規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
リンを吹き飛ばしてしまったマリナは、言い訳のようにくり返す。
「手加減は………した。」
実際、そうだろう。
父さんやオレのせいでかすみがちだが、マリナのステータスはこんな感じだ。
レベル 6858
HP 35679/35679
MP 92800/92800
筋力 34034
耐久 32500
敏捷 42077
魔力 78000
MPと魔力が突出している魔術士ステータスだが、それ以外も普通に高い。
もしも本気をだしてたら、リンは串刺しになって死んでる。
それが吹っ飛ぶ程度なんだから、手加減していたのは間違いない。
でもその手加減は、クマをも一撃で殺せる達人が、クマならかろうじて死なない程度のパンチを一般人にぶち込んだのにも近い。
それでもリンは、致命的なダメージは避けていた。
軽い打撲は負っていたが、それ以上はなかった。
「あの一撃を食らって、あの程度で済むなんて……」
「リン先輩、すごいです……」
「さすがは、ミーユさまが選んだ奴隷っ……!」
訓練していた子たちからも、リンの評価もあがってた。
「強敵だぜなっ……!」
「がんばりたいです、にゃあ……」
カレンも手に汗を握り、ミリリは小さく震えてる。
惨敗させた相手の株を逆に上昇させてしまう、恐るべきマリナだ。
が――。
「レインのほうが強い。」
自分の株があがりそうになるや否や、オレのことをあげてきた。
腕にくっつき頬を染め、頬ずりもしてくる。
「わたし………。毎日やられっぱなし………♥」
間違ってはいない。
バトルの意味でもそれ以外の意味でも、毎日やってる。
誤解をまねくような言動は、なにひとつしていない。
が――。
(さすがレインさま。英雄、色を好むというお言葉通りですね)
(おうわさの通り、お盛んなのですね……)
(マリナさまのとろけたご様子を見ても、一日に六回はなされていらっしゃるのでは……)
ひそひそとした噂話がほとんど間違っていないって、それはそれで恥ずかしいんだけどっ?!
一日六回ではなく十六回とか二十六回とかやってることもあるけど、表立って言うことじゃないしっ?!
「ままままっ、まぁ、ケッコンしたら、ここここ、子ども作らないといけないしな!」
ミーユが真っ赤になって言った。
確かに貴族の価値観で言えば、跡継ぎを作れる能力って重要だろうしな。
ミーユはまだ学生だし相手も選ばないといけないから、避妊魔法かけてるらしいけど。
◆
オレはミリリたちを連れて、屋外の訓練場に戻ることにした。
「それにしても……。思ってたより、強かったぜなね……」
「リンの直撃を受けたら、一発で倒れてしまう気もするです……にゃん」
「今のミリリだと、六人いても難しいと思う。」
帰り道では雑談になったが、圧倒的にリンが有利だ。
実際、オレもそう思う。
「まぁでも、収穫はあったよ」
「………?」
「プライドの高いまっすぐな性格で、ミリリを格下に見てるってことがわかった」
「それがわかって、なんになるぜな……?」
「とりあえず、絡め手の心配はしなくてもいいってことかな」
「なるほどだぜなっ……!」
「ご主人さま、すごいです……!」
「レイン………。冷静………♥」
カレンとミリリが目をキラキラと輝かせると、マリナがうっとりとしてオレの腕にくっついた。
「そんな大したこと、言ってないと思うんだけど……」
「わたしは、気づかなかった。」
「ご主人さま、謙虚です……にゃん」
「つまりレインは、大したことないことで威張ってたぜなっ……?!」
マリナとミリリはぽわぽわしてたが、カレンひとりは別ベクトルしてた。
レモン一個に含まれるビタミンCは、レモン四個分だって聞いたみたいな顔をしている。
