規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
カレンを奴隷にしたオレは、いろいろなアイテムをもらった。
しつけ用のムチや、繋いでおく用のクサリだ。
特にクサリは、魔力を込めれば電流めいた痛みを流せるらしい。
「ムチの使用は任意ですが、クサリはつけておくようお願いします」
「地味にハードだな」
「なにせ
「なるほどな」
カレンはけして、悪人ではない。
法律がないという野生のルールを、人間社会に持ち込んでしまっていただけの女の子だ。
しかし今後は、人間社会で生きてもらうことになる。
人間のルールに、従ってもらわないといけない。
カレンの首にクサリを繋いだ。
背後から、不意にキュウゥっと音が鳴る。
マリナであった。
マリナのおなかが、キュウゥっと鳴ってた。
マリナは耳まで赤くして、自身の腹部を腕で押さえた。
「おなか………。すいた………。」
「そっか」
オレは和やかな気持ちで、食事に行くことを提案した。
◆
オレたちが向かったのは、そこそこ洒落たレストランだった。
開放的な空間で、清潔感もかなりある。
貴族ご用達の店なのか、きている客は身なりがよかった。
「四名だ」
リリーナが店員さんに言った。
店員さんは、オレたち全体をチラと見つめる。
「かしこまりました」
含んだようにうなずいて、オレたちを案内する。
椅子が
「それでは、ご注文がお決まりになりましたらこちらのベルを」
頭をさげて去っていく。
これはいったいどういうことか。察したオレは問いかける。
「カレンの席って、その床であったりします?」
「奴隷だからな」
そういうことなら仕方ない。
オレは椅子に座った。
マリナとリリーナも椅子に座って、カレンひとりは床である。
「ぜなあぁ……」
カレンは涙目になっていたが、罪人奴隷だから仕方ない。
普通の奴隷なら考えるところだが、しばらくのあいだは、罰も必要だろう。
まぁ食べるものについては、それなりにいいものをあげよう。
オレはメニューを、パラりと開いた。
おいしそうな料理の絵たちが目に入る。
「好きなものとかあるか?」
「お肉が好き……ぜな」
カレンは、うなだれながらも答えた。
「そうか」
オレは自分用にステーキを頼み、カレン用にミートステーキという名のハンバーグを注文してやった。
奴隷用のメニューの中では、一番高価なやつである。
しかしメニューにも奴隷用ってのがあるあたり、完全に根付いてるんだな、奴隷文化。
料理が運ばれてきた。
オレにはステーキで、マリナはフルーツサンド。
リリーナは木の実と山菜をメインにしたスウィーツサラダだ。
そしてカレンのところにやってきたハンバーグは……。
犬用の皿に入れられていた。
スプーンがなければフォークもない。ただ皿があるだけである。
「ぜなっ……?!」
戸惑うカレンは周囲を見渡す。
ほかの奴隷の姿を見つけ、愕然とする。
ほかの奴隷も、四つん這いで食べていたからだ。
「ぜなあぁ…………!」
カレンはためらっていたが、お肉の魅力には勝てなかったらしい。
「んぐっ、んぐっ、んぐっ…………」
犬みたいな四つん這いで、ハンバーグを食べる。
ちょっと可哀そうになる景色だが、犯罪者なのだから仕方ない。
犯罪者でなければ椅子に座らせているが、犯罪者なのだから仕方ない。
しかし悲痛だったのは、最初のほうだけであった。
食べ始めてから二分も経つと、カレンの体はご機嫌そうにふりふりゆられた。
スカートに包まれたお尻がかわいい。
「おいしかったか?」
「今まで食べてきたお肉の中で、いちばんの味だったぜな……」
陰鬱につぶやいたカレンは、その場で頭を抱えてうずくまった。
「奴隷用のお肉が一番おいしいって、今までのアタシはなんだったぜなあぁ~~~~~」
地球でも、金持ちの犬の食事は本当に豪華だ。
オレよりいいものを食べている犬もたくさんいた。
今のカレンは、そんな現実を突きつけられた時のオレと似ていた。
「まぁとりあえず、口は拭けよ」
オレは白いフキンを取った。
カレンの口元を拭いてやる。
「ぜなっ……」
カレンはキスされているかのように頬を染め、瞳も静かに閉じていた。
「………レイン。」
「なに?」
振り返るのと同時、マリナが指をオレのほっぺたにつけた。
「ほっぺたに、ソース。」
「つけたのマリナだよね?!」
「ふきふきしたい。」
オレのツッコミをスルーして、マリナはフキンを用意していた。
仕方ない。
オレは黙って顔を差しだす。
ふき……。ふき……。ふき。
マリナは時間の流れを遅らせるかのように、ゆったりとした手つきで拭いた。
マリナの整った顔立ちを、至近距離で見つめることになる。
細長いまつ毛とか、桜色の唇とか、見ているだけでドキドキしてくる。
顔も熱くなってくる。
マリナも同様だったのか、顔を上気させてきた。
「どっ……どうして赤くなるんだよ」
「あなたがとてもかっこよくって、また好き好きに、なったから………。」
かわいい。
◆
そんな生活をしてると、試験の日がやってきた。
「わたしはちょっと私用があるから、一足先に行ってくる。
キミたちは、八つ鐘の時間あたりで学園に向かうといい」
「カレンは大丈夫ですか?」
「首輪とクサリをつけているなら、一向に構わんよ」
「そういう感じらしいけど、どうする?」
オレがクサリを鳴らして言うと、カレンは答えた。
「離れるほうが、いやだぜな……」
「そっか」
「ぜな……」
カレンは目を伏せうなずいた。
オレのことが好きなわけじゃないが、嫌いでもない。
だからひとりぼっちはイヤ。
ここ数日で、そのぐらいの好感度にはなっていた。
「それと前にも言ったと思うが、学園の生徒は貴族も平民も平等――
「はい」
オレは素直にうなずいた。
この発言は要するに、『相手がルールを守ってくれることを期待してはいけないが、こちらがルールを破ってもいけない』ということである。