規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
話が終わり、学園にある図書館。
オレはミーユの言っていた、『獣人奴隷の基礎知識』を本棚から取りだした。
パラとめくって、適当に見やる。
「あっあっ、あのおぉ~~~~~~~~」
「どうした? ミリリ」
「あんな約束をして、いったいどうするつもりなんですかぁ~~~~~」
「勝つつもりだけど?」
「はにゃう…………」
オレはさらりと答えたが、ミリリはしゅうんっと怖気つく。
頭の耳は後ろに下がり、お尻の尻尾も垂れ下がる。
「わたしが負けたら、大変な想いをするのは、ご主人さまなんですよ……?」
「だったら、別に問題ないじゃん」
「にゃ……?」
「ミリリが負けても、大変なのはオレひとり。
だったらミリリは、とにかくやるだけやればいい。簡単だろ?」
「ご主人さま…………」
うれしかったらしい。
ミリリはほっぺたを赤くした。お尻の尻尾も、ひょこりと立った。
「それに負けても、土下座して靴を舐めるとかすればなんとかなるだろ。
「それは重くないですかっ?!」
「そう思うなら、勝てよ」
「にゃうぅ……」
「でも実際、どうやって勝つんだぜな?」
奴隷のカレンが聞いてきた。
「アタシから見ても、リンって女の子は強いぜな。逆にミリリは…………」
カレンはミリリをじっと見つめて、しかしすぐに目を伏せた。
「天文学的、お察しだぜなっ……!」
「はにゃあぁんっ!」
ショックを受けたミリリだが、反論はしなかった。
「でも……、せんぱいのおっしゃる通りなんです…………。
わたしは、シロ……ですから…………」
「オレはそうは思わない」
「にゃっ?!」
「世界のやつらがなんと言おうと、ミリリ自身がなんと言おうと、オレはミリリを信じるよ」
「ご主人さま…………」
ミリリの瞳が、じわりとうるんだ。
しかしカレンは言ってくる。
「だけど決意じゃ、どうにもならないこともあると思うぜな……」
「確かにオレのいた地方でも、同じような考えはあった」
黒人と白人のことである。
黒人の身体能力は、あちこちで言われてる。
「ただそれが遺伝的なものなのか、環境的なものなのかって言うと、議論がわかれていたんだよ」
「つまり……どういうことなんだぜな?」
「クロの人でも、すごくない人もいた。逆にすごい人が多い地方では、みんな小さいころから学校行くのに毎日一〇キロ走ってるとか、そういう話もあったわけ」
「どういうことなんだぜなあぁ~~~~~」
「この世界でダメと言われている『シロ』が、環境のせいでダメなのか、種族のせいでダメなのかはわからない――って話だよ」
「……」
「教える側がシロはダメって思っていれば、教え方はおざなりになる。
本人だって自信を持てない。
最初はただの環境の問題だったのに、定説として語られることで、みんながそれを補足する。
定説や常識には、そういうケースもあるんだよ」
「理屈はわかった。」
マリナが言った。
「でも今の話だと、ミリリがリンより強いってお話にはならないと思う。」
「その通りだな」
「ん………。」
指摘を認められてうれしかったらしい。マリナのほっぺが、ほんのりと赤くなった。
「でもそれはそれとして、ミリリを見出すロジックはあるんだよ」
「………?」
マリナは、『それは………?』みたいな顔をした。
オレは言う。
「ステータスだ」
マリナが「あっ………。」とつぶやいて、カレンが「ぜなっ?!」な顔をした。
「オレは、相手の体力や筋力を、数値にして見ることができるんだよ。
カレンだったら、レベルが35で筋力が192。
今回戦うリンって子なら、レベルが41で筋力が225――って感じだ」
「よくわかりませんが……。すごいです…………」
ミリリはぽうっと頬を染め、尊敬の眼差しでオレを見つめた。
「ちなみにミリリは、どのくらいなんだぜな……?」
「レベルが8で56だ」
「ぜなあぁ?!」
カレンは、目を白黒とさせて叫ぶ。
「話になっていないぜなっ! 弱すぎるぜなっ!
泥水とルビーで、美しさ対決するような感じになっているぜなー!」
「はにゃあぁん……」
ひどすぎるけどもっともな感想に、ミリリはしょぼんとうなずいた。
「でも、その通りです…………にゃん」
「そうだけど、ちょっと冷静に考えてほしい」
「ぜな……?」
「ミリリは、レベルが8で筋力が56なんだ」
「ぜな……」
「はい……」
「対してリンは、225もあるけどレベルは41なんだ」
「そうだぜな……」
「すごいです……」
「つまり1レベルあたりに換算すると、ミリリは『7』で、リンは『5.5』なんだよ」
「同じレベルにまで上昇すれば、ミリリのほうが強くなるってこと…………ぜな?」
「絶対じゃないけどね」
「はにゃあぁんっ……」
ミリリは感極まって、ぷるぷると震えた。
「ご主人さま……」
「ん?」
「ミリリは……、これから、一生。
ご主人さまのお為でしたら、なんでもすることを誓います…………」
「そう決めちゃうのは、ちょっと早いんじゃないか?! さっきも言った通り、絶対ってわけじゃないよっ?!」
「でも……そのぐらい、うれしいです…………」
オレはミリリを抱きしめた。
かわいいと思う反面、憐れであった。
この小さくて幼い少女は、どれだけ愛されていなかったのだろう。
どれだけ否定されて育ったのだろう。
そんなことを、考えてしまった。
しかし実際に抱きしめてみると、体はとってもやわらかくって、匂いはオンナノコ特有のそれで、おっぱいもそこそこにあることがわかって、オレは本当にダメなやつだと思った。
(くい、くい。)
マリナが、オレの服の裾を引っ張った。
「ん。」
オレの手を引いて進む。
人目を軽く気にしつつ、トイレの個室へと入る。
「図書館のあなたは、途中まで、ずっと真剣な顔をしてた。」
「……うん」
「だけどあの子を抱きしめた途端、えっちなことをする時の顔になった。」
「…………うん」
「だから一回、わたしで処理したほうがいいと思う。」
「いいのっ?!」
「むしろ………。されたい………。」
オレの女神は、ほっぺたを染めてそう言った。
感謝はしても遠慮はせずに、オレの魔剣をぶちこんだ。
「あんっ………!」
書いてて「爆発しないかなこのふたり」と思いました(•ㅂ•)