ジュースなどにあるレモン○個分のビタミンCという表記は、レモン○個分の『果汁に』含まれるビタミンCだ。
しかし実際のレモンは、皮や繊維にもビタミンCも含んでいる。
なのでレモン一個分に含まれるビタミンCは、レモン四個分なのだ。
すごい関係のないお話をしたな。うん。
◆
「ミリリはこれから、なにをすればよろしいですかっ?! ご主人さまっ!」
訓練場に戻るなり、ミリリは元気に言ってきた。
両の拳もギュッと握って、やる気いっぱいの顔をしている。
強い相手を見てしまった時、へたられるよりもやる気をだすのはいい性質だ。
「これからは、教えたことの錬度を高めてもらうよ」
訓練用の槍を構えて、ミリリに向ける。
リンの動きはちゃんと見た。
だからもう、トレースできる。
さらにオレなら。
二週間後のリンの力も、トレースができる。
していた訓練とその時の動きを想像し、イメージの結果を憑依させることができる。
「はにゃっ…………」
実力の差を感じ取ってしまったのだろう。
ミリリの耳が後ろに下がり、お尻の尻尾が足のあいだに挟まった。
「これは実力が上の相手と対峙した時、怯まないよう慣れるための意味合いもあるからそのつもりでね」
「はっ……はにゃっ!」
ミリリは、怯えながらもうなずいた。
武器を構えてオレを見つめる。
オレは槍の穂先を動かし、催促を入れた。
「魔法は?」
「ははにゃっ、はいっ!」
「小さき者よ舞いあがり、望む形を作ってください! サンドエレメンツ!」
砂がぶわっと舞いあがり、剣士のような形を作った。
オレは剣士に槍を入れ、軽く振るって四散させた。
「接近されたら、すぐに武器っ!」
「はっ、はいっ!」
ミリリはトンファーを使用して、オレの槍をガチッと受けた。
カカカッ、カンッ。
オレが繰りだす無数の刺突を、かろうじてさばいてく。
「相手が槍なら基本は防戦。無理に攻撃に移ろうとはするなよ?」
「はいっ!」
「そして攻めあぐねた相手が、ちょっと距離を取ったら……」
オレはタトンと地を蹴って、ミリリと距離を取ってやる。
ミリリが武器を構えつつ、突進にそなえていたので叫ぶ。
「魔法!」
「はっ、はいっ!」
ミリリは、オレに右手を向けた。
「マッド・ダンプリング!」
ミリリの手から泥の団子(ダンプリング)が飛びだしてくる。
数は三。
殺傷力はまったくないが、目に当たったら視界が遮られる程度には面倒だ。
オレはすべてを回避して、ミリリの近くに突っ込んだ。
電光石火の寸止め突きを、一秒間に七発入れる。
「はにゃああっーーー!!!」
ミリリが、尻餅をついた。
オレは一旦、槍を引く。
「放った魔法は、全部回避されるつもりで二の手、三の手を考えるっ!!」
「はっ……はいっ!」
ミリリは再び立ちあがり、オレとの二戦目に入った。
濃密な訓練の時間が、粛々とすぎる。
そして何度目かの寸止めの突きが、ミリリのみぞおちに入った。
「はにゃっ、はっ、にゃあぁ…………」
限界がきたミリリは、バタリと倒れる。
「今日は、このぐらいにしとくか」
「にゃうぅ……」
ミリリの前にしゃがみ込み、背負ってやった。
「いつも、申し訳ないでございます……にゃん」
「そういう時は、ありがとうって言うものだぞ?」
「ご主人さまあぁ……」
ミリリは感極まったのか、うるんだ声を発した。
「大好きです…………にゃあぁん」
オレというご主人さまを想って訓練をしていたミリリは、ステータスも伸びていた。
名前 ミリリ
種族 キャットガール(ホワイト)
レベル 8→18
HP 30/115(↑51)
MP 0/90(↑50)
筋力 126(↑70)
耐久 108(↑58)
敏捷 134(↑74)
魔力 94(↑50)