規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
拾われてから、十年がすぎた。
オレは森で狩りをしていた。
木の陰からほんのわずかに身を乗りだして、ターゲットを見やる。
直径二メートル級の、角を生やしたイノシシだ。
そのツノは普通の生き物とは違い、水晶のように輝いている。
オレは鑑定を使用した。
名前 なし
種族 ホーンボア(ツノイノシシ)
レベル 38
HP 550/550
MP 0/0
筋力 426
耐久 418
敏捷 388
魔力 0
「またモンスターか……」
この世界で言うモンスターとは、動物などが変質したものを指す。
ツノやツメ。瞳や心臓といった、器官の一部に水晶や宝石のようなものがついているのが特徴だ。
(例外もいる)
動物以外でも、長期に渡って月の光を浴びた鉱石や、窪んだ地形に溜まり続けた
当然強い。
手のひらサイズのネズミでも、モンスター化すればライオンぐらいに強くなる。
つまりイノシシのモンスターは、かなり危険であるわけだ。
それでもオレは、リストを取りだして見やった。
父さんがまとめてくれた、『この森にでる動物と、それがモンスター化した場合の危険度』のリストだ。
戦っても大丈夫であることを確認し、剣を構えた。
「魔法剣――サンダーソード」
オレは父さんからもらったロングソードに、父さんから教えてもらった要領で魔法をつけた。
タンと地を蹴り、身を乗りだした。
「ハアアッ!」
イノシシが気づき、オレのほうを向いてくる。
けれども、遅い。
オレは金色の斬撃を振るい、ツノイノシシに雷撃を当てた。
麻痺したイノシシの首をめがけて、剣を振る。
鮮血が舞った。
モンスター化した動物は強い。
手のひらサイズのネズミでも、モンスター化すればライオンぐらいに強くなる。
しかし父さんに教育を受けたオレは、それ以上に強い。
っていうかウチの父さんは、魔物化した竜――魔竜を倒したこともある英雄らしい。
歴史上でも数えるほどしか報告例のない魔竜だが、少なくとも三ヵ国が総力をあげて、軍事力の90パーセントを失う覚悟で討伐するか、国を捨てて裸足で逃げだし、魔竜が動かないことを祈るしかなかった。
それをウチの父さんは、たった七人で殺ったらしい。
本人曰く、
『伝承の魔竜より、弱い個体だったんじゃなかろうか……?』
という話だったが――。
『絶対に違います。仮にそうであったとしても、七人で倒すのは非常識です』
メイさんは、そんな風に言っていた。
とにかくそんな父さんに育てられたのが、ここにいるオレである。
イノシシぐらいの魔物なら、不意を突けば楽勝だ。
肉をさばいてたき火を作り、火をかけて焼いた。
豚肉にも似た、香ばしい香りが漂ってくる。
オレはパラリと本を広げた。
魔法に関する本である。
父さんの屋敷には、魔法に関する本もたくさんあった。
だから適当に借りて、あいた時間に読んでるわけだ。
「魔法の基本七属性は、炎、雷、風、木、土、水、氷の七つ」
「これにはそれぞれ、相性がある」
「後天的に属性を開拓したい場合は、先天資質の属性と相性のよい属性を選ぶべきである」
「先天資質を調べるには…………」
そこから先は、オレが父さんから教えてもらった魔力を練るやり方が書いてあった。
そこで雷が発現したオレの先天資質は、雷である。
「でもって雷と相性がいいのは炎か」
確かに炎と雷は、親戚みたいなところあるしな。
オレはイノシシの肉を軽くかじると、一メートル五〇センチぐらいの木を切った。
枝を払って丸太に変えて、地面へと突き刺す。
魔力を練りあげ、右手に集め――。
「ファイアーボール!!」
集めた魔力はイメージ通り、炎の球となって丸太を燃やした。
「っ……」
ただし疲労は、ライトニングを放った時よりも大きかった。
あとなんか、使用するまでがだるかった。
パソコンを覚えたての時、キーボードの文字を一文字一文字確認しながら打っていた時のまどろっこしさに近い。
体の細胞のひとつひとつが、〈炎の魔法を放つ手順〉を、逐一確認しているような感じだ。
(まぁこのへんは、慣れ…………だろうな)
