規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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レイン十四歳。転移魔法を覚える

 マリナに話を聞いたところ、マリナも学園に行きたいらしい。

 こうなると、心はますます学園に傾く。

 

 ただすぐに帰れないってのは困る。

 そもそも動機の半分ぐらいは、領地経営のためなのだ。

 それが領地になにかあった時、どうしようもないのでは困る。

 オレは目線を木に移す。

 

「ハアッ!」

 

 気合いを込めて斬撃一閃。

 一本の木を切り落とし、アイテムボックスを使用する。

 次元の裂け目のような穴が、丸太を吸った。

 

 すこし移動し、アイテムボックスを使用する。

 次元の裂け目のような穴から、丸太がでてきて地面に落ちた。

 

「なるほど……」

 

 オレは再び使用して、次元の穴に丸太を吸わせた。

 今度は意識を集中させる。

 

(五メートルぐらい、離れた場所に……!)

 

 五メートルほど離れた位置に、次元の穴が現れた。

 丸太がでてきてどさりと落ちる。

 マリナが小さく小首をかしげる。

 

「………?」

「転移魔法の研究」

「………??」

 

「一度異空間みたいなところにアイテムをしまってから、別のところにだす魔法でしょ?

 アイテムボックスってさ」

「うん。」

 

「だったらだす範囲を伸ばすことで、運送魔法や転移魔法にもなるんじゃいかなって思ってさ」

 

 オレは再び丸太をしまい、八メートル離れたところにだしてみた。

 ずずずずず。

 丸太はしっかり、でてくれた。

 ステータスを見て、消費した魔力をチェックする。

 

 

 レベル 13240

 

 HP  136840/136840

 MP   91094/92294

 筋力   126560

 耐久   114770

 敏捷   118220

 魔力   123221

 

 

 1200近くも、MPを消費していた。

 普通の人は0であり、見習いの魔術士なら50。

 一人前と言われるクラスで、400前後が相場だ。

 軽い実験で1200というのは、相当な消費量である。

 

 

 だけどオレには関係ない。

 

 

 一度近づき丸太を吸って、後ろに下がって距離を取る。

 今度の狙いは、十五メートル離れた位置だ。

 

 ずずずずず。

 丸太がでてきた。

 消費量もチェックする。

 

 消費した量は、およそ700程度であった。

 八メートル先にだした時より、ちょっとだけ多い。

 

 それでも見える範囲のとこなら、わりとなんとかなるらしい。

 それならば、見えないところだとどうか。

 

 オレは目標に背を向けて、目を閉じた。

 つい先刻まで見ていた場所に、丸太がでていく姿をイメージする。

 

 ずずずずず……どしん。

 丸太はしっかり、転移されてた。

 

「いい感じだな」

「うん。」

 

 それなら次は、いつも食事を食べている部屋にでも転移させてみるとしよう。

 丸太はちょっと大きすぎるので、赤い木の実でテストをしてみる。

 

 アイテムボックスにしまい、つい先刻の食堂をイメージする。

 ただちょっと、難しい。

 いつも食事をしている食堂とはいえ、実際にイメージをしろってなるとおぼろげだ。

 

 それでも一応、覚えている範囲でイメージをする。

 覚えている範囲の部屋に、時空の裂け目のような穴があいて、赤い木の実が落ちる光景。

 けど――。

 

「無理か……」

 

 時空の穴を繋げてみるようなイメージが、うまく沸いてくれなかった。

 一〇メートルとか先でいいなら、見えないパイプで繋げるイメージでいける。

 しかし見えないところになると、どうやったら繋がってくれるのかがイメージしにくい。

 

「そこさえなんとかできればなー……」

「なにをやっているのだ? 少年」

「リリーナさんこそ、どうしたんです?」

「じ……自室で紅茶を嗜んでいたら、強い魔力を感じたのでな……」

 

 リリーナは、ちょっと照れながら言った。

 

「で、キミはなにをやろうとしていたのだ?」

「転移魔法を使えないかな、と思いました」

 

「転移魔法だとっ?!」

「そんなすごかったり、するんですか……?」

 

「文献として残されてはいる。

 実用を度外視すれば、成功例もなくはない。

 しかし実用レベルで――となると、伝説級の魔法だぞ?!」

 

「でも先生は、召喚魔法とか使ってますよね? アレって転移じゃないんですか?」

 

 教えを乞う状況になっているので、先生と呼んで尋ねた。

 

「それはだな……」

 

 先生は、懐からリボンをだした。オレに渡す。

 

