規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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レイン十四歳。実技試験を受ける。

 筆記試験が終わった。

 オレは、思い切り伸びをする。

 

「終わったぜな……?」

 

 伏せていたカレンが、顔をあげた。

 

「なんで涙目になってんの?」

「なんか……。みんな……。ぴりぴりとしてたぜな……」

「なるほどね」

 

 人によっては、受験は戦争だもんな。

 

「まぁでも、ガマンしてて偉かったな」

 

 オレはクッキーを取りだして、カレンの口元に差しだした。

 カレンは地面に膝をついた姿勢で、オレの両膝に手をかけた。

 あーん、して食べる。

 

 しゃくしゃくしゃく、こくん。

 咀嚼したカレンは、涙目でつぶやく。

 

「もう一個、ほしいぜな……」

「はいはい」

 

 オレは、ふたつ目をくれてやった。

 しゃくしゃくしゃく、こくん。

 カレンは、咀嚼して食べる。

 頭の羽がぴこぴこゆれた。

 

(………。)

 

 マリナが静かに寄ってきた。

 カレンの横にペタリと座り――。

 

 

 口を、あーんとあけてくる。

 

 

「そんなことしなくても、ほしいって言えば普通にあげるけど……」

(………。)

 

 マリナは無言で、ほっぺたを赤くした。

 

「クッキーそのものよりも、この姿勢で食べることが重要…………ってこと?」

「うん………。」

 

 マリナは小さくうなずいた。

 

「この姿勢って、横から見るとオレの下半身にもにょもにょしてる的なアレなんだけど」

「それが………。いい………♥」

 

 ちょっとばかり、マリナの性癖が心配になる。

 なんかそのうち、首輪をつけることを求めてきそう。

 

 いや……待て。

 それはそれで、むしろアリ……?

 

 想像したらムラムラしてきた。

 オレはマリナをトイレに連れ込み、ぶっ刺した。

 

「あんっ………!」

 

 首輪はつけなかったけど、想像だけで十分にいけた。

 

   ◆

 

 実技試験の会場についた。

 コロシアム風の観客席もついた、広いところだ。

 まず基礎試験として、用意された魔法に全力の魔法をぶつければよいらしい。

 的の形は、真っ黒い壁である。

 

「それでは、一番……アルバート=アルロッテくん」

「はい!」

 

 快活そうな少年が、前にでた。

 

『唸る業火よ……。我が……敵を焼けっ……!』

 

 言葉のひとつひとつに力を込めて、手から放つは――。

 

 

『ファイアーボール!』

 

 

 ボゥンッと飛びだしたそれは、黒い壁に当たって消えた。

 先生が言う。

 

「二八〇デシベル…………か」

「よっ……よしっ」

 

 アルバートくんは、ぜいぜい言いながらも拳を握った。

 しょぼいようにしか見えなかったけど、学生的には普通らしい。

 というか合格の目安は、二五〇ぐらいらしい。

 

 筆記との兼ね合いもあるらしいが、今ので合格ラインに行けるなら大丈夫だろう。

 そして試験は進んでく。

 

 

『唸る……旋風。我が敵を…………裂けっ!』

『ウインドカッター!』

 

 ……しょぼい。

 

『唸れ……氷弓。我が敵を…………射抜け!』

『アイスニードル!!』

 

 ……しょぼい。

 

 単に威力がしょぼければ、ぜいぜい息があがってるのもしょぼい。

 

「あの黒い壁も、全然壊せていないしなぁ」

「あの壁の強度がわからないとは……。これだから田舎者は……」

 

 オレがつぶやくと声がした。

 まったく見知らぬ、貴族風の男であった。

 

「あのガードモノリスは、教官たちの魔力を送り込むことで、特殊な結界を表面に張り巡らせている。

 破壊はもちろん、ヒビを入れることさえ至難の技だ。

 実際、ヒビを入れられるのは、このマゴット=オスマンを除けばもうひとり――――」

 

 偉そうなマゴットは、タメを作った。

 タメるからには、相当な実力者なのだろう。

 オレはちょっぴり、期待して待った。

 でてきた答えは――――。

 

 

「ミーユ=グリフォンベール様ぐらいだ」

 

 

 えっ…………。

 

「三公であるグリフォンベール家のご長男にして、英才と名高い才能の持ち主。

 魔竜殺しの七英雄には及ずとも、それに準ずる才能はあるともっぱらの評判だ」

 

 ええー…………。

 ミーユって、さっきのバカ貴族だよね……?

 

 あいつって、そんなすごいあつかいだったの……?

 あいつレベルで、そんなすごいあつかいになるの……?

