規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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学園に入るよ編
レイン十四歳。バカ貴族を殴る。


 目的の学園についた。

 魔法学園というだけあって、校門の手前からして神秘的だ。

 

 イルミネーションのように輝く木の実のついた光の並木があったり、道端のゴミを掃除する、小さなマジックパペットがいたりする。

 道を歩いている人たちも、いかにも魔法使いといった感じのローブを着ている。

 

 見惚れながら歩いていると、背後に軽い衝撃がきた。

 

「きゃっ!」

 

 女の子であった。

 ぶつかった衝撃で、本やペンが散らばった。

 

「すすすす、すいません!!」

 

 メガネをかけた女の子は、謝りながら落し物を拾う。

 

「手伝うよ」

「だだだだ、大丈夫です!!」

「まぁ、気にしないで」

 

 あらかた拾い終えた少女は、カバンの中身を確認していく。

 

「そろってる?」

「えっ、ええっと……」

 

 しかし確認していた顔が、サアァ――っと青ざめた。

 

「なにがないの?」

「ブローチです!

 お父さんが、『お守りに』って渡してくれた、大切なブローチです!!」

 

「大切なものなんだな?」

「はっ……、はいっ…………」

 

 少女は、既に泣きそうになっていた。

 そういうことなら、見つかるまでは探してあげよう。

 なんて風に思っていると、ガラガラガラっと音がした。

 

 馬車である。

 グリフォンの紋章がついた豪華な馬車を、銀色のヨロイを身に着けた武装馬が引いていた。

 

 しかも馬車の左右には、衛兵が一〇人はいた。

 

(すげーな)

 

 オレがぼんやり立ってると、少女が袖を引いてきた。

 

「脇によけてください!!」

「えっ?」

「あの紋章は、三大公爵のグリフォンベールさまの紋章です!

 脇に平伏していなければ、切り捨てられても文句は言えません!!」

 

「この学園って、そういうのはナシなんじゃないの?」

「規律的には、そうですが……」

 

 本当に、『あるだけ』って感じのルールなんだな。

 まぁいいや。

 とにかくそういう話なら、よけておくだけよけておこう。

 

 オレは馬車を横目で見つつ、道の端によけようとした。

 しかし気づくと、馬車に向かって叫んでた。

 

 

「とまれっ!!!」

 

 

「何用だ!」

 

 先頭の衛兵が、オレに槍を向けてきた。

 オレは馬車の車輪を指差す。

 

「大切なブローチが、そこに落ちちゃったんですけど……」

 

 指差す先には、蒼いブローチ。

 それがあとほんの二〇センチで、踏まれるような位置にあった。

 

「そういうことか……」

 

 衛兵さんは、ブローチを拾いに行ってくれた。

 いい人だ。

 

 が――。

 

 

「なに止まってんだよ!!」

 

 

 馬車の中から声がした。

 ボーイッシュなショートカットの、金髪女が顔をだす。

 

「こっ……、こちらのかたのブローチが、馬車の手前にあったと言うので……」

「ふぅん……」

 

 そいつは静かに降りてきた。

 背丈は小さく目つきは釣り目で、華奢な体つきをしている。

 そして履いているのが…………。

 

「ズボン……?」

「なにジロジロ見てんだよ」

「性別、どっちなのかなぁーって思って」

 

 その刹那、少女の顔が色めきだった。

 憤怒めいて言ってくる。

 

「ボクはオトコだぁ!

 グランドル国・三大公家の一公・ミーユ=ララ=グリフィンベールって言えばわかるだろっ?!」

「田舎育ちなものでして」

「気をつけろよっ! ばかがっ!!」

「はい」

 

 うなずきつつも、オレは鑑定を使用してみた。

 

 

 名前 ミーユ=ララ=グリフィンベール

 種族 ヒューマン

 

 レベル   48

 

 HP    280/280

 MP    432/432

 筋力    240

 耐久    188

 敏捷    312

 魔力    441

 

 

 ゴミのようなステータスだな。

 

 

 もっともそれは、オレや父さんを基準にした時のお話だ。

 同い年の平均的な学生を基準にすれば、充分に強い。

 実際、野次馬の人たちに鑑定を使うと、レベルが10から20前後で、パラメーターも100前後の人が多い。

 

 それでもオレの目からすると、ゴミのようなステータスである。

 だからと言って、ケンカを売る必要もないだろう。

 

「馬車を止めさせたのは悪かったけど、ブローチを回収したらすぐにどくから」

「ブローチってのは……大切なものなのか?」

 

「あの女の子の父さんが、合格祈願で作ってくれたらしいもの」

「父さんが…………か」

 

 ミーユの眼差しが、なぜか一瞬、険しくなった。

 しかしすぐさまヘラリと笑い、衛兵さんから受け取った。

 オレの横を素通りし、女の子のほうに行く。

 

「大切なものなんだって? これ」

「はっ、はい……」

 

 貴族のミーユが言うと、女の子は手を伸ばす。

 ブローチが、女の子の手のひらに乗ろうとするが――。

 

 

 ミーユによって、砕かれた。

 

 

「あっ……」

 

 ヒビの入ったブローチを、ミーユは踏みつける。

 ぐりぐりと踏んで、粉々にした。

 

「あああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 少女の悲鳴が響き渡ると、ミーユは激高した。

 少女の顔を張り飛ばし、倒れた少女を何度も蹴飛ばす。

 

「そんな理由で、ボクの馬車を止めることが許されるはずないだろうが!