「これの片方を持ってみろ」

「はい」

 

 オレが持ったら、ぐいっと引っ張る。

 

「うわっ!」

 

 先生は、よろけたオレを抱きしめた。

 エルフ独特の、甘くてふんわりとした香りが鼻孔をくすぐる。

 

「やはり……。うら若き少年はよいな…………」

「先生っ?!」

「はぐっ!」

 

 怪しいことを言っていたショタコンさんが、オレから離れた。

 

「ととととっ、とにかくそういうわけなのだ。

 召喚術は、特定の魔獣とリンクを結び、魔力の線で無理やり引っ張る。

 ゆえに細かいイメージが浮かばなくとも、召喚することができるのだ」

 

「送り返す時はどうするんですか?」

「魔獣には、帰巣本能を持っている者がいる。

 元々住んでいた場所であれば、帰巣本能で帰ることができる。

 逆に言うと、その本能を持っていない魔獣は、召喚獣にすることができん」

 

「なるほど……」

「その本能も、時間がかかると働かなくなる。

 召喚時間に三時間や四時間といった限界があるのも、そういうことだ。

 たったそれだけの時間で、帰還が難しくなってしまうのだ」

 

「うーん……」

「そういうわけであるがゆえ、人や物質を遠くへ送る転移魔法は、不可能と言っていいほどに難しいのだ」

 

「でもそのへんも、転移する自分をイメージできれば、なんとかなる可能性があるんですよね?」

「確かに、理屈ではその通りだが…………できるのか?」

「それは……」

 

 確かに厳しい。

 木の実を転移させようとした時もそうだけど、〈転移先の光景をイメージする〉ってのが厳しい。

 

 そこのイメージが沸かないと、すごいあやふやになる。

 でも、待てよ。

 

「そういうことなら、イメージする景色の分量を減らせば……」

 

 オレとマリナは作業を始めた。

 木を切って削り、釘やハンマーでトンテンカンと作業する。

 

「できた……!」

「………♪」

 

 目当ての道具が完成だ。

 ピンク色のドアである。

 日本生まれのジャパン人が見たのなら、どこにでも行ける気がするドアだ。

 

「これは……どういうことなのだ?」

「ドアです」

「どあ……?」

 

「特定のエリアに、人や物体が転移する光景をイメージするのは大変です。

 それなら特定の空間全体じゃなくって、特定の空間に繋がっている、入り口だけ(・・)をイメージすれば――と思いまして」

 

「いや……しかし、理屈では、そうかもしれないが…………」

 

 長生きしているせいだろう。

 先生は、『空間転移は難しい』という先入観を捨て切れないでいた。

 

 でもオレに、そこまでの意識はない。

 むしろこのドアを使ったら、どこにでも行ける気しかしない。

 

 オレはドアをがちゃりとあけた。

 びっくりするほど簡単に、食堂に繋がった。

 

「はぐ……、う……、あ……?」

 

 先生は庭で口をパクパクと、酸欠の金魚みたいに動かしていた。

 一方のマリナは、とても普通についてきていた。

 

「簡単にできたな」

「うん。」

「この調子なら、ほかのところにも行けるかもな」

 

 オレは一度ドアを閉め、戦闘の訓練をよくする荒野をイメージした。

 

 ドアをあける。

 イメージ通り、ドアは荒野に繋がった。

 

 オレやマリナの魔法のせいで生まれた、大きなクレーターや地面の焦げ跡もそのままである。

 地を踏み締めた時の触感も、土の匂いも荒野のものだ。

 

「せっかくきたし、やってくか?」

「………うん。」

 

 マリナは地面に膝をつき、オレのズボンをおろそうとした。

 

「そっちじゃないよ?!」

「え………?」

 

「オレがやろうって言ったのは、戦いとか魔法とかの訓練!!」

「………。」

 

 マリナの頬に赤みが差した。

 間違えてしまった恥じらいと、それはそれとして『したい』と思う気持ちが表れている。

 

「いや、まぁ…………いいけど」

「ん………♪」

 

 マリナはたっぷりしてくれた。

 すこし前まで外は恥ずかしいとか言っていたのに、今や外でも積極的だ。

 

 やらしい行為と、バトルと魔法の訓練が終わった。

 クレーターにまみれた荒野に、また新しいクレーターができた。

 

 オレはドアノブに手をかける。

 きゅっ………。マリナが裾を引っ張ってきた。

 無表情の顔で、オレのことを、じ………。とみている。

 

「ええっと……」

「汗………かいた。」

 

