃが、魔人族のことは考えておる。

 すべてを滅ぼそうとした魔竜とは違う。

 弟子でもないやからに力を授けよといわれてものぅ」

 

「しかしディアギルムをほうっておけば、レリクスら純人族に、わたしたちエルフ。はては獣人族にも、多大なる被害が……」

「それを聞いてすら一方に加担せんのが、中立ということじゃ」

「むうぅ……」

 

「それにおヌシら、以前にわっちが才能を開花させてやろうとしたときも、まったく開花せんではなかったではないか」

 

「そっ、そのようなことはない! 少なくともわたしは、スケイル殿の『力』で力が大いに伸びたぞ!

 指をパチッと鳴らすだけでも、ヒールの魔法をかけれるようになった!!」

 

「おヌシ以外はどうなんじゃ?」

 

「いや……、それは……。レリクスはあなたの力ではどうにもならない存在であったし、死霊術師のネクロは自身もアンデッドと化していたがゆえ、あなたの聖なる力とは相性が悪かった。妖魔のゼフィロスは『他人の力で強くなることに興味はないのでねぇ。クトゥフフフ』と笑って断るだけであったし、古代兵器であったティルトは兵器がゆえに、『成長』という概念もなかったし……」

 

 散々であった。

 しかし父さんの理由が一番人間離れしている気がするのはどうしてだろう。

 

「フンッ」

 

 スケイルは、幼女らしくスネてしまった。

 

「怪しいぜな」

「ふわっ?!」

「アタシは詳しいんだぜな。こーいうことを言うヒトの十四割は、だいたいウソつきのヒキョー者なんだぜな。アタシは詳しいんだぜな」

 

 なかなか強気な発言であった。

 ただしカレンは、オレの後ろに隠れてる。

 オレを盾にして後ろに隠れ、顔だけ出して言っている。

 こういうところは小物と書いてカレンであった。

 

「なっなっなっ、なにを言うのかっ! よりにもよって、わっちがウソつきのボンクラじゃと?!」

「ボンクラはともかく、ウソつきなのは間違っていないと思うぜな(ジト目)」

「よっ、よかろう。そこまで言うなら、おヌシの潜在能力を引き出してやるわい」

 

「ほんとーぜなっ?!」

「わっちはウソはつかん。前にでてくるがよい」

「それは怖いからイヤだぜな……」

 

 カレンはすこし出していた頭を、引っ込めてしまった。

 

「それでわっちをヒキョーと言うのか……」

 

 スケイルは、ジト目でつぶやいた。

 

「まぁ、よい。せめて顔だけは出せ」

「わかったぜな!」

 

 カレンはオレの後ろに隠れたままで、頭だけを出した。

 近づいてきたスケイルが、カレンのひたいに指を当てる。

 

「む……。む。むむむ、む???」

 

「どーしたぜな?! 早くするぜなっ! 早くアタシの、秘められた力的なものを目覚めさせるぜなっ!」

 

 純粋に楽しみらしい。

 カレンは幼い子供のような、キラキラとした瞳で言っていた。

 

「いや……すまぬ。

 わっちが探せる範囲だとおヌシには、『秘められた力』が存在しておらぬ」

 

「ぜなあぁーーーーーーーーーーーーーー?!?!?!」

「本当にすまぬ……。

 これについては、言い訳せん。

 ボンクラのウソつきと言われても、言い返すことができぬ。

 本当にすまぬ……」

 

「真剣に謝られてしまうと本当に真実で、ショックがとても大きいぜなあぁーーーーーー!!!」

 

 カレンは泣いて逃げ去った。

 とてもショックを受けていた。

 そしてオレは思うのであった。

 

(大丈夫なんだろうか、この人)

 

 強いのは間違いないんだろうけど、強いだけなら父さんのほうが上だし。

 っていうかこういうのって、オレを圧倒できるぐらいに強いのが常識じゃないの……?

 師匠の人が強くないって、わりと前代未聞じゃない……?

 


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