 

 いや、まぁ、アレだな、うん。

 コイツのこの評判は、八百長とおべっかを含めてだよな。

 

 あとは英才教育が半端ないから、普通の人よりは早熟ってだけだろうな、うん。

 でないと終わりだ! 学園編!!

 

 そうこうしているうちに、マゴットとやらの出番がやってきた。

 

 

「見ていろよ。田舎者」

 

 

 フフンと笑ったマゴットは、大げさな仕草で魔力を集めた。

 

 

「唸れ轟音! 響け迅雷! 我が敵を薙ぎ払え! サンダーストーム!!」

 

 

 バリバリバリバリッ!

 今までの受験者とは一線を画すイカズチの束が、ブラックモノリスに降り注ぐ。

 手数は多い猛攻を受けた壁には、ピシ――とわずかにヒビが入った。

 試験官が叫ぶ。

 

『一五〇〇デシベル!』

「「「おおおーーーーーーーーー!!!」」」

 

 受験者たちから、歓声が沸いた。

 

「ふぅー……」

 

 息を吐いたマゴットは、やり遂げた顔で手を振った。

 

「わかるかい? 田舎貴族くん。これが本当の貴族さ」

 

 オレは思った。

 

 

 うぜー…………。

 

 

 しかし構うのもめんどくさかったので、完全にスルーした。

 それを委縮と受け取ったらしい。

 マゴットは、とても勝ち誇っていた。

 

 そして何人か挟むと、ミーユの番がきた。

 ほかのやつらとは違う雰囲気に、受験場がシン――と静まる。

 

 仏頂面のミーユは、ほんの一瞬オレを見た。

 しかしすぐさま目を逸らし、自身の魔力を高めてく。

 詠唱のないまま、指を伸ばして――。

 

「風よ穿てっ! サイクロン・スナイプ!」

 

 グオンッ!

 緑色の魔力を帯びた竜巻が、モノリスに向かった。

 

 大気を抉るかのように直進し、モノリスの中央にぶつかる。

 轟音が響いた。モノリスには、クモの巣状のヒビが入る。

 マゴットの時よりも、大きな歓声が沸きあがった。

 

「ニッ……二九〇〇デシベル!!」

 

 合格点の一〇倍である。

 なんだかんだ言いながら、偉そうにするだけの実力はあるんだな。

 

 他人事のように思っていると、ミーユは、またもオレをチラと見た。

 その目には、対抗意識や敵意というより、懇願するかのような怯えがあった。

 よくわからないやつだな。

 そしていよいよ、オレの出番がやってきた。

 

「キミは…………レイン=カーティスくんだね」

「ああ、はい。そうです」

「七英雄・レリクス様のご子息だそうだが、特別あつかいはしないからそのつもりでね」

「はい」

 

 オレは素直にうなずいた。

 

「ちなみに使う魔法って、魔法剣じゃダメですか?」

「魔法剣を使えるのかい……?」

「はい」

「それはすごい…………けど、一応、魔法の、試験……なのでね…………」

 

 試験官さんは気圧されていたが、かろうじて答えた。

 そういうことなら仕方ない。

 オレは魔力を溜めていく。

 

 しかし魔力を溜め込むと、黒い壁が頼りなく見えた。

 試験官さんも驚愕に目を見開いて、わたわたと慌ててる。

 

(これって、全力だしたら会場が壊れちゃうとかいうやつか?)

 

 思ったオレは、加減して放つことにした。

 出力は抑え、しかしモノリスを破壊できる程度のそれは意識して――。

 

「ライトニング!」

 

 放たれたイカヅチは、一直線に突き進む。

 

 

 どごおぉんっ!!

 それは鋭くモノリスを穿つと、会場の端にあるフェンスにまで激突した。

 さらに巨大な穴をあけ、外が見えるようになった。

 

「「「なっ、あっ、あっ…………」」」

 

 空気がポカンと凍りつく。

 試験官さんのひとりが、別の試験官さんに問いかけた。

 

「すっ……数値は……?」

 

 その試験官さんは、引きつって答えた。

 

『にっ……、二億……八九〇〇万…………』

『二億っ?!』

『バカな!』

『ありえん!!』

 

『故障じゃないのか?!』

『しかし……結果として壊されたものを見ますと…………』

『ぐっ……』

『確かに……』

 

『レリクスさまが、デモンストレーションで軽く放ってくださった時の数字は、いくらぐらいであったかな……?』

『六億前後と、記憶してます……』

『おれ……上から目線で、『英雄さんのご子息だからって、特別はあつかいはしないからね』とか言っちゃったんですけど…………』

 

『ばかだ……』

『ばかだな……』

 

 

 手加減って難しい!!!

 

 

 マリナも一億デシベルをだして、実技の試験は終わった。

 


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