規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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レイン十四歳。筆記試験を受ける。

 チンピラみたいなバカ貴族は、撃退した。

 しかし肝心のブローチは、砕かれたままである。

 

「……」

 

 メガネの少女は、涙目のままである。

 

「ちょっといい?」

「えっ……?」

 

 オレは地にヒザをつき、砕かれた破片を拾い集めた。

 汚れや小石をできるだけ排除。

 残った破片を、親指サイズの小ビンに詰める。

 軽く太陽に透かしてみると、キラキラと輝いた。

 

「とまぁ……こんな感じでどうかな」

 

 少女は小ビンをじっと見つめて、うっとりと見つめた。

 

「ゴミとか完全に取れたわけじゃないから、細かい調整は専門の装飾屋さんとかにしてもらうって感じで……」

 

 オレが言ったら、少女は叫んだ。

 

「これがいい! これがいいです!!」

 

 それはもう、食い入るように叫んだ。

 

「そっ、そう……」

「はいっ!」

 

 宝物を抱くかのように胸に抱いて、頭をさげて走り去る。

 マリナが声をかけてきた。

 

「レイン。」

「ん?」

「ヒザ、汚れてる。」

 

 マリナは地面にしゃがみこみ、オレの膝の汚れを払った。

 

「……ぜな♪」

 

 なぜかカレンも、マリナの横にぺたりとしゃがんだ。

 

「………カレン?」

「なんとなく、こうしたくなったぜなぁ……♪」

 

 ふたりともかわいい。

 

   ◆

 

 そんな感じで、試験会場についた。

 自信はあっても、緊張はなかった。

 

 プロであるはずの衛兵さんを一蹴できたのだ。

 それなら単なる試験ごときで、つまずくこともないだろう。

 

 的を撃ち抜くような試験であろうが、対人戦であろうが、トップクラスの成績を残せるだろう。

 そんな風に思ってた。

 

 が――――。

 

 

 試験は筆記試験だった。

 

 

 用意されていた机の横にカレンを伏せさせ、試験官の到着を待つ。

 羊皮紙の答案が配られて、解いてくださいと言われる。

 

 問。

 以下の問題文を読んで、()の中を埋めよ。

 

 魔法を放つ上で必要なのは、先天的な資質とイメージである。

 放つ際には、詠唱を使う必要がある。

 特定の詠唱と口ずさんでイメージを補佐することで、先天的に備わる資質の力を引きだすのである。

 

 ライトニングを放つ際には、()

 ファイアーボールを放つ際には、()といった詠唱が必要となる。

 

 

 わかんねーよ!!

 

 

 詠唱だとか、使ったりとかしてないし!!

 ライトニングとか無詠唱で使えるし、ファイアーボールも無詠唱だ!!

 

 仕方ない。

 オレは正直に書いた。

 

 ・そんなレベルの魔法なら、無詠唱で使うのが普通だと思います。

 

 そこから先も、いろいろと問題を見た。

 半分以上が、『わかんねーよ!!』だった。

 

 『実戦魔法理論』とやらのテストらしいけど、まったく実戦的じゃない。

 ただ答えられそうな設問も、いくつかあった。

 

『戦士職の前衛ふたり、魔法職の後衛ひとりのパーティで進んでいると、ふたりの前衛とふたりの後衛のパーティと戦うことになった。この時の、前衛の役割を答えよ』

 

 などである。

 オレはすかさず、『オレがひとりで全員を倒す』と書いた。

 先の実戦を踏まえた完璧な答えであったのに、後日苦言をいただいた。

 

『あなたについてはこれで正解とさせていただきますが、ほかのかたには言わないようにしてください……』

『えっ?』

『真似をされたら、困ります……』

 

 試験には、歴史とかの問題もあった。

これはもう、完璧に終わってた。

 

国の成り立ちとか魔法学園設立の経緯とか、知っているはずがない。

 と言っても、まったくの白紙ではなかった。

 

 『王都の東のヴィーグル山に現れた魔竜を討伐した、七英雄の名前をすべて答えよ』

 

 この問いには、父さんとリリーナの名前を書けた。

 

っていうか、国家トップクラスの学園の試験の問題にでるぐらいの人たちなんだな。

 父さんも、リリーナも。

 そのひとりを父親に持って、別のひとりと肉体関係を結んでいるオレって、何気にすごいんじゃないだろうか。

 

 そんな感じで、歴史のテストはアレだった。

でもオレは、楽観していた。

 

 もしも筆記が重要ならば、リリーナが勉強するよう言っているはずだ。

なのにスルーだったってことは、実技がよければどうでもいいんだろう。

 

 なんて風に思ってると、算術の試験が始まった。

 王国でもっとも格調が高く、難しいとも言われている学園での算術だ。

 いったい、いかほどのものか。

 オレは答案をめくった。

 

 

 問。

 次の計算をしなさい。

 

 65×8=

 71×4=

 81×9=

 121×11

 720×20=

 (以下略)

 

 

 小学生かよ!!

 

 

 なにかの間違いじゃないだろうかとも思ったが、そういうわけでもないらしい。

 

(三ケタ……?)

(四ケタもある……)

(さすが○○魔法学園……)

(難しい……)

 

 みたいな声も聞こえてくる。

マジかよ……。

 

 だけど地球の日本でも、九九が貴族の教養って時代はあったしなぁ。

 教育水準が低いとこなら、そんなものなのかもしれない。

 貴族っぽいやつらは、わりと普通に解いてるし。

 

 なんにせよ、これなら満点も容易い。

 オレは答えを書きまくる。文章問題もあったが、やはり小学生レベルだった。

 

 

 楽勝!!

 

 


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