規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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ミリリはいい子

 朝がきた。

 オレはゆっくり目を覚ます。

 マリナにおはようのキスをして、朝風呂のついでに楽しむ。

 ミーユとリリーナは、行為が終わったところで帰ってる。

 

 風呂からあがれば、マリナの体を丁寧に拭く。

 布でゴシゴシこするのではない。

 静かに押し当て、水滴を吸わせるような感じだ。

 首筋や鎖骨、へそや太ももについた水滴も、丁寧に吸わせる。

 

「そこまでしなくても、いいと、思う………。」

「オレがしたいんだよ」

「ん………。」

 

 綺麗に吸わせてやったあとは、制服を着る。

 オレは白と水色のコントラストが鮮やかなブレザーで、マリナはブレザーにスカートだ。

 

「あなたと、おそろい………♪」

 

 実際におそろいなのはカラーリングだけだが、マリナはうれしそうである。

 くるっと回ったりもする。

 かわいい。

 

 脱衣所をでる。

 ミリリの朝風呂をカレンに頼み、熱風筒でマリナの髪を乾かした。

 オレに髪を乾かしてもらうマリナは、とてもうれしそうである。

 

 カレンとミリリのお風呂も終われば、食堂に行く。

 奴隷の授業が始まったせいだろう。人口密度は、グッと増えてた。

 机の横や下に奴隷が入り、四つん這いでごはんを食べてる。

 オレはパンとステーキにサラダを頼み、あいている席に座った。

 

(………ぺとっ。)

(すとっ)

 

 右にはマリナがぺとっと座り、左にはミーユ。

 皿の上には、こんがりと焼いた薄茶色のサンドイッチ。

 

「別に……いいだろ」

 

 ミーユは、唇を尖らせてつぶやいた。

 かわいい。

 しかしオレとミーユが並んで座ると、食堂にはざわめきが走った。

 

 無理もない。

 実際の関係は、『三日で四〇回も子作り』みたいな関係である。

 ミーユは避妊魔法も使っているらしいが、回数的にはそんな感じだ。

 

 しかし対外的には、犬と猿で水と油だ。

 混ぜると爆炎魔法が生まれ、どちらか一方が死んでしまうほどに仲が悪い設定になっている。

 

 そんなミーユは、薄茶色のサンドイッチにナイフを入れた。

 サクッと軽い音がして、チーズがとろりと溢れでる。

 そして犬用っぽい皿に入れ――。

 

 地面においた。

 

「ご賞味させていただきます」

 

 黒髪ショートで、凛とした雰囲気を持つネコミミの少女が、四つん這いになって食べる。

 

「自分の分をより分けるのか?」

「それが本来の作法だからな」

 

 人の目があるせいだろう。

 ミーユは、つっけんどんに言ってきた。

 

「すこし昔は、暗殺が珍しくなかったからな。

 だからまず、奴隷に食べさせてたんだよ。

 今ではレストランでも奴隷用のメニューがあったりするけど、本当は自分の分を分けるのが作法なんだよ」

 

「貴族だとそうなるのか」

「オマエも……そうだろ」

「ウチの場合、そのへんテキトーだったからな」

 

 と言いつつ、オレはステーキをパンに挟んだ。

 マリナも果物を口に含む。

 向かいに座っているミリリは、おどおどとしてオレを見た。

 奴隷のみんなが床で食べている中で椅子に座っているミーユは、けっこう目立つ。

 

「どうした?」

「なっ……なんでもありません…………にゃん」

 

 それでも魚を、両手で持って食べようとした。

 が――。

 

「おいおいおいおい、おーいおい!」

 

 バカ貴族代表の、マゴットがやってきた。

 

「どーして奴隷が、人間サマのお椅子に座ってるんだあぁ?」

「そんなもん、オレが許可したからに決まってるだろ」

「イナカ者サマは、マナーをご存じないのでぇ?」

「虎の威を借りるしか能がない分際で、人のマナーにとやかく言うのが貴族か?」

「ぐっ……」

 

「これが犯罪奴隷なら、見せしめの意味もあるってことで、床で食わせるのもわかる。

 だけど犯罪してないんなら、わざわざ席をわける必要もないだろ」

「っ……!」

 

 オレが淡々と言い切ると、マゴットはグゥの音もだせなくなった。

 クスクスと、薄ら笑いが木霊する。

 

「二週間後の決闘で、キミが這いつくばるんだと思うと楽しみだなあぁ!!」

「…………」

 

 オレは無言で、マリナが食べていた果物セットのチェリーを摘まんだ。

 口に含んで果肉をかじり、口元に手を当てた。

 マゴットにわからないよう種を取りだし、親指で弾く。

 それも高速でやったので、雑魚の目には映らない。

 

 バチィンッ!!