 オレは無言でドアをあけた。

 自宅の脱衣所が、目の前にあった。

 

「………。」

 

 マリナは無言で頬を染め、脱衣所の中に入っていった。

 お風呂場で汗を流して、たっぷりと楽しんだ。

 

 その次にオレは、魔法学園とやらに行ってみようと思った。

 だがしかし、ドアが開いてはくれなかった。

 王都にも行ってみようとしたが、やはりというか、無理だった。

 

 一方で、村の入り口や、以前に海水を取りにいった砂浜には行けた。

 波の音と海の風を浴びて、オレは軽く伸びをする。

 

「さすがのドア様とは言っても、行ったことのない場所にはいけないみたいだね」

「わたしも、そう思………くちゅんっ!」

 

「寒かった?」

「すこし。」

「お風呂あがりだと、潮風は冷たいか」

「うん。」

 

 マリナはうなずく。

 いまだしっとり濡れている姿は、そこはかとなく色っぽい。

 

「じゃあ、いつもの寝室」

 

 イメージしながらドアに入ると、いつもの寝室になった。

 

「すごいなぁ、これ」

(きゅっ………。)

 

 オレがつぶやくと、マリナが服の裾を引っ張ってきた。

 オレとベッドを交互に見やる。

 

「せっかくだから、したいって?」

「うん。」

 

 うなずいたマリナは、淡々と言った。

 

「わたしの中でこの部屋は、あなたにされるための空間。」

 

 そう言って、マリナはオレにキスをしてきた。

 

「今のわたしは、パブロフのわんこ。」

 

 つぶやいたマリナは、ぽうっとほっぺを赤くする。

 

「好き好き病の………パブロフ、わんこ。」

「荒野や風呂場で、したばっかなのに」

「ノーカウント………。」

 

 まったく、仕方ない子だ。

 オレはやれやれと言いながら、要望通りにかわいがった。

 

 楽しみが終わった。

 ハンマーなどを片づけ忘れていたことを思いだし、ドアを使って裏庭に戻る。

 

「はぐうぅ……」

 

 先生がいた。

 隅のほうでしゃがみ込み、地面にいじいじと魔法陣を描いていじけた。

 

「助言をしても無視されるのでは、した意味がないではないかぁ……。少年の、ばかあぁ……」

 

 エルフさん、四捨五入して三〇〇歳。

 十四歳児に助言を無視されていじける。

 

 パッと見るととてもひどいが、よくよく見るとすごくひどい。

 ジュラ紀だったら恐竜が死んでる。

 

「あの……先生」

「はぐ……?」

「先生のアドバイスがなかったら、ドアを作るって発想はなかったと思いますよ……?」

(パアアアッ……!)

 

 先生は、にわかに顔を輝かす。

 

「フハハハハ、そっ、そうか。

 クールで凛々しいわたしのおかげで、すごい魔法を使えるようになったのか。

 フハハハハ、ハハ、ハ」

 

 その笑声は、カラ元気に近かった。

 それでも一応、元気は元気。

 よかったということにしておこう。

 

 不意にそよ風が吹いた。

 オレやマリナの背中や首筋を撫でて、リリーナ先生の髪を撫でる。

 

「はぐ……?」

 

 先生が、頬を赤くし鼻を摘まんだ。

 オレとマリナを交互に見やる。

 かわいいエルフの耳だけが、ぴこぴこと動いた。

 

「どうかしましたか? 先生」

「キミとマリナから、いやらしいにおいがしてきたのだが……」

「ぽ………。」

 

 オレが説明するより早く、マリナが腕に抱きついてきた。

 体をぴたりと密着させて、顔をすりすりこすらせる。

 

「まぁ、そういうことです」

「うぐうぅ……!」

 

 欲求不満の(リリ)ショタコン(ーナ)エルフさん(先生)の顔が、みるみるウチに赤くなる。

 オレは先生の手首を掴んで、にやりと笑った。

 

「そういうことなら、しましょうか」

「うぐっ?!」

 

 オレは先生の手を引いた。

 ドアをあけて寝室に繋ぎ、ベッドの上に押し倒す。

 

「ままままっ、待つのだ! 少年!

 このような明るい時分からこのようなことをするのは、常識と良識から言って――――」

 

 なんかいろいろ暴れていたけど、構わずにエロいことした。

 魔力は強い先生だけど、筋力は人並みだ。

 押さえ込めば簡単にできる。

 行為自体がイヤって言うならすぐにでもやめたけど、そういうわけじゃなかったしね。


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