規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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レイン十四歳。奴隷といっしょに食事する。

 カレンを奴隷にしたオレは、いろいろなアイテムをもらった。

 しつけ用のムチや、繋いでおく用のクサリだ。

 特にクサリは、魔力を込めれば電流めいた痛みを流せるらしい。

 

「ムチの使用は任意ですが、クサリはつけておくようお願いします」

「地味にハードだな」

「なにせ罪人(・・)奴隷ですからね。見せしめの意味もあります」

「なるほどな」

 

 カレンはけして、悪人ではない。

 法律がないという野生のルールを、人間社会に持ち込んでしまっていただけの女の子だ。

 

 しかし今後は、人間社会で生きてもらうことになる。

 人間のルールに、従ってもらわないといけない。

 カレンの首にクサリを繋いだ。

 

 背後から、不意にキュウゥっと音が鳴る。

 マリナであった。

 

 マリナのおなかが、キュウゥっと鳴ってた。

 マリナは耳まで赤くして、自身の腹部を腕で押さえた。

 

「おなか………。すいた………。」

「そっか」

 

 オレは和やかな気持ちで、食事に行くことを提案した。

 

  ◆

 

 オレたちが向かったのは、そこそこ洒落たレストランだった。

 開放的な空間で、清潔感もかなりある。

 貴族ご用達の店なのか、きている客は身なりがよかった。

 

「四名だ」

 

 リリーナが店員さんに言った。

 店員さんは、オレたち全体をチラと見つめる。

 

「かしこまりました」

 

 含んだようにうなずいて、オレたちを案内する。

 椅子がみっつ(・・・)しかないテーブルの横に、手慣れた手つきでシーツを敷いた。

 

「それでは、ご注文がお決まりになりましたらこちらのベルを」

 

 頭をさげて去っていく。

 これはいったいどういうことか。察したオレは問いかける。

 

「カレンの席って、その床であったりします?」

「奴隷だからな」

 

 そういうことなら仕方ない。

 オレは椅子に座った。

 マリナとリリーナも椅子に座って、カレンひとりは床である。

 

「ぜなあぁ……」

 

 カレンは涙目になっていたが、罪人奴隷だから仕方ない。

 普通の奴隷なら考えるところだが、しばらくのあいだは、罰も必要だろう。

 

 まぁ食べるものについては、それなりにいいものをあげよう。

 オレはメニューを、パラりと開いた。

 おいしそうな料理の絵たちが目に入る。

 

「好きなものとかあるか?」

「お肉が好き……ぜな」

 

 カレンは、うなだれながらも答えた。

 

「そうか」

 

 オレは自分用にステーキを頼み、カレン用にミートステーキという名のハンバーグを注文してやった。

 奴隷用のメニューの中では、一番高価なやつである。

 

 しかしメニューにも奴隷用ってのがあるあたり、完全に根付いてるんだな、奴隷文化。

 

 料理が運ばれてきた。

 オレにはステーキで、マリナはフルーツサンド。

 リリーナは木の実と山菜をメインにしたスウィーツサラダだ。

 そしてカレンのところにやってきたハンバーグは……。

 

 

 犬用の皿に入れられていた。

 

 

 スプーンがなければフォークもない。ただ皿があるだけである。

 

「ぜなっ……?!」

 

 戸惑うカレンは周囲を見渡す。

 ほかの奴隷の姿を見つけ、愕然とする。

 

 

 ほかの奴隷も、四つん這いで食べていたからだ。

 

 

「ぜなあぁ…………!」

 

 カレンはためらっていたが、お肉の魅力には勝てなかったらしい。

 

「んぐっ、んぐっ、んぐっ…………」

 

 犬みたいな四つん這いで、ハンバーグを食べる。

 ちょっと可哀そうになる景色だが、犯罪者なのだから仕方ない。

 犯罪者でなければ椅子に座らせているが、犯罪者なのだから仕方ない。

 

 しかし悲痛だったのは、最初のほうだけであった。

 食べ始めてから二分も経つと、カレンの体はご機嫌そうにふりふりゆられた。

 スカートに包まれたお尻がかわいい。

 

「おいしかったか?」

「今まで食べてきたお肉の中で、いちばんの味だったぜな……」

 

 陰鬱につぶやいたカレンは、その場で頭を抱えてうずくまった。

 

「奴隷用のお肉が一番おいしいって、今までのアタシはなんだったぜなあぁ~~~~~」

 

 地球でも、金持ちの犬の食事は本当に豪華だ。

 オレよりいいものを食べている犬もたくさんいた。

 今のカレンは、そんな現実を突きつけられた時のオレと似ていた。

 

「まぁとりあえず、口は拭けよ」

 

 オレは白いフキンを取った。

 カレンの口元を拭いてやる。

 

「ぜなっ……」

 

 カレンはキスされているかのように頬を染め、瞳も静かに閉じていた。

 

「………レイン。」

「なに?」

 

 振り返るのと同時、マリナが指をオレのほっぺたにつけた。

 

「ほっぺたに、ソース。」

「つけたのマリナだよね?!」

「ふきふきしたい。」

 

 オレのツッコミをスルーして、マリナはフキンを用意していた。

 

 仕方ない。

 オレは黙って顔を差しだす。

 

 ふき……。ふき……。ふき。

 マリナは時間の流れを遅らせるかのように、ゆったりとした手つきで拭いた。

 

 マリナの整った顔立ちを、至近距離で見つめることになる。

 細長いまつ毛とか、桜色の唇とか、見ているだけでドキドキしてくる。

 

 顔も熱くなってくる。

 マリナも同様だったのか、顔を上気させてきた。

 

「どっ……どうして赤くなるんだよ」

「あなたがとてもかっこよくって、また好き好きに、なったから………。」

 

 かわいい。

 

  ◆

 

 そんな生活をしてると、試験の日がやってきた。

 

「わたしはちょっと私用があるから、一足先に行ってくる。

 キミたちは、八つ鐘の時間あたりで学園に向かうといい」

 

「カレンは大丈夫ですか?」

「首輪とクサリをつけているなら、一向に構わんよ」

「そういう感じらしいけど、どうする?」

 

 オレがクサリを鳴らして言うと、カレンは答えた。

 

「離れるほうが、いやだぜな……」

「そっか」

「ぜな……」

 

 カレンは目を伏せうなずいた。

 オレのことが好きなわけじゃないが、嫌いでもない。

 だからひとりぼっちはイヤ。

 ここ数日で、そのぐらいの好感度にはなっていた。

 

「それと前にも言ったと思うが、学園の生徒は貴族も平民も平等――ということに(・・・・・・)なっている(・・・・・)。キミの家の爵位は低いほうだが、一応気をつけてくれ」

「はい」

 

 オレは素直にうなずいた。

 この発言は要するに、『相手がルールを守ってくれることを期待してはいけないが、こちらがルールを破ってもいけない』ということである。


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