規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
前回のあらすじ。
暗黒面に捕らわれかけていたオレは、女神のおかげで危機を脱した。
学園の廊下を渡り、ミリリたちが待っている図書館に向かう。
すごく主人公っぽいが、内容的には最低だった。
でもすこし物言いを変えれば、まるで主人公になる。
お言葉ってすごい!
しかし本当に、オレのマリナは最高の女神だ。
エロさ以上に、献身的なところが最高だ。
MMOと書いて、マリナ女神オンラインである。
女神女神女神。オレのマリナは、本当に女神。
マリナが尽くしてくれるのと同じくらい、オレもマリナに尽くしたい。
「レイン………。」
「ん?」
「声に………。でてる………。」
「マジで?」
「うん………。」
羞恥プレイになってたらしい。マリナはぽうっと頬を染め、うつむいていた。
それでもイヤではないらしく、オレの腕にくっついてくる。
ふたりの時は大胆なのに、人がいると恥ずかしがり屋。
そんなところも愛らしい。
マリナはオレを好き好き病だが、オレもマリナを好き好き病だ。
そんな甘いやり取りをしつつ、図書館でミリリたちと合流する。
そして、決闘の予定地に向かった。
すりばち状のコロシアムのような、なかなかに広い空間だ。
学園内での決闘から、国でおこなう武芸大会まで、幅広く使われているらしい。
ちなみにまったくの余談だが、地球のほうでも甲子園大会の地区予選とかになると、強豪校のグラウンドが使われたりする。
それはさておき。
オレは地面に手を当てて、土の感じを確かめた。
「なぁ、ミリリ」
「はっ、はいっ!」
「土魔法で、この土をどのくらいいじれる?」
「えっ、ええっと……」
ミリリは目を伏せ、胸の前で指をもじもじと絡ませた。
申し訳なさそうな、上目使いで言ってくる。
「水……。持ってきていただけますか……?」
「わかった」
オレはマリナをチラと見た。
マリナは無言で、手を伸ばす。
「ニードル。」
パシュンっ!
ツララが飛びだし、地面に刺さった。
「ファイア」
オレも右手をツイっとだして、ツララを溶かした。
夫婦の共同作業だ。
「はにゃあんっ……?!」
「どうした?」
「無詠唱で放った今の魔法でも、ミリリを軽く消し飛ばせそうな威力があったのですが…………」
「そこはオレとマリナだからな」
「ふたりについては、人間と考えないほうが正しいぜな……」
「にゃうぅ……」
「ま、とにかく使ってみてくれよ」
「はっ、はいっ!」
ミリリは両手を、泥と化した土へと向けた。
「う……虚ろなる泥土。我の求めに応じてください! マッドゴーレム!」
ぼごんっ!
泥が大きく盛りあがり、三〇センチほどのゴーレムになった。
とても弱そうなんだけど、ミリリは必死に維持してる。
「前方に、敵がいると思って攻撃してください!」
〈ゴー〉
とても弱そうなゴーレムは、パンチ、パンチ、キックと放った。
とろんっ。
とろんっ。
とろぉんっ。
そんな擬音がぴったり似合う、ガッカリ性能の攻撃だった。
「はにゃっ、はっ、にゃっ…………」
それなのに、ミリリはとっても疲労していた。
「今のがミリリの使用できる、一番の魔法か?」
「はいです…………にゃん」
ミリリは叱られた子どものように、うつむいて答えた。
体は小さく震えてる。
もう本当に、褒められた経験がないんだろうな。
だから自分に自信が持てない。
自分の仕草のひとつひとつが、怒りか失望のトリガーになるのではないかって怯えてる。
まずはここから、なんとかしてやらないとな。
オレはミリリを抱きしめた。
「大丈夫だよ」
言葉の力だけじゃない。
声の響きと体の温もり、抱きしめる強さでも伝えるかのようにささやく。
「なにがあっても、ミリリを見捨てたりはしないから」
「ご主人さま……」
ミリリはこれまでの人生で、ずっと虐げられてきた。
これまでの人生で、毎日自信を奪われてきた。
だからその分、声をかけて抱きしめる。
「ちなみにもっと軽いやつだと、どんなのが使える?」
「具体的には、どのような感じですか……?」
「土をほんのちょっとでいいから、出っ張らせたり、へこませたりするの」
「にゃあっと……」
ミリリは、両手をグッと伸ばした。
「わたしの求めで、姿形を変えてください! アップリフト!」
ぼこんっ!
