規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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レイン六歳。魔法を覚える。

 六年がすぎた。

 オレは裏庭で父さんといっしょに、剣の素振りをしていた。

 

「フンッ!」

「フンッ!」

 

「んっ!」

「んっ!」

 

「ハアッ!」

「ハアッ!」

 

「はっ!」

「はっ!」

 

 上半身を脱いでいる父さんの体には、隆々とした筋肉といくつもの傷跡がついていた。

 元は有名な魔法剣士だったらしく、功を立てたご褒美として領地を賜ったらしい。

 今は老いと戦いで負った無数の傷のダメージのせいで、力はかなり落ちている。

 

 でもこの父さん、いろいろとおかしい。

 異世界のお約束として備わっていた鑑定スキルでステータスを見た瞬間、死ぬかと思ったりした。

 具体的に言うとこんな感じだ。

 

 

 レベル 48200

 

 HP  530000/530000

 MP  397500/397500

 筋力  463750

 耐久  430625

 敏捷  450500

 魔力  457125

 

 

 なにこれ?! 人間?!

 

 道を歩いていたら、魔王とエンカウントしたかのような気分だよ!!

 実際は父さんで味方なんだけど、明らかにステータスおかしいよ!!

 

 しかもこれ、引退している人だからね?!

 戦いはやめて、田舎でのんびり暮らすこと考えている人だからね?!

 

 それでも父で恩人だ。

 剣の稽古をつけてくれるのもありがたい。

 

「さぁ、こい、レイン!」

「はいっ!」

 

 オレは木剣を握りしめ、父さんに打ちかかる。

 二連続で振りおろし、足を引いて薙ぎ払い。ピュウッと鋭い音が鳴る。父さんは、半歩さがって剣をかわした。

 

 しかし腹部に、木剣の跡が走る。

 父さんが、感嘆の声を漏らした。

 

「むうっ……!」

 

 それからしばらく、オレは父さんと訓練を続けた。

 

「お食事ができました」

「すまないな、メイ」

「職務ですので」

 

 メイと呼ばれたメイドさんは、紅茶とサンドイッチを縁側におろした。

 オレと父さんは並んで座り、朝の食事をその場で取った。

 

「しかしわたしに一太刀を入れるとはな。すごいぞ、レイン」

 

 父さんはうれしそうに目を細め、オレの頭をやさしく撫でた。

 オレもとってもうれしくなって、自然と両目が細まった。今の父さんと同じような顔をしているような気がした。

 

 前の世界でのオレの父母は、ハッキリ言ってクズだった。

 殴られたことは何度もあるが、撫でられたことは一度もない。

 それだけに、この父さんの手のひらは温かい。

 生まれて初めて愛されたかのような実感を受ける。

 

「それではそろそろ、魔法を教えてやるとしようか」

「魔法、ですか」

「ワシが使えるのは、そう大した魔法ではないがな」

「レリクス様で大したことがないと言ったら、この世界から魔術士はいなくなってしまうかと」

「若いころであればともかく、今のワシではのぅ」

 

 父さんは、右手を前に突きだした。

 

 

 どごぉんっ!!

 

 

 すさまじい勢いの火球が、父さんの手から飛びだした。

 暴君のごときそれは、およそ二〇メートル近い距離にある木々を消し炭にして消えた。

 

 魔法を知らないオレから見ても、すさまじすぎる破壊力。

 メイドのメイさんも、唖然と口を開いてる。

 それなのに、父さんは言った。

 

 

「見ての通りじゃ…………」

 

 

 もうガチで、しょんぼりとしている顔だった。

 

 

「無詠唱魔法でこの威力をだしておいて、なにが『見ての通り』なのでしょうか……」

「しかし若いころには、あの山までは届いていたからのう」

 

 メイさんは、渋い顔でため息をついた。

 人のいい父さんだけど、ちょっとばかり常識がなかった。

 

「まぁ、レインに教える分には十分じゃろう」

「十分どころか、世界も滅ぼせてしまう気がします」

「冗談がうまいのぅ」

 

 オレは本気で言ったのに、父さんは笑った。

 ゆっくりと立ちあがる。

 

「まずは透明なリンゴを持っているようなイメージで、両の手を向い合わせてかざすのじゃ」

「はい」

「次に、体内を巡る魔力を両手に集める。ここでものを言うのは、一にも二にもイメージじゃ」

 

 言われるままにイメージを作った。両の手が、じんわり温かくなってくる。

 

「あとはひたすら、魔力を集中させてれば――」

 

 オレの手と手のあいだに、黄金色のイカヅチが走る!!

 

「おお……!」

 

 オレは感動に打ち震えながら、森に向かって言ってみた。

 

「ライトニング!!」

 

 イカヅチは、鋭角に突き進む。生えていた木にバリリと当たり、一瞬で炎上させた。

 父さんが、目を丸くして言った。

 

「まさか一発目から、成功させるとはのぅ……」

「しかも使いこなすのが非常に難しいと言われる、(らい)属性……」

「すごいんですか?」

 

「うまく練れるようになるのに半年。

 風なり炎なりをだせるようになるまで一年。

 効果のある魔法として放てるようになるまでは二年はかかる。

 よっぽどの才能がある者であろうとも、半年はかかると言われておるのじゃが…………」

 

「末恐ろしいですね……」

 

 メイさんも、そんな風に言っていた。

 

 

 血は繋がっていないとはいえ、オレも父さんの息子…………ということか。


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