オレは火炎魔法のトレーニングも続けた。
ちなみに後日、成果を父さんとメイさんに報告したら――。
『その年で二属性とは、さすがじゃのぅ』
『その年で二属性とか、おかしいのですが…………』
みたいな反応をされた。
でもこの時のオレは、それがそこまで特別だとは思ってなかった。
だから普通に訓練していた。
雷だけを鍛えることも考えたけど、いろいろ使えるほうにロマンを感じた。
その時だった。
背後から、強い光りが刺してきた。
自然界には存在しえない、強烈なまでの青い光りだ。
「なんだっ?!」
オレは素早く剣を構える。
そこにいたのは――。
「女の子…………?」
白と水色のコントラストが美しい制服を着た、整った顔立ちの女の子。
年のころは一〇歳前後。
今のオレより、ひとつかふたつ年上といった感じだ。
そしてオレはその顔に、見覚えがあった。
オレがこの世界にくる直前。
怪しい宗教団体に捕まっていた女の子。
目の前の子は、その女の子にそっくりなのだ。
その女の子を幼くすれば、こうなるという姿なのだ。
「えっ、ええっと……」
オレは剣を鞘に納めて、なにか話しかけようとした。
が――。
少女はタンと地を蹴ると。
抱きついてきた。
「やっと………。会えた………。」
「えっ、ええ……?!」
「わたしはあの団体に、生贄になるための存在として育てられた。」
「あの団体ってのは、儀式やってた……?」
「うん。」
少女は小さくうなずいた。
「あのあとわたしは、小さな施設に保護された。」
「施設の人は、みんな親切でやさしかった。」
「わたしは文字を書くことを覚えて、学校にも行った。」
「だけどあなたを、忘れることができなかった。」
「夜寝る時も、朝起きた時も、ごはんを食べている時も。」
「ずっとずっと、あなたを忘れることができなかった。」
矢継ぎ早に言われたオレは、混乱している頭でかろうじて整理した。
「つまりオレに会いたいばかりに、儀式を再現してこっちにきてみた…………ってこと?」
「うん………。」
少女は小さくうなずくと、抱きつく力を、ぎゅうぅ………! と強めた。
「わたしの………。王子さま………!」
どうしよう。
なんだかめっちゃ、好かれてる。
悪い気はしない。
むしろ最高である。
でもどうすればいいのかは、まったくもってわからない。
「ととっ、とりあえず、戻ろうか。家に」
「うん。」
オレはたき火の火を消した。焼けた肉とまだ残っているイノシシの死体を並べ、意識を集中させていく。
「空間魔法――アイテムボックス!」
ぐにゃりと空間がゆがみ、肉とイノシシを異次元にしまった。
実際に使用するには難易度の高い魔法らしいが、イメージしたら簡単にできた。
「今の………まほう?」
「ああ、うん。アイテムボックス。けっこうすごい魔法らしいけど、試してみたらあっさり使えた。容量の制限はあるけど、肉とイノシシ運ぶぐらいならできるよ」
「………。」
少女は無言で、オレのことをジ………と見つめた。
神秘的な輝きを放つ顔立ちと瞳はとてもまぶしく、オレの顔は熱くなる。
「なっ、なんか……あった?」
「なまえ………。」
「えっ?」
「あなたの、お名前。」
ああ、それか。
「レインだよ。レイン=カーティス。レリクス=カーティスっていうすごい人に拾われて、この世界で生きている」
「レイン………。」
少女は愛おしそうにつぶやくと、改めて言った。
「レイン、すごい。」
「オレをきっちり褒めるため、わざわざ名前を聞いてきたの……?」
「うん。」
少女はこくりとうなずいた。そんな仕草も愛らしい。
「ちなみに、そっちは……?」
「マリナ」
「いっ、いい名前…………だね」
オレが褒めると、マリナの顔がぽっと赤らむ。
「えっ、どっ、どうしたの?!」
「ほめられてうれしい。」
「そんなことで好感度があがるとか、どんだけオレのこと好きなの?!」
「あなたを追って、異世界にきちゃうぐらい。」
そうでしたー!
準備を終えて、歩きだす。
(ぴと………?)
マリナは、オレの右腕に腕を巻きつけた。
(ふにゅっ………?)
まだ一〇歳ぐらいのはずにしては、大きいおっぱいが当たる。
どうしよう。
気持ちいい。