およそ三メートル先に、握り拳ぐらいの隆起ができた。
「やるじゃん」
「はにゃあぁ……」
オレは素直に褒めたけど、ミリリは自信がないようだった。
オレは視線で、カレンに解説を求める。
「アップリフトは建築とか、大きな規模の戦闘で、矢とかを防ぐ盾を作る時に使うものだぜな。
こんなサイズしかできないんじゃ、その…………だぜな」
「そもそも、わたしが、前衛奴隷に回されたのは、魔法奴隷としても、劣等生だったからなんです……にゃん」
「土魔法ってのは、どんな風に使われるのが普通だ? カレン」
「土で盾を作ったり、ゴーレムを作ったり、建築したりに使ったりするのが基本だぜな」
「攻撃に参加することは少ないのか?」
「攻撃魔法は、石をぶつけるぐらいしか……」
「それなら戦士に石を投げさせたほうが、詠唱が要らない分だけいいってことか」
「そういうことだぜな……」
「…………」
カレンが言いにくそうに言うと、ミリリは無言でしょんぼりとした。
それゆえオレは、簡単そうに言ってやった。
「つまりうまく使えれば、相手はかなり不意を突かれるってことだな」
「理屈で言えば、そうなるぜな……」
「それならさ、うまく使えばいいじゃない」
「ぜなぁ……」
簡単に言いすぎたせいだろう。
カレンは、グゥの音もでないような顔をした。
「ミリリの土魔法では、砂も操れたりする?」
「無理です……にゃん」
「どうして?」
「詠唱を……知りません」
「詠唱を知らないんなら、無詠唱にすればいいじゃない」
「はにゃあっ?!」
「どうしても無理なら、自分で適当に作ってもいいし」
「水を買うためのおカネがないなら、水を飲まなければいいじゃないって言われたような気分です…………にゃん」
「アタシはむかしに本で見た、『ヨロイに剣が通らないなら、拳で砕けばよかろうよ!』っていう、七英雄のレリクスの発言を思いだしたぜな…………」
こんなところでも父さんがでてくるとはっ!!
「でも無詠唱って、そんなに難しくないよ?」
「そんな風に言えるのは、レインとマリナがおかしいからだぜなっ!」
「っていう風に考えるから、余計に難しくなるんだよ」
「ぜな……?」
「魔法で重要なのは、イメージだろ? それなのに、無詠唱は難しい。無詠唱は難しい。実行できるのは一部の限られた天才だけだ……なんて風に考えていたら、一〇の難易度も一〇〇や二〇〇になっちゃうじゃん」
「それは確かに、一理あるかもしれないぜな……」
「少なくともオレは、難しいなんて思っていないからできた」
「できている人が言うと、説得力が違うぜなっ……!」
「だからミリリ、オマエにもできる。名前も知らないどこかの誰かさんより、今ここにいるオレを信じろ」
「はっ……はいっ!」
ミリリは、ハッキリうなずいた。
地面に手を向け、呼吸を静かに整える。
「はにゃあぁ…………」
と、精神を集中させて――。
「にゃああんっ!」
ぼこんっ!
気合いに呼応するかのように、こぶが地面から突きでてきた!
「はにゃっ……ううぅ…………」
同時ミリリが、ぐらりとゆらいで倒れそうになる。
「大丈夫か?!」
オレがガシッと支えると、目を回していた。
「力、だしすぎたみたいです…………にゃあ」
「詠唱魔法は、詠唱を入れることで、だしすぎにならないよう調整する意味もあるのか」
「わたしやレイン以外の人たちに難しいのも、限界を超えないように注意してるからかもしれない。」
「逆に越えないようにしすぎると、大変なことにならないよう、力を抑えすぎになりかねないわけか」
「たぶん。」
「それでも、一回で成功させてるミリリはすごいぜな……」
「ミリリがミリリが失敗したら、ご主人さまに、恥を欠かせてしまうことになってしまいます……にゃあ」
その一心で、成功させてしまうミリリ。
才能以上に、とっても健気な女の子だ。