規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
三カ月がすぎた。
オレの毎日と領地の経営は、順調であった。
リリーナのおかげでできたトイレは、なかなかに好評だ。
トイレがなければ、汚物の処理はどうしようもない。
だから柑橘類を浸した匂い水をかけて誤魔化すしかなかった。
その生活に、慣れるしかなかった。
しかしトイレで綺麗になれば、もはや臭いに耐え切れない。
トイレから離れたところに住んでいる人たちからも要望が沸いた。
オレはトイレを増築する。
プラシーボもあるのかもしれないが、疾病率は大幅に改善された。
村を歩けば色んな人から、感謝の言葉を投げかけられる。
それはなかなか心地いい。
夜の生活も順調だ。
風呂場でマリナとイチャついてると、ドアからノックの音がする。
「わたしだ……」
入ってくるのは、タオルで体を隠したリリーナ。
顔を真っ赤に火照らせて、もじもじと太ももをこすらせる。
「せっ……せっかくなので、その…………」
そんな風に入ってきては、体を洗いっこする。
背中から始まって、二の腕に脇の下を丁寧にこすり、おっぱいを揉み洗う。
リリーナの胸は小ぶりだが、小鳥のようにふかふかしていた。
マリナとはまたベクトルの違う、ほがらかな楽しみがある。
ふたりを洗い終わったあとは、オレが洗ってもらう番だ。
泡にまみれたマリナが前から、リリーナが後ろから、自身の体でオレの体を洗ってくれる。
「こっ……これで、よいのか? 少年……」
「最高に気持ちいいよ。リリーナ」
「そっ、そうか……」
リリーナは、頬を染めつつうなずいた。
「ん………。」
マリナがリリーナに対抗し、キスをしてくる。
舌も入れてくるような、甘くて熱いキスである。
そしてお風呂が終わったら、ベッドの中で本番だ。ふたりを並べてかわいがる。
しかしながらリリーナは、行為が終わると服を着る。
「きょきょ、今日の手前も、なかなかのものであったな」
「今日も帰っちゃうんだ」
「わわわわ、わたしがキミとしてるのは、とてもクールで凛々しいわたしの、欲求不満を消すためだ。ゆえにケジメの一環として、共に眠るわけにはいかん」
わけがわからない。
健康は大切だから、病気になる前に自殺します! と言われたかのようだ。
「というかこの年の差でいっしょに眠ることまでしたら、はははは、恥ずかしいではないかぁ……」
基準がかなり謎だった。
これはエルフがおかしいのか。リリーナがおかしいのか。
後者だろうなと、オレは思った。
しかし頬を染めている姿は、それなりにかわいい。
そんなある日のことだった。
リリーナが、朝食の席で言う。
「と……時に、レリクス」
「なんじゃ? リリーナ」
「わたしはそろそろ、学園に戻ろうかと思う」
「学園?」
「魔竜を殺した功績を買われたわたしは、レイボルト魔法学園のゲスト講師もやっているのだ」
「この国で、一番大きなところじゃの」
「定期的に顔をだし、治癒や補助の魔法を教えてやるぐらいだが、愛らしい少年がたくさんいて心の保養に…………ではなくて、未来を作っている実感が沸いてくる、とてもやりがいのある仕事だ」
リリーナは、ワイングラスで水を飲んでつぶやく。
「わたしの治癒魔法のおかげで空を見れるようになった盲目の少女や、歩けるようになった少年の話などを聞くと、心の底からほっこりとする」
リリーナの横顔は、温かな誇りに満ちていた。
そんなリリーナを見ていると、オレの気持ちもほっこりとする。
「そしてここからが本題なのだが――」
リリーナは父さんの目を見つめ、まっすぐに言った。
「レイン少年とマリナ嬢を、レイボルトに連れて行きたい」
「ふむ……」
「三ヶ月近く接していてわかったが、レイン少年の知識と器と発想力は、独特で優秀だ。
辺境の地で一生を終わらせるには、あまりにも惜しい。
マリナ嬢も、その魔法の才はなかなかのものだ」
「…………」
「もちろんあなたのように、権力に利用されることを嫌って隠居するのも悪いとは言わない。
しかし実際に体験してみて隠居するのと、体験もせずに隠居するのとでは、違ってくるとわたしは思う」
「確かにそれは、一理あるのぅ」
父さんは、言葉ではうなずいた。
しかし発する雰囲気は、重々しくて息苦しい。
リリーナに
だがリリーナも、不純な気持ちで言ったわけではないらしい。
父さんの眼光を、まっすぐに見つめてる。
その雰囲気は、三国を滅ぼしかねない魔竜を倒した英雄のそれであった。
「ふたりは、どう思うのじゃ?」
「わたしは………。」
マリナは、じっと目を伏せ、マリナにしては長いためらいの末に言った。
「あなたに、従う。」
オレはリリーナに尋ねた。
「学園では、どんなことやるんですか?」
「歴史などの教養から始まって、実技の練習。ダンジョンなどの探索がおこなわれているな」
「へえぇ……」
心が躍った。
今の生活に不満はない。
でもそれはそれとして、ダンジョンの探索とかは心が躍る。ワクワクとする。
せっかく異世界にきたのだから、冒険のひとつはしてみたい。
領地のためという意味においても、学園は有効だろう。
学ぶことはもちろん、人脈を広げることもプラスだ。
村の人が病気した時にリリーナをすぐに呼べるとは限らない。
治癒魔法士がウチの土地に住んでいれば最高だ。
土魔法を使える人がいれば、トイレの設立は今よりもっと簡単にいった。
学園に行けば、そういう繋がりもできるかもしれない。
単純に行きたいし、行くべきとも思う。
ただ問題は――。
「オレがいなくなったら、父さんはさびしいですよね……?」
「それはその通りじゃが、ワシのためにおヌシがガマンするようなことになったら、そっちのほうが辛いのぅ」
「その学園がある街って、ここから何日ぐらいかかります?」
「安全な陸路を通っていくなら二〇日前後。多少危険でもよいなら一〇日前後だな」
「けっこう、かかりますね……」
「一度入ったら、卒業か退学までは、ほとんど帰れんと思ってくれ」
「ちょっと考えさせてもらってもいいですか?」
「それは当然の権利だな」
リリーナは、うなずいた。
◆
いつもの裏庭。
マリナとふたり切りになったオレは尋ねた。
「それでどうなの? 本音を言うとさ」
「え………?」
「明らかに遠慮して迷ってたじゃん。さっきの答え」
マリナは問いに答える代わりに、オレの唇にキスをしてきた。
「わたしが一番いたいのは、あなたの隣。」
オレはマリナを抱き返し、頭と背中を撫でた。
「いっしょにいるのは前提だけど、それはそれとしてどうなの?」
「行って………みたい。」
か細い声でつぶやいたマリナは、ぽつぽつと語りだす。
「地球にいたとき。」、「あなたに助けられたわたしは。」、「学校、行った。」
「みんな、楽しそう………だった。」、「わたしはとても、さびしかった。」
「あなたがいなくてさびしかった。」、「あなたがいたら毎日楽しいと思ったけど、」
「あなたがいなくてさびしかった。」、「毎日毎晩、」、「さびしかった。」
「学校、さびしかった。」
「………さびしかった。」
マリナの声は徐々に震えて、最後は泣きそうになっていた。
「だからさびしかった分、オレといっしょに学校通ってみたいわけか」
「うん………。」
マリナは、静かにうなずいた。
これは決まりだな。
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