 ゴミッ! クズッ! ボケッ!」

 

「申し訳ございません。申し訳ございません。申し訳…………」

 

 ひどすぎるだろ、オイ。

 これはさすがに、ブチ切れる。

 

「オイ」

「なんだ……うぎゃっ!」

 

 ミーユが振り向くと同時に、顔面に拳を叩き込んだ。

 胸倉を掴み、至近距離から叫んでやった。

 

 

「クズなのもゴミなのも、テメェだろうがよぉ!!」

 

 

 ミーユは、異常なまでに震えて答える。

 

「ボボボボ、ボクは、ささささ、三公…………だぞ?」

「三公だろうが四公だろうが、やっちゃいけないコトってのがあるだろうが!!」

「ひいっ……!」

 

 ミーユは、怯えた瞳でオレの顔の横を見た。

 それは恐らく、衛兵への合図。

 

 事実、神経を尖らせてみれば、槍を構える気配があった。

 オレはミーユを放り投げ、腰の剣に手をかけた。

 振り向き際に斬撃を放つ。

 

 衛兵さんの槍が吹き飛ぶ。

 先端部分が、ミーユの股の合間に刺さった。

 ミーユの股間が、じわりと濡れる。

 

「ボッ……ボクんちの衛兵の槍は、ダマスカスで作られてるんだぞ……?」

「そっちは武器が強くても、こっちはオレが強いんだよ」

「殺せっ! 殺せっ! 殺せエェーーーーーーーーーーー!!!」

 

 ミーユが、衛兵さんに指示をだす。

 衛兵さんは、不承ながらも槍を構えた。

 魔法を唱える人もいる。

 

 戦うことになってしまったものの、怪我をさせるつもりはない。

 雇い主(ミーユ)はクズでも、衛兵さんはいい人だ。

 

 オレは手前の衛兵さんの槍を飛ばすと、横手からきた槍をバックステップで回避した。

 アイテムボックスを使用して、研がれていない剣をだす。

 切れる剣で槍を切り、切れない剣で衛兵さんを殴って倒す。

 

「唸る業火よ、我れがあるじの敵を焼け! ファイアーボール!!」

 

 大げさな詠唱と共に、赤い火球が飛んできた。

 三公(ミーユ)の護衛と言えば、プロである。

 

 学園に向かう程度なら精鋭をつけているとは限らないが、それでも一応プロである。

 ゆえに放たれる魔法は、相当のものである。

 はず――なんだけど。

 

 

(しょぼいな)

 

 

 オレは剣でサクッと切った。

 

 

『なっ……?!』

『魔法を……剣で…………?!』

『魔法切りと言えば、魔竜殺しの七英雄・レリクス=カーティス様の神技(しんぎ)だぞ……?!』

 

 魔法を切るのって、そんなすごい技術だったのか……。

 レリクス=カーティスことウチの父さんはすごい当たり前に使ってたから、初歩のスキルなのかと思っていたぜ……。

 

 しかしそうなると、長引かせるのはイジメだな。

 オレはタトンと地を蹴って、魔術士たちの間を駆け抜けた。

 一秒、二秒、三秒の間を置いて――。

 

『がっ……、はぁ…………』

 

 三人は倒れた。

 

「ひっ、いっ、いっ…………」

 

 腰を抜かしたままのミーユが、立てなくなったままもらす。

 オレは近寄る。

 奴隷用のムチをだし、威圧を込めて言った。

 

 

「謝れ」

 

 

「ひっ……?」

「土下座して、ブローチを壊してごめんなさいって謝れ」

「ブッ……ブローチを、壊して…………」

 

「オレにじゃないっ!!!」

 

 ピシッ!

 奴隷用のムチで、ミーユの体を引っぱたく。

 

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…………」

 

 

 すこしやりすぎな気もするが、こういうことは、中途半端が一番危ない。

 『アイツに手をだしたらヤバイ』と思わせるまでやるか、一切抵抗しないかのどちらかだ。

 半端に殴っておしまいにするのは、仕返しの動機と口実を与えるだけだ。

 

 しかしコイツの暴虐を見て、抵抗しないという選択肢を選ぶのは無理だ。

 

「あの……」

 

 被害者である少女が、静かに声をかけてきた。

 

「もう……、そのぐらいで…………」

「そうか」

 

 一番の被害者であるこの子が言うなら、オレが続ける理由はないな。

 『手をだしたらヤバイ』と思わせるにも、十分だ。

 

 震えて謝っている姿も、ちょっと哀れになってくる。

 しゃがみ込み、肩をポンッと叩いて言った。

 

「もうすんなよ、ホント」

「ぐっ……」

 

 ミーユは、歯を食い縛って去って行った。

 遠巻きに見ていた野次馬たちから、歓声が沸いた。

 

 どんだけ嫌われてたんだ、アイツ。




ヒャッハーな気分になったら、評価とか感想とかくださるとうれしいです(•ㅂ•)
次回更新は16日ぐらいの予定です(•ㅂ•)

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