規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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レイン十四歳。盗賊を倒す。

「ひあああ!」

 

 男は両の手をあげ、ヘタクソな演技で怯える。

 

「あっしはただの、しがない狩人でございます。

 単純に、鳥や野兎を狙っていたでございます」

 

「そうだったのか」

 

 オレは騙された振りをして、剣をおろした。

 

「へい、へい。おっしゃる通りでございます」

 

 男は揉み手をしながら、オレのほうに寄ってきた。

 

「それにしても、おぼっちゃま。

 潜んでいるあっしらをご発見なさるとは、凄まじい才能でございますなぁ」

 

「名のある英雄に師事していたからな」

「さようでございますか。そいつはすごい。と――油断させといてっ!」

 

 男は、隠し持っていたナイフを振りあげてきた。

 オレは素早くバックステップを踏んだ。

 剣を抜き打ち斬撃一閃。男のナイフを根本から飛ばす。

 

 男はナイフを切られたことにも気づかずに、自身の右手を振りおろす。

 スカッと外れる音がして、数秒。

 

「なっ……?!」

 

 男がナイフに気付いたところで、オレは男の腹を打った。

 男の体が、どうっと倒れる。

 それが合図となった。

 

「野郎!」

「半殺しにしろ!」

 

 草むらの陰から、弓矢を構えたやつらがでてくる。

 そういう態度を取られると、こっちとしても楽である。

 

「ライトニングファイアッ!」

 

 オレの手から、炎のように赤いイナズマが走った。

 

「「「ぎゃあああああああああああああっ!」」」

 

 盗賊たちに、炎の熱と電撃が同時に走る。

 残ったやつらが矢を発するが、ファイアーボールで撃ち落とす。

 

「アレだ! アレを起動しろおぉ!」

「「「おおっ!!」」」

 

 盗賊たちの声が響くと、地震が起きた。

 地面がゆれて地響きが鳴り、とある一ヵ所が盛りあがる。

 そして現れたのは、土で作られたドラゴン。

 鑑定を使うと、こうなった。

 

 

 名前 ゴーレムドラゴン

 レベル 1580

 

 HP  20120/20120

 MP    0/0

 筋力  20540

 耐久  20540

 敏捷   5200

 魔力    0

 

 

 一介の盗賊が使うとも思えない、なかなかのモンスターだ。

 なにせ盗賊は、こんな感じだ。

 

 

 名前 ボッツ

 職業 盗賊

 レベル 23

 

 HP   161/161

 MP    0/0

 筋力    92

 耐久   88

 敏捷   115

 魔力    0

 

 

「おらぁ! 行けっ! 行けえぇ!」

〈Giiiiiii!!〉

 

 ゴーレムドラゴンが声をあげ、アシッドブレスを吐いてきた。

 オレはサイドステップで回避する。

 

 地面が紫に変色し、わずかにかすった草も枯れた。

 直撃したら、ヤバそうだ。

 が――。

 

「アブソリュート………ゼロ。」

 

 マリナが呪文を唱えると、一瞬で氷漬けになった。

 オレや父さんほどではないが、マリナも相当チートな子である。

 

「魔法剣――サンダーソード!」

 

 オレは地を蹴り、鋭く跳ねた。斬撃一閃。

 ゴーレムドラゴンの首を、氷ごと飛ばす。

 

 マリナの氷がどろりと溶ける。

 ドラゴンは、泥の塊になった。

 

「うっ……うわあああ!」

「逃げろおぉ!」

「退却! 退却だあぁ!」

「置いてかないでくれえぇ!」

 

 盗賊たちが驚愕し、仲間を置いて逃げようとした。

 

「ライトニング!」

「アイス………ニードル。」

 

 オレとマリナが魔法を放ち、盗賊の足を負傷させた。

 余計な抵抗をできないように、荒縄で縛る。

 

「いやはや、さすがだな」

 

 先生がつぶやく。

 なにかあった時の備えであろう。右手には、回復魔法が準備されてた。

 もしもオレが負傷しても、一瞬で治ったに違いない。

 先生はそれを消し、盗賊に近寄る。

 

「ゆっ……許してくれぇ! ほんの、ほんの出来心――――ぐぎゃあ!!」

 

 バギリと嫌な音が鳴る。

 先生が、盗賊の右足の親指を踏んだのだ。

 

「くだらん御託を聞く気はない。アジトの位置をすべて吐け」

「いっ……言えば、見逃してくれるのか……?」

 

「慈悲でよければ、くれてやろう」

「わっ、わかった! 言う!

 ここから二〇〇メール離れたところに、地下室が掘ってある!

 奪った宝もほかのやつらも、その中だ!」

 

「合言葉などはあるか?」

「ハリス・パルス・バルスだ!」

 

「そうか」

「こっ……これで、見逃してくれるんだよなぁ…………」

 

 盗賊が、下卑た笑みを口元に浮かべた。

 が――。

 

「ぎゃああああああああああああああ!!!」

 

 

 先生は、盗賊の足にナイフを刺した!

 

 

「これで貴様は、しばらく動けん。

 わたしたちがアジトを潰してくるまでのあいだ、黙って罪を悔いていろ。

 その後、騎士団に引き渡してやる」

 

「見逃してくれるんじゃなかったのか?!」

「盗賊行為は法律上、その場で処断されても文句は言えん。

 それが騎士団に引き渡すだけでおしまいなのだ。慈悲と言わずなんと言う?」

「それは……」

 

「しかも襲撃は未遂だ。

 前科があれば罪人奴隷として、死よりも恐ろしい魔術や薬剤の実験台になるかもしれん。

 しかし前科がないのなら、ムチ打ちと労役で済む。

 十分、慈悲と言えるだろう」

 

「ひぎいぃ、ぎいいっ…………!」

 

 どうやら前科があるらしい。盗賊の顔が、絶望に染まった。

 前科があるなら、ますます自業自得だな。

 御者の人に万が一のための剣を渡し、アジトへと向かった。


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