 超発信された種が、マゴットの鼻っ面を打った。

 マゴットは、尻餅をついてうめく。

 

「貴様……」

「オレがなにか?」

「どう見ても、このマゴット様にやっただろうが!!」

「へぇー」

 

 オレは気の抜けた相槌を入れた。

 

「オマエの尻餅がオレのせいだってなると、オマエは目の前の相手がなにかしたのにも気づけない、ホウフラレベルのボンクラってことになるんだけど?」

「ぐっ……」

 

 マゴットは、本日二度目の歯噛みをやった。

 

「覚えてろよ! 必ずや、ミーユ様が這いつくばらせてやるからな!」

 

 マゴットは去って行った。

 隣で食事をしていたミーユがうつむく。

 

「どうした? ミーユ」

「三公三公言ってたボクも、あんな感じだった……?」

「感じっていうか、そのものだったな」

「むしろひどかったぜなっ!」

 

 オレが遠慮なく言うと、カレンはビシッと言い切った。

 ちなみにカレンに悪気はない。

 質問を受けたから、正直に答えてる。

 

「ごめん……」

「ちなみに、オマエがブローチ踏み壊した子には謝ったか?」

「オマエにされた……、次の日に…………」

「それで、なんて?」

「許してくれるって……」

「そっか」

「…………」

 

 オレは食事に戻ったが、ミーユはオレを横目で見つめる。

 

「どうした?」

「それで……、終わり……?」

「オレは別に被害受けてないし、あの子が許したんなら怒る要素も特にないだろ」

「そっか……」

 

 ミーユは、頬を染めて食事に入った。

 そんなオレとミーユであったが、学園内では『前哨戦で火花を散らした』ってことになってた。

 マゴットにやった種の話も曲解されて、『ミーユをふしぎな力で攻撃したが防がれて、マゴットがとばっちり』というお話になってた。

 攻撃した相手まで変化するとは、人のうわさはおそろしい。

 そのうわさを広めたのは、バカ貴族のマゴットらしいが。

 

 まぁオレとしては、問題ない。

 むしろミーユをいじめる口実ができた。

 実際、夜には――。

 

『どういう……、ことだよっ……!』

 

 とミーユをヤッて

 

『知らないよおぉ……!』

 

 という反応を楽しんだりした。

 もっともそれは、夜のお話である。

 

 この段階ではそんなことも知らず、普通に食事を楽しんだ。

 受付けに申請をして、一部の授業も免除してもらう。

 

 そしてミリリの訓練をする。

 魔法の訓練をしたあとに、徹底した走り込みだ。

 武器を使った戦いの訓練をするにも、まずスタミナがないといけない。

 

 街をでて草原を走る。

 オレやカレンにマリナのトレーニングも兼ねて、全員で走る。 

 淡々と走ることしばらく。

 

「ぜなっ、はっ、ぜなあぁ…………」

 

 

 カレンがばてた。

 

 

「げほっ、げほっ、げぽほっ……ぜなあぁ…………!」

 

 なんかもう、破裂しそうな勢いだ。

 

「落ちついて。」

 

 マリナがカレンの背を撫でながら、口元を押さえた。

 

「鼻で吸って。溜めて………吐いて。」

 

 カレンはマリナに言われるまま、鼻で吸って息を溜め、ぜなあぁ……と吐いていく。

 疲れていると浅い呼吸をしがちだが、実際にはそっちのほうが疲れる。

 浅い呼吸をくり返すと、酸素が肺に溜まらない。

 だからマリナがさせてるように、意識して息を溜める必要がある。

 

 オレのマリナは、地味にめんどう見がいい。

 ミリリにもカレンにも、おねーちゃんみたいに接してるとこがある。

 

「落ちついた?」

「ぜなぁ……」

「そこまでヤバかったんなら、ちゃんと言えよな」

「小さいミリリには、負けたくなかったんだぜなぁ!!」

「はにゃっ?!」

 

 話を向けられたミリリは、意外と元気だ。

 頬は紅潮しているし、息も軽くあがってる。汗もしっとりかいている。

 それでも総合するのなら、『ほどよい運動をしました』程度だ。

 あと三秒で爆発します、みたいな感じにはなってなかった。

 

「細かい訓練は積ませていただけなかった代わりに、走り込みなどはしておりましたので……」

 

 と言ってから、なにかに気づいて言い直す。

 

「でもでもでも、本当は疲れました! すごく、すっごく疲れました! 平気そうに見えるのは、単なるヤセ我慢ですにゃんっ!」

「ぜな……?」

「疲れたですにゃあぁん。疲れたですにゃあぁんっ」

 

 ミリリは地面に転がった。

 

「しっ……仕方ないぜなねえぇ~~~」

 

 カレンは満面の笑みで、ミリリの介護へと回った。

 ミリリは、とてもいい子であった。


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